楽しい温泉旅行

20万ヒットキリリク作品です



「真澄さん! 楽しみだねっ!温泉だよ〜!夜ご飯も豪華なんだよね〜?早く到着しないかな〜♪」

「相変わらず落ち着きがないな・・・あと少しだよ・・・」

真澄はハンドルを握りながらクックッと笑い、隣ではしゃぎっぱなしのマヤにチラリと視線を送ると、輝かしい彼女の笑顔に心を癒され

ていくのを感じた。



結婚して数ヶ月ほど経過したこの日・・・真澄とマヤは2人だけで温泉旅行へと向かっていた。

場所は、伊豆にある老舗の温泉旅館だ。真澄は、伊豆ならば自分の別荘でも良いのではないかと考えていたのだが・・・マヤの希望

で温泉旅館へと決定されたのだ。 マヤが喜んでさえくれれば、ディズニーランドだろうがサファリパークだろうが覚悟して行くつもりで

いた真澄ではあるが、彼女から『温泉』という、まともな答えが返って来てホッとしたのも本音ではあった。


「2人で旅行って・・・初めてよね・・・」

ふいに呟いたマヤの言葉に、真澄はドキリとする。

・・・彼らは多忙の為、新婚旅行をおあずけにした状態のまま屋敷で暮らし始め、今回ようやく2日間の休みを合わせてとることがで

きたのだ。

「ああ・・・そう言われてみればそうだな・・・」

何気ない表情で答える真澄。

本当は、彼の方こそ宙に浮きそうになるくらい、楽しみで仕方がないのだが。



・・・真澄が今回の旅行で期待していることの一つ・・・それは・・・・

『マヤと2人きりでイチャイチャとしながら貸切の露天風呂を楽しむ』

ということだ・・・・。


実は、まだ2人は一緒に風呂に入ったことがない。 それというのも、速水家には豪華な浴室がひとつ用意されているだけで、

使用人や英介の手前、鼻の下を伸ばしながらデレデレと2人で風呂に向かうなどという姿を見せるわけにいかないからである。

もちろん、夫婦で使っている寝室の隣にはシャワールームもあるのだが、それと風呂とは別問題なのだ。 

実際、結婚に伴って夫婦専用の浴室を作るという予定もあったというのに・・・真澄はついついカッコつけて『必要ない』などと言って

しまったのだ・・・。

『やっぱり俺たち専用の浴室を作っておけばよかったな・・・』

心とはうらはらな事を言ってしまった自分に激しく後悔する真澄。


彼は、せめて今日だけでもマヤと本当に2人っきりで思う存分に風呂を楽しもう、と心の底から思っていた。



「わあっ!ステキ!」

予約した部屋へと案内されるなり、キラキラと目を輝かせながら奥の間まで小走りしていってしまうマヤ。

「おいおい・・・子供じゃないんだから・・・」

真澄は呆れながらも、そんな彼女が愛しくてたまらなくなり、思わず目を細めて見守っていた。

こういう旅館に泊まる機会などめったにない彼女なのだから仕方ないであろう。


「どうぞごゆっくりさないませ。貸切露天風呂のお時間の関係もありますので、お食事は後でよろしゅうございましたね?」

案内してくれた女将にそう問われると、真澄は

「ああ、頼むよ。」

と、即答した。


この旅館では、予約がなければ露天風呂の時間は自由になっているのだが、今回は真澄が予約を入れた為、広い大展望露天

風呂を時間限定で貸切にできるのである。


「それでは、一旦失礼致します。」

女将が深々と頭を下げて部屋を後にすると、真澄は大きく深呼吸し、静かになった部屋の空気を存分に満喫した。


どこまでも広く続く畳は、日本人ならではの和みのスペースと言える。 屋敷にも和室は用意されているが、どちらかというと洋間

で過ごすことが多い日々なので、とても新鮮だ。


マヤは、まだ各部屋を探検して楽しんでいるらしいので、真澄はおもむろに大きな木目のテーブルの前で腰を下ろす。

