思いがけないプレゼント 〜ぬくもり〜

〜written by ともとも〜










「う〜ん、、なにがいいかなぁ〜。」

白いプラスチックのプレートを前にマヤは頭をかかえていた。


彼女を悩ませているもの、、それは数日後にせまっている文化祭に出品するためのキーホルダー作り

だった。

マヤのクラスは この一ツ星学園のなかでも別名“タレントクラス”と呼ばれるほど歌手やタレントの卵が

多い。そこで、それぞれが自分の愛用品や手作りのマスコットなどを持ち寄ってバサーをすることになった

のだ。

とはいえ、学用品を買うおこづかいすらバイトをしてまかなっているマヤに 人前に出せるような愛用品など

あるはずもなく、かといって手作りの物を作るような器用さがあるわけでもない。

途方にくれているマヤに 仲のよいクラスメイトがアドバイスしてくれたのが このプラスチックプレートで作

るキーホルダーだった。

それは、薄いプラ板に油性マーカーでイラストなどを描き 適当な大きさにカットしてオーブントースターで

加熱するだけという、不器用なマヤにも手軽にできそうなスグレモノであった。


早速、なんとか安く材料を調達し さて、、、とかまえたものの、、

(う〜ん、、、どうしよう、、)

いよいよとりかかろうとした段階で すでに手は止まっていた。

イラストを描くだけだといって飛びついたが そもそも絵心なぞカケラも持ち合わせていないことに今更ながら

気づいたのだ。


マヤは、それでもなんとかウサギ(らしきもの)を描きあげて切り抜いた。

「え〜っと、それからオーブントースターで、、、、あれ?」


まったく、自分で自分が嫌になる。

オーブントースターがないことをすっかり忘れていたのだ。

ポップアップ式のトースターではいくらなんでもできるワケがない!


「やだ!うそぉ〜!どうしよう〜〜っ!!」



(あら、、あの子はたしか、、)

「ごめんなさい、ちょっと車を止めてちょうだい。」

水城はすばやく歩道におりたつと、トボトボと歩いていた少女に後ろから声をかけた。


「こんにちは。」

聞き覚えのある声に振り向くと、パンツスーツをさっそうと着こなした女性がマヤに微笑みかけていた。

「あ、、こ、こんにちは。えと、、たしか大都芸能の、、」

「速水若社長の秘書の水城です。覚えていてくれて嬉しいわ、北島マヤさん。」

「はぁ、、」

確か以前に速水のそばに付き従っている彼女を見かけたことはあったが、これといって話しをしたことも

ない。

その彼女がこんなところで自分に声をかけてくるなんて、、。

マヤは漠然とそんなことを思いながら水城を見つめていた。


「なんだか元気がないようだけど どうかしたの?」

初対面といってもいいくらいなのに、優しい言葉をかけてくれる水城に マヤは好感を抱いた。

なんだか頼りがいのあるお姉さんみたい、、。

そう思ったマヤはポツポツと話し出した。


「えぇ、まぁ、、文化祭のことでちょっと、、」

「文化祭?あぁ、そういえば一ツ星学園に通っているんだったわね。」

「はい、それで、、」

元来、人なつっこいマヤはついつい困っていた事をうちあけていた。


「まぁ、そう、、。」

マヤの話を聞いていた水城は とっさにあることを思いつき、にっこりと微笑んだ。

「うふふ、、それくらいのことならお安い御用だわ。いま、それ持っているの?」

「え、えぇ、」

「じゃぁ、一緒にいらっしゃいな。」

そういって水城はポケッとしているマヤの腕を半ば強引にひっぱると車の後部座席に二人で乗り込んだ。

「あ、あの、水城さん!いったいどこへ行くんですか?」

「安心なさい、誘拐したりしないから。」

水城は楽しそうにそういうと 運転手に車を出すように告げた。













「ここは?」

着いたところは 一見して高級そうな高層マンションだった。

「じゃぁ、ちょっと待っていてちょうだい。」

水城は運転手にそう言うと、マヤを促した。

なにやらインタフォン越しに二言三言告げるとセキュリティが解除され、中へと入っていく水城に、マヤは

訳がわからないままその後についていった。



エレベーターはぐんぐん上昇し、あっという間に目的の階に到着したようだ。

水城はさっさと降りてひとつの扉のまえに立ち止まるとチャイムを押した。


「お待たせいたしました。例の書類をお届けにあがりました。」

カチャッとロックが外れる音して、少しして中から扉が開かれた。

「あぁ、わざわざすまなかったな。おや、これはこれは、、」


(げっ、、速水真澄!!)

