〜written
by こぶた座〜
街並も赤や緑のお決まりのイルミネーションでまばゆく飾られている。12月に入りクリスマス商戦に 踊らされた人々の熱気で街は一層活気づく。
解らないんだから」
もこれ以上調整できないし、本屋でCD付きのテキスト買うしかないわね」
ちょうど水城に用事があり秘書室へ入ってきた真澄がマヤの姿を見つけて自然に顔が緩む。それを 無理に戻すと、 「おや、誰かと思えば豆台風の襲来かな? 今日は君のアポは無かったはずだが」
全然関係ない事だから。それじゃ、水城さんどんなのがいいか書き出してくれますか」 マヤが真澄を無視して水城と話を続ける。
水城はそうっと真澄の方を振り返った。・・ビンゴ! そこには明らかに不愉快と大文字で顔に書いた男が不機嫌オーラを纏わせて立っていた。
されてますでしょ」 努めて冷静に水城が話し掛ける。
脚本家に圧力をかけて一月はかかるだろうと噂されていたシーンを10日程度の撮りで済むように差し 替えさせたのは誰あろう真澄本人だった。
真澄の言い方に今回の差し替えの件も知っている水城が、 (そんなロケが実現するならお目にかかりたいものだわ) と心の中で呟いていた。
高校時代のマヤの英語の成績を思い出して真澄がイジワルそうに言う。
買えばいいのか教えてください」
だわ、これから一緒に本屋へ行きましょうか」 その口を挟むように真澄が、 「水城君、君これから人と会う約束だったんじゃないか?」
(あ〜あ、これで今日も残業決定だわ) と、サングラスの奥の瞳が一つ貸しですわよとばかりに乾いた笑顔を真澄に向け、単調な返事をした。
あげられなくて。誰か英語の良く解る人がいればいいんだけど・・」
「それなら俺が一緒に行ってやろう。 ちょうど目を通しておこうと思っていた季刊誌が発売されたか らな」
では通訳無しで交渉するんだぞ」
ないし。そんなにベラベラだなんて思わなかった。ちょっと尊敬だなあ・・」
何気ない一言が嬉しくてついついマヤに向けてしまった笑顔で、 「よし、それじゃあ早速出掛けるとしようか」 水城の視線は痛かったが、マヤと一緒に買い物に出掛けられる嬉しさから足取りは軽やかだった。
さも驚いた顔をしてマヤが真澄を見た。
どんな移動も最短の時間を心掛ける真澄だったが、マヤとのデートともよべるこの思いがけない買 い物では惜しみなく時間を使うつもりでいた。
なんてありえません!」
スキーもやった事ないし、あっ、若者はスノボーでしたね。速水さんはスキーとかやった事あります か?」
遊ぶつもりでいるのか、一体幾つになったんだ」 考えまいとしても自分と一緒にお揃いのウェアでスキーをするマヤや、雪の中で遊ぶ姿を想像して 自然と口元が緩む真澄の顔をマヤが見つけて、 「ヤダ、速水さん何思い出し笑いしてるの?もう、オジサンみたいでやだなあ。・・・それに私とは11 歳差なんだから私の歳もわかるでしょ。あっ、ダメダメ今は12歳差でした」
ですね」
(ちびちゃん、ナイスタイミングだ) とばかりに真澄が、 「そんな寒い仕度でいるからだ。全く健康管理もできてないじゃないか」 と言いながらマヤの手を掴んで自分のコートのポケットに入れた。 目を白黒させて驚いたマヤだったが、マヤの次の行動に真澄の方が驚かされて鼓動が高鳴った。
ポケットの中でマヤは意味も解らず真澄の手をいわゆる恋人つなぎにして握り返したのだ。
無邪気に笑いかけるマヤをできればこのままどこかへ連れ去ってしまいたいと真澄の煩悩が囁いて いた。
繋いだ手の事ばかり気にして歩いていたマヤが、ようやく道が違うことに気付いた。
真澄が連れて行ったのは百貨店にあるD&Gだった。繋いだ手は離しがたかったが一瞬力を込めて それからポケットから手を抜いた。
オフホワイトの品に決めた。
真澄は店員と少し話していたようだったが戻ってくるとマヤが不恰好に巻いたそれを首から取り上げ ると、 「店員が泣くぞ」 と笑いながら言い、マヤの首に綺麗に巻いて結んであげた。後ろの店員たちも一様にウンウンと頷 いた。
うぞ」
なんて柄じゃ全然ないし、ねえ?」
真澄は心の中で、 (違う違う、俺を心から笑わせて楽しませてくれるのはマヤだけだよ) などと思っていた。
真澄がマヤに差し出したのはテナント協賛のクリスマスプレゼントの福引だった。
有無を言わさず真澄の腕を引っ張って福引会場へ向かうマヤ、(なんでこの速水真澄ともあろう者が 福引なんて・・)と思ったが、マヤのウキウキした顔を見て仕方なく諦めた。
