Wの悲劇 
後編

〜written by ひいらぎ〜



そしてついに当日、3月14日。

真澄はそれなりに早起きしたつもりだったが、朝食を取っている最中に早くも聖に送られてきたマヤは

「おはようございます、速水さんっ。」

と、とびきりの笑顔で元気に飛び込んできてくれた。


瞬間ドキッとして、一気に赤面しそうになるのを隠そうと、

「おはよう、マヤ。随分早いな。寝坊しないように昨日の晩から起きていたんじゃないだろうな?」

などと、言ってしまう。

いつもの如く、ちょっと意地悪で余計な一言。


勿論これはマヤに対してだけであって、真澄のマヤへの深い愛情表現の一つでもある。だが、これではまるで

好きな子をいじめるガキレベルだ・・・。

しまった、と思い、マヤもいつものようにふくれっ面をして怒るのだろうが、それを見るのもまた楽しいし・・・などと

思っていると、 

「も〜、どうして逢ったとたんにそんな意地悪を言うのぉ?あたし早起きは得意なんです!それにすっごく逢いたくて、

少しでも早く逢いたくて、聖さんにもできるだけ早くって お願いして急いできたのに。速水さん、喜んでくれると思った

のに・・・。」

と、ふくれる代わりににシュンとなってしまい、真澄は慌ててフォローする。

「すまない、ついいつもの癖で。嬉しいに決まってるだろ? 一刻も早く逢いたかったのは俺も一緒だよ、マヤ。」

そう言って、脈が跳ね上がってしまいそうな素敵な笑顔でもってマヤを優しく抱きしめた。マヤは真っ赤になって

「やっ、は、速水さんっ、ひ、ひ、聖さんがいるのに、恥ずかしいですっ!」

と言いながらじたばた暴れ、腕から逃れようとするが、そんなことはさせまいと余計にしっかりと抱きしめられて、更に

赤くゆでだこのようになってしまった。


そんな二人を優しい笑顔で見守る聖。

『真澄様・・・こんな日をどれほど夢見られた事か。本当によろしゅうございました。』

そう、心の中で呟きながらそっと部屋を出て行こうとした。



「あ、ちょっと待て、聖。こっちへこい。」

帰ろうとする聖に気付いた真澄は、マヤを一旦放し、キッチンの方へ向かいながら手招きする。


「はい?」

返事しつつ、聖も後に続く。


聖がキッチンへ入っていくと、真澄が地味な茶色の紙袋を自分の方へつきだしていた。

「ほれ、約束のチョコレート。今日は朝早くからすまなかったな。」

「・・・本当に下さるんですか? 半分冗談でしたのに。」

「えっ、そうなのか? あの時のお前の顔は、半分も冗談で言っているようには見えなかったぞ・・・?」


ほんのひととき見つめ合う二人。どちらからともなくクスッと笑い出す。

「いらないなら無理にとは言わん。」

「とんでもない、ぜひ、頂きたいです。」

もう、二人はこらえきれずに大笑いしながら話している。

笑いながら、紙袋を受け取った聖はそっと中を覗くと、外側の紙袋とは対照的にびっくりするほど綺麗に飾られた包み

が入っていた。

「なんだか、すごいですね。私のにまでこんなに飾り立てなくてもよろしかったのに。」

「いや、悪いな。お前のは練習台にさせて貰ったんだ。本番はマヤので、な。」

「ああ、なるほど。そういうことでしたか。」


そこへマヤが、

「なんだか、楽しそうですね。あたしは仲間はずれなんですか?」

と笑い声につられてキッチンを覗きに来た。


「ああ、マヤ、すまない、そう言う訳じゃないよ。あっ、ところで朝食は済んでいるのか?」

