*このお話を読まれる前に、蚊取線香さんのサイト 
蚊帳の中 にあるキリリク
「if×if…」
をお読みくださると、なお楽しめるかと思います♪







はずかしがりやのサンタクロース 〜告白〜

〜written by ともとも〜







「ケーキ、、?」

「ええ、そうらしいですわ。」


12月のある日の大都芸能社長室―――

速水のデスクに書類の束をおきながら水城はにっこりと微笑んだ。




それは一昨日のこと――


「え?クリスマスプレゼント、、ですか?」

「ええそうよ。マヤちゃん、ほんとうによくがんばってくれているんですもの。なんでもいってちょうだい。」

「そんな、、、水城さんにはいつもよくしていただいているのに、、。」

「なにいってるの。お仕事なんだから当然のことをしているだけよ。」

「それだったら、あたしだってお仕事なんですから、、」

いつもながら欲のないマヤをほほえましく思いながら水城はつづけた。

「ほんとうはお休みをあげたいところなんだけれどなかなか都合がつかなくって、ごめんなさいね。」

一番最近とったオフはいったい何週間前のことだったかすぐには思い出せないほど最近のマヤは過密

スケジュールで、高校のほうもなんとか進級に差しさわりが出ないように気を配るのがやっとという状態

だった。


「あたしだったら全然平気です!丈夫なだけがとりえですから!」

そういって屈託のない笑顔をむけてくれるマヤに水城はすくわれる思いがする。

速水の秘書を続けながらのマヤのマネージャー業だが、もうとっくに専任のものをつけなければならない

時期になっていた。それでも、水城が文句もいわずにマヤのマネージャーを兼任しているのは 速水の

たっての要望であるのはもちろん、水城本人の希望でもあった。速水同様いままで幾多の女優やタレント

を見てきた水城だったが、あきれるほどに平凡な外見とはうらはらにほかの誰ともくらべものにならない

ほどの吸引力をこの少女に感じるのだ。

(真澄さまが、この子にことのほか執着されるのもわかる気がするわ。)


「そんなこといわないで、ね?ひとの好意はすなおに受け取るものよ。」

水城のやさしい笑顔に、さすがのマヤもあまりに頑なすぎる自分がはずかしくなる。

「え〜っと、、あ、はい、、じゃぁ、、」

しばらく指をもじもじさせていたが、なにかを思いついたように顔をあげると嬉しそうに呟いたのだった。

「じゃあ、、、苺がい〜っぱいのケーキがいいです!」








「なんとも、、欲のないことだな。」

その話を聞いた速水は、いかにもマヤらしいかわいらしいリクエストに頬をゆるませる。

「ええ、ほんとうに。私も肩透かしでしたわ。」

苦笑いを浮かべながら水城は肩をすくめる。

「それも遠慮がちに、できれば丸いままのがいいです、なんていうんですもの。」

クックッと肩をゆらしながら笑いをかみしめる速水を困り顔でたしなめる。


「笑い事じゃありませんわよ、真澄さま。私の身にもなってください。いったいどんなものを用意すれば

いいのやら、、。」

少々値の張るものでも、と思っていた水城は途方にくれてしまったようだ。


「う、、む、なるほど、たしかに難問だな。」

わずか数千円も出せばあの子のよろこびそうなものが手に入るのはわかっているが、それ相応のもの

を送りたいと思うとこういうのはかえって難しいのだろう。


「ケーキか、、、、。」

少しのあいだ考えていた速水だったが、やがて何かを決意したようにちいさく頷くと水城に請合った。

「、、、よし、わかった。おれがなんとかしよう。」









そしてクリスマスイブ―――


「マヤちゃん、お疲れ様!」

「あ、ハイ!お疲れ様です。どうもありがとうございました!」

スタッフ一人一人に丁寧に頭をさげながら、マヤは水城のもとにかけよった。

「水城さん、お待たせしました。」

「お疲れ様、マヤちゃん。じゃあ行きましょうか。」


「あ!マヤちゃん、水城さん、これからすぐそこのお店で簡単なクリスマスパーティーをしようって話に

なってるんですけど、よかったらいかがですか?」

何度か一緒に仕事をしたことのある気さくなスタッフが声をかけてきた。


「ありがとうございます。でも申し訳ありませんが今日のところは、、。」

マヤの意見もきかずに断る水城をすこし不思議に思ったがとっさに話をあわせる。


「ど、どうもスミマセン、またの機会にさそってください。」

「そっか、先約ありってとこかぁ!じゃ、またね!」

そういって手を上げてさっていくスタッフに、マヤはぺこりと頭をさげた。


「さ!じゃ行きましょ!サンタさんがお待ちかねよ。」

「え?」








(いったい、、これをどうしろというんだ、、、?)

