あまい香りにさそわれて 〜葛藤〜

〜written by ともとも〜








「はぁい!今日のゲストは今、大河ドラマで大人気!沙都子ちゃんこと北島マヤちゃんでした〜!

マヤちゃん、どうもありがとうございました!」

進行役の女性がこころなしかひきつった笑顔でそう告げると エンディングの音楽が流れはじめる。


「は、はいっ!どうもありがとうございましたっ!!」

マヤも 負けず劣らずのひきつり笑顔で1カメにむかって手を振った。


「はい、カ−ット!OK 」

「お疲れ様―!」


今日の収録は料理番組。もうすぐバレンタインということでチョコレートケーキを作ったのだが、、、。

食べることには人一倍興味があるものの、作るほうはどうも、、、、というマヤはお芝居をやってる

ほうがよっぽどラクだ!!とつくづく実感した。

細かいことはさておき、まぁひとこというとすれば最後にアップで映し出されたチョコレートケーキは

前もってスタッフが用意しておいたモノであった。どうやらマヤの作品はアップにたえられるレベル

ではなかったらしい。


「こんなに緊張感のある収録は この番組はじまって以来だったわ。」

苦笑しながらスタジオを後にする進行役の女性をマヤは真っ赤になりながら頭をさげて見送った。


「お疲れ様、マヤちゃん。次は雑誌の取材よ。時間がないからこちらで受けるようにしているから。」

これまた笑いをかみ殺しながら水城がマヤを手招きした。


「はぁい。」

(もぅーっ!水城さんまで笑ってるぅ!だからやだったのよね、料理番組なんて。)

自己嫌悪に陥りながらスタジオのすみに待機していた雑誌記者に目をやると、今の収録をみていた

らしいその男は、無遠慮ににやにやしながら名刺をさしだしてきた。


「いやぁ、マヤちゃん!なかなかおもしろいものを見せてもらったよ。それにしても大河ドラマの役どころ

とは随分イメージがちがうんだね〜!」


「え、あ、はい、、皆さんそういって驚くんです。」

(あ〜ぁ、また言われちゃった、、、。)

大河ドラマで伯爵令嬢沙都子を演じているマヤ。そのきりりと勇ましく、利発な役柄とは正反対の自分。

ドラマを見て自分に対するイメージをもった人間は、必ずといっていいほどそのギャップに驚く。事務所

としてはそのギャップを売りにしようということらしいが、当のマヤにとっては今までの舞台とは違う、テレ

ビの驚異的な影響力にふりまわされているようであまり居心地のよいことではなかった。

どこでなにをしていても常に周りから注目され、気を抜くと足元をすくわれる、、そんな世界に飛び込んで

しまったことに いまさらながら空恐ろしくなる。

だが、それ以上に演劇への思いはますます強く大きくなっていた。

いつかは紅天女を、、、!その思いが今のマヤを支えているのだった。


「じゃぁマヤちゃん、いろいろ君のことを聞かせてほしいんだけど。そうだな、まずはオーソドックスに趣味

なんか聞いちゃおうかな。」

ぼうっとしていたマヤは はっと我に返り、最近やっと板についてきた営業スマイルをうかべた。


「趣味ですか?そうですね、マスコット作りとかですね。」


「ふぅんなるほど、マスコットね。」

記者は、さっきの手際の悪さを思い出し、内心(そりゃないだろ!)とつっこみながら何食わぬ顔で質問

を進めていく。


「そうそう、さっき作ってたチョコレートケーキ!お持ち帰りしてたよね、誰にあげるのかな?」


「え?誰って、、?」

さらっとした口調で、探りを入れてくる記者にマヤはちらっと水城のほうをうかがう。


「あら、いまは募集中じゃなかったかしら?」


「あ、そう、そうです!」

すこし頬を赤らめながら答えるマヤに、やはりこっち方面はガードが固いかと思いながらも、少しでも面白

い話をひきだそうとさらにたたみかける。


「へぇ、そうなんだ。でも、最近の女子高生はみんなおしゃれでかわいいからね。クラスメイトでも彼氏が

いる子ってのもけっこういるでしょ?」


「え、はい、そうですね、、でもあたしなんか全然、、、。お仕事のほうも忙しいのであまり学校にも行けて

ないですし、、、。」


「あぁ、そりゃそうだよねー!なんたって超売れっ子女優だもんね!」


「いえ、そんなんじゃないんですけど、、。」

(やだなぁ、こういうの。はやく話題変えてくれないかしら。)

そんなマヤの思惑を知ってか知らずか何食わぬ顔で攻める方向をかえる。


「すごい視聴率らしいね、沙都子人気で!」


「そんなことないです。皆さんの足をひっぱらないようにするのがせいいっぱいで。」

やっと話題が変わったことにほっとしていると、すかさずこんなことを言われた。


「ほら、共演中の里美茂君!彼もすごい人気だよね〜!マヤちゃんくらいの年頃のファンも多いみたい

だし。」


(里美さん、、!?)