マヤにチョコレートのことをつっこまれないように他の話題など切り出してみながら、キッチンからダイニングへ移動する

真澄。チョコを渡すのは、夜にしたかったのだ。

「あ・・・そういえば忘れてた。」

「聖もか?」

「はい。」

「じゃあ、ここで食べていけよ、たいした物はないが。」

「いえ、私はこれで失礼させて頂きます。お邪魔虫にはなりたくありませんし・・・独り者には目の毒ですから(苦笑)。

久しぶりにお逢いになったのでしょう?一日なんてあっという間でございますよ。」


真っ赤になって照れる二人を横目にさらりと言うと、聖は一礼をして部屋を出て行った(勿論、真澄に貰った紙袋は

しっかり大事そうに抱えて・・・)。



聖が出て行ってしまうと、真澄はまだ少し照れを残しながら、

「マヤ、朝食を摂って少し休憩したら、早速出かけよう。今日はいい天気みたいだし、外出日和だぞ。どこか行きたい

ところはあるか?」

と、マヤに尋ねた。

「いえ、速水さんにお任せします。」

「よし。じゃあ、さっさと食べてしまおう。」

「はいっ。」


この後も、実に健康的な会話が続いたが、真澄は頭の中で

『本当は、今すぐにでもチョコレートを渡して、頑張ったご褒美に、とかなんとか言って君が食べたいんだ・・・。』

などという思いがぐるぐると渦巻いていた。が、まさかそう言うわけにもいかず(そのうちそう言えるようになりたい

とは思っているが)、お楽しみは夜まで取っておくのだと自分に言い聞かせていた。真澄にとってチョコレートは、マヤ

を喜ばせたい一心で作ったには違いないが、今やムードを盛り上げるための小道具・・・という位置づけにすぎなかった。


一方マヤはマヤで、

『速水さん、チョコレートの事はなんにも言ってくれないな〜。ああ、訊きたいな。でも、電話では大丈夫だって言ってたし

・・・早く見たいんだけどな〜。でも、あんまり何度も訊くと、速水さん、チョコレートに嫉妬しそうだし。お楽しみは夜まで

ガマン・・・なのかな?』

などと考えを巡らす。


二人の『お楽しみ』の内容が、微妙にずれているところが何ともこの二人らしいのだが、とにかく二人は朝食後出かけ、

久々の楽しい一日を満喫した。






そして、夜、夕食を済ませて別荘へ帰ってきた二人。


『いよいよ・・・。』

二人の『お楽しみ』への思いが一気に膨らみ始めた。


「珈琲でも飲むか?」

と真澄はマヤに尋ねながらキッチンへと歩いていく。

内心は、珈琲を入れる時間も省いて、マヤにさっさとチョコレートを渡し、そのままムフフに突入したい気持ちで一杯

だったが、それではあまりに即物的、あくまでも紳士らしく・・・と自分に言い聞かせていた。


一方、マヤも早くチョコレートが欲しくて、どう切り出そうかと考えを巡らせていたので、珈琲などどうでもよく、

「うーん、今はいいです。」

と、適当に返事した。



真澄は、キッチンでマヤに見えないように

『よしっ!!』

とガッツポーズをして気合いを入れ、愛情込めて作った力作を大事そうに持ち、マヤの前へやって来た。

「マヤ。ご所望の・・バレンタインデーのお返しだ。」

心の中はこれからの段取りが悶々と渦巻いていたが、それを微塵も見せることなく、爽やかな微笑みでもってマヤに

チョコレートの包みを渡した。

「わぁっ!! ありがとう、速水さん、あたし、すっごくうれしい。早速開けてみてもいい?」