マヤは最悪のヤツのところに、しかも知らなかったとはいえ自分から出向いてしまったことにあからさまに

嫌悪の表情を浮かべた。

速水はといえば とつぜんのマヤの訪問に驚いたものの、いつもの少しからかうような笑みを浮かべながら

問いかけた。


「めずらしいお客さまだな。いったいどうした風の吹き回しかな?チビちゃん。」

「べっ、別にあたしはっ!!」

「ちょうどこちらにくる途中でお会いしましたのでお連れしましたの。」


(お、、お連れしましたって、水城さん、、)

マヤは 口をぱくぱくさせながら、なんとかこの場を逃れようと懸命に何か言おうとするが言葉が出ない。


「そうか。ちょうどいい、俺もちょっと息抜きしようと思っていたところだ。

これはいい気分転換ができそうだな。」

「それはよかったですわ、お邪魔にならなくて。ね、マヤさん?」

二人はそんな会話をかわしながら 当然のようにマヤを部屋の中へと招き入れた。


「あっあのですね!あたし大事な用が、、」

「そうそう!そうだったわね!真澄さま、ぜひマヤさんの力になってあげてくださいませ。」


いったいナニを言い出すのか!


「ん?なんだ、いったい。」

速水は興味深そうに水城に尋ねた。

「きゃっ!も、もういいんです!水城さん!!」

「何いってるの。期限は明後日なんでしょう?今日中にはやっちゃわないと!」

「そ、、それは、、そうですけど、、」

「なんだかわからんが、俺にできることなら、、」

「もちろん!できますとも!!」

結局、水城に言いくるめられたマヤは速水のプライベートマンションのキッチンに立つ羽目になったのだった。














「さて、まずはなにからはじめればいいんだ?」

「え、え〜っとですねぇ、、」

「あらっ、わたくしったらうっかりしてましたわ!この後も色々と仕事が詰まってたんですわ。」

「え?え?あの、水城さん、、。」

「ほんとにごめんなさいね、マヤさん。下に車も待たせたままだし。」

さもすまなそうにそういうと、水城はさっさと玄関へと向かった。


「では真澄さま、申し訳ありませんがマヤさんのこと よろしくお願いします。」

「あぁ、わかった。」

しらじらしい水城のセリフに内心苦笑しながら 速水は水城を送り出した。


(うそーっ!!なに?なんなの?この状況はっ!?)

動揺するマヤをおかしそうに見つめながら、速水は先を促す。

「ほら、チビちゃん。急がないと今日中に出来上がらないぞ。」

「わ、わかってますっ!」

この際しかたがないと腹をくくったマヤはしぶしぶ作業を進めることにした。




「すみません、アルミホイルってあります?」

「アルミホイル?あぁ、たしかこのへんの引き出しに、、。」

「あ、ども。えと、これをオーブントースターの中に敷いてっと、」

「これは、きみが描いたのか?」

速水がマヤの描いたウサギのイラストを指差しながら尋ねた。

「そうですけど?」

「ふ〜ん、なかなかかわいく描けてるじゃないか。」

「え、そうですか?」

「あぁ、ところでこれはなんの絵なんだ?」


ブッ!!


「は、速水さんっ!なにか分かんなくて褒めてんですかっ!?」

「いや、なにか動物らしいってことは分かるが、、。」

「ウサギですっ!ウ、サ、ギッ!!」

「、、、、、、あぁ、、なるほど、ウサギか。」


(まったく、このひとやっぱりあたしの事からかってるのかしら?)

