ラブラブ★大作戦 〜前編〜
『今夜こそ!今夜こそ!今夜こそ〜〜〜〜〜!!!!!』 真澄は鼻息を荒くしながら、大都芸能の社長室で震えるほど気合を入れて拳を握り締めた。
お互いに忙しい立場であり、時間をやりくりしながらデートをする日々が続いている。 紫織との婚約解消を終え、ただでさえ多忙な仕事量も倍に増えてしまった真澄。 ようやく世間に公認してもらえる恋人同士に なったものの、マヤは紅天女の公演で忙しく、2人が揃ってオフになる事も稀にしかない。 そして、そんな貴重な休日もマヤを喜ばせる為に柄にもなく遊園地に行ってみたり、食べ放題のレストランに付き合ったりして 過ごしてきた。
恋人同士が休日の前の晩に一緒に過ごすことなど、世間では常識のようなものだ。 ラッキーなことに、マヤと同居している 青木麗は、しばらく地方公演で不在らしい・・・妙な気を使う必要もないのだ。こんなチャンスを逃すことはできない!
まだマヤには言ってないが・・・今夜はそこで熱い夜を過ごしてしまおうかな、などと作戦をたててあるのだ!
それだけが不安であり、ここまでズルズルとプラトニックな関係を続けさせてしまった。
真澄はマヤの生写真を握り締め、口説くセリフをブツブツと復唱しながら熱くなっていた。
『洒落たレストランで食事→夜景を見る→口説く→ホテルへGO♪』 というシナリオがすでに出来上がっているのだ。
恥ずかしそうにするのかな? そして俺は言うんだ・・・”おはよう、マヤ・・・素敵な夜だったな”と・・・。』
「おはよう・・・水城くん・・・素敵な夜だった・・・」 まだ真昼間だと言うのに、突然意味不明なことを言い出した真澄に、水城は呆れながら言った。
「・・・う・・・すまない・・・ちょっと考え事を・・・」
それに、やたらと「最新!カップルで泊まりたいホテルベスト10!」などという情報雑誌まで山積みだ。
水城は、ミスだらけの書類の整理に追われながら溜息をついた。
嫌な予感でいっぱいの水城。
行かなければ、最悪・・・会社に来ないかもしれない・・・。
水城は心の底からそう思い、当分の間、徹夜覚悟で仕事をしなければならない状況を思って泣きたくなっていた。
『う・・・なんでマヤとデートすることを知ってるんだ???』 真澄はドキリとし、意味不明な苦笑いをしながら社長室を出た。
「ああ君、お先に!明日はオフなんだよ・・・ハハハ・・・」 「は・・・あ・・・それは・・・ごゆっくり・・・」
・・・もはや、誰にも止められないほど彼は有頂天なのだ。
『フフフ・・・この香水の効果はすごいらしぞ・・・。広告によると、モテない田中君が、学園のアイドル的存在の彼女を ゲットしたくらいなんだから・・・。効果がなければ返品可能だしな・・・。』 相変わらず、彼はちょっぴりセコかったりする。
そんな事を考えながら、ふとニヤニヤした自分の顔がフロントミラーに映り、慌ててクールな表情を作る真澄。 『いかんいかん・・・俺はいつでも冷静で心の広い男、速水真澄だ!とにかく紳士的に!冷静になるんだ!自分!!』
『俺に気付いたらどんな顔をするかな・・・フフフフフ・・・』
『ムムムム!!!!!』
「はい、マヤちゃん!」
真澄は煮えくり返るほどの嫉妬を抱えて睨みつけた。
しかもジュースまで彼女に手渡している!
・・・・そこまで思考してしまう真澄のほうが危険な存在であるが。
俺なんて・・・俺なんて・・・今日はマヤと2人でお泊りなんだからな!!・・・マヤにはまだ言ってないが・・・。』
「あ、マヤちゃん・・・速水社長が・・・」 桜小路の言葉に反応したマヤは、真澄の姿を見てパッと嬉しそうな表情になった。
・・・スキップして駆け寄りたいほどに可愛くてたまらない・・・。
「お、若旦那!見学かい?」 黒沼がヘラリとしながらやってきた。 「ええ・・・黒沼先生。調子はどうですか?」 どうでもいい質問をしながら、真澄はチラチラとマヤに目をやった。
「え・・・でも・・・」 マヤがモジモジしていると、黒沼は彼女の背中を押すようにして、言った。 「今のお前には、デートも稽古のうちなんだよ! 若旦那にもう少し色気をつけてもらえよ!」 意味深な発言により、その場にいた全員が息を呑んでいたが、マヤだけは意味を理解できないらしく、ぼんやりと立ち尽くして いた。 「さあ、黒沼先生のお許しも出たことだし、行くか。」 「あ・・・はい・・・じゃあ、着替えてきます。」 マヤは、パッと走り出して、すぐに更衣室へと消えていった。
手を付けてないのかい?」 黒沼に耳打ちされ、真澄は背筋が凍りそうになった。 「ハハハ・・・・そんな野暮なことは聞かないで下さいよ・・・・」 精一杯の返答をしながら、真澄は息を呑む。 『ヤバイ・・・何としてでも計画を実行しなければ・・・!!さすがに、もう1年になるし・・・。何もないなんて言えないぞ・・・』
「お先に失礼します・・・」 マヤがみんなに向かって挨拶すると、真澄も軽く会釈をしてその場を去ることにした。 飲まなかった缶ジュースはカバンの中へと入れられたようだ。 ・・・これは、確実に真澄の手によって処分されるであろう。
マヤにそう言われ、ドキリとする真澄。 「ああ・・・コロンかな・・・?ちょっと変えたんだ・・・」 「そうなんだぁ・・・なんとなく、桜小路君がいつもつけている香りに似ているみたい。」 「!!!!」 真澄は愕然とした。 桜小路・・・あいつもフェロモン香水でマヤを誘惑するつもりなのだ!!・・・しかし、進歩がないところを見ると、効果はないのか? それでは困る・・・。しかし、桜小路にとっては、効果があったら困る・・・。あの雑誌の体験談の田中君は一体・・・!!?
