過去の傷跡


「ごめんなさい・・・速水さん・・・あたし・・・初めて・・・じゃ・・・ないの・・・」

マヤの弱々しい声が響くと、俺は背中が凍りつくような気持ちで体を強張らせた・・・。



俺の目の前には、美しいマヤの裸体が横たわっている。 


ようやく迎えた2人の夜であったが、まさかこんな言葉が彼女の口から出るなど、想像したことがなかった。


――自分は彼女にとって始めての男ではなかったのか――?


「・・・そんな事は問題じゃない・・・」

俺は心にもないセリフを吐きながら、マヤに激しく口付けをする。

「んっ・・・ううん・・・」

マヤが体をよじらせるたびに、俺は興奮と共に沸き起こる嫉妬が止まらない。


一体、どこのどいつと初めての夜を迎えたと言うのだろうか? その男もこんな風に彼女の体を隅々まで愛したのだろうか?

・・・例えようのない、ドロドロとした感情が渦を巻いていく・・・。


俺は必死でその感情を抑え込み、無我夢中でマヤの体に唇を寄せ、激しく愛撫を繰り返す。


「あん・・・」


彼女は恥らう事もなく、まるですべてを預けるようにして体の力を抜いていた。

そして、両腕をまっすぐに伸ばすと俺の背中に強く回し、ピッタリと体を寄せ付けて誘いをかけてくる。

「もっと・・・ああっ・・・」

俺はその声に興奮を覚え、彼女の胸元を激しく愛撫する。 白桃のような彼女の乳房は俺の目の前で怪しく揺れ、先端の蕾を

固くさせて俺の舌を誘う・・・。



――すでに誰かに開拓されている彼女の体―― 

どこを触られても敏感に反応し、怪しげに腰をよじらせながら吐息を漏らす。

「はあっ・・・んん・・・」


俺は確認するように彼女の中心部へと指先を移すことにした。

ウエストから太ももまでゆっくりと滑らせていくと、マヤは軽く足を立て、その到着を待ち構えているように見えた。

逸る気持ちを抑えつつ、震える指先が静かに割れ目に到達する。

そして俺は思わず絶句した。

『・・・こんなに濡らしている!!・・・』


・・・彼女のそこは信じられないほどに濡れそぼり、触れただけで指が呑みこまれそうに感じた。


俺は少し息を止め、吸い込まれるようにして泉のような入り口に指を押し入れると、マヤは自ら腰を動かした。

「あっああ・・・・ん・・・・」

まるで何かをねだっているかのような目つきをし、口元はだらしなく開いたままだ。



俺は、とうとう嫉妬心をむき出しにして彼女に問いかけた。

「こんなことを・・・誰に・・・・教えられたんだ・・・・・・・・?」


くちゅ、くちゅ・・・と、指を出し入れするようにしながら秘所をまさぐってやる。

そして、ズンッと奥まで指先を押し入れると、マヤは熱い息を吐き出した。

「は・・・んん・・・」


「言えないのか・・・?誰・・・だ・・・!!?」

俺は彼女を覗き込んだまま、強い口調で問いただした。 そして、それと同時に二本目の指を侵入させ、軽々と呑みこんで

しまうのを確認すると、再び怒りのような感情が湧き出し、低く湿った声で彼女に質問をぶつけた。


「・・・ん?・・・誰にされたんだ・・・?言うんだ!」


俺はねじ込むようにして指を押し入れていた。 そして出し入れされる指先とは別に、感じやすい突起の部分を同時に刺激して

やると、彼女は一瞬、びくりと体を反応させ、消えそうな声で途切れ途切れに呟いた。


「あ・・・んん・・・・あの・・・・里美・・・・さん・・・が・・・」


『なんだと!!!!!!?』


―――里美!!!!―――

俺は、まるで失っていた記憶を取り戻したかのように、その名前に強く反応していた。


いつかマヤが付き合っていた里美茂。

俺の脳裏に鮮明に彼の顔が浮かびあがると、凍りつきそうなほどのショックと怒りが襲い掛かる。


・・・2人が付き合っていたのは、もう数年も前のことだ。まさか、その時に彼らが深い関係になっていたなんて・・・・。


「ごめ・・・んなさい・・・」

「・・・・・・」

行き場のない、やりきれない思いが俺の全身を縛り付けていた。