事券、二等がクリスマスパーティセット引換券で三等がクリスマスケーキ引換券、四等がワインか・・ 4回できるから2回ずつですよ、速水さん。特等以外だったらなんでもいいですからね」 マヤにしたら特等よりもお腹に入る物の方が魅力なのだ。真澄の方は、特等が当たったらどうすれ ばいいんだと邪な考えが脳を支配していた。
ハンドルを回し一回転、二回転 『カラン』 出たのは白玉だった。係のお姉さんがすかさず 「あ〜っ、残念でした」 と甲高い声を発する。続いてもう一回、 「こんどこそ、ケーキケーキケーキ・・・」 呪文のように唱えながらハンドルを回す。 『カラン』 出たのは青玉だった。お姉さんが 「おめでとうございます。4等で〜す。ハーフサイズの紅白のワインです」 ケーキが出なかったのは残念だったが、それでもマヤがうれしそうに可愛くラッピングしてリボンの かかったワインセットを受け取った。
チビちゃんがやればいいだろうと回すのを拒んだが、手を引っ張ってハンドルを握らされた。
お姉さんのひときわ大きい声に早くこの場を去りたいとグルンと力強くハンドルを回した。 『カラン』 出てきたのは黄玉だった。
お姉さんが興奮して鐘をガランガラン鳴らした。買い物客の好奇の視線でますますこの場に居た堪れ なくなってしまった真澄だった。 最後はマヤが回したが結局はずれだった。 二人はようやく百貨店を後にした。
かもしれないのに」
なクラスを迷わず贈ってやるんだが、こればっかりは無理のようだ。それに食事券はあげるよ、誰 か好きな人と行くといい」 軽口を言いながら最初からあげるつもりの食事券マヤに渡す。
マヤがじゃれて真澄の腕に抱きついた。その行動に嬉しいはずなのに誰と食事に行くんだろうと 考えるとチクチクとした胸の痛みを感じた。
喜ばれてると思うのは気のせいだろうか?」 「ああ、はいはい色気ね。でも美味しい物は大好きですから。それにマフラーはすごく嬉しいです。 大事に使いますから本当にありがとうございます」 真澄に極上の笑顔を向ける。 (そんな笑顔を見れるなら何だって贈ってやるさ) 本気でデパートにリボンをかけてプレゼントしそうな社長の姿があった。
に対して相変わらず説教じみた事を言う真澄。
だからな。少しずつやっていけば必ず上達するから諦めちゃだめだ」
て私がさも三日坊主で終わるような言い方して、ホント失礼ですよ」
マヤが一気にシュンとなってしまった。
背中をポンッと叩いてマヤの手を掴んだ。途端に元気になったマヤが、 「ねぇ、速水さんの奢り?奢り?」 無邪気な笑顔を向ける。
店員がトレーに載せてケーキを勧めにやってきた。マヤは店に入ってきたときからショーケースにあ ったケーキが気になっていた。店員に小声で聞くと、かしこまりましたと下がっていった。
だって。お店入った時から気になっちゃって、期間限定だし、このデコレーションなんてホントにかわ いい。こんなの二人で食べたら思いっきり盛り上がっちゃうよね」
ハートの形をしたそれにマヤはフォークを入れた。真澄はそれを見て愉快そうに笑った。
幸せそうに食べるマヤの姿に真澄が見入っていると、
フォークの上に掬い上げたケーキを乗せてマヤが差し出してきた。真澄が慌ててマヤを見やると
ですよ。はい、あ〜ん」 真澄がその仕草に無意識に乗り出して口を開けるとマヤも一緒に口を開けている。もう口の中の ケーキがどんな味がするのかわかるはずも無い。目の前にいながらたった今見せたマヤの無防備 な顔が脳裏から離れない。 何の返事もせず無言になっていると、
またまたケーキを乗せて差し出してくる。体が条件反射のように同じ行動を繰り返す。『あ〜ん』と 言っているマヤの顔を見ながら(俺はもうヤバイかもしれない・・・)と、感情の昂ぶりを理性を総動員 して必死に押さえ込んだ真澄がいた。
聞こえないように小声で呟いた声にマヤが素早く反応する。
なように甘さ控えめって感じしたのにな・・」 口を結んで首を傾げるマヤを見て、慌てて
照れ隠しに店員を呼んでコーヒーの追加をする。 運ばれてきたコーヒーと共に店員が2枚のクリスマス用のメッセージカードを差し出してきた。さっき のケーキを買うと付いてくる物だという。
そんなやり取りありえないでしょ。【ずっと私だけのサンタでいてね】 とか 【朝まで君と一緒にいたい】 とか 【来年のクリスマスも君を予約だ】 とか 【プレゼントは私・・気に入ってくれるかな】 なんてのが 普通ですよ」 真澄のボケっぷりにマヤが勢いで答えていたが喋っていて気恥ずかしくなってしまった。
