花咲く夜 3

written by 真砂〜



真澄はマヤを抱きかかえ、マヤの部屋の最奥にあるベッドに向かった。

マヤをベッドの端に座らせて、彼もまた、その隣に腰を下ろす。

ギシリ…とベッドの軋む音が、マヤの羞恥心を刺激した。

これから我が身に起こることが急に現実味を帯びてきて、なんとも言えない心地にさせられるのだ。

こうなることを望んでいたはずなのに、いざその時がくると、マヤはやはり少し怖い。

だが、マヤは、今夜、真澄とともに過ごして、新しい一歩を踏み出したいと思った。

未知なる世界への好奇心からではなく、真澄の全てを余すところなく知りたいと、マヤが切実に望んでいるからだ。

そんなマヤの肩に、真澄の手が優しく触れた。


「本当にいいんだな?」

「うん……」


マヤの後頭部と腰を支えながら、自らも彼女に折り重なるようにして、真澄はマヤを背中からゆっくりとベッドに横たえた。

見下ろす視線と見上げる視線が、静かに交錯する。


「怖いか?」

真澄に問われ、少しためらってから、マヤが小さく頷いた。


「全然怖くないって言ったら、嘘になると思う。でも……」

「でも?」


マヤが左手をそっとかざした。

薬指の二人の約束の証を見れば、自分の中の緊張という名の氷がそっと溶け始めていくのを、確かにマヤは感じるのだ。

本当に重要なのは、物質ではなく二人の気持ちだということなど、百も承知だ。

それでも、マヤにはこの指輪の存在感がたまらなく嬉しい。

この目に見える絆を身につけることによって、常に真澄の腕に抱かれているような安心感を覚えるのだ。


「速水さんにあたしの全てを知ってもらって、まるごと愛してほしいの。そして、あたしも、あたしのまだ知らないあなたを知りたい…」

だから、平気、大丈夫…と、半ば自分に言い聞かせるように、マヤが精一杯の笑顔を浮かべてみせた。


「マヤ……」


健気なマヤの心が真澄の身体に染み入るようだった。


『大丈夫だ、俺に任せておけばいい。優しくするよ』


そんな、陳腐でありながらも、マヤを安心させるような言葉をかけてやるべきだったのかもしれない。

だが、真澄が口にしてしまっていたのは、それとは別の言葉だった。


「愛してる……」


そう囁いて、真澄はマヤの前髪をかきあげ、額に軽く口付けた。

マヤは身体に残っていた力を抜いて、そっと瞳を閉じた。

それは、全てを真澄に任せようというマヤの意思表示だったのかもしれない。


そして、二人の長くて短い夜が始まった。




マヤの唇に真澄のそれが重なる。

二人の儀式の幕開けは、優しく触れ合うだけの口付けから。

マヤの柔らかな唇に軽く唇を押しあて、その形を舌でなぞり、時に、優しく啄ばむ。

真澄は幾度もそれを繰り返してから、ちゅっ…ちゅっ…と、音を立ててマヤの唇を吸い上げては、隙間もないほどに

強く唇を密着させる。

そうして、口付けは徐々に熱を帯び、より深く激しいものへと変化していった。

真澄が唇でマヤの唇を割る素振りを見せると、マヤはおずおずと薄く口を開いて、自ら真澄の舌を迎え入れた。

あっという間に真澄の舌がマヤの小さな舌を捕らえ、絡めとり、容赦なく愛撫し続ける。

それは、マヤが初めて経験する大人の口付けだった。

だが、激しく巧みな真澄の舌技に翻弄され、初めは引き気味だったマヤも、いつの間にか夢中で彼に応えていった。

ぎこちない動きながらも、真澄の勢いに振り落とされないよう、懸命に舌を絡めて――。


初めに交わした優しい口付けの名残など完全に消え失せて、いつの間にか、二人は互いの呼吸を奪い尽くすように、

激しく互いの舌を求め合っていた。


ようやく唇が離れると、マヤが苦しげに息をつき、ぐったりと脱力した。

口付けだけで、気力も体力も消耗させてしまったのだ。

一方の真澄はすぐに呼吸を整え、ベッドとマヤの間に腕を差し入れて彼女の背中を少し浮かせると、ワンピースのファスナーに

手をかけた。 そして、ファスナーがゆっくりと下ろされていく。


濃厚な口付けの余韻が醒め、マヤの意識がようやくはっきりしてきた頃には、ワンピースはすでに真澄によってベッドの下に