突然飛び出した名前に動揺したマヤは かぁぁっと顔が熱くなるのを感じ、あわてて取り繕おうとするが

なかなか言葉がでてこない。


「あ、あの、、えと、、」

思った以上の素直な反応に(これはいける!)と、いよいよ意気込んでくる記者に、

「申し訳ありません。次のスケジュールがおしてますので。」

水城の気転でなんとかその場を打ち切り、挨拶もそこそこにマヤはスタジオをあとにした。













「ふぅ、、」

移動中の車の中で水城は深いため息をついた。


「ごめんなさい、、、。」

いまだにうまくインタビューに答えられずにいつも水城に迷惑をかけていることが申し訳なくて、マヤは

しょんぼりとうつむく。


「ねぇ、マヤちゃん。」


「はい。」


「あなた、ほんとのところ里美茂のこと どう思ってるの?」


「ど、どうって、、」

ストレートな質問にマヤはとまどってしまう。


「、、たしかに感じのいい人だとは思うけど、、どうって言われても、、」

うっすらと頬をそめながらボソボソとつぶやくマヤをじっと見つめながら水城はもう一度深いため息をもら

した。


(この子は、、まだほんとうに子どもなんだわ。自分の気持ちにも気づいていない、、。)

そばで見ている水城には、マヤが里美に淡い恋心を寄せていることは一目瞭然だったのだから。


(そのうち、いやでも周囲の人間も気づくわ。そのときこの子は、、。そして、、)

水城の脳裏に、ひとりの男の顔がうかぶ。


(ほんとうに、、困ったものだわ。)

担当する女優と、みずからの上司の板ばさみにしばし頭を抱える水城だった、、。





“誰にあげるの?”


記者の言葉がふと蘇る。


(誰にって、、、)

もし、本当にそんな相手がいたとしても、、


(こんな出来栄えじゃ・・・とても渡せやしないよね。)

マヤは膝の上に大事に抱えていた小さな箱に目を落とす。

可愛くラッピングされた、マヤがうまれてはじめて作ったチョコレートケーキ。

お持ち帰りしたところで自分のお腹のなかに消えてしまうことが決まっている、ハート型のチョコレート

ケーキ、、。


(バレンタインだからって、こんなの作ったってイミないのに、、。)

そう思うそばから、先ほど記者からとびだした思いがけない名前がうかぶ。


(里美さん、、確かに素敵なひとだけど、、)

若手bPの人気俳優、いつもファンや親衛隊の女の子にかこまれててあたしのことなんか相手にして

くれるはずが―――。


(や、やだ!なに考えてるの?)

顔を赤くして急にブンブンと首をふる。


「どうしたの?」


「ななななんでもないっ!!」


「ほら、しっかりなさい。着いたわよ。」


(そうだ、今日は里美さんとの立ち稽古があるんだっけ、、、。)


マヤにしてはめずらしく、気乗りのしないシーンだ。里美演じる岩本武史を口論のすえひっぱたくという、

素のマヤなら絶対できないようなシーン。


(やだな、、里美さんをひっぱたくなんて、、、。)


以前、里美と楽屋で一緒になったときのことを思い出す。

その頃のマヤは 亜弓と比較されることを必要以上に意識してしまい、思ったように演じられなくなっ

ていた。 そんなマヤを 里美は自分の経験談を交えながらやさしく諭し、元気づけてくれた。

そのころからだろうか、、、

マヤは里美とのシーンが待ち遠しいような気恥ずかしいような感情をいだくようになったのだった。













(いったいあたしどうしちゃったの、、、!?)


予感が的中し、今日の稽古はさんざんの出来だった。

自分をさらいに来た無頼漢である里美を思いきりひっぱたかなくてはならないのに、なぜか力が入ら

なかった。

舞台とはなにもかも異なるテレビドラマの現場に少しずつ馴染み始めていたマヤはショックを隠せない。

やはり、水城も不審に思ったのだろう。


(だから急に予定にはなかったはずなのに ここに連れてこられたんだ―――。)

社長室のソファーに心もとない様子で座っているマヤを見て、会議室から戻った速水は軽くため息を

ついた。


「いったいどうしたんだ?きみらしくないな。」

水城から事情を聴いたらしい速水の言葉に マヤはいらだちを覚える。


「どうもすみませんでしたっ!で でも、速水社長にご心配いただくほどのことじゃありませんからっ!