今朝、水城から預かった大きな手提げ袋を開けた速水はわが目を疑う。

そこには、なんと目にもまぶしい赤と白の定番の衣装が!

「、、冗談、、だろう、、?」

今朝の水城とのやり取りを思い出して、こめかみを押さえる。


「では、真澄さま。今日はよろしくお願いいたします。」

「あぁ、ケーキの手配なら万全、、」

「ありがとうございます、さすが真澄さまですわ!あと、これとそれと、、、」

ドサクサ紛れに大きな手提げ袋を押し付け、水城はそそくさと社長室をあとにしていった。

(なんだ?やけに大きいな。)

訝しく思いつつも、今日はいつものように残業するわけにはいかない速水はろくに中を確かめもせず

に受け取ったのだった。



(まさか、、、俺にこれを着ろというんじゃないだろうな、、、。)

ふだんの水城からはこんな冗談をするとはとても思えないが、マヤが絡むといたずら心が刺激される

のはどうやら速水だけではないらしい。

速水は苦笑するととにもかくにもその大荷物をかかえて社長室を後にした。





※※※※※






「今回は、急なお願いを聞いて頂いて本当にありがとうございました。」

何年かぶりにこの三畳庵をたずねた速水は、亡き母のかつての親友である夫人にかるく頭をさげた。

以前と少しも変わらない夫人の笑顔に迎えられた途端、母とよくここをたずねた頃の思い出が溢れ出す

――。

けして裕福とはいえないけれど、ほんとうに幸せだったころの母の笑顔がより鮮やかに、、、。


「なに水臭いこといってるの!久しぶりにあなたの声を聞けただけでもうれしかったのに、こうして足を

運んでくれたんですもの。こちらこそお礼を言いたいくらいよ!」

夫人はニコニコとひとなつこい笑みをうかべながら薄紫色のケーキボックスを手渡した。

「代理の方、、松本さんっていったかしら、その方が届けてくれたものもちゃんとあしらってあるから、

ご心配なく!あれ、特注でしょう?とってもかわいかったわ。」

そういっていたずらっぽく片目をつぶってみせる。


「あ、、ど、どうもありがとうございます。」


「フフフ、、、それにしても、、」

「え?」


「いったいどんなお嬢さんなのかしらね、マー君にここまで思われているなんて。」

「、、!福留さん!」

「こんどぜひこのお店にもつれていらっしゃいな。もちろん、特別ケーキでお迎えさせていただくわ。」

速水は少し戸惑ったように口ごもっていたが、やがておだやかに微笑むとまっすぐに夫人をみつめた。


「ええ、ここのケーキはどれも僕にとっては特別ですからね、、、。そのときにはぜひよろしくお願いします。」




(よかった、、。マー君もあんな穏やかな笑顔を浮かべるようになったのね。ありがとう、最高のクリスマス

プレゼントだわ、、。)


大事そうにケーキボックスをかかえて店から出て行く速水の後姿に、ふいに胸が一杯になった夫人は 

まだ見ぬ少女をおもいそっと瞳をとじた。




※※※※※





(いったい誰なんだろ、、?)



水城の手配でさまざまなクリスマスオーナメントに彩られたマンションの自室で ぼうっとツリーのイルミ

ネーションの瞬きにしばらく見とれていたマヤだったが、さきほど送り届けてくれた水城の帰りがけの一言

にふと思いをめぐらせる。


「そうそう、マヤちゃん。リクエストしてもらったプレゼントは、もうすぐマヤちゃん専属のサンタさんが届けて

くれるはずだから。」




(あたし専属のサンタさん、、、っていったい?)


自分の背丈よりもずっと高いクリスマスツリーのてっぺんに輝く星をそっと見上げる。

小さいころからクリスマスにかぎらずイベントごとにはほとんど無縁の生活を送ってきたマヤには、余りに

まばゆいその瞬きは現実のものとも思えないほど輝いてみえる―――。



ピンポーン



「!!あ、はーい!」

ぼんやりしていたマヤはあわてて立ち上がるとドキドキしながらモニターを覗き込んだ。



!!!!!なんでっ!!??



「おい、はやく開けてくれないか?」

「あ!は、はいっ!!」


なんで!?どうしてこのオトコがっ!??