落とされてしまっていた。

それだけではなく、今度は軽く腰を浮かされ、ストッキングのウエスト部分に指を引っ掛けられるや否や、それはするすると、

いとも容易く脱がされていく。

それは、自分で脱ぐほうが余程もたつくのではないか、とマヤに思わせるほどの手際の良さだった。

ストッキングがマヤのつま先を離れると、真澄はワンピースのときと同じく、それを床に落とす。

もはやマヤが身に付けているのは、素っ気無いほど飾り気のない白いブラジャーと、それと対になったショーツだけである。

ブラジャーに手を伸ばしかけていた真澄は、一瞬その動きを止め、目を細めた。


マヤは今夜、真澄と釣り合うように、大人の装いをしてきたのだと言っていた。

たしかにマヤが今夜身に纏っていたのは、普段の彼女なら敬遠しそうな、身体のラインがくっきりと際立つワンピースだった。

だが、目の前の、清潔感に溢れながらもシンプルすぎるその下着は、大人びたワンピースにはあまりにもそぐわない。

おそらくマヤは、化粧や服装といった外観ばかりに気をとられて、洋服と下着のバランスにまで頭が回らなかったに違いない。

そもそも、純朴で飾らないマヤにとっては、見えない場所のおしゃれなど、はなからどうでもよいことなのかもしれないが。


背伸びをしようしても背伸びしきれない等身大のマヤが、真澄には心底愛しかった。

純粋で、素朴で、素直で、健気で、強情で、頼りなくて、でも時に大胆で、情熱的で、彼の目を剥かせるような無茶なことを

平気でやってのけて――。

真澄は、マヤの、ありのままの心に惹かれている。


真澄の熱い視線が気になったのか、マヤが恥ずかしそうに横を向いた。

ひねった細い首がやけに艶かしくて、真澄は誘われるようにマヤの首筋に唇を寄せた。

肌に真澄の熱い息がかかるだけで、マヤはピクリと身体を震わせる。

真澄はその細い喉に強く吸いついてから、舌を滑らせ、鎖骨へと向かっていった。

真澄の唇がたどった場所には、余韻の赤い花が咲き乱れていく。

その間、彼は片手でマヤの身体のラインをなぞりながら、もう一方の手を彼女の背中に滑り込ませて、指先でブラジャーの

ホックを弾いてそれを取り去った。


「あっ……」


胸を覆っていた圧迫感が消え、露になった上半身を隠そうと、マヤは反射的に身を捩じらせて背中を丸めようとする。

だが、マヤのささやかな抵抗は、真澄の腕にあっさり封じ込められてしまった。

再び真澄の正面を向くようにして身体を固定され、あまつさえ、両の手首をシーツに縫いつけられる。


「隠さずによく見せてくれ」


熱のこもった真澄の視線が恥ずかしくてマヤは目をそらすが、彼の腕に逆らう素振りは見せなかった。


じっくりと、値踏みするかのように何度も視線を上下させて、真澄がマヤの全身を眺めていく。

薄暗い闇にほんのりと浮かび上がるマヤの白磁の肌が、真澄の目に眩しかった。

強く抱きしめれば折れてしまいそうなほど、華奢な身体。

儚げに上下する胸の膨らみは、小振りではあるものの張りがあり、青く瑞々しい果実を思わせる。また、その頂の桜色の蕾が

ひどく愛らしい。

そして、細くくびれた腰と、ほどよい弾力のありそうな太腿。

今はまだショーツに隠された、淫靡な窪み。

そのどれもが美しく、魅惑的だった。


真澄の全身に、ぞくぞくとした戦慄が駆け巡る。

早く欲しい。

思うままに貫いて、激しく揺さぶって、存分に甘い声で啼かせてみたい。

男の本能が強烈にそれを求めている。


だが――。


真澄は強靭な理性でそれに堪えることを自らに課した。

どうしても、せめて今夜だけは、激情に駆られて一方的に欲望を満たすような真似をするわけにはいかないのだ。

マヤが男を知らない身体である以上、真澄がどれほど入念に下準備を施したとしても、彼女に破瓜の痛みを味あわせることに

なってしまう。

それが避けられないのなら、真澄にできるのは、マヤの不安を和らげ、その身体を充分に解きほぐし、彼女の苦痛を最小限に

抑えるよう努めることだけだ。

身体の底から湧き上がり続ける男の衝動を必死でやり過ごしながら、真澄は口元を引き締め、ネクタイの結び目に指をかけた。