「ああ、いいよ。どうぞ、お姫様。」

「これ、ラッピングもステキね〜、全部速水さんがやったの?」

マヤは上から、横からといろんな角度から包みを眺め、感心したように言った。

「当たり前だ。そんなこと・・・恥ずかしくて、人に頼めないだろ?」

少し照れて答えたが、そんな真澄の様子はそっちのけで相変わらず包みを嬉しそうに眺めるマヤ。

「開けるのがもったいないくらい素敵。やっぱり何をやっても上手いのね、尊敬しちゃうな・・・何をやってもダメなあたし

とは月とスッポンね・・・。」

少しため息混じりにそんなことを言うマヤに、真澄はとっておきの言葉を返す。

「そうでもないだろ? 少なくともあのチョコは絶品だったぞ。」

「やだっ、もう速水さんったら。」

マヤは真っ赤になって俯いてしまい、

「えっと・・・や、やっぱり中も見たいから開けちゃおう・・・。」

と照れ隠しのように言って、ごそごそと包みをほどき始めた。

が、真澄が凝ったラッピングをしたのでどうやったら綺麗に包みをほどけるのか、マヤは戸惑ってしまった。

真澄は、ちょっとやりすぎたかと苦笑しながらそんなマヤを手伝ってやった。



「うわ〜っ、すご〜い、かわい〜い、おいしそ〜っ!!」

包みの中を見たとたん、マヤは満面の笑顔で喜びの声をあげた。

「ねえ、速水さん、食べてもいい?」

「ああ、まだ、お腹に入る余裕があるならね。そういえば、甘い物は別腹だったな。」

「ええ、どうせ、よくはいるお腹ですっ!!」


そんな受け答えをしつつ、マヤの顔を真澄は愛おしそうに見つめ、しかし目は次第に怪しげに揺れていた。

彼の心の中はいけない妄想に取り憑かれつつあった。


・・・チョコレートコーティングされたバナナ・・・それに自分の分身を重ねていたのだ。


「うーん、どれから食べよっかな〜・・・。」

マヤは迷っていたが、そのうち一つに手を伸ばした。

『おおっ、マヤが、バナナを手に取ったぞ・・・(ドキドキ)、先をちょろちょろと舐めるのもいいが、できればそのまま

頬張ってくれ、奥まで深く・・・そしてゆっくりとしゃぶってくれ・・・・(ハアハア)。』

真澄はそんな思いで胸を一杯にしながらマヤを見つめ、思わず手に汗握り、ごくっと唾を飲み込んでいた。

マヤは、そんな真澄の様子にはいっこう気付かず、大きな口をあんぐり開けて、今まさにチョコバナナを頬張ろうとして

いた。


『おおおおおおおおおっっ!!!』


しかし。


「痛っ!!」

不覚にも大きな声をあげてしまった。


あまりにも期待が大きかったために、その反動は衝撃的で、まるで我が身に降りかかった災難のように感じてしまい、

思わず声をあげてしまったのだ。

そう・・・。マヤはチョコバナナを頬張るなり大きくガブッと食いちぎり、真澄はまるで自分が食いちぎられたように感じて

しまったのだ。

慌てて口を手でおおったものの、時既に遅し。


「れ? どうひたの(モグモグ・・)、速水すゎん?」

片頬を大きく食いちぎったチョコバナナでプクッと膨らませ、モグモグと

噛みながらマヤは言った。

「い、いや、なんでも・・・・ない。」

マヤに問いかけられ、うつむき加減でなんとかそう答えたものの、真澄は大きなショックからなかなか抜け出すことが

できなかった。

「速水さん? 顔、真っ青ですよ・・・本当に大丈夫なんですか?」

マヤが心配そうに顔をのぞき込んできた。

だが、理由を話せるはずがない! 断じて!!