ちょっと調子がでなかっただけで、、。」


速水は黙ったままマヤの前のソファーに腰をおろした。


「あ、あたしにだってそういうこともあり、、ます、、。」

言いながらも自分のふがいなさに語尾がだんだん小さくなる。

速水はシガレットケースからタバコを一本取り出し、だが火をつけるでもなく指先にはさんだままじっと

マヤを見つめ、さきほどの水城からの報告をゆっくりと頭の中で反芻させる。




―――どうも稽古に集中できていないようです。

すこしは現場にも慣れてきていたのですが、、

やはり、いまあの子は、、、―――




水城らしくない、と速水は思う。

(いつもの彼女ならその程度のことでいちいち俺に指示を仰ぐようなことはないはずだ。なのに、、)

速水は不機嫌そうに眉をひそめる。


(まったく、、どうやら彼女は本気でこの俺がこの少女に特別な感情を抱いているとおもいこんでいるらし

いな、、、。ばかばかしい!)

だからわざわざこんな所までこの子を連れてきたんだろうと察すると、いつもの自分らしからぬ いらだち

を覚え、

(女のカンだかなんだかしらないが、そんなくだらないもので決めつけるな、、、!)

そう心の中で悪態をつきながら この部屋にはいってきた―――はずなのに、、、


今、自分の前でいつになくしおれているマヤをみているとどうにも調子が狂う。そして知らぬ間に「どうし

たんだ?」などど優しげな言葉をなげかけてしまった。

だが、それに対する彼女の返事はなんともつっけんどんなもので、なのに自分は 腹が立つどころか

返って新鮮さを感じてまじまじと彼女を観察している。


(やれやれ、、らしくないのは俺も同じ、、か。)





(速水さん、、どうして何にも言わないんだろ、、、、。)

俯いたまま じりじりと視線だけを感じていたマヤだったが、あまりの沈黙の長さに居たたまれなくなる。


「あの、、、、」

思い切って顔を上げたマヤは 一瞬でその視線にとらえられてしまう。

不機嫌であるはずのその眼差しは、やさしさとわずかな不安の色をのぞかせているような、、、。


「チビちゃん、、」

やっと発せられたその声は、思いのほかやさしくてマヤを戸惑わせる。


「まぁ、きみも慣れないドラマ撮影で少し疲れているんだろう。だが、この世界に入った以上ある程度の

無理は我慢してもらわなくちゃならんがな。」


「はい、、。」

もっときびしいことを言われると覚悟していたマヤは少し拍子抜けしてしまった。


「ところで」


「はい?」


「さっきから気になってたんだが、なにか匂わないか?」


「は?」

におう???


「そ、そうですか?なんだろ、、、」

マヤは鼻をクンクンさせる。


「焦げっぽいような甘い匂いがしないか?」


「は?こげ、、、、!!!!や、やだもしかして!」

マヤはとたんに真っ赤になる。


「なんだ?ん、、」

速水も鼻をクンクンさせながら身を乗り出し、マヤのほうに顔をよせる。


「きみ、、か?」


「きゃっ!やだちょっと!やめてくださいっ!!」


ハッ、、、

「あ!あぁ、すまん!」

思った以上に接近してしまったふたりの距離に気づき、速水はあわてて体勢をもどした。

(ふぅ、、しかし一体・・・)

と怪訝そうに速水はふたたびマヤをみつめながら問いかける。


「どうしたんだ?」


「え、え〜っと、今日お料理番組の収録があって、、、。で、チョコレートケーキを作ったんですけど、、、、

ちょっとチョコを焦がしちゃったりなんかして、、、」


プーッックックックッ、、


(またハジマッタ!!)


「で、でもでも!最終的にはけっこううまくできたんですからねっ!!」


「ほう、それはそれは。さぞかし指導してくれた人が優秀だったらしい。」


「はっ初めてだったんだからしょうがないでしょっ!?」


「もしかして、それがチビちゃんの傑作かい?」

速水はマヤの膝の上に乗っかっていた小さな箱を指差した。


「え?あ、はい、そうですけど、、。」


(なんかヤな予感、、、)


「ちょうどいい、きみの腕前をみせてもらおうか。」


(ヤッパリッ!!)