真澄が平静を装いながら理性と欲望の狭間で葛藤している一方で、マヤの全身にも、ぞくぞくとした戦慄が駆け巡っていた。


皮膚の細胞の中までも見尽くそうとするかのような真澄の視線が肌に突き刺さり、恥ずかしさとともに、今まで感じたことのない、

不思議な興奮を覚えるのだ。

ただ見られているだけだというのに、異様なほどに肌が熱く火照り、先程から、へそから下の部分がむずむずと疼きだしている。


マヤが恐る恐る真澄のほうを見上げると、ネクタイを床に投げ捨てる彼と目が合って、戸惑う。

普段スーツにぴっちりと身を包んでいる男が、自分に跨りながら肌を晒そうとしている姿は、マヤには刺激が強すぎた。

だが、真澄は面白そうに、だが甘く低い声で、彼女の耳元に囁いた。


「脱がせてくれないか……?」

「え?」

「脱ぐのを手伝ってほしい。ボタンを外してくれ」


瞬時に何を言われたのか理解できなくて、マヤがきょとんとした表情を浮かべる。

そして、次の瞬間、真っ赤な顔でぶんぶんと大きくかぶりを振るが、真澄はかまわずにマヤの手をワイシャツのボタンに

触れさせた。


「ほら」


手を引っ込めたくても、真澄の腕がそれを許してはくれない。真澄の視線にも、マヤの反論を封じ込めるような拘束力があった。

マヤはゴクンと息を呑み、ためらいがちに真澄のボタンに手をかけた。

マヤ自身、この場の雰囲気に呑まれ始めていたのだ。

ドクン、ドクン…と自らの鼓動を聞きながら、震える指で、不器用に何度もボタンから手を滑らせて、それでも上から順番に、

一つ、また一つ、とゆっくりボタンを外していく。

ボタンが外れるたびに、はだけたシャツの隙間から真澄の引き締まった胸が顔を覗かせて、マヤの心をさらに妖しく乱し続けて

いった。

今まで、マヤが他人の服を脱がせた経験など、一度もない。

それが今、半裸の自分がベッドの上で男性の服を脱がしているなどと、まるで白昼夢の中にいるかのようだった。

すでにマヤの頭の芯は甘く痺れ、白いもやがかかり始めている。

ようやく全てのボタンを外し終えると、夢見心地で真澄の素肌に見惚れながら、マヤは少しずつ彼の身体からシャツをずらして

いった。

ボタンに手をかける前の羞恥心は、いつの間にか、すっかり薄らいでいた。

最終的に、身体にひっかかったシャツを真澄が自分で脱ぎ捨てた頃には、マヤの瞳は艶やかに潤み、ほのかな欲情のともしびが

宿っていた。

真澄はそれを見定め、内心で深い笑みを刻む。


興奮は、時として、苦痛を和らげる。

だから、自らをマヤに穿つ時に少しでも彼女の苦痛を取り除くべく、真澄はマヤを煽り、昂揚させたかったのだ。


「――さてと。脱がせてくれた礼をしようか」

「あ」


真澄はマヤの双丘に手をのばし、その大きな掌で包み込んだ。

白玉を思わせる胸がすっぽりと掌に収まる。

手に吸い付くような優しい感触が伝わり、真澄をうっとりとさせた。


「俺がどれだけ君を想っているか、全身で確かめてくれ」


真澄が、強く弱く、緩急をつけて手に力を加えていくと、マヤの小さな膨らみは彼の手の中で柔らかく形を変えて揺れ続けていく。

真澄は蕾を口に含み、舌で愛撫する。ねっとりと舐めあげて、吸い付いて、蕾を転がして。

同時に、もう片方の蕾を擦ってみたり、摘んでみたり、優しく激しく弄びながら。

見る見るうちに、桜色の蕾は固く尖っていく。

マヤはきゅっと目を瞑り、必死で唇を引き結ぶが、蕾をきつく吸い上げられると、びくびくと身体を震わせて反応する。

そして、真澄に軽く歯を立てられたときに、マヤはついに「ふぁ…っ!」と愛らしい声を漏らした。

慌ててマヤが両手で口元を押さえるが、その手を真澄がゆっくりと外させる。


「我慢しなくていいんだよ、マヤ。もっともっと、甘い声を聞かせてくれ」

「……やだ、恥ずかしいよ……」

「可愛い声だ。だけど、こんな声を俺以外の男には絶対に聞かせるんじゃないぞ。いいな?」

「……もうっ!」


真澄が舌を尖らせて、再び蕾を弄び始めると、マヤの呼吸も細く荒く乱れていく。