パニックをおこしながらも条件反射でドアをあけてしまったマヤの横をすり抜け、両手に荷物を抱えた速水が

当然のように部屋にあがりこんできた。


「ちょちょっと!いったいなんなんですかっ!?速水さ、、」ムグッ!

小走りに速水のあとをおってリビングにむかったマヤは、急にたちどまった速水の背中に顔面からぶつ

かってしまった。


「なにをやってるんだ、きみは。あいかわらずそそっかしいな。」

「な、なにってそれはこっちのセリフですっ!速水さんこそいきなりひとの部屋にあがりこんで一体なん

なんですかっ!」

真っ赤になった鼻をおさえながらマヤはくってかかる。

そんなマヤに動じるでもなく、速水は右手に持っていた箱を差し出す。


「ほら。」

「え?」

「お待ちかねのご褒美だ。」

わずかに緊張した面持ちでマヤに押し付けるようにその箱を手渡した。


「え、、とあのこれ、、、」

「きみのリクエスト通りだろう?」

「あっ!」

「なんだ、忘れていたのか?」


すこし不機嫌そうな、それでいてどこかぎこちない様子の速水をかるくにらみながらマヤは反撃する。

「忘れてなんかいませんよーだ!だって、これは水城さんが、、」

「フッ、ちびちゃんが食べ物のことを忘れるはずがなかったな。これは失礼。」

「も、もぉっ!//////////」


(なんで水城さんはコイツなんかにことづけたんだろっ!?なんで速水さんがサンタさんなのぉっ!?)


コロコロ変わるマヤの表情に、速水はすこしづつ肩の力が抜けていくのを感じる、、、。

「クックッ、まぁそんな顔をするな。せっかくのクリスマスが台無しだ。」

いかにも迷惑そうなマヤとは対照的に、ようやくいつもの調子をとり戻した速水はくつろいだ様子でソファー

に腰をおろした。


「クリスマスムード満点だな。」

そういって楽しそうに部屋の中を見回す速水に、すっかり毒気をぬかれたマヤもしかたなく向かいの

ソファーに座ると同じようにツリーを見上げた。


「なんだか不思議、、、。」

しばらく黙ってツリーをみつめていたマヤがぽそっとつぶやく。

「、、なにがだ?」

「え、と、こんなふうに自分の部屋にこんなおっきなクリスマスツリーがあったりするのってなんだか信じ

られなくて、、、。」

速水はだまったままやさしい眼差しでマヤの話をうながす。


「うちってこんな事できるようなんじゃなかったから、、、子どもの頃はお友達のお家に飾ってあったツリー

がとってもうらやましかったなぁ、、。」

「俺もだ。」

「え?」

「母とふたりで生活していたころはそんな余裕はなかったよ。画用紙と色紙で自分でちいさなツリーを作っ

たこともあったな。」

そういって速水はなつかしそうに目を細めた。

「速水さんが、、?」

「あぁ、こうみえても手先はけっこう器用なんだぞ。」

そういって少年のような笑みをうかべる速水は、いつものイヤミなところがなくマヤをとまどわせる。


「へ、へぇ、信じられない!速水さんってうまれながらのおぼっちゃんだと思ってました!」

「フッ、、おぼっちゃんどころかガキ大将だったよ。まぁ、君とちがって勉強もできたがな。」

「なっ!!も、もうっ!!あーはいはい!速水さんがいじめっ子のガキ大将だったってことはよーっくわか

りましたっ!!」


いつものように大声で笑いながら速水は反論する。

「ハッハッハッ!おいおい、だれもいじめっ子だったとは言っていないだろう。勝手に話を作るな。」

「だ、だって速水さんがいじめっ子なのは身をもってよーっく知ってますからっっ!!」

そういって、マヤは真っ赤な顔をしてプイッと横をむいてしまった。


「ま、まぁそれは、、、たしかに否定はできないが、、。」

今までのマヤとのかかわりを思い、速水は口ごもってしまう。

少し居心地悪そうに黙ってしまった速水をちらりとうかがうと、スーツの内ポケットをさぐってなにかをだそ

うとして思い直したようにひっこめるところだった。


(あ、、もしかして、、)


速水はマヤの前ではめったにタバコを吸わない。

水城によると、相当なヘビースモーカーらしいのに。


(もしかして、あたしに気を使ってくれてる、、?)


いつもと少し違う、どこか心もとない様子の速水に、

(よ〜し!ちょっといじめてやろおっと!)