そう思いつつも、一方では

『このダメージから脱出するには、本物を慰めて貰わなければ・・・』

などという願望もムラムラとわき上がり、二つの思いに板挟みになってますます青ざめる真澄。


『マヤ・・・あの、カードを見て察してくれないだろうか?』

とも思ったが、ふと、マヤがカードのことは何も言わないことに気付き、さりげなく訊いてみた。


「マヤ?」

「なんですか?」

「あぁ、いや、その、そう言えば中にカードを入れておいたと思ったんだが。」

「えっ? そうなんですか?」

マヤは慌てて包みの中をごそごそと探すが見つからない。

「はいって・・・・ませんよ?」

「そうか(ため息)・・・いれたつもりだったんだがな。どこかに置き忘れたのかもしれないな。」

残念に思いながら、独り言のように呟いた。


「え〜っ、見たかったぁ。ねえ、速水さん、なんて書いてあったんですか?」

「さあな。」

マヤは好奇心一杯に訊いてくるが、多分書いたままに言っても、マヤには通じないだろう(お子様だからな)し、どういう

意味か説明しろと詰め寄られたら、面と向かってそれを話すのは・・・万が一嫌われでもしたらと思うと、やはり躊躇われ

た。


「ずるーい。教えて下さいよぅ。」

そんな真澄の思いとは裏腹に、マヤは食い下がってくる。

「ちょっとしたお願い事というか、願望が書いてあったんだが・・・。」

真澄は躊躇しながら、しかし、もしかしたらという期待も湧いてきて、慎重に言葉を選んでいた。

「え? お願い事って? あたしにかなえてあげられることなんですか?」

「勿論だ、と言いたいところなんだが・・・さて、ちびちゃんにはどうかな?」

『彼女のコンプレックスの部分をちょっとつつくようないい方をすればひょっとして乗ってくるかもしれない、そうしたら・・・』

そんな思いから出た言葉に、マヤは思った通り真澄の望む方向に乗ってきた。


「あ、あたしだってもう充分大人です、大抵のことならできると思いますけどっ?!」

「じゃあ・・・お願いしてみようかな・・・。」

真澄は意味深にニヤッと笑うとマヤの耳元で熱い願望を囁いた。


案の定、真っ赤になって絶句するマヤ。

『やっぱりまだ早かったか?』

と、自分の願望を伝えてしまった事を少し後悔した真澄だったが、それを撤回する前に、マヤが恥ずかしそうに俯いた

まま、少し消え入りそうな声ではあったが、

「やり方・・・よく解らないから、教えて下さいね。」

と彼女なりの精一杯の言葉を返してくれた。


『やった〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!』

真澄が感激したのは言うまでもない。



(この後二人がどうなったかは、各自ご想像下さいませ。)




その頃聖は、日頃なかなか出来ないでいるプライベートな雑用(要するに家事のこと)をてきぱきと片付け、早めの夕飯

も終え、ソファーでくつろいでいた。手には真澄から貰った紙包みを抱えて・・・。

まるでご褒美を貰った子供のような顔をして、聖はしばし包みを見つめていたが、やがて一番上のリボンに手をかけ、

丁寧にはずす。

真澄がマヤに送った手作りチョコとはどんな物なのか、もうほとんど覗きをするような気分でワクワクしていた。

マヤと同じ手作りチョコレートを貰ったということが嬉しいばかりではないのだ。聖は長く真澄とマヤの中継ぎをしていた

関係上、歯がゆい思いも随分したため、今の二人を見ていると自分のことのように嬉しくて仕方がない。

とはいえ、以前のように中継ぎをする仕事は減り、少し寂しくも感じていた。

二人に関わっていられること、それは裏社会にのみ生きる聖にとって本当に心和むひとときだったのだ。


包みをほどき、そっと中を覗く・・・。

中には更に小さい箱が入っていて、取り出してみると、中には生チョコとトリュフが整然と詰められていた。

街で見かける売り物にも引けを取らない美しい出来ばえに、

『さすがは真澄様、なんでもそつなくこなされる・・・。』

と深く感心する。

もう一つはチョコレートコーティングされたフルーツをカラフルなリボンのついた串で刺し、これまた可愛くラッピングされた

オアシスに刺してバスケットの中に収まっていた。

そして、その中に、他のフルーツとはちょっとバランス違いの大きさを主張するチョコバナナに目がいった。

『なんだか・・・バナナだけミスマッチのような・・・。』

そんなことを思いながら包みの中からそのバスケットを取り出し・・・

『?』

何か、ヒラヒラと床へ落ちる、小さな・・・カードか? バスケットの底にでもついていたのだろうか?