マヤは心の中でブツブツ文句をいいながら 速水を軽くにらんだ。


「ほら、そんな顔してないで手を動かせ。」

「う、うるさいわねっ!わかってますっ!」


(と、とりあえず初めてだから ウサギひとつだけやってみよ。)

マヤはトースターの中に敷いたアルミホイルの上に 切り取ったウサギをちょこんと乗せるとタイマーを

まわした。

「んっと、60秒くらいね、、。」

ふたり無言でトースターの中を覗きこむ。

すると、あらあら、、みるみるうちに縮みだし、、、

「あぁーっ!ちょちょっとストップッ!!」

マヤがあわててトースターのとびらを開けたときには ウサギはほんの爪先くらいの大きさになってしまって

いた。


「あれ、、?」

「おい、“加熱すると四分の一にちぢみます。”って書いてあるぞ。」

速水は説明書をひらひらさせながら 笑いを噛み殺している。

「えっ、そうなんですか!?」

「やれやれ、、ちゃんと読んでなかったのか?」

ぐっ、、

「誰にだって失敗はありますっ!」

「クックックッ、、あぁ、そうだな。確かにここにも“必ず大人の方と遊びましょう。”と書いてある。」

そう言いながら、速水は堪えきれずに笑い出した。

ううぅ、く、くやしーっ!!

「いいんですっ!今のは練習なんだからっ。これからが本番なんですっ!」

「これは失礼。」

速水は肩を揺らしながらまだ笑っている。

(ふんだ、そうやって人をバカにしてっ)

ただでさえ不器用なのに 速水にからかわれ、ますます乱れる手元と思考。

(そうよ、こんなヤツ!ムシするにかぎるわっ!)

ずうずうしくも速水のキッチンを拝借していることはこの際置いといて、、。

マヤは次のイラストは何にしようかとマーカーでちょんちょんとちいさな顎をつつきながら考える。

「いいか?チビちゃん。四分の一に縮むということはだな、作ろうと思うサイズの四倍の大きさで元の絵柄を

描かなきゃいけないということだぞ。」

「わ、わかってますっ!それくらいっ!小学生じゃないんですからね!!」

「いや、小学生にだってこんなことはわざわざ言わないがな。」

(まーったく!なんて口の減らないオトコなんだろっ!!ふん!ムシムシ!!)


「なかなか面白そうだな。どれ、俺にもちょっとやらせてくれ。」

そう言って速水は ドカッとマヤの隣のチェアに座ると、さっさとプラ板とマーカーを取り込んでサラサラと

何やら描きだした。


(もうっずいずうしいんだからっ!!、、え?わぁ、、)

「こんなもんかな。」

あっというまに描きあげられたイラストは 瞳のくりっとしたかわいい子だぬきだった。

「、、カワイイ、、」

思わずマヤが囁いた。

「そうか?君のは、、ん、チビちゃんもたぬきか。」

「ど、どこがたぬきなんですかっ!?パンダですよっ!!色をみりゃわかるでしょっ!??」

「あぁ、いや、君の発想は変わってるからな。白黒のたぬきかと、、。」

クスクスッ

ムカッ

「あたしが変わってるんじゃなくって 速水さんがひねくれてるだけでしょっ!」

ムシしようと思っても いつのまにか速水にのせられて結局からかわれるはめになるマヤであった、、、。




「あ、速水さん すみませんけどパンチ貸してもらえますか?あの 紙に穴をあけるやつ。」

「パンチ?あぁ、ちょっと待ってろ。」

そう言うと速水は立ち上がり、少し奥まった部屋へとはいっていった。

おそらく書斎なのだろう、速水はすぐにパンチを片手にキッチンに戻ってきた。


「ほら、これでどうするんだ?」

「切り取ったプラ板に穴をあけておくんです。あとでチェーンを通さなきゃならないから。」

「あぁ、なるほどな。よし、じゃぁ、さっそく俺たちの作品を焼いてみるか。」

「あ、はい。」


トースターの中に 速水の子だぬきとマヤのパンダ(のつもり)を並べてタイマーオン!

