ラブラブ★大作戦 〜後編〜








「マヤ・・・・」

年甲斐もなくドキドキしながら話を切り出す真澄。

「え?なんですか?」

マヤは口いっぱいにお寿司を頬張りながら、大きな瞳で彼を見つめたいた。


「今日は・・・この後・・・どうしようか・・・」

『いかんいかん!マヤに希望を聞いてどうするんだ!俺ってヤツは・・・!!』


真澄が落ち込みそうになっていると、マヤがサラリと答えた。


「え?そうですねえ・・・。速水さんは行きたいところあるんですか? あたし、速水さんに任せますよ・・・」

「!!!」


・・・なんという嬉しい言葉だろう。

真澄は手に汗を握りながら、勝利を確信し、どうにか今日のプランをマヤに承知してもらうべく、言葉を探す。


しかし、まだ夕食には少し早い時間の寿司屋は静まり返っていて、すぐ近くにいるオッサンの存在も気になり、

なかなか言葉が出てこない。


『くそう・・・だから寿司屋は嫌だったんだ・・・』

自分の勇気のなさを寿司屋とオッサンのせいにしつつ、真澄は溜息をついた。


「あ、そうだ・・・今日は早く帰らなくちゃ!」

「!!!!」

突然マヤが衝撃的な発言をした事により、真澄はクラクラとめまいがしてきた。


「・・・用事があるのか・・・?」

「え?そうじゃないけど・・・だって、明日は久々に2人揃ってお休みでしょ? せっかくだから、朝早くから会いたいし、

寝坊したら大変だもん。麗がいないから・・・あたし起きられるか自信ないわ。」


『なっ・・・・・・』

真澄は気が遠くなりそうだった。 マヤには、2人で夜を過ごすなどという発想は欠片もないのだ・・・。


「そうか・・・そうだな・・・・じゃあ、明日の朝は・・・・俺が・・・起こそうか・・・?」

「え?」

『よしっ!!いいぞいいぞ!我ながらナイスなアドリブだ!!』


真澄が動悸を激しくしながらマヤの反応を待っていると、彼女はケロリとした顔で答えた。

「あ、でも・・・悪いですよ。そんな朝早くから電話して起こしてもらうなんて・・・・」


『なっ・・・・!!! 誰がモーニングコールするなんて言ったんだよ!!!!そうじゃないだろおお!!!』


真澄は息を詰まらせながらも、どうにか言葉を出す。


「いや・・・電話じゃなくて・・・直接・・・だよ・・・」

マヤの瞳を見つめたまま、必死で口説く真澄。


マヤは、キョトンとした顔で少し考えながら真澄に問いかけた。

「え?じゃあ、わざわざ起こしに来てくれるんですか?朝早く・・・?」

「・・・・・・・」


真澄は泣きたくなってきた。 純粋なマヤだからこそカワイイのだが・・・あまりにも鈍感すぎるではないか。


こうなったら・・・ハッキリと言うしかない・・・。

真澄はゴホンと咳払いをし、心臓をバクバクさせながら言葉を出した。


「俺が言いたいのはそうじゃなくて・・・・。今日はこのまま朝まで一緒に過ごせばいいって事なんだが・・・」


「・・・・え?」


『よしっ!!ついに言ったぞ!!!!』


真澄は湯のみを握り締めながら、再びマヤの返事を待つ。 

静まり返る店内で、自分の鼓動だけが一人歩きをしているような緊張感走っていた・・・。



しばしの沈黙の後、ようやくマヤが口を開く。


「あの・・・このまま・・・って・・・?ずっとお寿司屋さんで、ですか?」






『ちが〜〜〜〜〜う!!!』



真澄はガックリと肩を落とし、フリーズしたまま言葉を失ってしまった・・・・・。




「あの・・・ご馳走様でした・・・おいしかったですね。」

「ああ・・・」

結局、肝心な事を告げれないまま、2人は再び車へと戻った。

「あのお・・・速水さん・・・。さっき、あたし変なこと言いましたよね? 朝までお寿司・・・とか・・・。ごめんなさい。もしかして

他に行くところ、あるんですか?」

「・・・・・」

こんな風に改まって問われてしまうと、逆に言い出しにくくなってしまうものだ。


「あたし・・・本当にどこでもいいですよ? 速水さん、決めてあるなら連れてってください・・・」

マヤの言葉に、思わず息を呑む真澄。


案外・・・マヤは何も考えずに着いてきてくれそうな雰囲気である。 あれだけ言っても訳が分かっていないのだから、

ホテルに到着しても警戒心すらもたないかもしれない。 本当は承知のうえで誘うつもりであったが、こうなったら無理やり

決行するしかない!!


