過去の傷跡
「ごめんなさい・・・速水さん・・・あたし・・・初めて・・・じゃ・・・ないの・・・」 マヤの弱々しい声が響くと、俺は背中が凍りつくような気持ちで体を強張らせた・・・。
俺は心にもないセリフを吐きながら、マヤに激しく口付けをする。 「んっ・・・ううん・・・」 マヤが体をよじらせるたびに、俺は興奮と共に沸き起こる嫉妬が止まらない。
・・・例えようのない、ドロドロとした感情が渦を巻いていく・・・。
そして、両腕をまっすぐに伸ばすと俺の背中に強く回し、ピッタリと体を寄せ付けて誘いをかけてくる。 「もっと・・・ああっ・・・」 俺はその声に興奮を覚え、彼女の胸元を激しく愛撫する。 白桃のような彼女の乳房は俺の目の前で怪しく揺れ、先端の蕾を 固くさせて俺の舌を誘う・・・。
どこを触られても敏感に反応し、怪しげに腰をよじらせながら吐息を漏らす。 「はあっ・・・んん・・・」
ウエストから太ももまでゆっくりと滑らせていくと、マヤは軽く足を立て、その到着を待ち構えているように見えた。 逸る気持ちを抑えつつ、震える指先が静かに割れ目に到達する。 そして俺は思わず絶句した。 『・・・こんなに濡らしている!!・・・』
「あっああ・・・・ん・・・・」 まるで何かをねだっているかのような目つきをし、口元はだらしなく開いたままだ。
「こんなことを・・・誰に・・・・教えられたんだ・・・・・・・・?」
そして、ズンッと奥まで指先を押し入れると、マヤは熱い息を吐き出した。 「は・・・んん・・・」
俺は彼女を覗き込んだまま、強い口調で問いただした。 そして、それと同時に二本目の指を侵入させ、軽々と呑みこんで しまうのを確認すると、再び怒りのような感情が湧き出し、低く湿った声で彼女に質問をぶつけた。
やると、彼女は一瞬、びくりと体を反応させ、消えそうな声で途切れ途切れに呟いた。
俺は、まるで失っていた記憶を取り戻したかのように、その名前に強く反応していた。
俺の脳裏に鮮明に彼の顔が浮かびあがると、凍りつきそうなほどのショックと怒りが襲い掛かる。
「・・・・・・」 行き場のない、やりきれない思いが俺の全身を縛り付けていた。 俺は、無意識にその思いを振り切るように、彼女に乱暴な口付けを繰り返す。 俺の顔色を伺い、恐怖で閉じてしまっている彼女の唇を強引に押し開け、強く、強く――――。
いいのではないか・・・。 俺の中でそんな思考が巡らされると、いらだつ感情を打ち消すように、俺の男の部分が暴走へ向かい始めたようだ。 『すべて忘れさせてやる―――』
「あんんっっ」 マヤの体がビクビクと奮えながら反応した。 先ほど刺激されたその部分は、まるで大きな真珠の粒のように膨れ上がり、 俺の指に踊らされ、彼女は触れられる度に体全体に電流が流れたように感じていた。 まるで待ち望んでいたかのようにその行為に溺れ、小さく声を出しながら淫らな目つきで息を乱すマヤ。
その大人びた表情と仕草がたまらない嫉妬の燃料となり、俺を狂わす。 ・・・初めての夜。 できるだけやさしく彼女を抱こうと決めていたはずなのに、すでにそんな感情は押し流されてどこにも見当たら なかった。
・・・自分でも馬鹿馬鹿しいと思うような質問を彼女に投げかけていた。
マヤは答えようとはせず、惜しげもなく俺に体を任せながら、ひたすら愛撫を受けているだけだった。
俺は彼女の細い両足首を強く掴み、あっと言う間に引き寄せると、熱く湿った舌を彼女の中へ沈めた。 「あんんっ・・・ああ・・・いいっ・・・」 乱れきった彼女の反応を見た俺は、そのままそれを軽く抜き差しさせ、大きく膨らませた真珠を転がすようにしてなぞり、音をたて ながら再び中へすべり込ませた。 マヤの中から湧き出てくる愛液。それを舌で自分の唾液と絡め、巧みに這わせて彼女を酔わせていく。
彼女は泣きそうな声を出しながら背中に爪をたててきた。
彼女の中心にあてがい、勢いづけて一気に埋めこんだ。
「くっ・・・・・」 思わず声を出すほどの快感が走る。 熱い熱い、彼女の中。 まるで誘い込まれるように奥へと到達してしまう。 容易に俺のすべてを呑みこんでしまった彼女は、力いっぱいに俺の腕にしがみつき、さらに耳元で囁いた。 「お願い・・・」 俺は、彼女がどうして欲しいのかを察知し、いきなり腰を激しく打ちつけると本能のおもむくまま、限界まで突きあげてやった。
泣き叫んでいるかと思うようなマヤのあえぐ声が闇に響く。 互いの湿った肌が擦れあい、闇に響く音は興奮をたかめていく。
パンッパンッパンッ 「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」 リズミカルにマヤが絶叫する。 2人の繋がっている部分から したたり落ちる蜜が太ももの辺りにまで達する。
「あっ・・・あんんっ・・・」 パンッパンッパンッ ・・・・俺は自分でも狂ってしまったのではないか、と思い始めながら、彼女を責め続けた。
「や・・・・っっ・・・・」 「あいつに抱かれてどんな気分だったんだ? ・・・あいつならやさしくしてくれたのかっ!?」 「やめてっ・・・!」
それでも俺は、自分が止められない・・・・ 「全部忘れさせてやる!!!」 「ああっ・・・いやっ・・・嫌ぁぁっ・・・」 ついに拒絶するようにマヤが腰を引き始めていた。