くるくる、、縮まりながら丸まったかと思うとすぐに平らな状態にもどった。

「わぁっ!やったあ!今度は大成功!」

マヤは大喜びでトースターの扉をあけようとして、、

「あつっ!!」

うっかり熱くなった金具に指がふれてしまった。


「チビちゃん!」

あ、、、

速水は素早くマヤの手首をつかむとシンクの前にひっぱっていき、蛇口をひねった。


勢い良くマヤの指に冷たい水が流れる。

速水はシャツの袖口が濡れるのもかまわずに 無言でマヤの手首をつかんだままささえつづけた、、、。


ズキン,ズキン、、、

ドキン,ドキン、、、

指先の痛みがいくぶん和らいだ頃、マヤは右手首と左肩を速水に支えられていることに気づき、と同時に

急に胸の鼓動がさわがしくなるのを感じた。


「あ、あの、、」

薄いシャツ越しの胸にふれている背中から 速水のぬくもりが伝わってくる。

「どうだ?少しは痛みはとれたか?」

思いのほかやさしい声が耳元に届けられ、マヤは動揺を悟られないように前を向いたまま、ただコクコクと

うなずいた。


「やれやれ、まったく世話のやけるチビちゃんだ。」

チェアにマヤを座らせ、指に絆創膏をはってやりながら 速水はマヤの顔をのぞきこんだ。

マヤは いつも見上げている速水の顔がこんな至近距離にある事に戸惑い、そして、、少し見惚れてしま

った。

(キレイな顔してるなぁ、、)

「チビちゃん?」


ハッ!!あ、あたしったら なに考えてるの!?

「あ、ありがとうございました!もうダイジョウブですから。」

マヤは絆創膏が巻かれた指を左手で握りしめながら うわずった声あげた。

「ははは、それだけ元気があれば大丈夫だな。」

そう言うと、速水はマヤの頭をポンポンと軽く叩いた。

そう、いつもの調子で、、。


(いつも この人はあたしを子供扱いしてばかり、、。いつも、、いつも、、)

胸が締め付けられるような感覚に マヤの瞳にはいつしか涙がにじんでいた。


(あれ、、あたし どうしたんだろ?なんで涙なんかででくるの?)


「チビちゃん、、、?いったいどうしたんだ?」

突然の涙に驚きを隠し切れず 速水は足元にひざまずくと、そっとマヤの頬に手をあてた。

ドキン、、、、

自らの指先に触れた柔らかなぬくもりが甘い衝撃となって速水の胸をつらぬく。

「なんでも、、ありませ、、ん」

「チビちゃん、、」

「は、速水さんが、、、速水さんがいけないんです、、。」

(いつもはあんなにイジワルなのに、なんで今日はこんなにやさしいのよぅ、、、。なんで、、あたし、泣い

てるの、、?)


「俺は、、」

え?

「俺は、いつもきみを泣かせてばかりだな、、。」

意外な速水の言葉に マヤが顔をあげると、悲しげな瞳にでくわした。

(なぜ、このひとがこんな悲しそうな顔するの?)

マヤはなんだか自分がひどいことをしているような気分になってしまった。

「や、やだ速水さんらしくないです。何言ってるんですか。あたしも 何言ってるんだろ、ごめんなさい。」

マヤはぐいっと涙をぬぐうと なんとか笑顔をとりつくろった。


「チビちゃん、、。」

「ほらぁ、速水さんがあんまりらしくないこと言うとキモチ悪いですよぉ!そ、そりゃいつもイジメられてるのは

事実ですけど、今日のところはあたしも助かってるし!ちょっとドジっちゃって自己嫌悪に陥っただけなんです

から、速水さんは悪くないです!」

マヤはまくしたてるようにイッキにそう言うと さっさとテーブルについた。

「さっ、グズグズしてたら日が暮れちゃうわ!はやく続きやらなくっちゃ!速水さんも、もっとちゃんと手伝って

くださいね!」

「あ、あぁ、、」

ころころと態度の変わるマヤに あっけにとられながらも内心ほっとしながら速水も作業に加わった。


「う〜ん、、やっぱやりにくいなぁ。」

右手の人差し指をかばいながらの作業は ただでさえ不器用なマヤには一大事だ。

それでも速水に手伝ってもらいながら なんとか予定の数以上を仕上げることができた。


「やっとおわったぁ〜。」

「お疲れさん、よくがんばったな。じゃぁ、ちょっと早いが夕食でも食べに行くか?」

作業開始から約二時間、ちょうど小腹がすいてきたところだったマヤは、一も二もなく速水の提案に素直に

従った。











「ごちそうさまでした!、、あの、速水さん。」

イタリアンレストランで食事を済ませた後の車中で マヤはもじもじしながら話しかけた。

「ん、なんだ?」

「えと、今更なんですけど 今日速水さんおうちでお仕事してたんでしょう?