「ああ・・・そうなんだよ。実は・・・・行き先は決めてあるから、そこへ行こう。」

真澄はとりあえず車を走らせる。

「はい・・・」


マヤは、何も聞かずに黙ったままだった。

『うう・・・女を口説くということがこんなに大変な事だとは・・・俺としたことが・・・!!』

真澄は本当に何も考えていないマヤの表情に溜息をつきながら運転に集中した・・・。



やがて到着したのは、都内でも有名なシティホテル・・・。

「え・・・?速水・・さん・・・ここって・・・」

マヤは驚いたような表情で言葉を出していたが、真澄はスムーズに地下の駐車場へと車を滑り込ませた。

『いくらなんでも・・・ここまで来たら分かってくれるだろう・・・』


真澄は何も言わずに車から降りると、マヤを連れ出してホテルの中へと入っていく。


「あの・・・速水さん・・・あたし・・・」


「大丈夫だ・・・心配することはないよ・・・」

強引に手をとり、並んで歩く2人はロビーへと向かう。



「速水さん・・・ダメ・・・です・・・。あたし・・・無理です・・・」


「何が無理なんだ・・・」


「だって・・・あたし・・・もう・・・・・・」


「!?!?!?!?!?」


「もうお腹いっぱいです・・・。ほんと苦しいんです。」


「・・・・??」


「だから、お茶もケーキも無理です・・・。」



『なっ・・・・!!!!!!!!!!!』

真澄はズッコケそうになり、なんとか体を持ち直した。




「速水・・・さん?」


マヤよりも一歩先に歩いていた真澄はパッと立ち止まると、背中を向けたまま彼女の手を離し、大きく深呼吸する。

そして、軽く前髪をかきあげながら 思い切って言葉を吐き出した。


「マヤ・・・・実は・・・・部屋をとってあるんだ・・・今日は俺と朝まで一緒に過ごさないか・・・」



『よしっ!!!言ったぞ〜〜〜〜!決まった〜〜〜!!!!』


真澄はズッキンドッキンする自分の心臓の音を体中で感じていた。


『言ってしまった・・・言ってしまった・・・どーしよう・・・マヤ・・・君は頷いてくれるのか・・・???』





しかし・・・吐き気がするほど緊張したセリフだったのに、マヤからの返答はまったく返ってこない。


「聞いてるのか・・・?」

真澄はクルリと向きを変え、後ろにいるはずのマヤへと視線を移すと、彼女は数メートルほど離れた場所で、ホテルの

パンフレットを覗き込んで真剣に見ているところだった。


「速水さん・・・このホテル、バイキングやってますよ!! ああ・・・お寿司もおいしかったけど、今後はバイキングを食べに

来たいなあ♪・・・・あ、何か言いました??」



「!!!!!!!」

真澄は失神して倒れる寸前だった。




「速水さん・・・?なんか顔色悪いですけど・・・・大丈夫?」


『なっ・・・なっ・・・なっ・・・俺の究極の口説き文句を聞いていないなんて・・・!!マヤ!恐ろしい子だ!!』

真澄は一度言ってみたかった「恐ろしい子」というセリフを心の中で叫び、立ち尽くしていた。


「速水さん・・・?」

「・・・マヤ、君はここで待っていてくれ!」

真澄はマヤを残し、ズンズンと先を歩くと、フロントまでルームカードを受け取りに急いだ。

『なんてことだ!!』


そして、部屋まで案内しようとしたホテルマンに断りを入れると、再びマヤの待つロビーへと向かう。


『俺がバカだった・・・鈍感なあの子は何も分かっていないんだ・・・こうなったら、とりあえず部屋へ連れ込むのだ!』

すっかり計画が狂ってしまったものの、なんとか目標だけは達成しないと報われない・・・。

「あ、速水さん・・・」

「さあ、行くぞ・・・」

「え?」

真澄は強くマヤの手を掴み、エレベーターへと乗り込んだ。


「あの・・・どうするんですか・・・?」

エレベーターはゆっくりとスイートルームのある最上階へと向かっていく。

「何も心配はいらないよ・・・」

真澄はもう、ここまで来たらマヤを部屋に連れ込むことしか考えていなかった。


「あの・・・もしかして、速水さん、部屋をとってあるんですか・・・?」


『もしかしてじゃなくてそーなんだよおお!!さっきそう言ったんだよ〜!!君が聞いてなかったんだよおお〜!!』

そう叫びたい気持ちを押さえ、真澄は無言でマヤを見つめた。


「速水さん・・・ひょっとして・・・」

「・・・・・・」

真澄はゴクリと息を呑んだ。ここで拒否されたら立場がないというものだ・・・。