「んっ、あっ…、や…ぁ…っ、はあぁ……ん……」


マヤの意識が胸への愛撫に集中している間に、真澄の手は、彼女のすべらかな肌を撫でながら、徐々に下腹部へと

下りていった。

そして、マヤの身体を覆う最後の砦であるショーツを一気に滑り落とし、マヤの両脚の間に指を滑り込ませる。


「やあっ!!」


マヤが一際大きな悲鳴をあげ、反射的に脚を閉じようとするが、すでに真澄の指は彼女の中心部に到達している。

そこはすでに熱くなって、じんわりと蜜が溢れ出していた。

自分が一番よく知っているはずの身体が、まさかこんな反応を起こすなんて…と、マヤはそれが信じられない思いだった。

自分の身体が自分のものでないような、だが、紛れもなくそれは自分の身体で、マヤは戸惑いを隠せない。

マヤはかなりの奥手だという自覚があったし、この方面のことに関しては、きっと淡白なのだと思い込んでいた。

それなのに、心に反してこの身体はなんとふしだらにできていたのだろう、と穴があったら入りたい心地だ。

あまりに恥ずかしくて、マヤは自分自身がいたたまれない。


「いや……」

「君の身体は、そうは言ってないようだが?」


真澄が悪戯っぽく笑い、彼女の蜜を指で絡めとる。


「見てごらん。もうこんなになって。……ずいぶんと敏感なようだな」

「やっ…! お願い、言わないで……」

「嬉しいよ、君がこんなに俺を感じてくれてるなんてな……」


自分のはしたなさをあからさまに指摘され、マヤはさらに全身を羞恥で赤く染め上げる。

そんなマヤを尻目に、真澄は再びマヤの秘所に指を潜り込ませた。

長い指がマヤの花弁を掻き分け、つぷり、と中に差し込まれる。


「痛っ……!」

「大丈夫だ…、力を抜いて……」


身体のどの部分よりも熱く柔らかいマヤのそこが、真澄の指をしなやかに締め付けていく。

真澄はじっくりと、心行くまで、その感触と温かさを堪能した。

この内部に自身を挿入したときの締め付けを思うと、目が眩むほどだ。

生唾を飲んでから、真澄は指を動かし始めた。

真澄の指が優しく動くたび、マヤの奥からさらなる蜜が、そしてマヤの震える口元からは甘い喘ぎが溢れていく。


「あっ、ああ…、はあ…、ああ…ん、やあ……っ」


真澄は何度も指を抜き差ししてから指の本数を増やし、さらに内部をかき回してはまた抜き差しを繰り返す。

そして、ぐったりと力を失いつつあるマヤの両脚を開き、真澄はその中に顔を埋めた。

ぎょっとして、マヤが目を瞠る。


「だめ…っ! そんなことしちゃあ、だめぇ……っ!!」


振り絞るようなマヤの叫びを無視し、真澄はマヤの奥にある花芽を口に含む。


「ああ…ああああ……っ!!」


マヤはあられもない声をあげて、背を仰け反らせた。

それは、意識が飛んでしまいそうなほど、強烈な刺激だった。

マヤがいくら悲鳴をあげようとも、容赦なく、真澄の熱い舌が彼女の花芽を転がし続ける。


「ああ…、はぁん…っ、は…はや…みさ…ん…、やめ…て……。あたし…もう…だめ……ぇ」

「まだまだこれからだ。もっと君を味あわせてくれ」

「だ、だって…もう…どうにかなっちゃいそう…で…怖い……」

「それでいいんだよ。感じるままに、もっと乱れたってかまわない」

「ん…、んんん……っ」


真澄は、絶え間ない刺激によって搾り出された蜜をすすっては、舌で花芽にそれをぬりつけていく。

舌を尖らせて窪みに差し入れて、そこでまた舌を蠢かせ、思う存分マヤをわななかせる。

しつこいほどに時間をかけて、真澄はマヤを味わい、内部をほぐし続けた。


真澄の舌とマヤの花弁が奏でる淫らな水音が、マヤの理性をみるみるうちに吹き飛ばしていく。

マヤは初めて経験する甘い快感に呑み込まれ、朦朧としながら身悶えを続ける。

両脚はだらりと大きく開かれたままで、それを閉じようとする気力など、もはやマヤには残っていなかった。


「そろそろいいだろう……」


真澄は身体を起こし、ズボンに手にかけ、身に纏っている全てのものを取り去った。

力なく横たわるマヤの足首を掴んでさらに大きく脚を割り、自らのものをマヤの入り口に宛がう。

