〜written by ともとも〜
マヤちゃん、どうもありがとうございました!」 進行役の女性がこころなしかひきつった笑顔でそう告げると エンディングの音楽が流れはじめる。
マヤも 負けず劣らずのひきつり笑顔で1カメにむかって手を振った。
「お疲れ様―!」
食べることには人一倍興味があるものの、作るほうはどうも、、、、というマヤはお芝居をやってる ほうがよっぽどラクだ!!とつくづく実感した。 細かいことはさておき、まぁひとこというとすれば最後にアップで映し出されたチョコレートケーキは 前もってスタッフが用意しておいたモノであった。どうやらマヤの作品はアップにたえられるレベル ではなかったらしい。
苦笑しながらスタジオを後にする進行役の女性をマヤは真っ赤になりながら頭をさげて見送った。
これまた笑いをかみ殺しながら水城がマヤを手招きした。
(もぅーっ!水城さんまで笑ってるぅ!だからやだったのよね、料理番組なんて。) 自己嫌悪に陥りながらスタジオのすみに待機していた雑誌記者に目をやると、今の収録をみていた らしいその男は、無遠慮ににやにやしながら名刺をさしだしてきた。
とは随分イメージがちがうんだね〜!」
(あ〜ぁ、また言われちゃった、、、。) 大河ドラマで伯爵令嬢沙都子を演じているマヤ。そのきりりと勇ましく、利発な役柄とは正反対の自分。 ドラマを見て自分に対するイメージをもった人間は、必ずといっていいほどそのギャップに驚く。事務所 としてはそのギャップを売りにしようということらしいが、当のマヤにとっては今までの舞台とは違う、テレ ビの驚異的な影響力にふりまわされているようであまり居心地のよいことではなかった。 どこでなにをしていても常に周りから注目され、気を抜くと足元をすくわれる、、そんな世界に飛び込んで しまったことに いまさらながら空恐ろしくなる。 だが、それ以上に演劇への思いはますます強く大きくなっていた。 いつかは紅天女を、、、!その思いが今のマヤを支えているのだった。
なんか聞いちゃおうかな。」 ぼうっとしていたマヤは はっと我に返り、最近やっと板についてきた営業スマイルをうかべた。
記者は、さっきの手際の悪さを思い出し、内心(そりゃないだろ!)とつっこみながら何食わぬ顔で質問 を進めていく。
さらっとした口調で、探りを入れてくる記者にマヤはちらっと水城のほうをうかがう。
すこし頬を赤らめながら答えるマヤに、やはりこっち方面はガードが固いかと思いながらも、少しでも面白 い話をひきだそうとさらにたたみかける。
いる子ってのもけっこういるでしょ?」
ないですし、、、。」
(やだなぁ、こういうの。はやく話題変えてくれないかしら。) そんなマヤの思惑を知ってか知らずか何食わぬ顔で攻める方向をかえる。
やっと話題が変わったことにほっとしていると、すかさずこんなことを言われた。
だし。」
なかなか言葉がでてこない。
思った以上の素直な反応に(これはいける!)と、いよいよ意気込んでくる記者に、 「申し訳ありません。次のスケジュールがおしてますので。」 水城の気転でなんとかその場を打ち切り、挨拶もそこそこにマヤはスタジオをあとにした。
移動中の車の中で水城は深いため息をついた。
いまだにうまくインタビューに答えられずにいつも水城に迷惑をかけていることが申し訳なくて、マヤは しょんぼりとうつむく。
ストレートな質問にマヤはとまどってしまう。
うっすらと頬をそめながらボソボソとつぶやくマヤをじっと見つめながら水城はもう一度深いため息をもら した。
そばで見ている水城には、マヤが里美に淡い恋心を寄せていることは一目瞭然だったのだから。
水城の脳裏に、ひとりの男の顔がうかぶ。
担当する女優と、みずからの上司の板ばさみにしばし頭を抱える水城だった、、。
もし、本当にそんな相手がいたとしても、、
