春色の1ページ 
〜ときめき〜

〜written by ともとも〜




(あ〜ぁ、、)


穏やかな春風が心地よい、ある晴れた日。

マヤは何度目かのため息をもらした。


今日は一ツ星学園の体育祭。 

季節外れではあるが この学園恒例の新入生歓迎のイベントなのである。

体を動かすのは大好きなのだが競技と名のつくものは学業同様あまり得意ではないマヤ。

今日の成績も、綱引きや玉入れなどの団体競技以外は みごとに最下位をひたはしっていた。 


(まずい、、)


体育祭の前日のこと、地下劇場で仲間の稽古を見学した帰り道で なんというタイミングの悪さか 

あの冷血仕事虫の速水真澄にばったりと会ってしまったのだ!


「やあ、偶然だな チビちゃん。」

彼はおきまりのセリフを口にした。


「こっ こんにちは!速水社長っ!それじゃあ 失礼しますっ!」

と、そうそうに彼の前を立ち去ろうとするマヤの背中に思いも寄らない一言が聞こえてきた。


「明日は 頑張れよ」


(? ? )


何の事だろうと立ち止まり 振り返ったマヤに 彼は続けた。


「確か 明日は一ツ星学園の体育祭だろう?」

「どっ、どうして あなたがそんなこと知ってるんですかっ!?」

「あぁ、あの学園には うちのタレントも多く通っているし、多額の寄付もしているんでね、、一応 

毎年案内状が届くんだ。」

あぁ なるほど、、と マヤが納得していると すかさず、

「まぁ せいぜいすっころばないように気をつけるんだな。いくら演技力だけがとりえとはいえ、一応 

女優なんだから 顔にキズなんか作るんじゃないぞ。」

と いつもの憎まれ口をたたく速水。

カチン!

「そっ そんなこと あなたに言われなくったってわかってます!!これでも演技のためのトレーニング

で体は十分きたえてありますからっ。少しは手加減しないと他の子たちが気の毒じゃないかと、、」

プーッ、クックックッ・・・

マヤが言い終わらないうちに 彼はふきだした。


「ほほう それはそれは、、じゃあ 明日は君がいくつ一等賞をとれるか 楽しみににさせてもらうよ。」


(え、まっまさか、、)


「まぁ いつも案内状が届くとはいえ 一度も顔を出したことはなかったんだが今年は未来の紅天女さま

の演劇以外での活躍も見られそうだからな。」


(うっ、うそおぉぉぉっ!!まさか 見に くるの、、、!?)

あたふたするマヤを さもおもしろそうに見つめながら 

「君が ひとつでも一等賞をとれたら ご褒美に何でもおごってやるぞ。」

と、速水はくすくす笑いながらマヤのあたまをポンポンと叩いた。


(またっ、ひとをばかにしてっ!)

マヤは 反撃しようと口を開きかけたが、


「じゃあ またあしたな、チビちゃん。」

と、彼はさっさと車に乗り込んでいってしまった。





(まぁ たまには息抜きもいいだろう、、)

車の中で速水は数日前 秘書の水城から郵便物を手渡された時のことを思い出した。



これみよがしに一番上に一ツ星学園の封筒をセットして おもむろに速水に差し出すと 水城は言った。


「真澄さま、たまには気分転換でもなさったらいかがですか?」

「ん?なんだ、、ほう、、体育祭か、、」

「所属タレントの意外な素顔が見られて 案外楽しめるかもしれませんわよ。」

と続ける水城に たいして興味もなさそうに

「まぁ 時間がとれればな。考えておくよ。」

と答えた速水だったが、、、 紫の薔薇の人としてマヤをあの学園に通わせているというのに彼女の

高校生活がどのようなものかまるで知らないというのも少し無責任なような気がしてきた。 


そして フッ、、と笑みをもらし

(たしかに チビちゃんを見ているとたいくつしないからな。いい気分転換にはなるかもな、、)

と、そう思った速水は

「じゃあ 水城くん、そのようにスケジュールを組んでおいてくれたまえ」

と 声をかけた。


「かしこまりました。」

水城は少し意味深な視線を速水に投げかけながら社長室を後にしたのだった。



(まずい、、、まずいよおぉ)

体力には自信があるものの なにせ要領の悪いマヤのこと、障害物競走ではくぐる網にからまって

ダンゴ状態、100メートル走にいたっては「よーいドン!」のピストルの音とともにすっ転び、右ひざに

みごとな青あざまで作ってしまった。


(あ〜ぁ、、やっちゃった、、くすん、、。でも顔じゃなくてよかった、いちおー女優だもん!!)

