爽やかな秋晴れ。 まるで世界中が祝福しているかのように感じる、最高に素敵な俺の誕生日・・・。
俺は、ゆっくりとタバコをふかしながら、最愛の恋人である北島マヤが来るのを、都心のプライベートマンションで待っていた。
――ハジメテノ☆ヨル―― その言葉には、男としてのイケナイ期待が充満しまくっている。 『あぁぁぁ、マヤ!!!!』
ドアを開けるなり、満面の笑みで俺の目の前に現れた彼女は、一瞬にして俺の視界を1000ワット以上の明るさに変えた。 彼女は、以前に俺が紫のバラの人としてプレゼントした紫のドレスに身を包み、頭には紫の大きなリボンをヒラヒラと強調させている。
こんなに魅力的な彼女が自分の恋人だと思うと、幸せで体が溶けてしまいそうだ・・・。
「ずいぶん大きなケーキじゃないか。まあ、君なら一人で食べきれるかもしれないけどな・・・」 その言葉を聞くと、彼女は少し頬を膨らませて 「もうっ!」 と怒りながらも、俺の腕にまとわりついた。 俺は笑いながら彼女を部屋へとエスコートし、ゆったりとしたリビングへ足を向かわていく。 一秒一秒が幸せでたまらない。
俺がソファーに腰を下ろそうとしていると突然、彼女は下を向きながら申し訳なさそうにそう声を出してきた。
俺はそう言いながら、彼女と視線を絡める。
「・・・・・・ありがとう・・・その気持ちが嬉しいんだ。・・・もう気にするな・・・」 俺はゆっくりと彼女を引き寄せ、思いきり強く抱きしめていた。
それなのに彼女は俺の声をさえぎるようにして言葉を出す。
「・・・ん?」 俺がうつむいている彼女の顔を覗きこむようにしていると、彼女は恥ずかしそうに小さな声で呟いた。
彼女の表情を窺った。
俺の言葉に、彼女はゆっくりと頷く。
いじらしい彼女の言葉は微かに震えていた。
俺はそう答えながら彼女の首元にキスの雨を降らせていく。
「マヤ・・・」
おずおずと尋ねてくる企画部長。 ・・・真澄は、会議の内容など、まるで頭に入っていなかった。 『ヤバイ・・・・・・』 彼が背中に悪い汗をかいていると、有能な秘書の水城がサッとフォローに入る。
「あ、ああ・・そうだ・・・その通りだ。 ・・・続けたまえ」 真澄もとっさに言葉を付け足すと、何事もなかったかのように再び会議は進められていった。
真澄は胸を撫で下ろし、とりあえず手元の資料などを整理するフリをして息をついた。
先ほどの妄想は100%作り物の世界ではなく、マヤと過ごす予定は本当に入っているのだ。 今日という日が訪れるのを、どれほど楽しみにしていたことだろう!!
会議をこれほど長く感じたことは初めてだった。 真澄は鼻の下が伸びっぱなしになっている表情を書類で隠しながら溜息をつく。 『早くマヤに会いたい・・・』
とても会議に集中できる状態ではない・・・。
時間をやり過ごしたのだった。
あの会議のせいでこうして仕事にくるハメになってしまった事も、今ではどうでもよい事実だった。
まるで遠足前のウキウキした小学生のように嬉しそうな表情である。 デスクの上で肘を立て、夢見る乙女のように手のひらを頬に当てながらフフフと笑みをこぼす真澄。
2人が付き合い出して半年。 嫌な過去はすべて水に流し、まさにバラ色ハッピー人生を突っ走っているものの、なかなか2人だけで 過ごせるチャンスに恵まれず、最近、さり気なくマンションを手配したのだ。
可愛いことを言い、彼は彼女が来るのをマンションで待つという段取りになったのだ。
「ごめんね・・・速水さん。どうしてもプレゼント選べなくて、やっと決めたの!お金で買うものじゃなくて・・・まだ言えないんだけど、当日まで 我慢してね♪」 と・・・。 真澄はその言葉を信じ、今日まで我慢に我慢を重ねてきた・・・。 今夜こそ、その我慢を解き放つ時なのであろう!