・・・すると、ちょうどマヤが正面の窓を開け放ち、真澄の目にも窓越しに美しい海の景色が飛び込んできた。


「綺麗ね・・・・」

海風に髪をサラサラとなびかせながら、景色に見入っているマヤ。 水面はキラキラと夕日を反射させ、まるで舞台のスポットライトの

ように彼女を包み込む。 

真澄は、思わず背後から抱きすくめてしまいたい気持ちに襲われていた。

・・・しかし、そんな事をしたら、どこまで自分の欲望を抑えられるのか自信がない。


『ダメだダメだ!これから貸切の風呂、そして食事!!それが終われば時間はタップリある・・・・』


どうにかこうにか気持ちを抑えた真澄であるが、今度は隣の和室を目にしてしまい、ゴクリと息を呑んだ。


『マヤと一緒にイチャイチャと風呂に入って、ご馳走を食べ、そして畳の部屋で布団を敷いて・・・・俺が浴衣の紐をひっぱると、

マヤがグルグルとまわって・・・・・』

真澄の妄想パワーはヒートアップし、まるで”欽ちゃんの仮装大賞”の20得点を突き破るかのような勢いで急上昇だ。

・・・これから待ち受ける楽しい事を思い浮かべると、なんとも気がソワソワして落ち着かない。 彼は思わず、金持ちのくせに

貧乏ゆすりなど始めていた。


そして、そんな真澄の怪しげな妄想にも気付かず、マヤは小躍りしながら彼の元へと戻って来ると、テーブルを挟んだ向かい側に

ストンと座り込み、身を乗り出して彼に話しかけてきた。


「ああ〜楽しみ!お風呂もご飯も、そして久しぶりに畳の上のお布団♪ ワクワクしちゃうなーー♪」

体全体で嬉しさを表現するマヤ。そして、

「ハハハ・・・君はいつまでたっても大人気ないな。そんなに嬉しそうにして・・・」

と、相変わらずクールに振る舞う真澄。 ・・・自分だって貧乏ゆすりするほど楽しみで仕方ないのだが。


彼は心の中だけでニヤニヤしながら、気を紛らわす為にタバコをくわえて火をつけていた。

なんとも言えない、心地よい沈黙が流れていく。

聞こえるのは、マヤの吐息と波の音だけ・・・。


『なんだかゾクゾクするな・・・この雰囲気・・・やっぱり二人きりっていうのはいいものだな・・・』



「ねえ・・・真澄さん・・・露天風呂って混浴なんでしょ?ドキドキするね・・・」

マヤにそう言われると、真澄はハッとしながら表情を取り繕って答えた。

「そうか?・・・俺は別に・・・」

「貸切なんだよね?2人きりのお風呂なんて初めてだもん・・・。いろんな事したいナ・・・・」

「!!!!!!」

マヤの言葉に、真澄は唾を飲み込む。

『こ、これは期待通りの展開だ!!!』


真澄はどう返事を返すべきか悩み、必死で妄想をかき消そうと努力していた。


ところが、マヤが突然、ものすごく大きな音でパンッと手を叩いて叫んだので、真澄はビクリと1センチほど浮き上がった。

「あ!あたし・・・いろいろ準備もあるから先に行ってるね! 真澄さん、後から来てね!」

「!?!?」

・・・あまりに一瞬に出来事で呆気にとられて身動きが取れない真澄。

マヤは言葉を言い終えるより先に立ち上がると、猛スピードで荷物を抱えてドアへと向かってしまったのだ。


「お、おいっ!」

彼は急いでタバコをもみ消しながら叫んでいた。

しかし・・・すでにマヤは一瞬で風のように姿を消してしまっていた。 本当に豆台風のような子だ・・・・。


「なんだよォ・・・せっかく手でも繋いで一緒に風呂に向かおうと思ったのに・・・」

ブツブツと文句を言いながら、真澄はガランとした部屋でションボリと立ち尽くしていた。 


――いつもながら、ビミョーに嫌な予感もする――


しかし真澄は、ブンブンと首を横に振り、気持ちを前向きに切り替える。


『まあ、あんな風に恥ずかしがりながらも混浴を楽しみにしているなんて・・・可愛いじゃないか♪・・・フフフ・・・』


