楽しい温泉旅行の夜

*このお話は、表にある「楽しい温泉旅行」の続きです*

 




くだらない露天風呂タイムが過ぎると、真澄とマヤは部屋に戻ってきていた。


「真澄さん♪ お風呂、いい運動になって楽しかったね♪」

「ま・・まあ・・・な・・・」

真澄はブルーな気持ちを引きずりながらそう答えた。

・・・確かにそれなりに時間を忘れて楽しむことはできたし、運動不足の解消にはなったように思う・・・。

しかし彼は、心の中で不完全燃焼というか、何もかもが自分の理想とかけ離れてしまったというイライラを感じていた。


――このまま、マヤのペースで一日が終わってしまうのだろうか――

やたらと嫌な予感だけは当たるのだ。 宝くじなどは1000枚購入しても当たらないのに・・・!!


『・・・まだまだ夜はこれからだっ・・・焦ることはないんだっ!!』

真澄は、浴衣姿のマヤと隣の和室を交互に眺めながら、そんな不安をかきけすように自分に言い聞かせた。








「わあ〜!すっごくおいしそう!!」

・・・夕食の時間になり、次々と料理が運ばれてくると、マヤは目を輝かせながらキャーキャーと声をあげ、喜びを表した。


テーブルの上には、新鮮な魚介類・・・・特に、大きなタラバガニがその姿を主張し、個別の鍋では霜降り和牛がぐつぐつと音を

立てて湯気を出し始めている。


真澄は、こういう嬉しそうな彼女の表情を見るのがすごく好きだ。 しかし、できることならもう少し、食べ物と演劇以外の事に

関して夢中になってくれても・・・などと考えてしまう部分もある。

だいたい、屋敷に入ってからというもの、それなりに夫婦生活はエンジョイしてきたつもりであるが、どう考えても欲深く彼女を求め

るのは真澄であり、彼女はそれに応じているだけという気がしてならないのだ・・・。

・・・今夜は2人きりということもあるのだし、ちょっと積極的な彼女を見てみたい・・・。



「いただきまーーす!早く食べようよ!真澄さんっ!」

あれこれと考え事をしている真澄を気にすることもなく、マヤはペロリと舌を出し、待ちきれずに刺身に手を伸ばしていた。


「うわあーーー!おいしい!口の中でとろけるゥ〜!」

「・・・・」

真澄はそんなマヤの言葉を聞き、

『俺も刺身になりたい・・・・マヤの口の中でとろけてみたい・・・』

などと考えながら、無言で箸を進め、再び思考をめぐらせる。


・・・せっかく屋敷から離れてきたというのに、これではいつもと何も変わらないではないか!こんな風に向かい合わせで食事を

するのではなく、できれば隣同士で体を寄り添わせながら、『これ、おいしいよ♪ あーーん♪』などという展開があれば、

どれほど幸せだろうか・・・。

真澄はバカな期待をしながらも、食べることに夢中なマヤを見て軽く溜息をついた。

『だめだ・・・・俺がここにいる事すら忘れているんじゃないか・・・・?』

毎度ながら、取り残されたような気持ちで虚しくなる真澄。



「・・・・ねえ、真澄さん・・・・そういえば、この間挑戦した声優のお仕事、すごく楽しかったの!」

マヤは、黙り込んでいる真澄に向かい、ウキウキと仕事の話を持ち出していた。

「声優・・・そういえばそうだったな」

「うん。 子供向けアニメの『とっとこハブ太郎』の映画で、スペシャルゲストの『マヤハブちゃん』の役よ! もうすぐ試写会が

あって挨拶もするし、真澄さんも来れたら来てね!」

「・・・・・・・」

真澄は、あまりに色気と無関係な話題に白目になる。 別に、『とっとこハブ太郎』が悪いわけではないのだが・・・。

「どうしたの?真澄さん・・・・試写会には、ハブ太郎の着ぐるみも来るんだよ〜」

ムシャムシャとご飯を頬張りながら、とても嬉しそうに話をするマヤ。彼女の頬っぺたには、ご飯つぶまで付いている・・・。


『・・・違う・・・何かが違う・・・こんなはずでは!!』

真澄は、ますます理想の展開から外れていく事に気付き、焦りはじめていく。


――やはり、食べる事に夢中になっているマヤと食事中にイチャイチャするなんて無理なことなのだろうか――






ところがそれから数分後のこと・・・・・



「真澄さん、カニってどうやったら上手に食べれるんだっけ!?」

突然、マヤが困ったように質問をしてきた。


カニは食べやすいようにブツ切りにされているものの、不器用なマヤには、上手に身を取り出すことができないようである。

「ほら・・・ここをこうやって強く押すんだ・・・・」

真澄がスイスイと手を動かし、いとも簡単にカニの身を取り出すと、マヤは感心したような表情で彼を見つめた。

「すごーーい♪♪」

「これくらいは簡単だ・・・」

マヤに誉められてちょっぴり嬉しい真澄。


「真澄さん、器用なのよね・・・」

マヤは首を傾げるような表情で真澄の手元を見つめ続けていた。


そして真澄が、

「俺が器用なんじゃなくて君が不器用なんじゃないのか? ・・・ほらっ・・・」

と、そう言いながら大きく手を伸ばし、カニの身を差し出したその時・・・

――パクッッ――

「・・・・・・おいひい♪・・・・」

・・・突然マヤが大きく身を乗り出し、彼が手にしているカニの身にパクリと食いついたのだった!


「なっ・・・・・・!!」

一瞬の出来事で驚いた真澄を尻目に、マヤは満足そうに口を動かしてモゴモゴと叫んだ。


「もっと欲しいっ・・・・」

マヤは潤んだ瞳で真澄にカニをねだる。

「そう・・・か・・・もっと剥いてやろう・・・。食べやすいように、隣においで・・・」

「うん・・・・」

いそいそとしながら真澄の隣に座り込むマヤ。 真澄にとって、かなりラッキーな展開である。


そして彼が再びカニの足を綺麗に剥き出していると、マヤが惜しげもなく大口を開けて待ちわびている姿が目に入る。


『うう・・・吸い込まれたい・・・・この口の中に!!』

そんなやましい事を考えながら手を止めていると、マヤが言った。

「真澄さん〜早くゥ・・・・お願い・・・・」

「!!!!!!」

まるで、別のシチュのようにも思えるセリフだ!