俺は、無意識にその思いを振り切るように、彼女に乱暴な口付けを繰り返す。 

俺の顔色を伺い、恐怖で閉じてしまっている彼女の唇を強引に押し開け、強く、強く――――。


済んでしまった事は変えられないだろう・・・・。そうとなれば、マヤの体が覚えている、あいつの記憶を消し去ってしまえば

いいのではないか・・・。

俺の中でそんな思考が巡らされると、いらだつ感情を打ち消すように、俺の男の部分が暴走へ向かい始めたようだ。

『すべて忘れさせてやる―――』



手始めに俺は、ぬるぬると蜜を絡めた長い指を引き抜き、ヒクつかせている突起へと一気に移動させた。

「あんんっっ」

マヤの体がビクビクと奮えながら反応した。 先ほど刺激されたその部分は、まるで大きな真珠の粒のように膨れ上がり、

俺の指に踊らされ、彼女は触れられる度に体全体に電流が流れたように感じていた。

まるで待ち望んでいたかのようにその行為に溺れ、小さく声を出しながら淫らな目つきで息を乱すマヤ。


――彼女はすでに女の悦びを知っているのだ――

その大人びた表情と仕草がたまらない嫉妬の燃料となり、俺を狂わす。

・・・初めての夜。 できるだけやさしく彼女を抱こうと決めていたはずなのに、すでにそんな感情は押し流されてどこにも見当たら

なかった。


「里美にも・・・ここをこんな風にされたのか?・・・感じたのか?マヤ・・・?」

・・・自分でも馬鹿馬鹿しいと思うような質問を彼女に投げかけていた。


「・・・・・ああんっ・・・」

マヤは答えようとはせず、惜しげもなく俺に体を任せながら、ひたすら愛撫を受けているだけだった。


俺は彼女の細い両足首を強く掴み、あっと言う間に引き寄せると、熱く湿った舌を彼女の中へ沈めた。

「あんんっ・・・ああ・・・いいっ・・・」

乱れきった彼女の反応を見た俺は、そのままそれを軽く抜き差しさせ、大きく膨らませた真珠を転がすようにしてなぞり、音をたて

ながら再び中へすべり込ませた。

マヤの中から湧き出てくる愛液。それを舌で自分の唾液と絡め、巧みに這わせて彼女を酔わせていく。


「あ・・あ・・・ああ・・・ダ・・・メ・・・・」

彼女は泣きそうな声を出しながら背中に爪をたててきた。


俺の方も、とうとう我慢ができなくなり、押さえ込むようにして彼女の体の上に覆いかぶさると、大きくそそり立つ自分自身を

彼女の中心にあてがい、勢いづけて一気に埋めこんだ。


「ああああっ・・・」

「くっ・・・・・」

思わず声を出すほどの快感が走る。 熱い熱い、彼女の中。 まるで誘い込まれるように奥へと到達してしまう。

容易に俺のすべてを呑みこんでしまった彼女は、力いっぱいに俺の腕にしがみつき、さらに耳元で囁いた。

「お願い・・・」

俺は、彼女がどうして欲しいのかを察知し、いきなり腰を激しく打ちつけると本能のおもむくまま、限界まで突きあげてやった。


「あん・・・あーーーんんん・・・ああっ・・・」

泣き叫んでいるかと思うようなマヤのあえぐ声が闇に響く。

互いの湿った肌が擦れあい、闇に響く音は興奮をたかめていく。


そして、その快感のうねりと共に湧き上がる嫉妬の波・・・。


――あの男にもこんな顔を見せ、こんな声をだして乱れたのか――


俺はマヤの足首を掴み、彼女の腰を浮かせるようにして、さらに激しく己を埋め込み、腰を動かしていた。

パンッパンッパンッ

「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」

リズミカルにマヤが絶叫する。 2人の繋がっている部分から したたり落ちる蜜が太ももの辺りにまで達する。


「里美の前でもこんな声で乱れたのか?・・・ん?・・・」

「あっ・・・あんんっ・・・」

パンッパンッパンッ

・・・・俺は自分でも狂ってしまったのではないか、と思い始めながら、彼女を責め続けた。


「どうなんだっ? マヤ!!」

「や・・・・っっ・・・・」

「あいつに抱かれてどんな気分だったんだ? ・・・あいつならやさしくしてくれたのかっ!?」