と、マヤはそう思った。


「速水さん、この部屋は禁煙ですよ〜!」

「え、あ、あぁわかっている。」

速水とてただ間を持たせるためにさぐっていただけなのだ。

マヤといると不思議と喫煙欲が抑制されるのはいつものことだ。


「ふ〜ん、、でも!あたしに勝負で勝ったら許可してあげてもいいですよ。」

「勝負?」

マヤはいそいそと部屋の隅においてあった大きな箱を持ってくると、速水の前にデーンと置いた。


「ジャ〜ン!!これです、コレ!」

「これは、、ふうん、なつかしいな。」

「速水さん、やったことあるんですか?」

「あぁ、子どもの頃すこしな。」

「これ、今日スタッフの方に頂いたんです。ビンゴの景品だったらしいんですけどいらないからって!」

マヤはワクワクしながら箱の蓋を開けた。

「はやくやってみたかったんですけど、一人じゃできないでしょ?」

「クスッ、、たしかに。」

「で、これで速水さんが勝ったらタバコ吸わせてあげます!」

「ちびちゃんが勝ったら?」

「え?う〜ん、そうですねぇ、、、。ん?あれはなんですか?」

マヤは速水が持ってきたもうひとつの大きな荷物に気づいて指差した。

「え?あぁ、これは、、、」


マヤはなにやら赤いものがはみ出しているそれを興味津々にのぞきこむ。

「あ―――っ!!これってもしかしてっ!!ちょっといいですか!?」

「あ、おいこらちょっ、、」

速水の返事もろくに待たずにマヤは中のモノを引っ張り出した。


「あ―――っ!やっぱりぃ!」

それは水城に押し付けられた例の衣装だった。

ご丁寧にひげまではいっている。


「いったいどうしたんですか、これ?」

「あ、いや水城くんから預かったんだが、、」

こんなものを社長室に置いておくわけにもいかず、ついイキオイで持ってきてしまったのだが、この流れに

イヤな予感が、、、。


「わ〜い!じゃコレに決まり〜!」

「なにが?」

「あたしが勝ったら速水さんがこれを着てサンタさんになるんでーす!」ニコッ!

「なっ!!」アセッ


「はい、決定〜!!じゃはじめましょ!!」

そういってマヤはさっさとボードをひろげて準備をはじめる。


「お、おい、勝手に決めるな!それに俺が勝ったらちびちゃんはどうするんだ?」

「へ?」

「タバコなんかどうでもいい。俺が勝ったら、、、そうだな、、、」ニヤリ!