「・・・お屋敷に帰れない事情でもあるんですか? 会長さんとケンカしたとか。」


「●×☆!□△%#★$!!!」

余りにもビックリ仰天するような発想のマヤに、真澄はエレベーターのボタンに頭を打ち付けてしまった。

ゴンッ・・・・


「わっ・・・速水さん!大丈夫ですか? ホントにヘンですよ、今日の速水さん・・・」


『なっ・・・何なんだ??マヤ!!ヘンなのは君だ!学校の成績も悪かったが、ここまで一般常識がないとは!!』

真澄がこれから彼女に教えようとしている事が一般常識なのかどうかは不明であるが・・・。


「・・・後でゆっくり事情は説明するよ・・・」

真澄がそう言ったとき、エレベーターは最上階へと到着し、2人は部屋に向かった。





カチャン・・・・

カードでドアが開かれると、真澄はマヤを促すようにして中へ招き入れた。

『よしっ!!!!』

とりあえずは作戦成功だ。


「わあああ!!すごい!!すごいキレイなお部屋!広い!!!!」

マヤは興奮しながら子猫のように駆け回っていた。

「わあ!夜景もすっごい素敵♪」

マヤがカーテンを開けて うっとりとガラス越しの夜景を眺めていると、真澄は背後からそっと近づき、彼女を抱きすくめた。


「この夜景は今夜、すべて君のものだよ・・・」

お決まりのような くっさいセリフを吐いてみる真澄。

「ええ?でも、他にも見ている人、たくさんいると思うけど・・・」

「う・・・・」

本当にロマンチックの欠片もありゃしないマヤの発言。


それでも真澄は懲りずにマヤの背後から口説き落とす。


「この美しい夜景も君の美しさには負けてしまうだろう・・・・」

「こんな美しい女神様を独り占めしている俺は世界一幸福な男に違いない・・・」


・・・マヤは、なんとも恥ずかしそうにその言葉を聞いていた。

「速水さん・・・なんか台本読んでるみたいなセリフですね・・・嬉しいけど・・・」


『ハッ・・・しまった・・・!俺としたことが、棒読みのようにセリフを吐いてしまうとは!!』

実際、このセリフは何十回も社長室で復唱して覚えたものなのだが。

「あ、ベットもすごく大きいのね〜!!ちょうど2個あるし。 あ、もしかして、あたしも泊まっていいんですか?」



『だ〜か〜〜ら〜〜そのつもりなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

真澄は声を大にして言いたいセリフを呑みこみ、大きく息をついた。


しかも『ベットがちょうど2個ある』なんてセリフ・・・・まさか、本当に別々で睡眠するつもりではないだろうか・・・。


「とりあえず・・・シャワーでも使ってきたらどうかな・・・」

マヤが一通り 部屋の中の探検を終えたようなので、真澄はそう声をかけた。

「え?あ・・・そうですね。じゃ、入ってきま〜す♪」

「・・・・・・」

どうやら、マヤは本当にまだ何も分かっていないらしい・・・。

真澄は気を落ち着かせる為にタバコを取り出し、夜景を眺めながら、先のことを考えてニヤニヤとしてしまった。

不安な課題は山積みであるが、とりあえずは作戦成功と言える・・・。

『おっと!今のうちに・・・・』

真澄はベッドルームへと足を運び、枕の下に大切なモノをコッソリと隠した。

『これは男の責任だからな・・・・』

意外にも律儀な真澄。 昨日、こっそりと人気のない道路の自動販売機で購入しておいたのだ。



ウロウロと落ち着かない自分をどうにか沈め、何度か溜息をついていると、ようやくマヤがシャワールームから出てきた。


「速水さん・・・お先に・・・」

「ああ・・・」


ゆっくりと彼女の方に視線を向けると、ゴクリと息を呑むほどの姿が目に入った。

白いバスローブに身を包み、洗いたての髪が濡れているマヤ。・・・そしてほのかに赤くなった肌の色は何とも色気がある。

「速水さんシャワーしてきたらどうですか?」

彼女が通り過ぎると、爽やかなシャンプーの香りが広がり、真澄の興奮を一気に高めさせた。

「ああ・・・」

もうすでにテンパッている状態だった。

『落ち着け落ち着け落ち着け〜〜〜!!!まだ先は長いんだ。先が短いと困るんだ・・・』

パニック寸前の真澄の思考回路。

11歳も年下の、世間知らずの純情な彼女を前にして、本当に自分は何をこんなに焦っているのであろう・・・。


ベットに腰掛けたマヤは、足をブラブラとさせながら楽しそうにしていた。

真澄はそんな彼女を名残惜しそうに見つめながら、シャワールームへと急いだ。






心地よい温かさが体中に広がっていく。