「やめてっ・・・!」


・・・俺は何を言っているのだろう・・・自分の行動が理解できない・・・・俺が俺じゃないように感じる・・・

それでも俺は、自分が止められない・・・・

「全部忘れさせてやる!!!」

「ああっ・・・いやっ・・・嫌ぁぁっ・・・」

ついに拒絶するようにマヤが腰を引き始めていた。


「嫌じゃないだろう?そんな声を出して・・・・あいつにもこんなことされたんだろう?・・・俺はもっと感じさせてやるよ・・・」

俺は繋がったままで彼女の体を瞬時に起こすと、ベッドサイドの壁側にドスンと乱暴に座らせる格好で押し付け、さらに己を

強く強く突き進めた。

パンッパンッパンッ・・・・

「いや・・・や・・・めて・・・もう・・」

ギシッ・・・ギシッ・・・

ベッドの軋む音が激しくなり、マヤは俺の体を押しのけようともがき始めていた。


「・・・やめて・・・!!!」

「無理だな・・・・」

俺は彼女の両手首をガッチリと押さえ込み、泣き叫ぶマヤに構うことなく己を打ち込み続けた・・・・。

「いやぁぁ・・・・・」

「あいつのすべてを忘れるんだ!」

もう、彼女の悲鳴も抵抗もすべて、耳に入るような状態ではなく俺は彼女を責めながら絶頂を目指す・・・・。

彼女の過去を洗い流すかのように、ただただ、夢中で行為を続けていく・・・。


闇の中でマヤの白い素肌は大きく揺さぶられ、もはや抵抗する力もないようで、ぐったりとされるがままの格好で俺を受け止め

続けていた。


俺は自分の体だけが一人歩きするように無心で腰を動かし続けていたようだったが、やがてマヤの小さな声が耳に入ってきた。


「助けて・・・・!!もうやめて・・・里美さん・・・里美さん!!!!」


『サトミ・・・・・だと???』

俺はマヤの顎を無理やり掴み、自分の方へと向かせた。


「何を言うんだ? マヤ!!!俺は里美じゃない!」

俺が大声を出したにも関わらず、マヤは魂が抜けてしまったような表情をしていた。 まるでここにいる俺が見えていないかの

ように遠い目をしている。


「マ・・・ヤ・・・?」


その時・・・・俺は彼女の顔の表情が薄れるのを感じ、ふわりと浮きそうになる感覚に気付いた。



マヤ・・・マヤ・・・・・マヤ!!!!!



「里美・・・さん・・・・・」



マヤ・・・マヤ!!!


「マヤ!!!!!」


・・・汗だくになりながら目を覚ますと、そこは自分のマンションだった・・・。

静まり返った寝室。 カチカチと僅かに時を刻む時計の針の音・・・。


「・・・・・また・・・夢・・・か・・・」

真澄はドクンドクンと高鳴る心臓に手をあて、大きく息をついた。



ここのところ、連日で悪夢ばかりを見ているのだ・・・・。

『どうかしている・・・・・・』

真澄は数秒ほど放心状態で身を固くして動けなかった。




そして、ふと、まだマヤが帰宅していないのに気付いた。 

2人で暮らし始めたマンション・・・・。この数日、マヤは撮影中のドラマの影響で、深夜に帰宅する日が多くなっていたのだ。


すれ違いの日々が続き、少し欲求不満になっていたのかもしれない・・・。 いや、それだけではなく、今回のドラマの相手役が、

なんとも里美茂のような雰囲気の俳優で、真澄は少し・・・いや、かなり気にかけていたのも悪夢の原因かもしれない。


真澄は、首を大きく振りながらベッドを抜け出し、静けさの漂うキッチンへ水分補給の為に向かっていった。



『もしも里美とマヤが別れていなかったら・・・・』

・・・こんなくだらぬ事を想像してしまった事は、数回どころではない。

実際には、彼らが深い関係にならずに別れたことも知っている・・・。それは身をもって知っている・・・・。

それなのに、何を自分は恐れているのだろうか・・・。

真澄は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、勢いよくキャップを外し、喉へと流し込んで息を吐き出した。