と心の中で負け惜しみをつぶやきながらも またため息をこぼすマヤ。

ちらりと来賓席をみると 校長先生の隣に座っている速水と目があってしまった!


こころなしか笑っているように見える。  

(このままじゃ あのイヤミ虫になにをいわれるかわかったもんじゃないわ!)

なんとかがんばらなくちゃと思うものの 残った個人競技はあとひとつ、しかも借り物競争という、

いかにも要領の悪いマヤには不利な競技だ。


(あ〜ぁ、やっぱムリかも、、)


スタートラインに並んだマヤは

(え〜いっ、どうにでもなれ!)

と半ばヤケクソ状態だった。


「よーいドン!」

一斉に走り出した。 途中でカードを拾う。 ここまではなんとか三位でたどりついた。 

ところが拾ったカードを裏返すと そこには、、、、


(えぇ〜っ!なにコレ!!?)


思わず白目になるマヤ。

しかし みんな次々とカードを拾ってはあちこちへ散らばっていく。 


ぐずぐずしてはいられない! 

意を決するとマヤは一直線に来賓席をめざして走り出した。



(おや?)

来賓席で校長に話しかけられていた速水が こちらにむかってくるマヤに気づいた。 

怒っているのか興奮しているのか なんとも形容しがたい形相で一目散に走ってくるマヤを見て

(な なんだ いったい!?またなにか気に入らないことでもしたか?)

と 場違いなことを考えていた速水の目の前に立ち止まったマヤは 最敬礼をすると大きな声で

言い放った。


「速水社長っ!お仕事ごくろうさまですっ!申し訳ありませんがご協力くださいっ!」

マヤは、何が起きたかと唖然としている速水の腕をぐいっと引っ張った。

速水は 何が何だかわからないまま グラウンドへ出ていった。



「、、で、何をどうしたらいいんだ?」

「えっとええっとぉ、あっ速水さん ちょっとかがんでもらえますか!?」


言われたとおりにかがんだ速水は

(えっ) 

と、突然背中に感じたやわらかさに一瞬、戸惑う。


「速水さんっ早く!またビリになっちゃう〜!」

マヤの声に我に返った速水は

「よしっ しっかりつかまってろよ、チビちゃん!」

と言うが早いかマヤをおぶってかけだした。  


速水はぐんぐんスピードをあげていく。

マヤは速水にしがみつきながら 彼の背中のあたたかさに戸惑っていた。

どきん、どきん、

(、、速水さんの背中、 あったかい、、)

どきん、どきん、

(やだっ あたしったら!なんでこんなにどきどきするの!?あたしの心臓 なんかへんだよぉ)


速水は速水で 懸命に走りながらも意識がどうしても背中の方にいってしまう。

やわらかくて たよりなげな 小さな体、、

(なんだろう この何とも言えない安心感は、、初めてなようで 懐かしいような、、)


「きゃーっ やったあぁ!一着よっ 速水さんっ!!」

マヤは思わず速水の首にしがみついた。




イラスト:桜屋 響さま




(えっ) 

思いもよらない展開に らしくもなく動揺する速水。


そして、はっと我に返ったマヤが 

「きゃっ やだっ ゴメンナサイッ」

と背中で暴れた拍子に 速水はバランスを崩した。

「お おいっ」

とっさにマヤをかばうような体勢で倒れたので 速水はモロに顔面を地面にうちつけてしまった。


「つぅっ」

「あっ 速水さん 大丈夫ですか!?」

「あ、、あぁ、君こそ大丈夫か?」

速水の顔をみて マヤは思わずふきだした。


「? なんだ?」

「やだ 速水さんの鼻! すりむいちゃってますよ。」

マヤはおかしくてたまらないというようにケタケタと笑い出した。

(この子が 俺にこんな笑顔をみせるなんて、、)