真澄は手を震わせながらマヤの口元にカニを運んだ。

彼女は嬉しそうな表情でパックリと食いつく。


・・・次の瞬間・・・・


『うううううう!!』

真澄は、思わず心の中で声をあげた。


なんと、あまりにも大口で食いついてきた為、真澄の親指の根元までが彼女の口内へ滑り込んでしまったのだった。

「あ、・・・指まで食べちゃったっ・・・」

マヤは全く何も考えていないようで、笑いながらそう言ったのだが・・・真澄のイケナイ妄想ポイントは20点を超えた。


マヤの口の中は、滑らかで温かかった・・・・。舌を絡ませるのとは違う、別の快感が真澄を突き抜けていった。彼女の口内

で湿らされた親指は、一瞬でひんやりとした温度へと変わってしまったのだが、彼の別の部分は熱くなるばかりだ。


「真澄さん?・・・・」

マヤに声をかけられ、どうにか冷静さを取り戻した真澄は、また新しいカニの足を手にし、無言で剥きに入る。

「あーーん♪ ・・・・あ、なんかそれ、太くておいしそう♪」

「!!!!!」

何気ないマヤの言葉に、ひとつひとつ敏感に反応する真澄。

マヤは、その太くて大きな身を口に含むと、チューチューと、エキスを味わうように、しゃぶりついていた。

「すごいっ!汁もおいしい・・・!真澄さん、もっと欲しいよォ・・・!もっともっと!!」

マヤは、自分の手の指をペロペロと猫のように舐め、更に求めてきた。


「・・・・」

『くうううっ!大都芸能社長のこの俺が!こんなにスケベなことばかり考え、しかも妻の為にカニを剥いているとは!!』


マヤと出逢った時点から、本当に彼の人生は狂いっぱなしだ。


ちなみにマヤは食べることに夢中になり、少し浴衣がはだけかかってきていた。 本人は全く気付いていないのだが。

そして、白くて細い喉元を動かしながら、ひたすらチューチューと音を立てながらカニを味わっている。


そして・・・


「真澄さん・・・・まだ・・・?待てないヨ・・・・」

「あ、ああ・・・今すぐに・・・・・・・」

と、そう言いかけた真澄が突然、軽く叫ぶ。

痛っっ・・・


「・・・真澄さんっ?」


・・・エッチなことばかり考えていたせいであろうか・・・・なんと、慌てた真澄は手を滑らせ、裂けた甲羅の鋭い部分で指先を軽く

切ってしまったのだ。


「だっ!大丈夫??」

マヤは、真澄の腕を掴むと、少しだけ血の滲んだ親指の先端を確認した。

「大丈夫だ。怪我というレベルのものじゃない・・・さあ、続きを剥こうか・・・」

「でも・・・少しだけど血が出てる!」


・・・マヤはそう言うと、無理やり真澄の腕を自分の口元へと持っていった。

「・・・?」

そして、呆然としている真澄に構わず、彼が怪我をした親指を口に含むと、血を拭うようにしてゆっくりと舐め上げた。


『ウウウッッ!!!!』

真澄は、唐突の出来事に驚いて声を出しそうになり、目を白黒させる。

『す、すごい・・・!これが指じゃなければ・・・・!!』

マヤの舌がゆっくりと上下する度、真澄は震えるほどの快感を体中に感じていた。


きっと屋敷にいたら、ついつい周りの目を気にして『やめなさい』などと言っていることだろう・・・。


真澄はこの温泉旅行に感謝し、ついでにカニ料理を選択した自分に心から拍手を送った。


『やっぱり二人きりは最高だ・・・!今日こそチャンスなのだ!!!』

心の中で気合をいれ、ガッツポーズをする真澄。




その後、何を話しかけても上の空の真澄であったが、マヤは相変わらずマイペースでご馳走を平らげていった。







「真澄さん、もう寝るよ〜!」

「ああ・・・」

・・・食事の片付けと布団を敷いた仲居が部屋から下がっていくと、2人は隣の部屋へと移動した。


『今日はマヤの方から誘ってくれないかナ・・・」

淡い期待を胸に抱いている真澄であったが、マヤが大きなあくびをしたのを目にし、慌てて考えを改める。