聖はバスケットを手にしたままそっとかがんでそのカードらしき物を拾った。

無地の薄紫色のカード・・・裏返すと何か書かれていた。


「ぷっ、くくく。」


聖は呆れつつ、笑ってしまう。


「真澄様・・・一体どんな顔をしてこのカードを書かれたのですか?」

考えれば考えるほど、どんどん笑いがこみ上げてきて、聖は声を上げて笑わずにはいられなかった。





  マヤへ


  ホワイトデーに際し

  バレンタインデーのお返しだ


  お望みの手作りチョコレート

  俺だと思って味わって食べてくれ。

               真澄 
 





聖は思う、

『この文面で、果たしてマヤ様は真澄様の言わんとしているところを理解されるのだろうか?』

と。


・・・多分無理だろう。

聖は笑いすぎて、軽い目眩を覚えた・・・。




次の日。

マヤと素敵な休日を過ごし、長らく心に秘めていた願望も叶えてもらうことができて、真澄は至極満足だった。

チョコレートを渡した後、ほぼ一晩中貪るようにマヤを抱き、あまり眠っていなかったが、寝不足ゆえの軽い頭痛さえ

快く、朝一番にマヤを自宅へ送り届け、そのまま会社へ向かった。


身も心も充実した真澄は、例え寝不足でもいつになくやる気に満ちあふれていた。

『ルンルン気分』とは、まさにこういう状態を言うのだろう。



なのに・・・。

気の毒にも、彼の『いい気分』は長くは続かなかった。



会社へ近づくにつれて少し緊張する。

もう一つの忘れてはならない約束。

水城のお願い事・・・『秘書課の面々に手作りチョコレートを下さい。』が、まだ、片付いてなかった。

幸いまだ時間は早く、社内にはほとんど人影もない。

自分の手荷物の他に、人数分のチョコをまとめて入れた大きな紙袋を持って、秘書室へと急ぐ。

『誰かに中身を見とがめられるとやっかいだ。』


無事に秘書室へ到着すると、まだ、誰も来ておらず、水城のデスクにそれをドサッと置くと、

『これでチャラだぞ・・・』

と、そこにはいない水城を頭に思い浮かべて席を睨みつけてみる。


社長室へと入り、自分の席にどっしりと深く腰掛け大きく伸びをした。

仮眠ができるほど時間があるわけではないが、少しの間だけでも・・・と目を瞑りウトウトした・・・。





「キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

つかの間だったのか、しばらく経ってからだったのか真澄には判らなかったが、いきなりの金色の叫び声に真澄は

びっくりして椅子から転げ落ちそうになった。

体勢を立て直す間もなく、扉をノックする音が聞こえたかと思うと返事もしないうちに扉が開き、秘書達がなだれ込ん

できた。

「社長〜〜〜〜〜〜〜〜っ、ありがとうございます!」

「こんなに素敵なの、もらえるなんて想像もしていませんでした。」

「感動感激ですぅ。」

「やだ〜、涙出てきちゃった。」

「なんでもそつなくこなされるんですねぇ。」

「ホントにご自分でお作りになったんですか?」

「北島さんの感想はいかがだったんですか?」etc...


口々に、御礼と、どさくさに紛れていろんな事を聞き出そうとするのか、とにかく機関銃の如く全員にたたみかけるように

まくし立てられて、真澄はただただ驚いて何も言うことができず、彼女らの気迫に押されて無意識に後ずさっていた。



「あなた達、もうそれぐらいにしておきなさい、一言御礼を申し上げるだけだったのではないの?」

珈琲を持って入ってきた水城はそんな様子を見て助け船を出し、真澄はほっとして力が抜けた。

「は〜い。では社長、失礼致しました。」

そう言って彼女らは去っていった。そんな彼女らと入れ替わりに、

「おはようございます、社長。」

そう言って何事もなかったかのように、いつもの通りに水城は珈琲を置いた。

「ああ・・・・。ありがとう。」

真澄も、冷静さを取り戻し(たふりをし)て返事する。


「真澄様、素敵な手作りチョコレート、ありがとうございました。皆、大喜びですわ。マヤちゃんもさぞかし喜んだことで

しょうね。私、真澄様ならマヤちゃんに対抗して、ナニの形をしたチョコレート・・・では露骨すぎるでしょうから、チョコレート

バナナでもお作りになるのではないかと思っておりましたわ、違いましたのね。」

水城は済ました顔でしっかりつっこんだ。

マヤのチョコレートの形を知っていることはともかく、『チョコレートバナナ』は本当にあったとは知らずに水城は言った

までだったのだが。


ぶっっっっ!!!

『な、なんだと〜〜〜っ(白目)? 水城君、君は何をどこまで知っているんだ?!』

真澄は思わず珈琲を吹き出さずにはいられなかった。



更にその後・・・

真澄の携帯に聖からのメールが入る。

『至急』と題されたメール・・・。


『何だ?』

日頃、聖はメールでさえもほとんど送ってくることはない。

『今、彼に依頼してある件で何かトラブルでも?』

なんの疑いも持たずにメールを開き、目を通すと・・・目が点になった。


「前略 昨日はありがとうございました。バナナチョコレート真澄様だと思って、じっくり味わわせて頂きました。大変

美味しゅうございました。余計なお世話でしょうが・・・大切なカードはもう少しシッカリと確認なさいませ・・・聖」


ガーン・・・・・・・(またまた白目)。


『あのカード、聖のところに入っていたのか! なんということだ!俺様ともあろう者が、よりによってそんなミスを犯す

とは・・・情けない。』




真澄はダブルのショックから立ち直れず、その日一日仕事にならなかった・・・とか。






おわり





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