なんか、あたし すっごくおじゃましちゃったかなぁって、、、。」

「あはははっ!ほんとに今更だな。ちょっと息抜きのつもりがここまでこきつかわれるとは思わなかったよ。」

「も、もーっ!ほんとに悪かったなって思ってるのに そんなに笑うことないでしょっ!?」

「クスクス、、すまんすまん、、って結局俺が悪いのか?」

「あ、いえ、そうじゃなくって!だからほんとに今日はありがとうございましたって言おうと思ったんです!」

「いいえ、どういたしまして。またいつでもどうぞ。」

「もう二度とないと思いますけどっ。」

なぜか気恥ずかしくてプイッと横をむいてしまった。

そんなマヤを横目で感じながら 速水はいつまでも笑い続けた。


(まったくもぉ!、、あ、そうだ!)

「あの、速水さん。あの子だぬき、あたし貰ってもいいですか?」

「あぁ、べつに構わんが。」

「やったぁ!あれ、とってもかわいいんだもん。作者に似合わず!」

「プーックックッ、、よくもまぁそれだけ憎まれ口を言えるもんだな。」

「そうですか?速水さんには敵いませんけどっ!?」

「あっはっはっはっ!」

「でも、なんで子だぬきなんですか?」

「さぁ きみを見てたらうかんだんだ、豆だぬきが。」

「なっ!モ――ッ失礼しちゃうっ!!」

「あっはっはっはっ!」






「さぁ ついたぞ、チビちゃん。」

「あ はい、わざわざありがとうございました。あっ、そだ!」

マヤは ゴソゴソと鞄の中をひっかき回すと、自分が作ったパンダのキーホルダーを摘み出した。

「あの 速水さん、これ。」

「ん、なんだ?」

「今日いろいろとお世話になったお礼です。こんなもので申し訳ないんですけど、、。」

速水は照れて真っ赤になったマヤを 意外そうにしばらく見つめていたが、

「ありがとう。」

素直にそういうと手を差し出した。

「でもコレ、いちばん最初に作ったやつですから デキはイマイチなんですけど。」

「そんなことはないさ、一緒に作った記念にもらっておくよ。」

「そんなこと言って、これをあたしだと思ってイジメないでくださいね!」

「プッ!なるほど、それもいいかもな。」

「ふーんだ!そんなことしたら あたしも子だぬきをイジメてやるんだからっ。」

「ははは、大丈夫だ、大事にするよ。」

「そ、そうですか?じゃぁ、、」

マヤはそっと速水の大きな手のひらの上にキーホルダーをのせた。


「ありがとう。」

もういちど礼をいって微笑んだ速水の表情は なんだかとってもシアワセそうで、マヤはとまどってしまう。

「いえ、、どういたしまして。じゃぁ おやすみなさいっ!」

ペコンといきおいよく頭をさげ、そのまま振り向かずにアパートへとかけこんだ。


ドキン ドキン ドキン、、、

(なんか、今日の速水さんはいつもと違った気がする、、、。)

でも、それ以上に自分もなんだか変な気がしてなんとも落ち着かない。


(こんなにドキドキするのは走ってきたからだもん!速水さんなんか 関係ないもん!!)











―――翌日―――――

「おはようございます、真澄さま。」

「あぁ、おはよう。」

「あら?」

デスクに書類を置いた水城は いつもは飾り気のない速水の携帯にぶらさがった見慣れないものを

みつけ、ニッコリと微笑んだ。

水城の視線を敏感に感じ取った速水は わざと苦笑いを浮かべる。

「あぁ、きのうチビちゃんにもらったんだ。」

「まぁそうですの。とってもかわいいお誕生日プレゼントですこと。」

「え?あぁ、そういえばそうだな。」

速水は すっかり忘れていた自分の誕生日をマヤと過ごしたことに気づき、そしてあることを確認するように

ちらと水城を見やった。


「では、失礼いたします。」

そう言って社長室を立ち去る水城の横顔は こう言っているようだった。


“わたくしからのお誕生日プレゼント、気に入っていただけたようでなによりですわ。”




(なるほど、そういうことか。)



速水はいつもながら優秀すぎる我が秘書の後姿を苦笑とともに見送った。












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