『いかんいかん・・・マヤのことだから、誘わなければそれで寝てしまうだろう・・・』



予感通り、マヤはなんだかとても眠そうにしている。 彼女は大変寝つきが良く、社務所のような暗くて寒い場所でも、座った

まま寝てしまうような子なのだ。ぼやぼやしていたら、気付いた時には爆睡モードになっているかもしれない・・・。


そこで彼は、二組用意された布団のうちの反対側で横になろうとしている彼女の腕を強く掴むと、一瞬で彼女の浴衣の帯に

手をかけ、解いてしまった。


「きゃっ・・・」

マヤが驚いて声を出す。


真澄は、一度試してみたかったので、マヤの胴体に絡まっている帯をひっぱってみた。本体なら、ここでマヤが「あ〜れ〜」

と言いながらグルグル回転する予定である。


・・・・が・・・・全くそんな知識のないマヤは何も協力してくれなかった為、帯は彼女の胴体で絡まったままになり、まるで犬の

散歩のような状態が続き、沈黙が流れる。


・・・・・虚しい・・・・・。


「真澄さん・・・何してるの?」

「・・・・いや、別に・・・・」

『こうなったら、勢いでいくしかないっ!!!!』


仕方なく真澄は軽く咳払いをし、無理やりマヤの浴衣を剥がし取ると布団の上に倒れこむようにして彼女に覆いかぶさった。


「・・・ん・・・」

マヤは拒否することはなかった。 しかし、いつも通り、真澄にすべてを任せたままにしようとしているのが分かった。

真澄は愛撫を繰り返しながら、先ほどから激しく欲望している事を求めてしまおうかどうか、悩み始めてしまう。


『うーむ・・・・嫌がるかもしれないしナ・・・変態だと思われるのもなぁ・・・・』

いざという時になると、なんだか勇気が出ないという成長しない男、それが速水真澄の最大の欠点だ。


それでも、マヤの中心部に指を滑り込ませた時、彼女のそこが普段よりも感じているということに気付いた。

『なんだ・・・・いつもと違う雰囲気で感じているんじゃないのか・・・?』


ちょっぴり勇気がでた真澄は、作戦実行へと動き始める。


「マヤ・・・・俺が欲しい・・・か・・・・?」

彼が静かに耳元でそう尋ねると、マヤは顔を赤らめながら、無言のままでいた。

しかし、否定しないところを見ると、まんざらでもなさそうだ。


『言ってみるか・・・・・・ダメでもともと・・・・』


「マ・・・ヤ・・・・」


「・・・・??」


「その・・・・・」


「・・・・?」


「マヤ・・・・俺の・・・を・・・・口で・・・その・・・・してみて・・・くれないか・・・」

途切れ途切れに言葉を出した真澄であるが、マヤは意味が分からず、ポカンとした表情で真澄を見つめていた。


「・・・?えっ???」


『だ、ダメだ・・・!!この子は、ほんとに何も知らないおバカさんなんだ・・・こんな事も知らないなんて・・・・』

真澄は、大きな溜息をついた。 しかし、そういうマヤだからこそ、純情で愛しくもあるのだ・・・。


・・・・真澄は、どうにか少しでも欲望を満たすため、必死な行動に出ることに決めた。 先ほどの露天風呂では、まんまとマヤに

遊ばれ、ペースにハマってしまったのだ・・・今度は自分がちょっぴり悪戯をしても許されるような気もする・・・・。


「マヤ・・・少し目を閉じていてくれ・・・」

「・・・??」

マヤは、不審に思いながらも、ゆっくりと目を閉じた。

「そうだ・・・いい子だ・・・・そのまま・・・・口をあけてごらん・・・」

「???」

マヤは、言われたとおりに小さな口をあけて目を閉じ、横たわっていた。


『すごい・・・俺の言いなりになって!!』

真澄は調子に乗り、次々と注文を出していく。

「もっと大きく口を開けて・・・さっきカニに食いついたくらいの大きさだ・・・いや、もっと大きく・・・だ・・・!」

たかがタラバガニと同じくらいのサイズだなんて冗談じゃない。