彼は大きく伸びをすると、鼻歌を歌いながら、ゆっくりと部屋を後にした。


真澄が露天風呂の入り口に到着すると、ちょうど女将が『貸切』という札をかけているところだった。

「あ、速水様。先ほど奥様が向かわれましたよ。今から貸切となりますので、どうぞごゆっくり堪能くださいませ」

「ああ、ありがとう」


入り口の手前では、番頭のような役割で仲居が配置されており、他人が侵入することもなさそうである。

真澄は踊り出しそうな心臓を抱えながら、満足気に脱衣場へと向かった。


脱衣場は檜の香りが立ち込め、ドア越しからこぼれてくる湯けむりが心地よく出迎えてくれた。


真澄は衣服を脱ぎながら、もうすでに入浴しているマヤの姿を思い浮かべ、逸る気持ちをセーブし続けようと息を吐く。


『きっと彼女は、恥ずかしそうに背中を向けているのではないだろうか? 髪を高い位置でまとめ、細くて白い方と首をうっすらと

赤くし、俺が声をかけるとドキドキしながら振り向くのではないだろうか?

恥ずかしがるマヤの後ろにぴったりと張り付いて抱きしめてみたい。そして、後ろからあれこれとちょっかいを出してやるんだ!!』

・・・とうとう顔がニヤけてしまった。

真澄は脱いだ服を乱暴にロッカーに押し入れると、バンッと勢い良く扉を閉じ、タオルを腰に巻いて気合を入れた。

『よーし!待ってろよ!マヤ!!』

思いきり鼻息を荒くしつつ、足を進める真澄。


・・・・ガラガラガラガラ・・・・・

彼は、露天風呂に繋がる最終のドアを開けた。





ところが・・・・・・・・





「あ、真澄さ〜ん♪」

「なっ!!!!!!!!!」


思いもよらぬ出来事が真澄を待ち構えていた・・・。


・・・恥ずかしそうに湯船に浸かっているマヤなど、どこにも存在しなかった・・・。

そこにいる彼女は・・・・紺色のスクール水着&ゴーグルを装備し、笑顔で大きく手を振っていたのだ!

「!?!?!?!?!?!?」



―――な、なんなんだ!?これは!?!?――


真澄は、しばし絶句した後、ようやく彼女に声をかけた。


「な・・・何をしているんだ・・・・?」

「え?準備体操ですよ。泳ぐ前の・・・・」

ポカンとした表情で答えるマヤ。


「じゅ、準備体操・・・・・・そ、それは熱い湯に入る前には必要ない・・・!・・・そ、そうじゃなくて、なんで水着を着ているんだって聞いて

いるんだよっ!」

「え?・・・・だから、泳ぐために・・・だけど・・・」

マヤは、真澄が何をそんなに不審に思っているのか全く理解できていないようだった。


「お・・・泳ぐのは構わんが・・・水着は・・・・・」

「・・・・・・ダメなの?露天風呂って水着着用は禁止だったかしら・・・?」

「・・・・そうじゃないんだが・・・・・・・・」

あまりにも理解力のないマヤに、真澄は呆れて白目青筋で言葉を詰まらせた。


「だって・・・この間、旅番組のテレビ見てたら、レポーターが水着着て入ってたし・・・」


『それはテレビ番組だからに決まってるだろっ!!』

真澄は心の中で絶叫した。 こうなったら、あまりにムードのないマヤに少しは説教でもするべきであろうか・・・・。

彼がそんな事を考えていると、マヤは、ふいに意外な言葉を口にした。


「真澄さん・・・この前、あたしが高校時代の水泳の授業の話をしたら、『君のスクール水着姿、見たかったな』って言ってたでしょ?」

「あ・・・あああ・・・?確か、そうだったな・・・」

「だからあたし・・・探し出して持ってきたのに・・・。普通のプールでスクール水着は恥ずかしいけど、貸切のお風呂でなら見せれる

かな、って・・・・」


「・・・・!!」


真澄は驚き、再び絶句した。マヤはふざけていた訳でもなく、天然ボケでもなく、真澄を純粋に喜ばせようとしてこのような行動を

とったのだ!