すぐにでも切り上げてベットに直行したい気持ちがあったものの、あまり焦っているようにするのはカッコ悪い。

なので、ちょっと念入りに体と頭を洗い、心を落ち着かせていく。

ところが、スッポンとウナギの効能なのか・・・・体中の興奮がおさまらない・・・。


「よしっ・・・・・!!!いよいよだぞおおお!!」



真澄は気合をいれ、バスローブの紐をギュッと縛ると、シャワールームを後にした。


「マヤ・・・・」

真澄が声をかけたものの、マヤからの返事はなかった。

『まさか寝ているんじゃないだろうな・・・・・・』

嫌な予感がしたが・・・・・・・違った。 マヤは、テレビ画面に釘付けになっているのだ。

ちょうど2時間ほどの映画が始まったばかりらしい・・・。


「おい・・マヤ! 映画なんていつでもいいじゃないか・・・・こっちへおいで。」

「・・・・・」

真澄が声をかけても、マヤには全く耳に入っていないようだった。

『なんだよおお・・・・・マヤのやつ・・・・』

彼女がドラマや映画の世界に入ってしまうと、何をしても無駄であることはとっくに分かっていた。

『こうなったら・・・・強行突破だ・・・・』

真澄は背後から近づき、プチッと電源をオフにする。


「速水さん!!いつからそこに!? ・・・なんで消しちゃうんですか?見てたのに・・・」

「こんな映画、いつでも見れるじゃないか・・・」

「あたし・・・ずっと見たくて楽しみにしてた映画なのに!速水さんのバカ!!」


マヤはリモコンをひったくると、再び電源を入れた。

「あたしの気も知らないで!!!」


「なっ・・・・!!」

真澄が真剣に反論しようとしていたにも関わらず、マヤは再び映画の世界に入ってしまった・・・・。


『やばい・・・ケンカになってしまいそうな雰囲気だ・・・ここはひとつ、映画が終わるまで待っていたほうがいいかもしれない。』

真澄は諦めてそう思ったとき、ふとマヤが飲みかけているジュースに気が付いた。

・・・・桜小路が手渡したジュースだ!!!!!!!!

「おい!マヤ!なんだ?このジュースは!!」

「・・・・・・・」

「マヤ!聞いてるのか?」


「もう・・・真剣に見てるのに・・・・。ジュース・・?稽古中に飲まなかったから、今飲んでいたんですよ。」

ぶっきらぼうなマヤの返事だった。


「ジュースなら冷蔵庫にあるだろう?なんでわざわざこれを飲むんだ・・・・君って子は・・・」


「速水さん!!ちょっと静かにしてください!!!」


「なっ・・・・・・・・!!!」

真澄は呆然としながらマヤの背中を見つめていた。


これ以上ちょっかいを出したら、確実に嫌われてしまうかもしれない・・・。




真澄は、マヤにとって自分は演劇やら映画以下でしなかいように思えて泣きたくなってきた。

きっと今も、どっぷりと映画の世界に入り込み、誰と一緒にどこにいるのかも忘れてしまっているのだろう・・・。


『ちぇっ・・・・なんだよ・・・なんだよ・・・マヤなんて・・・。俺がどんなに今日の夜を楽しみにしていたことか・・・。君は全然

分かってない・・・』 



ふと、暇を持て余してチャンネルガイドを見ると・・・・マヤの見ている番組は『映画専用チャンネル』であり、朝までエンドレスで

映画が放映されていることに気付いてしまい、そのままフリーズした・・・。

『じょ・・・冗談じゃない・・・このまま映画を見て朝を迎えるのか・・・・?嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ〜〜〜!!!


真澄の気持ちにも気付かず、マヤは食い入るように画面に釘付けのままだった。 スッポンの効果は、マヤには映画を集中

してみるパワーへと使われてしまったらしい。



『もうごめんだ・・・・俺は・・・俺はヒースクリフじゃない!ヒースクリフじゃないんだよおおお!!!!』

と、またまた少し言ってみたかったセリフを胸にした真澄・・・。



『もしかして・・・シャワーでフェロモン香水の効果が落ちてしまったのだろうか・・・・』




ちょうどテレビ画面から流れてきた悲しい曲が、真澄の心情を表していて、より一層悲しさを物語っていた・・・。


真澄の苦悩は果てしなく続くのだった。








 

*このお話はとりあえずこれで完結です。本当の完結は地下にあったり・・・( ̄ー ̄)ニヤリッ

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