速水はなんだか嬉しくなったが いつものクセでついいじわるをいってしまう。

「なにを言ってるんだ、誰のせいだと思ってるんだ?」

「あっ そうでした、ゴメンナサイ、、」

思い出したように恐縮してうつむくマヤ。

ふと見ると さっき100メートル走のときにつくった膝の傷からうっすらと血がにじんでいた。


「しょうがないな。」

速水は フッと笑みをうかべると マヤの体を軽々と抱きかかえた。


「きゃっ! 速水さん 何するんですかっ!?もう競技は終わったんですよ?」

「ついでだ。このままふたりで医務室としゃれこもうじゃないか。」

「きゃーっきゃーっ おろしてっ!おろしてくださいってばっ!」


手足をバタバタさせて暴れるマヤを 同じ手は食わないとばかりにしっかりと抱いて、速水は

笑いながら歩きだした。



マヤは 速水の車の助手席でなんだかいつもと違う雰囲気にもぞもぞとおちつかない様子で

座っていた。 

速水に押し切られる形で結局、車で送ってもらうハメになってしまったのだ。 

うつむきながらも ちらっと運転席に視線を走らせる。

速水の鼻と マヤのひざ。おそろいのバンソーコーがなんとも滑稽で思わず口元が緩んでしまう。


「ん?」

と速水がマヤの顔をのぞきこんだ。 

(どきっ)

「いーえ なんでも、、ああっそうだ!」

思い出したようにマヤがぱちんと手を叩いた。


「? なんだ?」

「速水さん 言いましたよね。あたしが一等賞をとったらなんでもおごってくれるって。」

「ん?でも あれは俺のおかげだろう?」

「でも 勝ちは勝ちです。あたしの勝ち!!」 
 
プーックックックッ

「やれやれ、チビちゃんにはかなわんな。」

口ではそう言いながらも 内心この状況を楽しんでいる自分にいささか呆れてしまう。


「で、チビちゃんは何がご希望かな?」

「えっとえっと、デザートがたっくさんのバイキングのフルコースッ!!!」

ブアッハッハッハッ

「バイキングのフルコースってきみ、そんなの初めて聞いたぞ。」

「いーんです!今日はいっぱい食べて速水さんを破産させちゃうんだから!いつものいじわるのお返し

ですよーだ!!その鼻の傷だって、昨日あたしをからかったバチがあたったんだわ!!」


ふたりをのせた車は速水の高笑いとともに走り出した。




(なんだかへんな1日だったな。)

その夜マヤは布団の中で今日のことを思い出していた。 

速水と過ごした、 意外なほど楽しかったひと時を、、。

あのあと車の中でカードの内容をしつこくたずねられたが なんだか恥ずかしくて言えなかった、、、。


《スーツの似合う人におんぶしてもらう》


だいたい体育祭にスーツを着てくる人なんて限られている。

でも、、あの時 すぐに速水の顔が浮んだのだ。

(へんなの、あたしってば。、、まあたしかに速水さんは見た目はちょっとはかっこいいかもしれないけど

中身はゲジゲジの冷血仕事虫なんだからっ。)

と やけにむきになって自分に言い聞かせた。






「まぁ 真澄さま、どうなさったんですか?」 

次の日 出社した速水の顔をみるなり水城がたずねた。

「あぁ、、いや 別に」 

なに食わぬ顔をして書類に目を通しながら速水は昨日の出来事を思い出す。


(あんなに自然に笑ったのは久しぶりだったな、、)


マヤの表情のひとつひとつが鮮明に浮かぶ。 

そして 背中に感じたあたたかさ、かすかな甘い髪の香りも、、


(なんだろう このふしぎな感覚は、、、フッ、、俺らしくもない、、)


今まで感じたことのない やさしく握り締められたような胸の痛みに気づかないふりをして 

ブルマンをひとくち 飲み込んだ。



それは なぜか いつもとは違う ほろ苦さを 速水に感じさせた、、、。





おわり













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