そんな彼女の気持ちも考えず、一方的に自分の思いを押し付けようとしていた俺は一体・・・・。


「そうか・・・それはすまなかった。ありがとう、マヤ・・・嬉しいよ・・・。水着、似合うじゃないか・・・」

真澄の言葉に、マヤは一瞬で笑顔を取り戻す。


「よかった♪ 真澄さん・・・せっかく2人だけのお風呂なんだから、楽しみましょうよ!」

「ああ・・・」

真澄は早くも考えを改め、別の楽しみへと気持ちを切り替えていた。

『そうか・・・あのスクール水着を脱がせてみるのもいいナ・・・・・フフフ・・・・・』

よくよく見ると、ずいぶん女らしい体型になった彼女がピチピチのスクール水着姿になっているというのは、ものすごく興奮させる

オーラが漂っているではないか・・・。

真澄はゆっくりと彼女に近づいていく。


そして、あと1メートルほどで再接近する、というところまで来ると、マヤは突然、隠していた水鉄砲を彼に向けて発射した。


ジョバーーーーーーッ

「わぷっっ・・・・!!!!」

あまりに急な出来事で、真澄は普段出さないような擬音で体を仰け反らせた。


「わーーいっ!命中っ!」

「!?!?!?!?!」

真澄が情けない顔で呆然としていると、マヤはドブンと飛び込み、逃げるようにして姿を消した。

真澄の顔にかかった湯は鼻へと進入し、彼はジンジンとした懐かしい痛みを感じながら湯船へと入る。

すると、どんどん遠くへと泳いで逃げるマヤが目に映り、真澄の血を熱くさせた。


「マヤッ!!!俺が本気で泳いだら一瞬で追いつくんだからなっ!!」

真澄は、とうとうマヤのペースに巻き込まれ、真剣にクロールを泳ぎ、彼女を追いかけるハメになった。

妖精パックの稽古で鍛えたマヤは大変すばしっこく、真澄は必死だった。 やはり11歳の年の差は大きく、マヤはなかなか捕まらない

のだ・・・。 おまけに、この温泉は乳白色・・・・・潜ってしまうと姿が見えないのだ!

真澄は時折、マヤに水鉄砲で攻撃され、ヨレヨレになりながらも泳ぎ続けた。


「真澄さ〜ん♪こっちよ〜!!」

ハッと声のした方へと視線を移すと、彼女はいつの間にか湯船から上がり、飛ぶようにして走って逃げていった。

『くそおっ!大都芸能社長の俺様が、11歳も年の離れたマヤに・・・!!ま、負けるものか!!』

2人のはしゃぎ声は露天風呂の外にも丸聞こえになり、バカバカしい時間は流れていく・・・・。




・・・・こうして、あっと言う間に貸切の時間は過ぎ、真澄が理想としていた、イチャイチャ&ラブラブな混浴タイムは、湯けむりのごとく

消え去った。









おしまい

*このお話には地下室に続きが・・・(ぼそり)

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あとがき

20万ヒットのキリバンゲッターのtakumiさんからのリクエスト(いくつか頂いたんですが)の中で、「2人で温泉!ムフフなことを考える

真澄&ボケのマヤ」というものをチョイスし、書かせて頂きました♪ とにかく忙しい時期ゆえに、雑文で大変失礼しました。なんだか

内容も薄っぺらくて・・・(涙)

もしよろしければ、続きも・・・・・・(ごにょごにょ)

・・・ありがとうございました。

ふわふわ





 










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