「な、なにいってるんですか!なんであなたなんかに、、、」

真っ赤になって動揺するマヤがなんともおもしろくて ますます速水のいたずら心を刺激する。


「けっこう上手くできたんだろう?この俺が試食してやろうといってるんだ。こうみえても舌は肥えて

いるつもりだから安心しろ。」


「し、試食って、、安心って、、」//////////


「誰にやるつもりか知らないが、そいつが腹をこわして訴えてきたりしたらうちのイメージダウンになる

からな。」

!!!!!!!!!


「なっ!!べ、別にだれにもあげる予定なんてありませんからご心配なくっっ!!」

マヤはこれ以上ないほど真っ赤になりながら、あわてて箱を後ろ手に隠そうとするがすかさず速水の

長い腕が伸びてきて、あっというまに取り上げられてしまった。


「やっ!ちょちょっと速水さんっ!もうふざけないで返してください〜っ!」

速水は片手で高々と頭上にかかげると、いじわるく問いかける。


「きみが正直に告白したら返してやってもいいぞ。」


「な、なにをですかっ!?正直に告白って、、、」


「いったい誰にやるつもりだったんだ?」


「なっ!だ、だからそんな人いませんってばっ!!」


「ほんとうか、、、?」

からかうだけのつもりが いつのまにか執拗に問い詰めてしまう自分におどろきながらも、速水はマヤ

の真意を探ろうとでもするかのように、じっと瞳を覗きこむ。


(や、やだ、、速水さん、怒ってるの、、、か、、な、、?)

スキャンダルはご法度だといつも水城から口うるさく言われていることを思い出す。


「ほ、ほんとですってば!!あたしなんか相手にする人がいるわけないでしょっ!?」


「相手にされるかどうかじゃない、、、俺が聞いているのはきみの気持ちだ、、、、。」

その押し殺した響きにマヤ以上にとまどう速水。


(いいかげんにしろ!この子がどう思っていようとこの俺の知ったことか!?)

新人女優のスキャンダルに構っていられるほど暇じゃない、そんなことは分かりきっているはずなのに、

問い詰めなければいられない自分がいる、、、。

水城のくだらない詮索をまるで肯定してしまっているかのような己の言動を苦々しく思いながら 速水

はのろのろと腕をおろすとマヤに差し出した。


「ほら、、ちょっとからかっただけだ。そんなにむきになるな。」

速水はできるだけいつもの調子を意識しながらマヤに小箱をかえそうとしたそのとき、


ぐぅぅぅぅ〜

「、、、、、、、」

「、、、、、、、」


シ〜ン、、、、



「今の、、もしかして、、、」

マヤは信じられないものをみるように速水を凝視する。


「ゴホッ!!い、いや、その、立て続けに会議が長引いてだな、、、、」

ごまかすように手にしていたタバコに火をつける。


「プーッ!!アハッアハハハハ!」


「しょうがないだろう!昼飯もろくに食べてないんだから!」


「やだやだっ!信じられなぁ〜いっ!は、速水さんが、、、!」

いつも澄ました顔で自分をからかう速水が顔を赤くしながら弁解するのがおかしくてマヤはここぞと

ばかりにバカ笑いする。


「やだもぉ〜おなかイタイ〜〜!」

ヒーヒー笑いながらお腹を抱えるマヤに速水もついつられて笑い出す。


「クックックッ、、俺としたことが、、どうやらチビちゃんの腹の虫が移ったようだ。」


「もぉ!なんですかそれ〜!あたしがいつ、、」

ぐぅぅきゅるるぅぅ〜


「、、、は、、はは、、あは、、、あれ?、、、」


ブワッハッハッハッ!