マヤの言葉でハッとした真澄は、ようやく我に返った。 桜小路の事など、どうでもよいのだ。大切なのは、今夜の2人じゃないか!
真澄がそう提案すると、マヤは嬉しそうに目を輝かせ、笑顔になった。 「うん!!・・・今日は、何を食べようかな・・・。」
真澄はクールな仮面の下に狼のような下心を隠し、そんな事を考えていた。 「あ、なんか・・・餃子とか食べたいな。中華!どうですか?レバニラ炒めとか、キムチチャーハンとか!!」 「・・・・・」 マヤのショッキングな提案に、真澄は絶句する。 『嫌だ・・・せっかくの初めての夜なのに、そんなニンニク臭い息を絡ませるなんて!!!』 「いやはは・・・中華か・・・今日はちょっとなあ・・・」 「あれ?速水さん、胃の具合でも悪いんですか・・・?じゃあ・・・お寿司とかは?速水さんとお寿司屋さんに行ったこと、ないような 気がするわ・・・ダメ?」 「・・・・・・」
見れるレストランがいい・・・・』 真澄が言葉を濁していると、マヤはガッカリと肩を落とした。
マヤの気分を害してしまったようなので、真澄は慌てて取り繕う。 「いや・・・寿司でもいいぞ! 美味しい店を知っているから、そこへ行こう。」 「ホントですか?わーい!」 マヤの機嫌がなおり、ホッとする真澄。何があっても、今日はケンカなどするわけにはいかないのだ・・・。
かけ離れていく。 「あたし、こういうカウンターの席で、ガラスケースのネタとか見たり、お寿司を握るところを見たかったの!」 「ハハハ・・・そうか・・・」 ・・・マヤにそんな事を言われたら、カウンターに座るしかない・・・
『まあいい・・・オッサンが寿司を握る姿も、マヤとの熱い夜を迎えるための大切なステップなのだ!!』 意味不明だが、前向きな思考の真澄。
マヤは、一口食べるごとに、目を輝かせながらそう言っていた。 それはそうであろう・・・マヤは、普段から「回転寿司」ですら贅沢だと思っているくらいなのだから。 それでも、彼女が頼むものは『かっぱ巻き』だったり、『タマゴ』であるのが、いかにも彼女らしくて可愛いのだ。 「大トロはどうだ?ウニもイクラも旨いぞ。」 真澄がそう勧めると、マヤは目を大きくしてボソボソと呟いた。 「い・・・いいですよお・・・。だって、なんか・・・すっごく高そうだし・・・。一口食べるだけでも緊張しそう・・・・」 なんという控えめなセリフだろう・・・。マヤの為なら、この寿司屋とオッサンを買い取ってもいいと思えるほどなのに。
「さあ、遠慮しないでたくさん食べてくれ。君の笑顔が俺にとっては最高のご馳走だよ・・・」 「はい・・・じゃあ、遠慮なく」 『フフフ・・・ご馳走を食べるマヤが俺の最高のご馳走になるんだよ・・・』 真澄はそう思いながら、今度は自分の為にウナギの寿司と、スッポンの特製スープを注文した。 『フフフ・・・今夜は体力が勝負だからな・・・。』
「・・・飲むか?・・・・」 マヤは、おいしそうにスッポンのスープを飲み始めた。 『もしかして、マヤも案外、その気なんだろうか・・・? 今夜は眠れないほどに熱い夜になるのかもしれない・・・』 顔がニヤけてしまって仕方がない。 真澄は追加でスープを注文し、バクバクとウナギの寿司を頬張った。
マヤがちょっとドキリとするようなセリフを口にしたので、真澄は真面目な顔つきになる。
マヤに声をかけられ、真澄はようやく言葉を出すことにした・・・。 |
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