マヤは膝の上に大事に抱えていた小さな箱に目を落とす。 可愛くラッピングされた、マヤがうまれてはじめて作ったチョコレートケーキ。 お持ち帰りしたところで自分のお腹のなかに消えてしまうことが決まっている、ハート型のチョコレート ケーキ、、。
そう思うそばから、先ほど記者からとびだした思いがけない名前がうかぶ。
若手bPの人気俳優、いつもファンや親衛隊の女の子にかこまれててあたしのことなんか相手にして くれるはずが―――。
顔を赤くして急にブンブンと首をふる。
素のマヤなら絶対できないようなシーン。
その頃のマヤは 亜弓と比較されることを必要以上に意識してしまい、思ったように演じられなくなっ ていた。 そんなマヤを 里美は自分の経験談を交えながらやさしく諭し、元気づけてくれた。 そのころからだろうか、、、 マヤは里美とのシーンが待ち遠しいような気恥ずかしいような感情をいだくようになったのだった。
自分をさらいに来た無頼漢である里美を思いきりひっぱたかなくてはならないのに、なぜか力が入ら なかった。 舞台とはなにもかも異なるテレビドラマの現場に少しずつ馴染み始めていたマヤはショックを隠せない。 やはり、水城も不審に思ったのだろう。
社長室のソファーに心もとない様子で座っているマヤを見て、会議室から戻った速水は軽くため息を ついた。
水城から事情を聴いたらしい速水の言葉に マヤはいらだちを覚える。
ちょっと調子がでなかっただけで、、。」
言いながらも自分のふがいなさに語尾がだんだん小さくなる。 速水はシガレットケースからタバコを一本取り出し、だが火をつけるでもなく指先にはさんだままじっと マヤを見つめ、さきほどの水城からの報告をゆっくりと頭の中で反芻させる。 すこしは現場にも慣れてきていたのですが、、 やはり、いまあの子は、、、――― (いつもの彼女ならその程度のことでいちいち俺に指示を仰ぐようなことはないはずだ。なのに、、) 速水は不機嫌そうに眉をひそめる。
いな、、、。ばかばかしい!) だからわざわざこんな所までこの子を連れてきたんだろうと察すると、いつもの自分らしからぬ いらだち を覚え、 (女のカンだかなんだかしらないが、そんなくだらないもので決めつけるな、、、!) そう心の中で悪態をつきながら この部屋にはいってきた―――はずなのに、、、
たんだ?」などど優しげな言葉をなげかけてしまった。 だが、それに対する彼女の返事はなんともつっけんどんなもので、なのに自分は 腹が立つどころか 返って新鮮さを感じてまじまじと彼女を観察している。
俯いたまま じりじりと視線だけを感じていたマヤだったが、あまりの沈黙の長さに居たたまれなくなる。
思い切って顔を上げたマヤは 一瞬でその視線にとらえられてしまう。 不機嫌であるはずのその眼差しは、やさしさとわずかな不安の色をのぞかせているような、、、。
やっと発せられたその声は、思いのほかやさしくてマヤを戸惑わせる。
無理は我慢してもらわなくちゃならんがな。」
もっときびしいことを言われると覚悟していたマヤは少し拍子抜けしてしまった。
におう???
マヤは鼻をクンクンさせる。
マヤはとたんに真っ赤になる。
速水も鼻をクンクンさせながら身を乗り出し、マヤのほうに顔をよせる。
「あ!あぁ、すまん!」 思った以上に接近してしまったふたりの距離に気づき、速水はあわてて体勢をもどした。 (ふぅ、、しかし一体・・・) と怪訝そうに速水はふたたびマヤをみつめながら問いかける。
ちょっとチョコを焦がしちゃったりなんかして、、、」
速水はマヤの膝の上に乗っかっていた小さな箱を指差した。
「な、なにいってるんですか!なんであなたなんかに、、、」 真っ赤になって動揺するマヤがなんともおもしろくて ますます速水のいたずら心を刺激する。
いるつもりだから安心しろ。」
からな。」 !!!!!!!!!