ところが真澄が興奮気味にそう叫んだせいか、マヤはうっすらと目を開けてしまった。

・・・そして彼女は自分に近づいてくるモノを目にすると一瞬間を置いたものの、

「きゃあっ」

と大きな叫び声をあげた。


「こらっ・・・目を開けるなと言ったのに・・・」

「ま、真澄さんっ!何をするんですかっ?」

マヤが上半身を起こして軽く抗議してきたので、真澄は開き直って答える。


「だから・・・口でしてもらおうかと思って・・・」

「や、やだあっ!そんなコト!!考えたこともないし、知らないっ!そんなの、ヘン!」

「バカっ!常識だっ!みんなしてるんだよっ!」

真澄がムキになってそう答えると、マヤはびっくりして言葉を失っていた。


「少しだけでいいから・・・・ダメ・・・なのか・・・?」

「・・・・・・・・」


マヤが完全に黙り込んでしまったのを見て、真澄は激しく後悔していた。


『しまった・・・やっぱりまだ早かったか・・・。というより、この子には一生、こんなことを頼んじゃマズいのか・・・?』

そんな風に落ち込み始めていると、ようやくマヤが小さな声を出してきた。


「あの・・・ごめんなさい・・・あたし・・・本当に世間知らずで・・・今まで真澄さん、言えなかったんでしょ・・・?」

「あ・・・ああ・・・まあ・・・・」


・・・するとマヤは少し恥らいながらも、膝をついている格好の真澄に近づいてきた。

そして、先ほどカニに食らいついたときのような勢いはないものの、ゆっくりと真澄自身を口に含んだ・・・・・。


『うっ・・・・』

真澄が、背を仰け反らせるほどの快感に浸っていると、マヤはそのままどうしていいのか分からず、動きを止めていた。


「マヤ・・・・・・・・! いいか・・・これは感覚の再現だ!君は狼だ!さっきのカニを思い出して、しゃぶるように味わうんだ・・・」

真澄の言葉にビクリと反応したマヤは、急に鋭い目つきをし、真澄自身をなぶり始めた。


「くうううっ・・・」

今までに感じたことのない、猛烈な快感が真澄を襲う。いつものボンヤリとしたマヤではなく、まるで演劇に没頭しているかの

ような彼女。 普段の恥らう彼女も良いが、こんな風にリードして激しく求める姿は最高に淫らである。

真澄は、天にも昇ってしまいそうな気持ちよさに、頭の中が真っ白になっていた。


「もっと!!もっと・・・だ! たっぷり味わってくれ・・・ああ・・・いいぞ・・・マヤっ!!」

ここぞとばかりにマヤをその気にさせると、彼は浮き上がりそうな気持ちよさの海を漂いはじめる。


じゅるり、じゅるりとマヤが発する音、そして、気付くと四つんばいの狼のポーズで真澄自身を無心になぶり続ける彼女の表情

は真澄の興奮を高めて止まない。


『だ、ダメだ・・・・イッてしまいそう・・・だ・・・・ああ・・・・最高に気持ち・・・いい・・・・・』

まさに夢見心地の真澄。

・・・・であった・・・・・が・・・・・ その瞬間は突然、前触れもなく訪れた・・・・・




「痛゛〜〜〜〜〜〜〜っ゛!!!!!!!!!!!!」



突然、真っ白から真っ黒い闇に落ちるような激しい痛みが真澄を襲ったのだ。


・・・なんと、マヤは感覚の再現により、カニだと思い込んでしまった真澄自身に思い切り噛み付いたのだった。


今まで聞いたことのないような真澄の絶叫に、マヤはハッと我に返った。


「あ・・・れ?あたし・・・」

ポカンとしているマヤであったが、真澄はあまりの痛さで言葉も出ず、うずくまったまま半泣き状態になり、まるでカニのように

泡を吹いて倒れていた。


「あの・・・真澄さん・・・ごめんなさい・・・噛んじゃったみたいで・・・」

「★!△×!●#☆!!!!」


やはり、嫌な予感はよく当たる・・・・




・・・結局、この夜・・・・・真澄は再起不能となり、くだらない結末の温泉旅行の夜が終わった。






「お帰りなさいませ!!」

