ラジオ 
 

written by こぶた座〜









(いけない、俺とした事が)土曜の昼下がりの大都芸能社長室、真澄は慌ててラジオをONにした。



『・・・で、マヤちゃん、来月から始まるドラマ楽しみに、応援してるよ』


『はい、ありがとうございます。がんばります! でもこんなに番組のこと宣伝してもらっちゃっていいの

かな』



(・・番組の宣伝が終わった所か、まだ始まったばかりだな)煙草を燻らせながら真澄はゆったりとソファー

に腰を下ろした。


今日はマヤが珍しくラジオの生放送にゲストとして出演する。ドラマや舞台の宣伝の為にTVのバラエ

ティーやクイズ番組などにも出演してほしいというのが大方の意見なのだが役名のない素顔の「北島

マヤ」では今ひとつ尻込みしてしまい本人はその方面はひどく消極的だった。唯一ラジオだけは得意と

まではいかなくても何とかこなせるメディアの一つだった。


『今日、マヤちゃんがゲストで来てくれて私‘ナカミー’は非常に嬉しいのであります・・。リスナーの皆は

私がマヤちゃんの大ファンだって良く知ってるよね。マヤちゃんの舞台の話でよく脱線してプロデューサー

にお叱り受けてます。こうして同局のドラマに主演が決まったので早速ゲストで来てくれるようアプローチ

しました・・はい。‘北島マヤ’ファンの皆には申し訳ないけど私今目の前で独り占め状態です。ホントに

顔小さくて色白くて黒目がちの大きな目に縁取る長い睫、唇なんてまさしくさくらんぼみたいだしね。可愛

いんだよね〜〜。アナウンサーやってて良かったって、人生に感謝してます』


(可愛いだと=!!まさか二人きりじゃないだろうな、手なんて握られてないだろうな??)

若干ソファーから腰を浮かせた真澄が白目青筋で煙草を落としそうになったのはご想像通りであろう。


(ナカミー? 中澤充だったな、確か白樺放送の報道番組もこなす中堅どころのアナウンサーだな。奥様

向けの甘めのマスクのニヤケた顔。可もなく不可もなくといったタイプってとこか・・にしても俺のほうがいい

男なのは間違いない!)

思わず鼻から紫煙が漏れでた。


『じゃあ皆お待たせ、冒頭でもちょっと紹介した次のコーナーに移ります。ゲストの‘私の初体験’です。

でもマヤちゃん、これ喋っちゃっていいの?事務所OKしてるのかな?』


『・・えっと・・大丈夫だと思います』


(初体験?、事務所のOK?、ってどういう事だ!、大丈夫って何の話なんだ!!)

真澄はあきらかに動揺して心拍数が上がるのがわかった。


『じゃあ、どんどん聞いていこうかな。あっ、でも答えずらいのはノーコメントで全然OKだからね。それじゃ

あマヤちゃんズバリ、これは何時したの?』


『それは、9月9日にしました』


『そうなんだ、最近だね。それじゃあ‘救急の日’が初体験の記念日って事なんだね』


『えっ? 記念日なんてそんな・・』


ラジオを通してもマヤが照れて赤くなっているのがわかる。


『で、どんな感じだったの?』


『・・えっと、最初見たときあんな太いのが入るのかなって心配だったんです。でも、40歳ぐらいのベテ

ランの人で、「怖がらなくてもいいよ」って言って、手際良く入れてくれたので全然大丈夫でした。欲を

言えばとても緊張してたのでもう少しゆっくりの方がリラックスできたのかも。あっ、でもやっぱり一思い

に突いてもらったので痛いって思う間もなくて良かったのかもしれない』


(なっ、何!! ああ、俺のマヤがぁぁ 40歳のベテラン? 一体だ誰だそいつは こんな事なら社務所

で抵抗されて嫌がられても押し倒しておけば良かった。(注:犯罪です)なんであそこでキスだけで終らせ

てしまったんだ・・俺はやっぱりバカだな、あの子には手も足も出せないというのに)

手にしてるのが行き着けの寿司屋で貰った頑丈な特大の湯のみだったのさすがに今日の被害はなさそう

だが、優秀な秘書の手により社長室の備品が次々と頑丈な物に変えられているのを真澄は全く気付かな

かった。


『やっぱり痛かったんだね、マヤちゃん狭そうだもんね』


(こいつは〜〜何を聞いてんだ!!)

