未来への扉

〜ふわふわ+Y●K●(イラスト)〜




――あなたは、その健やかなる時も、病める時もこれを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、

その命の限り、尽くすことを誓いますか――


「・・・はい、誓います」


「・・・はい、誓います・・・・」





凍りつきそうなほど静寂なチャペルの中。

パイプオルガンが心地よく響き渡り、緊張感と共に流れていく。



まるで夢を見ているような、別の自分が誰かに動かされているような、不思議な感覚が止まらない。

それでも、あたしは自分の指に・・・・そして彼の指にも揃いのリングが光り輝いているのを確認し、

実感していた・・・

・・・・・二人は永遠の愛を誓い、夫婦になることを認められたのだ、と。





もう、ずいぶん前から今日という日が来るのが不安で、怖くて・・・。

どれほど眠れない夜を過ごしてきたことだろう。


大都芸能社長の速水真澄の妻となること、そして・・・日本中の注目を集めるほどの披露宴が執り行わ

れるということ。 

なにもかもが現実離れしすぎていて・・・。

今だって、こんなに綺麗に着飾っている自分が誰なのか分からなくなりそうな気がするほど・・・。


そう・・・まるで魔法使いのお婆さんに美しく変身させてもらったシンデレラみたいで・・・。


・・・0時を過ぎたら美しいドレスも馬車も、全部が元通りになってしまう、シンデレラ。

もしも彼女が舞踏会に行けなかったら・・・王子様は誰と結ばれていたのだろう・・・。

素敵な王子様に見初められた彼女は幸せそうに見えるけど・・・それでも、世間知らずの貧しい娘を

選んだ王子様は本当に幸せだったのかしら・・・。



童話のラストはちゃんとハッピーエンドなのに、あたしはいつもそんな事を考えていた。

(この魔法は解けてしまったらどうなるの・・・・・)

幼い頃から抱えていたコンプレックスのせいか、あたしはいつでも自信がない・・・。





目の前にある赤い絨毯は、まだずっと先まで続いている。

あたしはドキドキと胸を躍らせながら、牧師に背を向けた。

そして、彼の腕にしっかりと掴まり、歩幅を合わす。



先ほどまでの、足が絡まってしまいそうな緊張感も、一通りの儀式が終わったせいか、少しだけ

解きほぐされていく。





身内の少ないあたしに配慮して、このチャペルの中は、ごく一部の関係者しかいなかった。



それでも、あの突き当りのドアを抜けたら、みんなが待っている。








(わあっ・・・・きれい・・・)


重々しいドアが開かれると、あたしは思わず手をかざしそうになった。


真っ青な空から太陽のまぶしい光が二人を包み込んだのだ。



「行こう・・・」

彼に促されながら、あたし達は色とりどりの花でできたアーチを静かに潜り抜けた。



長い階段のサイドから、ワッと歓声があがり、小さな紫色のバラをかたどったフラワーシャワーが

惜しみなく降り注がれていく。


「おめでとう・・・」

「幸せに!!」

拍手に混じって聞こえてくる祝福の言葉たち。

見覚えのある仲間の顔や呼びかけに、ようやく、あたしの口元は緩み始める。




リンゴーン・・・リンゴーン・・・・

鳴り響く祝福の鐘。

それはまるで・・・・魔法が解ける瞬間の0時を告げる音のよう・・・。


あたしは急に不安になり、そっと彼の顔を見上げていた。


(速水さん・・・・)

(大丈夫だ・・・)


言葉はなくとも、目線だけで通じたかのように思う。

・・・彼のやさしい瞳は、あたしの不安をすべて拭いとってくれる・・・。



この現実を確かめるように、あたしはギュッと彼の腕を掴んでいた。





「おめでとう!マヤ!幸せになるんだよ!」

歓声に混じり、ひときわ大きな声が耳につき、あたしは思わずその声の主を探した。


(・・・麗・・・・)


もう何年も、ずっとそばで見守ってくれていた仲間達。

その中でも、麗は特別な存在だった・・・・。


(今までずっと、ありがとう。幸せになるよ。今までも麗が一緒にいてくれて幸せだったよ・・・)

そんな想いを抱えながらも、今は視線を投げかけるしかできない。 


麗は、”いいからちゃんと前を向いてっ”とでも言いたそうな顔をして、あたしの足元を指差しながら、

口をパクパクと動かしている。


(いつも心配ばっかりかけてるね・・・でも、今日からは・・・・)


視界がぼやけてしまって、何も見えなくなりそうだった。 

一度泣いてしまったらボロボロになると思い、あたしは唇をギュッと噛み締めて我慢した・・・。






まだまだ続くと思っていた階段は、祝福の嵐にまみれてすぐに過ぎ去り、とうとう、最後の段を踏み

しめる。

そして、静かに平面に着地した時・・・ふいに彼が組んでいた腕を解放させ、あたしの肩を強く抱き寄せ

た。


(速水さん・・・?)