翌日、疲れた顔の真澄と笑顔のマヤが屋敷に戻ると、使用人達に一斉に出迎えられた。


「ただいま〜♪」

元気良く答えたのはマヤだけである。真澄はクタクタに疲れ、期待はずれな出来事の連続のショックからまだ立ち直れて

いないのだ。


そんな二人の目の前に、車椅子の英介が姿を現した。


「おお!無事で帰って来たな・・・楽しかったかな?」

「ただいま帰りました!!ええ!とっても楽しかったんです!! ・・・ね、真澄さん?」

「ああ・・・」

マヤに問いかけられ、真澄はどうにか返事を返した。彼にとっては楽しいどころか、何もかもが予定通りにいかなくてとんでもない

旅行だったのだが。


しかし、そんな彼の繊細な心とはうらはらに、マヤはベラベラと楽しかった出来事を話し始めた。


「えっと、すごい大きな露天風呂を貸切にして、2人で使ったんですよ〜!ねっ?すごく広かったよね!」

「あ・・・ああ・・・まあ・・・な・・・・」

『オイオイ・・・そんなこと、バラすんじゃないっ!』


真澄は英介の手前、ヒヤヒヤとそんな事を思っていた。


「ほほう・・・露天風呂を貸切とは、それは贅沢で良かったな・・・」

英介がチラリと視線を送ってきたので、咳払いをして誤魔化す真澄。


「ええ、本当に景色も綺麗だし、ゆったりとできたんです。それに真澄さんと2人でお風呂って初めてだし、イロイロ楽しいことして

遊べてよかったです!」


「!!!!!!!!」


彼女の大胆な発言により、その場に気まずい空気が広がり、マヤ以外全員が息を呑みこんだ。


真澄は心の中で、『違うっ!違うんだ!!!そんなやましいことは風呂ではしてないんだあっ!!』と叫んでいたが、まさか

実際には水鉄砲やら水泳を真剣にして遊んでいたなどとも言えない・・・・・。



急に静まり返ってしまったにも関らず、能天気なマヤは、更に話を続けていく。


「あんまり動きすぎて疲れちゃったけど、楽しいお風呂だったわ。外まで声が聞こえてないか心配・・・。まあ、今更だけど♪

あと・・・・お部屋も綺麗でご飯もおいしくて♪ 残念なのは、その後、あたしの不注意で真澄さんが怪我を・・・・」

「マヤ!!!!もういいから、部屋に戻って少し休むぞ!!」

マヤは、真澄がカニを剥く時に怪我をした話題をするつもりであったが、真澄は別の部分の怪我の話かと勘違いをし、大慌てで

口を出すと、強引にマヤの腕を掴み、部屋へと連れ去った。






――ああ・・・楽しくてムフフなはずの旅行が、とんでもない事になってしまった――

真澄は部屋に戻ると、大きな溜息をひとつついた。

そもそも、マヤを相手にそんな期待をしていくほうが悪いのだが。



それでも彼は、まだまだ前向きに思考する。

『失敗は成功のもと!3歩進んで2歩下がる精神が大事なんだっ!』 と・・・。


本当に懲りない男・・・・・・それは速水真澄の欠点でもあり長所でもあるのだろう。


ふと、隣のマヤを見ると、お土産に買ってきた数種類の温泉まんじゅうをパクついているところであった。



「・・・・・・・・」




・・・彼が身も心も大満足する日はやってくるのであろうか・・・・・




<おしまい>


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あとがき

どひゃーー! 今回のキリリクにも、結局地下作品をつけてしまった・・・・。別に、takumiさんが希望したわけではないんですが、

なんとなく・・・。こんな話で地下でごめんなさい〜!またそのうち、正統派な地下(なんだそりゃ)も書きたいな〜。

お付き合いくださいましてありがとうございました。 多忙な時期に無理やり書いた作品なので、今まで以上に雑ですみません。


ふわふわ


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