俺は繋がったままで彼女の体を瞬時に起こすと、ベッドサイドの壁側にドスンと乱暴に座らせる格好で押し付け、さらに己を 強く強く突き進めた。 パンッパンッパンッ・・・・ 「いや・・・や・・・めて・・・もう・・」 ギシッ・・・ギシッ・・・ ベッドの軋む音が激しくなり、マヤは俺の体を押しのけようともがき始めていた。
「無理だな・・・・」 俺は彼女の両手首をガッチリと押さえ込み、泣き叫ぶマヤに構うことなく己を打ち込み続けた・・・・。 「いやぁぁ・・・・・」 「あいつのすべてを忘れるんだ!」 もう、彼女の悲鳴も抵抗もすべて、耳に入るような状態ではなく俺は彼女を責めながら絶頂を目指す・・・・。 彼女の過去を洗い流すかのように、ただただ、夢中で行為を続けていく・・・。
続けていた。
俺はマヤの顎を無理やり掴み、自分の方へと向かせた。
俺が大声を出したにも関わらず、マヤは魂が抜けてしまったような表情をしていた。 まるでここにいる俺が見えていないかの ように遠い目をしている。
静まり返った寝室。 カチカチと僅かに時を刻む時計の針の音・・・。
真澄はドクンドクンと高鳴る心臓に手をあて、大きく息をついた。
『どうかしている・・・・・・』 真澄は数秒ほど放心状態で身を固くして動けなかった。
2人で暮らし始めたマンション・・・・。この数日、マヤは撮影中のドラマの影響で、深夜に帰宅する日が多くなっていたのだ。
なんとも里美茂のような雰囲気の俳優で、真澄は少し・・・いや、かなり気にかけていたのも悪夢の原因かもしれない。
・・・こんなくだらぬ事を想像してしまった事は、数回どころではない。 実際には、彼らが深い関係にならずに別れたことも知っている・・・。それは身をもって知っている・・・・。 それなのに、何を自分は恐れているのだろうか・・・。 真澄は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、勢いよくキャップを外し、喉へと流し込んで息を吐き出した。
認めたくない気持ちはあるものの、自分がいかに彼女に溺れているか・・・・。彼女の過去にまで嫉妬をし、愛しさゆえに不安に なってしまう弱い自分を認めざるを得なかった。
悔しく、もどかしくさえ思う。 ――いつの間にか、彼女なしには生きられないほど必要としているのだ―― 真澄は熱い想いを実感し、訳の分からぬいらだちを拳に表し、ゆっくりと首を振りながら目を閉じた。
真澄がさまざまな思考を巡らせながらキッチンに立ち尽くしていると、玄関でカギの開けられる音を聞き、反射的に顔をあげた。 「マヤ・・・・」 ポツリと呟くと、こんな表情で彼女を出迎えるわけにはいかないと思い、結局いつも通りの自分になりきり、玄関へと向かう。
会いたくてたまらなかった彼女の声が響くと、真澄は思わず顔を緩めてしまいそうになる。 普段なら嫌味のひとつふたつくらい投げかけているはずであったが・・・真澄は無言で彼女に歩み寄り、力いっぱいに体を 引き寄せ、抱きしめていた。 「マヤ・・・・」 「は・・・やみさん・・・?どうしたの・・・・?」 真澄は返事もできず、ただただマヤの小さな体に支えられているように感じた。 彼女は甘い髪の香りを撒き散らし、真澄の心に安心感というものを吹き込んでいく。
真澄は、きょとんとしているマヤの耳元で静かに呟いた。
マヤがそう言葉を言いかけたと同時に、真澄は彼女のブラウスのボタンを外し始める。 「ちょっ・・・と・・・速水さ・・・」 いきなり服をぬがされかけ、マヤは軽く抵抗していたものの、あっという間にブラウスは肩から滑らされ、静かな音をたてて床へと 落ちた。 真っ赤になりながら腕を交差しているマヤ。 最後に愛し合ってからずいぶん経ってしまったので、彼女の上半身にはキスの余波 すら残っていなかった。 真澄はマヤを軽く引き寄せると、彼女の胸元に顔を押し当てる。 「あっ・・・」 真澄の生温かい唇が触れ、強く吸われると、マヤは思わず声をあげ、全身に鳥肌をたてて息を呑んだ。
真澄がマヤの耳を甘噛みしながらそう囁くと、マヤはぎゅっと真澄の胸元のシャツを掴んだ。 「あたし・・・だって・・・・」 マヤが小さな声で呟いた。 珍しく素直に気持ちを表す真澄とマヤ。 真夜中の静けさの中、2人は強く抱き合っていた。
真澄は、『また疲れて悪夢を見そうだな・・・』 などと苦笑したが、自分の腕の中にある彼女の存在を確かめると、そんなことも 忘れかけてしまいそうだった。
「快楽の罠」が、思っていたよりも好評だったので、また悪夢シリーズを・・と思って書き始めました。完成しないまま 半年も放置してありましたが・・・(笑) 今回は夢でマヤと絡んでいる部分がほとんどなので、後半はあっさりと 終わってしまってゴメンナサイ。 でも、後半も絡むと、それこそ「快楽の罠」と同じような展開とオチになってしまうので、 今回はこんな感じの流れでおしまい。 なんか、お笑いでもないのに嫉妬しまくりでナサケナイ速水さんなので 幻滅しちゃった人、すみません・・・。 ××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
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