――どんな顔をして「プレゼントは、あ☆た☆し☆・・・なの・・・」なんて言うのだろうか――
しかし、そんな彼女のセリフに『よっしゃあ!』とばかりに襲い掛かるのもカッコ悪いので、できるだけ『俺はそんなつもりではなかった』と いう演技も必要である。 そこで、ブツブツとセリフを返す練習など始めてみる真澄。
『これでは、なんだか勇気を出してくれたマヤに申し訳ない気もするなァ』
『おお!これはいいセリフだ!これに決まりだ!』
バレないようにしなくてはいけない。こんなことなら月影先生にちょっぴり演技指導をしてもらえばよかったなあ、とも思ってみたり。
嬉しさと期待と興奮で心臓が高鳴り、口から飛び出しそうになっていく。 もう、社長室の窓から思いきり叫びたい気持ちでいっぱいだ・・・。
――その日の夜――
急ぐ。テーブルには読んでもいなかった経済雑誌を置き、まるでギリギリまで仕事のことを考えていたフリをするのも演出のひとつだ。
マヤは、本当に例の紫色のドレスを身にまとい、大きなリボンをつけて恥ずかしそうに頬を染めていた。
真澄がそう言うと、マヤは照れたようにもじもじと下を向いて言った。
「!!!!」
真澄はその姿にメロメロになり、顔が緩みっぱなしになるのを必死で抑える。
真澄の言葉に、マヤはニッコリと微笑む。
「!!!!!!!!」 『・・・年の話はやめてくれ・・・・』
これは、間違いなく妄想通りと言える。 カタチのないプレゼントと言えば、アレしかない!!!!! 真澄はそう確信すると、ちょっぴり落ち込んだ気持ちを前向きに移し、リビングへとマヤを誘導した。
「あの・・・速水さん・・・プレゼントなんだけど・・・・」
真澄はドキンドキンしながら彼女の表情を窺っていた。
本当はプレゼントのことで妄想しまくって会議中もボンヤリして水城に何度も蹴られたのだが・・・。
もじもじと恥ずかしそうに言葉を濁しているマヤ。
「速水さん・・・ちょっと呆れちゃうかも・・・恥ずかしいナ・・・」 「恥ずかしがることなんてないだろう?・・・今日は俺の誕生日なんだ・・・早く言いなさい・・・」
かぶったような状態だ。
「・・・・??マヤ・・・??」 真澄は期待通りの展開に胸を躍らせる。
彼は、マヤが言い出しやすいような雰囲気作りの為、ギリギリまで接近して体を密着させると、指先を彼女の黒髪に触れ、耳元で熱く 囁いた。 「早く聞かせてくれ・・・」
真澄はトンデモナイ勘違いをしつつ、息を呑む。 『女の子の君にそんなモノを用意させてしまうなんて、俺はなんて罪な男なんだ! そりゃあ恥ずかしがるわけだな、マヤ!!』 興奮で鼻息が荒くなっていく真澄。
マヤはゆっくりと真澄に向かって手のひらを差し出していた。
真澄は怪訝そうな表情で手を伸ばす・・・。
真澄は無意識にそれを受け取り、パラリとめくってみる。
――驚くべき事実が真澄を襲った――
『おつかい』は、タバコとか買いに行ってあげるから♪ ・・・嬉しい? ・・・・それとも・・・・やっぱり呆れちゃった・・・かしら・・・」
真澄はショックのあまり、体を硬直させたまま数秒間動けなくなっていた。
泣きたくなるほどのガッカリ感である。 『この数日間の我慢のご褒美がコレかよ・・・』
真澄は予定通りのセリフを無意識に使い、パラパラと単語帳をめくりながら、白目青筋で溜息をついた。
彼がションボリと肩を落としていると、マヤは張り切ってロウソクの束を取り出し、ケーキに立て始めていた。
『う・・・・年の話はやめてくれと言ったのに・・・』 ただでさえ落ち込んでいる状態の彼に、年齢の話は辛すぎたようだ。 彼は無言でロウソクを立てる作業に手を貸した。
マヤは、真澄の誕生日だからと言ってマンションに泊まる気もない様子であり、 『泊まっていくか?』 などと誘える状況ではなかった。
『もう帰らなくちゃ!麗が心配しちゃう』 という彼女のセリフをキッカケに、いつも通りに彼女を日付が変わる前までにアパートに送り届け、別れを告げた。
それ以前に勇気のない自分にも問題があるのだが。
真澄は落ち込みながら、先ほどマヤがプレゼントしてくれた単語帳のカードをポケットから取り出していた。
『これは別の意味で使ってもいいのかな』 などと、往生際悪く やましい事を考えながらニヤリと笑い、ちょっぴり虚しくなった。
ふと、最後の方までめくっていくと、途中でマヤの字で説明書きがされているのに気付いた。
真澄は急いでカードをめくる。 ・・・その次のページからは、何も書かれていない白いカードが数枚残っていた。
真澄は興奮気味に体を起こすと、あれこれ想像して鼻血が出そうになっていた。
今すぐにペンを用意して書いてしまいたい気持ちでいっぱいだ。
『うーむ・・・この俺がカードにウハウハしたことを書いてマヤに差し出すなんて!ダメだ!大都芸能の社長の俺には似合わない!!』 たとえ大都芸能の社長じゃなくても、そんな事はやめたほうが良いのだが。 「・・・・・・」
・・・もっと最初からそのつもりでいるべきであろうが。
できれば公演か何かで不在の日を狙うか・・・・』 なんとも地味な部分にまで気を配る真澄・・・。 「よーーし!これぞ一大計画!題して『ラブラブ★大作戦』だっ!」 思わず声に出して叫ぶ真澄。
|
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||