マヤはこれ以上ないほど真っ赤になりながら、あわてて箱を後ろ手に隠そうとするがすかさず速水の 長い腕が伸びてきて、あっというまに取り上げられてしまった。
速水は片手で高々と頭上にかかげると、いじわるく問いかける。
からかうだけのつもりが いつのまにか執拗に問い詰めてしまう自分におどろきながらも、速水はマヤ の真意を探ろうとでもするかのように、じっと瞳を覗きこむ。
スキャンダルはご法度だといつも水城から口うるさく言われていることを思い出す。
その押し殺した響きにマヤ以上にとまどう速水。
新人女優のスキャンダルに構っていられるほど暇じゃない、そんなことは分かりきっているはずなのに、 問い詰めなければいられない自分がいる、、、。 水城のくだらない詮索をまるで肯定してしまっているかのような己の言動を苦々しく思いながら 速水 はのろのろと腕をおろすとマヤに差し出した。
速水はできるだけいつもの調子を意識しながらマヤに小箱をかえそうとしたそのとき、 マヤは信じられないものをみるように速水を凝視する。
ごまかすように手にしていたタバコに火をつける。
いつも澄ました顔で自分をからかう速水が顔を赤くしながら弁解するのがおかしくてマヤはここぞと ばかりにバカ笑いする。
ヒーヒー笑いながらお腹を抱えるマヤに速水もついつられて笑い出す。
ぐぅぅきゅるるぅぅ〜
れてふたりで笑いあってしまった。
マヤは笑い涙を拭きながらまだ笑っている。
そういうと速水は手元にあった書類をヒラヒラさせながらソファーから立ち上がった。
さっさと仕事にとりかかる速水に、マヤはもじもじしながらさきほどの小箱を差し出した。
速水は怪訝そうにマヤと小箱に交互にみつめる。
かと思って、、、、」
そう言って引っ込めようとした小さな手を速水は素早くとらえる。
そういうと、速水はマヤの手からそっと小箱をうけとり、大きな手のひらの上に乗せた。
・・・って食べちゃったらそんなの捨てちゃうから必要ないですよね。」 マヤはなんだか自分がすごく変なことをいってる気がして ドキドキしてしまう。 速水はゆっくりとした手つきでリボンを丁寧にほどいていった。 カサカサ、、
ボコがあるもののチョコレートでコーティングされたそれは、銀色の砂糖菓子でがざられ きらきらと輝 いていて、、、
そう呟くと、ふいにいたずらっぽい笑みをうかべる。
そういうと マヤは指先でひと口分すくいとると、そのままぱくっと自分の口の中へ放り込んだ。 モグモグ、、
マヤの突拍子のない行動に目を丸くしていた速水だったが、その様子から本当に誰かにあげる予定 ではなかったことを確信すると さっきまでわだかまっていたものが薄れ、ますます笑いがこみあげて きた。
マヤをまねて 一口ほおばってみると、口の中にほろ苦さとほどよい甘さがひろがる。 しばらく黙って味わっていたが、マヤの不安そうな視線に気づき わざと少し眉をひそめて見せた。
速水さん、役得でしたね〜!」
そういって速水は小箱のふたをしめるとそっとマヤのほうに差し出した。
ね。」
遣いなくっっ!!」 ボンッと音が出そうな勢いでふたたび真っ赤になったマヤに速水はすました顔で、 「ほら、ごちゃごちゃ文句をいってないで早くしろ。一口食べたら猛烈に腹が減ってきた。行くぞ!」 そういって上着に腕をのばす速水にせかされ、おおいそぎで包み直すとマヤはあわてて速水の後に ついていった。
、、、あれ、今日はなにしにここにきてたんだっけ、、、???――――
をみた秘書課の女性軍の質問攻めに、やっぱり深いタメイキをつく水城だった。 おしまい |
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