呼吸を切れ切れにさせ、マヤが虚ろな視線で真澄を見ると、ついにその時がきたことを、すまなさそうに彼が告げた。


「少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ」

「速水さんが、入ってくるの……?」

「そうだ。そして、俺の全てで君を満たしたい」


そっと、マヤが真澄の腕に触れた。

触れなば落ちん風情で彼を見上げる。


「…………あのね」

「うん?」

「あたし、痛くても我慢するから。だから、手加減してくれなくてもいいから…、あなたは、あなたの思うようにしてね……」

「マヤ……」


真澄に貫かれる瞬間への怯えを必死で隠し、気丈に微笑んでみせるマヤに、真澄の胸に熱いものがこみあげてくる。

すでにこれ以上ないというほどマヤを愛していると確信していたのに、また、新たにマヤへの想いが湧き上がってくる。

マヤへの愛しさが溢れて、この胸が破裂してしまうのではないか、と真澄は本気で不安を覚えたほどだ。


「力を抜いて、楽にして。辛くなったら、俺の身体にしがみつけ。爪を立てたって、引っ掻いたって構わない」


マヤは頷き、素直に力を抜いた。

そして、静かに目を伏せる。

真澄はぐっと腰を前に押し出した。

少しずつ、猛った真澄がマヤの中に呑み込まれてゆく。


「ぐっ……!」


それまで蕩けるような声をあげ続けていたマヤの口から、苦悶の呻きが漏れた。

想像を超えた激痛に、それまでのふわふわと身体が宙に浮くような快楽の世界から、マヤは一気に現実の世界に

引き戻されていた。

身体が引き裂かれるように痛い。

異物を押し込まれたその場所が、焼けるように痛む。

マヤは歯を食いしばって、必死に真澄の背に縋りついた。


マヤの異常な強張りに、真澄も息を呑んだ。

真澄の皮膚にくいこむマヤの爪が彼女の苦痛を如実に物語っており、真澄に更なる進入をためらわせる。

十二分にマヤをほぐしたつもりでいても、マヤの入り口は真澄を受け入れるには小さく、ある程度強引に押し入らねば全てを

収めきることはできない。

……いったん引くべきか。それとも、このまま強引に押し進めるべきか。

真澄は動きを止め、逡巡する。

だが、そのとき、マヤが弱々しくかぶりを振った。


「だ、大丈夫、だから……」

「……しかし」

「大丈夫。あたし、あなたとやっとひとつになれて、嬉しいの……」


大丈夫、と言いながらも、マヤの細腰は本能的に真澄から逃れようとして小刻みに震えている。

だが、それでも、マヤは真澄にしがみついて、必死にそれを防ごうとする。

気持ちだけは真澄を裏切らないように、と額に脂汗を浮かべ、苦痛に唇と声を震わせながらも、懸命に微笑んで見せるのだ。


「だから、お願い…、このまま、続けて……」

「……わかった」


真澄は躊躇することを止めた。

マヤの思いを無駄にはせずに、彼のありったけの愛情をぶつけようと決意したのだ。

真澄は引き気味のマヤの腰を引き寄せて、一気に彼女の最奥に自身を突き入れた。

さらなる激痛がマヤを襲う。


「んあっ!!」


マヤが涙する表情に胸を痛める一方で、マヤの熱くうねる坩堝の感触が、真澄に至上の悦びを与えていた。

長年想い続けた愛しい人とようやくひとつになった達成感と征服感は、さらに真澄を昂ぶらせ、マヤの中に収めた自身をより

大きくさせる。

そして、そうなることによって、マヤの細く狭い内部が、加減を知らないかのように、さらにきつく真澄を締めあげていくのだ。


「くっ……。これは…すごいな……」


あまりの心地よさに、思わず真澄は呻いていた。

そして、マヤの涙を唇で拭い、マヤに許しを乞う。


「……すまない。もう少しだけ我慢していてくれ」


マヤは頷いて、奥歯を噛み締めた。

真澄が、ゆっくりと腰を揺らし始める。

我を忘れそうになるほどの快感に必死に耐えながら、真澄はあくまでもマヤを労わるようにゆっくりと動き続けた。

真澄はマヤの表情に細心の注意を払い、彼女のわずかな変化をも見逃さなかった。

マヤの表情の中に、少しでも苦痛とは違う様子が見られると、真澄は巧みにその場所を責めて突き上げていく。