さっきのお返しとばかりにいつも以上の高笑いをあげる速水を真っ赤な顔で睨んでみるが、やはりつら

れてふたりで笑いあってしまった。


「あぁやれやれ、まいった!!」


「それはこっちのセリフですよ〜!もぉ〜」

マヤは笑い涙を拭きながらまだ笑っている。


「よし!じゃぁ一緒になにか食べに行くか?ちょっと待ってろ、これだけやってしまうから。」

そういうと速水は手元にあった書類をヒラヒラさせながらソファーから立ち上がった。


「え?えと、でも、、」


「すぐに済むから。」


「あ、あのぉ〜」

さっさと仕事にとりかかる速水に、マヤはもじもじしながらさきほどの小箱を差し出した。


「じゃぁ、、あのこれ、、、」


「ん?これがどうかしたか?」

速水は怪訝そうにマヤと小箱に交互にみつめる。


「えっとだからこれ、一緒に食べませんか?」


イッショニ、、、


速水は一瞬 マヤの言葉が理解できずにただ恥ずかしそうに自分をみつめる少女を見つめ返す。


「だって速水さんお忙しそうだし、、、そ、それにもう少しかかるでしょう?すこしはおなかの足しになる

かと思って、、、、」


「チビちゃん、、」


「あ!!でもでも、これでお腹壊しちゃったりしたらまずいですよねっ!やっぱ、、」

そう言って引っ込めようとした小さな手を速水は素早くとらえる。


ドキンッ


とつぜんの速水の行動にマヤは持っていたものを取り落としそうになる。


「、、大丈夫だ、そんなヤワにはできてない。」

そういうと、速水はマヤの手からそっと小箱をうけとり、大きな手のひらの上に乗せた。


「、、、ほどくのがもったいないな。」


「えとあの、大丈夫です、ちゃんと包み方も習ったから、なんだったらあとで包み直してあげますよ?

・・・って食べちゃったらそんなの捨てちゃうから必要ないですよね。」

マヤはなんだか自分がすごく変なことをいってる気がして ドキドキしてしまう。

速水はゆっくりとした手つきでリボンを丁寧にほどいていった。

カサカサ、、


ふたを開けると、ほのかにブランデーの香りをまとった小さなハート型のケーキがひとつ。僅かにデコ

ボコがあるもののチョコレートでコーティングされたそれは、銀色の砂糖菓子でがざられ きらきらと輝

いていて、、、


「星、、、」


「え?」


「いや、、。」

そう呟くと、ふいにいたずらっぽい笑みをうかべる。


「フッ、、見た目はまぁまぁだな。」


「ぐっ、、まぁまぁ?って、味はいけてるはず、、です!!」


「クスクス、、じゃぁさっそく、、っておい、どうやって食べるんだ?」


「どうって、、、ま、いいじゃないですか!こうやって、、」

そういうと マヤは指先でひと口分すくいとると、そのままぱくっと自分の口の中へ放り込んだ。

モグモグ、、


「わ!速水さん、これ意外とほんとに上手くできてますよ!」

マヤの突拍子のない行動に目を丸くしていた速水だったが、その様子から本当に誰かにあげる予定

ではなかったことを確信すると さっきまでわだかまっていたものが薄れ、ますます笑いがこみあげて

きた。


「ハッハッハッハッ!なるほど、ではチビちゃんを見習って、、」

マヤをまねて 一口ほおばってみると、口の中にほろ苦さとほどよい甘さがひろがる。

しばらく黙って味わっていたが、マヤの不安そうな視線に気づき わざと少し眉をひそめて見せた。


「あれ、、?いまいち,、デシタ?」


「フッ、、いや、旨いよ。チビちゃんにこれほどのものが作れたとは驚きだ。」


「も、も〜っ!あ〜びっくりしたぁ〜!速水さんてばっ!でもでもほんとに?おいしいですか?」


「あぁ、上出来だ。」


「やったぁ!よかった〜!ほんとはすごい不安だったんです〜。」


「プーックックッ、、おいおい、それでよく俺に食わせる気になったな。」


「えへへ、、ま!いいじゃないですか!あたしの生まれて初めて作ったケーキを食べれたんですから!

速水さん、役得でしたね〜!」


「役得ねぇ、、まぁそういうことにしておくかな。」

そういって速水は小箱のふたをしめるとそっとマヤのほうに差し出した。


「もういちど、包み直してくれないか?」


「え?でもまだ半分以上残ってますよ?」


「フッ、、せっかくのチビちゃんからのバレンタインチョコだからな。残りは当日まで取っておこうと思って

ね。」


「なっ!!な、な、なにいってんですかっ!!そーゆーイミアイは全く全然これっぽっちもないんでお気

遣いなくっっ!!」

ボンッと音が出そうな勢いでふたたび真っ赤になったマヤに速水はすました顔で、

「ほら、ごちゃごちゃ文句をいってないで早くしろ。一口食べたら猛烈に腹が減ってきた。行くぞ!」

そういって上着に腕をのばす速水にせかされ、おおいそぎで包み直すとマヤはあわてて速水の後に

ついていった。


―――なんで!?なんでこうなるの〜っ!

、、、あれ、今日はなにしにここにきてたんだっけ、、、???――――










そしてバレンタイン当日―――


けして誰からのプレゼントも受け取らないはずの速水のデスクの上に大事そうに置かれたその小箱

をみた秘書課の女性軍の質問攻めに、やっぱり深いタメイキをつく水城だった。







おしまい









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