あたしは彼の顔をそっと見上げる。


「夢じゃない・・な・・・・」


「え・・・?」


「現実なんだって・・・確かめてみたかったんだ・・・」


「・・・・・・・」


(あたしがさっき、速水さんの腕を強く掴んだように、同じ事をしていたの・・・?)


少し意外だったけれど・・・不思議な温かさが胸に流れ込んでいった。





「さあ・・・」

彼が、満面の笑みを浮かべながら、あたしを促す。


・・・すぐ先には、多くの報道陣たちが待ち構えているのだ。




眩いフラッシュの光とシャッターを切る音が、ぼんやりしていた あたしの視界にも入ってくる。



「おめでとうございます!式を挙げられたばかりのお二人が今、こちらに向かっています!」

マイクを持ったレポーターの声に、あたしの中でまた緊張感が走る。



「どうしよ・・・・」

「大丈夫だ・・・俺だって何も言うことなんて考えてない。ただ、”世界一幸せだ”ってそう言ってやる

つもりだ」


(でも・・・・・)


「マヤちゃん!おめでとうございます!今の気分はいかがですか?お幸せですか?」

あたしはドキドキしながら言葉を探し始める。

手に抱えている紫の薔薇、そして、たくさん降り注がれたフラワーシャワーがキラキラとこぼれ落ちて

いく・・・。


「えっと・・・あの・・幸せです・・・!世界で一番幸せです・・・・」

(あ、これって速水さんが言うつもりの言葉だっけ・・・)


しまった、と思った時は、遅かった。

「俺のセリフを横取りしたな・・・」

彼が耳元で小さく囁いた・・・。

(ごめんね、速水さん・・・)




本当は、あたしは幸せになりたいんじゃなくて、この人を幸せにしてあげたいって思う。

そっちの気持ちのほうが大きかったりする・・・。

(だから、今あたしが幸せだと思うよりも、速水さんのほうが幸せだと思って欲しい・・・)

そう言えばよかった・・・。


でも、あたしがそんなことを考えているとき、隣にいる彼が、

「じゃあ、僕は世界で2番目に幸せです。彼女が世界で一番幸せなら、それが何よりも嬉しいです」

とレポーターに答えたので、あたしは本当にびっくりした・・・。


まるで心を見透かされているみたいで・・・。





と、その時、突然、近くの噴水の周りにいた白いハトたちが大空へ向かって飛び立つ姿が視界に入っ

てきた。


バサバサバサッ・・・・


思わず、そこにいる全員が目を奪われてしまう・・・。




(眩しい・・・)


見上げると、そこには、どこまでもどこまでも続く青い空。


(きれい・・・)


さっきドアを開いた時も同じ事を思ったはずなのに・・・。

知らないうちに、目が慣れてしまっていたのだろうか・・・。



(・・・幸せも同じようなものかな・・・)

・・・あたしは、ふいにそんなことを思いついていた。



きっと、当たり前にように幸せでいたら、その幸せにも気付かなくなってしまう。


(だから時々、こうやって眩しい空を見上げるようにして、お互いの存在を確認していくことが大事なんだ

よね・・)





この広い世界で出会った人の数は、きっと僅かに違いないけど・・・

・・・あたしには分かったことがある。


”速水さんと出逢うために、あたしは生まれ、存在している”ってこと。


だからこれからも、どんな時でもあなたを信じて生きていきたい・・・。






あたしは澄んだ空気を吸い込むようにして、小さな深呼吸をひとつ、した。



(今日の日を・・・ずっとずっと、永遠に忘れないでいたい・・・)


自分以上に彼を思う気持ちを・・・。






春の風が、ふわりとベールを揺らしていた。


鳴り響く鐘の音が止んでも、あたしはもう、怖くない。








今日から、あたしは彼と共に歩き、未来を作っていく・・・。









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あとがき

うきゃーーーー!せっかくの素敵なイラストに、駄文をくっつけてしまって・・・・(滝汗)

今回、このイラストを穴があくほど見つめ、どんなシチュなのか悩みに悩んだ末、こんな

感じにしてしまいましたーー。 例えばほら、披露宴の途中のお披露目シーンでも

いいかなあ、なんて思ったり、もしくは挙式前、それとも披露宴もすべて終わってから?でも

いいし・・・なんて。。。(ウジウジ)  最近、あんまり芸能人の派手婚もテレビで見れないし、

どれくらいのタイミングでこういうお披露目なんてするのか分からなくて、ものすごく

勝手なワタシの脳内挙式になっちまった(爆)  Y●K●さん、ごめんっ! でも、素敵な

イラスト、本当に嬉しく思います!ありがとっ!!!



さあ、この後、マヤはブーケを投げたりするんでしょうかねえ? 紫織とか舞ちゃんが

ものすごい形相で狙っていて大バトル!なーんて話もいいですね(よくないっ!!)

ああ、バカな発想をしたワタシのバカッ!!

失礼致しました・・・

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