「せっかくこうしてちびちゃんとクリスマスをすごすのにいつものゲジゲジ扱いじゃたまらんからな、今日は

俺をちびちゃんの恋人にしてもらおうか。」


「エ―――――――ッ!!!???」


「よし!じゃ決まりだな。さぁはじめるぞ。」

「ちょちょっと待ってください!!なんでなんでそうなるんですかっ!勝手にきめないでくださいっっ!!」

「なんだ、おれに勝つ自信がないのか?」

「だ、だってあたしコレやったことないし、、」

「よし、じゃあちびちゃんには特別にこれとこれをつけてやろう。」

そういってマヤの駒の赤い車に子どものピンを三本立て、株券を数枚わたしてやる。


「これで負けるヤツはまぁいないだろう、どうだ?」

「どうって、、、」

「さぁはじめるぞ!」



「おっ!また子どもがうまれたぞ。」


「あ!ずるい!いまちゃんとルーレットまわってなかったですっ!」


「スポーツ選手か、よし、これでいくか。」


「あたしフリーター、、、」


「おい、ちびちゃん。株がさがったぞ。」


「えっ!うそっっ!」







※※※※※




「はい!じゃぁコレ!」


「、、、、、、、、、」


無言で衣装をうけとり、呆然とする速水を尻目にマヤは大はしゃぎではやしたてる。


「ほらほら、はやく〜!なんだったらあたし手伝いましょうか?」ニンマリ

「結構だ。」

半分やけになった速水はさっさとスーツの上から真っ赤な衣装を着こんだ。


「わ〜ぃ!速水さん似合う似合う〜!!」パチパチパチ


「、、、それはどうもありがとう。」

思惑がはずれすこし不機嫌な様子の速水だったが、無邪気に笑うマヤをみてまぁいいかという気分に

なってしまう。


「うふふっ、じゃあサンタさんもそろったところでパーティのはじまりはじまり〜ですね!」

そういってマヤはお楽しみにとっておいたケーキの箱をそっとテーブルのうえにおいた。


ドキッ


にわかに速水の鼓動が高鳴る。

スルスルと薄い紫色のリボンがとかれ、そっとふたが開けられた、、。


「わぁ、、、カワイイ、、、」

小振りなまあるいそのクリスマスケーキは真っ白な生クリームでふちどられ、粒のそろった苺が隙間なく

並んでいる。

そして、すみっこのほうにちいさなサンタクロースをかたどったキャンドルがちょこんとかざられていた。

両腕をはずかしそうにうしろにまわしたそのキャンドルサンタをそっと人差し指でなでながらマヤは本当に

シアワセそうにつぶやく。

「カワイイ、、」


ドキン  ドキン  ドキン


「フフッ、このサンタさんに火をつけるのはかわいそうだからこのままお部屋の飾りにしようっと。」

予想どおりのマヤの反応に、内心の動揺を押し隠して速水は笑顔をうかべながらそっとテーブルのうえ

におかれたサンタをみつめた。

それから、マヤの指揮でふたりでクリスマスソングを熱唱したあといよいよケーキが切り分けられる。

もちろんその役目は速水サンタがおおせつかり、お皿にとりわけられたそれは断面も美しく五層に彩られ 

苺好きのマヤを狂喜させた。


マヤのお皿には大きなケーキ、速水のお皿にはすこし小さめのケーキ。 

やっとひげだけははずすことを許され、速水もフォークに手を伸ばす。

「なんだか速水さんがケーキを食べるところなんて想像できな〜い!」

そういって不思議そうに速水をみつめる。


「あぁ、ここのケーキは特別なんだ。」

いままでに聞いたことのないような穏やかでなつかしそうな速水の声音に、なぜかきゅっと胸が苦しくなる

のを感じてマヤはあわてて目をそらす。


「じゃ、じゃあいただきまぁす!」

「どうぞ召し上がれ。」

そっとフォークをそえると、しっとりとしたスポンジにほとんど抵抗なくのみこまれていく。

くちに運ぶ直前に、なおいっそう苺の芳醇なかおりが鼻腔をくすぐった。


「、、、これ、、、」

「ん?」

「やだっ!これすっごくおいしいっ!!こんなにおいしい苺ケーキってはじめて!」

パクパクとイキオイよく頬張るマヤのシアワセいっぱいの表情に速水はこころが満たされていくのを感じる

のだった。





※※※※※






「じゃぁ、そろそろ失礼しよう。」

ようやくサンタの衣装から開放された速水をマヤはご機嫌な様子で玄関まで見送る。


「今日はわざわざありがとうございました。」

「どういたしまして。ちびちゃんのおかげでおれも楽しかったよ。」

マヤの頭をぽんぽんとかるくなでながら速水はちらっと部屋の奥に視線をはしらせた。


「?どうかしたんですか?なにか忘れ物とか、、」

速水の視線に気づいたマヤが尋ねたが

「いや、、、なんでもない。じゃぁな。」

そういって速水はその部屋を後にした―――。







(やっぱり、、、な、、、)

いつのまにか真っ白な雪に覆われた駐車場で立ちつくすと、速水はタバコに火をつけチラチラと舞い降りて

くる雪を見上げそっと息をはく。


あの子が気づかないのも無理はない。

なんとも分の悪い賭けをしたものだと速水は苦笑する。


速水がひそかに思いをたくしたもの、、

それは、あのケーキの上のキャンドル、、、、そう、はずかしがりやのサンタクロース。

そのうしろにまわされた両手には、一輪の紫のバラが握られていた、、、。



もし、あの子が気づいたなら――――

そのときは、みずから告白しよう―――。


(この速水真澄ともあろうものが、、、)

奇跡などとはもっとも縁遠いこの男が、なぜこんな思いつきに心ときめかせたのか―――。

いや、、、彼女の望んだものが速水を後押ししたことに彼はとうに気づいていた。

速水にとって特別なケーキが彼女への思いをつたえてくれる、そんな奇跡を信じさせた。


もう一度そっと息をはき、車のノブに手をかける。





「速水さん!!」



速水の指先からタバコが音もなく雪のうえにおちてゆく。




振り向くと そこには



真っ白な息をはきながら駆けてくる愛しい少女の姿。



大きく見開かれた瞳はうるみ、きらきらと輝いていて、、、



そのちいさな手のひらの中には



はずかしがりやのサンタクロースが―――




おしまい




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