『なるべく感情に出さないようにしているツケが、心に溜まっているのだろうか』

認めたくない気持ちはあるものの、自分がいかに彼女に溺れているか・・・・。彼女の過去にまで嫉妬をし、愛しさゆえに不安に

なってしまう弱い自分を認めざるを得なかった。


以前は一人でも寂しい気持ちになったことなどなかったのに、一人でいると取り残されたように苦しくなってしまう感情が何とも

悔しく、もどかしくさえ思う。 

――いつの間にか、彼女なしには生きられないほど必要としているのだ――

真澄は熱い想いを実感し、訳の分からぬいらだちを拳に表し、ゆっくりと首を振りながら目を閉じた。



ガチャガチャガチャッ・・・


「!!!」

真澄がさまざまな思考を巡らせながらキッチンに立ち尽くしていると、玄関でカギの開けられる音を聞き、反射的に顔をあげた。

「マヤ・・・・」

ポツリと呟くと、こんな表情で彼女を出迎えるわけにはいかないと思い、結局いつも通りの自分になりきり、玄関へと向かう。


「あ、速水さん!起きててくれたの・・・?」

会いたくてたまらなかった彼女の声が響くと、真澄は思わず顔を緩めてしまいそうになる。

普段なら嫌味のひとつふたつくらい投げかけているはずであったが・・・真澄は無言で彼女に歩み寄り、力いっぱいに体を

引き寄せ、抱きしめていた。

「マヤ・・・・」

「は・・・やみさん・・・?どうしたの・・・・?」

真澄は返事もできず、ただただマヤの小さな体に支えられているように感じた。

彼女は甘い髪の香りを撒き散らし、真澄の心に安心感というものを吹き込んでいく。


「マヤ・・・・シャワーを浴びておいで・・・・」

真澄は、きょとんとしているマヤの耳元で静かに呟いた。


「え・・・・?言われなくてもすぐに・・・・」

マヤがそう言葉を言いかけたと同時に、真澄は彼女のブラウスのボタンを外し始める。

「ちょっ・・・と・・・速水さ・・・」

いきなり服をぬがされかけ、マヤは軽く抵抗していたものの、あっという間にブラウスは肩から滑らされ、静かな音をたてて床へと

落ちた。

真っ赤になりながら腕を交差しているマヤ。 最後に愛し合ってからずいぶん経ってしまったので、彼女の上半身にはキスの余波

すら残っていなかった。

真澄はマヤを軽く引き寄せると、彼女の胸元に顔を押し当てる。

「あっ・・・」

真澄の生温かい唇が触れ、強く吸われると、マヤは思わず声をあげ、全身に鳥肌をたてて息を呑んだ。


「・・・ずっと会えなくて寂しかった・・・」

真澄がマヤの耳を甘噛みしながらそう囁くと、マヤはぎゅっと真澄の胸元のシャツを掴んだ。

「あたし・・・だって・・・・」

マヤが小さな声で呟いた。

珍しく素直に気持ちを表す真澄とマヤ。 真夜中の静けさの中、2人は強く抱き合っていた。


どれだけ激しく抱いても彼女を求める心は止まりそうもない。

真澄は、『また疲れて悪夢を見そうだな・・・』 などと苦笑したが、自分の腕の中にある彼女の存在を確かめると、そんなことも

忘れかけてしまいそうだった。



たとえどんな悪夢を見ようとも、これが現実なのだから・・・・と。



おわり



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めずらしくあとがき・・・(笑)

「快楽の罠」が、思っていたよりも好評だったので、また悪夢シリーズを・・と思って書き始めました。完成しないまま

半年も放置してありましたが・・・(笑)  今回は夢でマヤと絡んでいる部分がほとんどなので、後半はあっさりと

終わってしまってゴメンナサイ。 でも、後半も絡むと、それこそ「快楽の罠」と同じような展開とオチになってしまうので、

今回はこんな感じの流れでおしまい。  なんか、お笑いでもないのに嫉妬しまくりでナサケナイ速水さんなので

幻滅しちゃった人、すみません・・・。

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