怒りの感情の持って行き場のない男はただ悶々とラジオを耳にするしかなかった。


『それからどうしたの?』


『はい、予想してたのよりも時間かかってチラッと見ると私の体と繋がってて怖かったです。早く終われ

終われ〜って思ってました』


(!!)


『マヤちゃんがこれを経験するのはまだ早かったんじゃないの?』


『え〜っ、中澤さん、私のこと幾つだと思ってるんですか、もう。遅いぐらいじゃないですか、桜小路君は

高一の時って言ってましたし、麗や劇団の皆もとっくに経験済みなんですから。あっ、でも亜弓さんは

まだだって聞きましたよ』


(何っ? 桜小路が高一で! まだチェリーちゃんだと思っていたのに。それにしても亜弓君とハミル氏

は夫婦同然の生活をしてるって聞いたのにどういう事なんだろう?俺と同じく手が出せないという訳か?

・・ブラボー!ハミル、理性の友よ)

真澄の脳内を訳のわからない思考が駆け巡っていた。


『終って抜かれる時はホットしました。ちょっと血が出ちゃいましたけど』


(マ・マヤ・・もうやめてくれ〜〜)

もうすっかり涙目になって真澄は力なくうなだれるだけだった。


『歩くとき少しふらついちゃったかな。稽古で体力落ちてるときにしちゃったんでしょうか』


『じゃあさ、マヤちゃん。最後にアレ飲んでみた?』


『もっちろん飲みましたよ。せっかくだから飲まなくっちゃ。でも私貧乏性なんでしょうね、最後の最後まで

チューって飲み干しちゃって恥じかいちゃいました。ヘヘ』


(マヤの可愛らしい口がぁぁ〜)


『それじゃあマヤちゃん、最後にまたやってみたいですか?』


『はい、もちろん。何か、体に優しい別のやり方もあるって聞いたので今度は是非そっちも経験してみた

いです。そうだ、わたしばっかり痛い思いするのも不公平なので今度は是非うちの社長を誘って一緒に

やりたいです』


(俺とやりたい?! 別のやり方って何だ? 古い男なのかオレは一つしかしらないぞ・・・ )


『えっ? 社長ってあの速水氏だよね、マヤちゃんと一緒になるのはすごくうれしいけど、速水氏のは

なんか入ってきたとたん体温下がりそうだよね』


(俺は熱い男だぞ・・たぶん・・)

真澄は声を大にして言い切れない自分がなんだか悔しかった。



コンコン、社長室のドアを軽快にノックする音に真澄は遠い意識を強引に手繰り寄せていた。


「社長?、あら、社長もマヤちゃんの放送聞いてらしたんですね。それはそうと、先ほど連絡が入りました

決定事項をお持ちしましたので・・」


「水城君、、、マヤが社長とやりたいって言ってたぞ。あの子がそんな事言うなんて」


「フフ、そう言ってましたね。社長も覚悟を決めて一緒に【おやりなさいませ】」


「君まで何を言ってるんだ!」


「いいえ、冗談ではありませんわ、キャンペーン女優と一緒になされば大都のイメージアップにも繋がり

ますわよ」


「キャンペーン??」


「以前から言ってましたでしょ、献血のキャンペーンですよ。マヤちゃんに決まりそうだから一度献血して

おいた方がいいからってマヤちゃんにやっておいてもらったんですよ。今日の放送で献血の事も言えれ

ばキャンペーンにもより協力できるからって・・先ほどの書類は厚生省からの正式なものです」


「献血のキャンペーン・・か!・」


『それじゃ、みんな、献血に協力してね。私もまた絶対やるからね』

ラジオからマヤの声が聞こえてきた。





それから二ヵ月後、連れだって献血センターに入っていく二人の姿があった。マヤは違う方法の‘成分

献血’を真澄は400mlを献血した。コーヒー牛乳をチューチューするマヤを見て(ああ、ストローになり

たい)などど相変わらず邪な考えの社長がいた。

 


おわり

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