そう言うとマヤに一枚カードを渡した。
おどけたようにマヤが言った。
からかうようなマヤの言葉に思わず笑い出してしまった。
かもしれないな」 二人は同じように小さなカードに真剣にペンを走らせていた。
自分の書いた内容は知られたくはなかった。
よかったら俺が贈ってやろうか。さあ、そのカードを見せてみなさい」 いつのまにか真澄の言い方は相手に有無を言わせぬ大都の社長のものだった。
プンとふくれてマヤがすっかり機嫌を悪くしてしまった。
でも絶対に無理なんですよ」
素直に詫びる真澄に解ればよろしいとばかりにマヤが大きく頷いた。
通してやるさと相変わらす邪な考えを巡らす真澄だった。
秘書室へ戻ってきたマヤが水城に声をかける。
真澄の顔と秘書室の時計を交互に見ながら、まあこの程度の時間なら許容範囲ですわよとばかり の視線を真澄に送る。ついでに嫌味も忘れない。
顔も見ずに答える真澄に白々しい言い訳ですこととばかりに肩をすぼめる水城だった。
坊主で終わらせないから安心してくださいね。それより今日、とっても楽しかったんですよ、あれって 世間的にはデートっていうのと同じなんだろうなあ、ねえ速水さん」
これで仕事の方はしばらく順調だわと計算する秘書の姿があった。
マヤが取り出したのは福引で当たったワインセットだった。 当然ワイン好きの水城が断るはずもなく 「マヤちゃんありがとう、遠慮なくいただくわね」 と、それを受け取ると自分のデスクに置いた。
が挟まってまして・・私宛かと思い読んでしまったんですけど、社長からマヤちゃんに返しておいて もらえますか」
からの行動をいろいろ考えたりもした。
家を出る。
自販機で買ったミルクティーで暖をとりながら公園のブランコに座りため息をついた。座ったまま前後 に揺らすとキイキイと金属音が寂しげに寒空に響いた。
自分に言い聞かせるようにボソッと呟いた言葉に背後から応える声があった。
どうしても振り返る事が出来ずにキイキイとブランコをゆらし続けていると声の主がマヤの前に回って きた。
真澄の顔を見上げながら聞くと、マヤと視線を合わせるようにしゃがみ込み優しい瞳を向ける。
そう言うと不恰好なマヤのマフラーをふわりと巻き直し、隣りのブランコに座った。
マヤの方に向けてカードを見せる。それを確認すると、
焦って真澄の手からそれを取り上げようとするマヤだが、立ち上がって腕を伸ばされてしまってはもう どうやっても届くはずはなかった。
必死になって詰め寄るマヤの姿があまりにも愛らしく、思わず片手で頬を包み瞳を覗き込んでしまっ た。
んだが、いいだろうか」 マヤの前に同意を求めるようにカードを差し出した。
「・・ズルイ・・見ちゃって。せっかくサンタさんにお願いしたのに」 口を尖らせてあきらかに不満そうな顔を真澄に向けるマヤ。
真澄がポケットから自分の書いたカードを取り出しマヤに手渡す。
ゼントはどうやら君が贈ってくれるらしいからな」
そう言うと真澄の頬に素早くキスをした。大胆な行動に驚いた真澄だったが咄嗟にマヤの手首を掴む とその体を覆い尽くすように抱き締めた。
マヤの言葉を促すように優しく聞いた。
気持ちを伝える事が怖くて出来なかった。でももう迷わない、俺の手でマヤを誰よりも幸せにする。 愛してる、俺にはマヤが必要なんだ」 堪えきれなくなった涙がマヤの瞳から溢れ頬を濡らす。真澄は親指で優しく撫でるようにそれを拭う と両手で冷たくなったマヤの頬を包み込み啄ばむような愛しいキスを降らせていった。 真澄は降り出した雪の中を嬉しそうにはしゃぐマヤの姿を眼で追いながらこの上なく幸せな笑顔を 向けていた。それに気付いたマヤが駆け寄ってくる。
過してくれるんだったな」
無邪気な笑顔を浮かべ真澄をドキリとさせる。
驚いて口篭りながら聞くマヤに、 「48時間は俺と一緒にずっといるって事だろ」 イタズラっ子のように笑ってマヤの顔を覗き込んだ。
真っ赤になった顔で目を白黒させているマヤに、 「俺はもう君に対して遠慮はしないから覚悟しておくんだな」 有無を言わせぬ真澄の言葉にますます赤くなったマヤが俯いたまま消えそうな声で返事をした。
終わり |
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