「あっ…はぁ…っ、ああ……っ」


少しずつマヤの息が細く乱れ、喘ぎ声が甘くなっていくと、どんどん真澄の動きが大胆になっていった。

真澄に激しく揺さぶられて続けて、マヤの苦悶の表情が徐々に柔らかくなってくる。

意識が混濁し、これが苦痛なのか快楽なのか、もはやマヤには判別がつかなかった。

分かっているのは、ひとつ。

ふたつの身体が、魂が、今、ひとつに溶け合っているということ。

まるで、もがれた半身がようやくあるべき場所に還ってきたような、そんな感覚だった。

マヤは真澄を愛している。

真澄もまたマヤを愛している。

それが、互いの肌を通して伝わってくる。

マヤは、それが嬉しくて、幸せで、なによりも誇らしい。


「速…水…さん…っ、速水…さぁ…ん……っ!」


真澄に振り落とされないように必死にしがみつき、それ以外の言葉を知らないかのように、マヤは無我夢中で彼の名前を

呼び続けていた。

激しく、甘く、蕩けるような声で。

真澄もまた、いつしか余裕を失い、全ての情熱をぶつけるかのように、激しく腰を打つけていく。

マヤの爪が食い込んだ背中が痛もうが、血が滲もうが、いっこうに構わなかった。

むしろ、その痛みがマヤの全てを手に入れた証に思えて、甘美にすら思える。


静かな部屋に響くのは、マヤの泣き声にも似た甘い吐息と、真澄の熱くて荒い呼吸音。

そして、ベッドのスプリングが激しく軋む音。

それらの音が、最高潮に達した。


「マヤ……」


真澄が低く呻いたとき、マヤは彼の迸る愛情を全身で受け止めた。

真澄はそのままマヤの上に倒れこみ、彼女の柔らかな身体を抱きしめるのだった……。





ぐったりとマヤが横たわっている。

あれほど優しくしようと思っていたにもかかわらず、真澄は途中から完全に歯止めを失い、結局思うままに

マヤを蹂躙してしまっていた。


だが、真澄は後悔はしていない。

大人の余裕を失ってしまった自分が恥ずかしくもあり、また、マヤに辛い思いをさせてしまったことには胸が痛むが、

真澄はマヤの望むように、ありのままの自分と彼女への想いを包み隠さずにぶつけたのだ。

いささかそれを率直にぶつけすぎたことには、真澄は苦笑するばかりだが……。

真澄は、汗で顔に張り付いたマヤの髪を梳いてやりながら、労わるように声をかけた。


「辛かったか?」

「……ううん、大丈夫。初めはちょっと苦しかったけど、もう平気。あの痛みは速水さんに愛された証だもの。

あたしにとっては、勲章みたいなものだから……」


まだ身体に力が入らないのか、けだるげで弱々しいものの、マヤは幸せそうな微笑を浮かべた。

真澄もまた、同じように微笑んで、マヤを見つめ返す。

マヤも後悔などしていない。

真澄と結ばれて、彼女も今、彼と同じように満ち足りていることが分かるから、真澄は誇らしい気持ちを隠せない。


「疲れただろう? もう眠りなさい」

「……じゃあ、ひとつ、お願いしていい?」


マヤにしては珍しく、彼女はねだるような眼差しで真澄を見つめた。


「なんだ?」

「あのね、速水さんの腕枕で眠っていい? 今夜は、あたしの目が覚めるまで、ずっとそばにいてほしいの。

あの、その…、あなたのぬくもりを感じながらだったら、きっとぐっすり眠れると思うし、目が覚めたときにあなたが

隣にいてくれれば、これが夢じゃないって安心できるから……」


真顔でマヤを眺めていた真澄が、小さい笑いを漏らした。


「そんなささやかなお願いでいいのか?」

「ささやか……かな?」

「今なら、オプションとして、お休みのキスとおはようのキスも提供するが、どうだ?」


真澄が楽しそうにマヤの耳元に囁きかけると、マヤは薄く頬を染めた。

そして、マヤがはにかんだ笑顔で真澄に応える。


「じゃあ、それもつけてもらおうかな……」


真澄はマヤを優しく見下ろし、そっと唇を近づけていった。


「お休み、マヤ……」






FIN.












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