このお話は、オイラが何気に「マッスーが銭湯で転んだら・・・」などと妄想し、そのイラストをしのぶさんに描いてもらったことから

書いたお話です。イラストを見てからお話を考える、とういうのは難しい部分もありますが、とても楽しかったです(笑)



銭湯へ行こう!!
〜ふわふわ+しのぶ(イラスト)〜





「あのね、速水さん・・・うちのアパートの近くの銭湯、最近大きなスーパー銭湯に生まれ変わったんですよ!」

「そうか・・・それはよかったじゃないか」

・・・2人は、楽しいデートの帰り道、何気にそんな会話になっていた。


付き合い始めてまだ数ヶ月の2人。 どうにか時間をやりくりしては、幸せな日々を送っている。

とにかく、一緒にいられるだけで幸せが滝のように溢れ出し、マヤと一緒にいるときの真澄の顔は、それはもう情けない

ほどに緩みっぱなしなのだ。 こんな幸せを、かつては想像しては虚しく白目になっていたものだ・・・。

真澄はハンドルをギュッと握り締め、これが夢ではないことを確信し、口元を緩める。



助手席にいるマヤが、何気なく話を続けた。

「それで、昨日、桜小路君が”一度銭湯に行ってみたい”って言うから、一緒に行ったんですよ・・・」

『なっ!!!!!!』

・・・まるで凍りついたように真澄の顔色がサッと変わった。


『桜小路・・・・あいつめ!! 用もないのにスーパー銭湯に行きたいだなんて・・・!しかも、わざわざ

マヤの行き着けの銭湯に!!マヤと一緒にだと?? 許せんっ!!!!』

真澄が怒りで震えているのにも気付かず、マヤは呑気に話を続けた。


「桜小路君、銭湯に行ったの初めてだったみたいで、すっごく楽しかったって言ってたわ。あたしなんて

今まで何度通ったか分からないくらいなのに・・・」

「・・・・・・・」

真澄の怒りは頂点に達していた。


『何がそんなに楽しかっただと・・・?桜小路!! まさか・・・まさか混浴なんてあるわけないよな。

銭湯だしな・・・。しかし、風呂上りのマヤを見つめながら並んで歩いて帰ったりしたんじゃないだろうな!あいつめ!!

何様のつもりだ!! マヤの恋人は俺なんだよ〜〜〜っ!!!!』


「速水・・・さん?」

「ああ・・・すまない・・・ちょっと考え事をしていた。 ・・・ところで・・・俺もスーパー銭湯とやらに行って

みたいものだな・・・」

「えっ?速水さんが?? うそ・・・・」

「嘘じゃないさ・・・。いいだろう?今から行こうじゃないか」

「・・・・???」





・・・こうして、2人はスーパー銭湯へとやってきた。


何も用具を持っていなかったので、入浴料金と一緒に『石鹸・タオル・シャンプー&リンス』のセットを購入。

もちろん、真澄はマヤの分も買ってあげた。

「家に帰れば用具があったのに・・・」

つまらないことを気にするマヤに、真澄は笑顔で言った。

「気にするな・・・。たかが100円のセットだ」

・・・真澄は、億単位の金を動かすビジネスをしているので、たかが100円などホコリくらいのレベルでしかない。


「ありがとう・・・・・じゃあ・・・後で・・・」

「ああ」

2人は別々の入り口へと向かう。

『・・・まさか速水さんが銭湯に興味を持つなんて・・・・ビックリだわ・・・・』

マヤは、首を傾げながら女湯へと入っていった。




一方、真澄は慣れないながらも、どうにか衣服をロッカーに脱ぎ入れ、購入したタオルを腰に巻き、浴室の入り口

にあった洗面器に石鹸などを入れ、中へと入る。

『この俺が銭湯とはな・・・フッ・・・マヤが関わってなければ頼まれても来ないけどなっ』

ブツブツと心で呟く真澄。


しかし・・・見渡す限りの広々とした空間に、多種類の浴槽を目の前にすると、 なかなか気分が良いことに気が付いた。

『すごいな・・・・これは確かにリフレッシュできそうだ・・・』

真澄は軽く深呼吸する。


そして、いくら壁があるとはいえ、少し離れた場所でマヤが入浴していることを想像してしまい、思わず胸が踊る。


『くそう・・・桜小路もこんな気持ちで入浴したんじゃないだろなっ!!』

ついつい、つまらない事を考えてしまい、カッとなりながらズンズンと歩く真澄。 だいたい、『一緒に銭湯へ行く』という

状況がなんとも意味深ではないか・・・。

『桜小路め!!今頃、”神田川”の歌でも歌いながらマヤのことでも考えているのかもしれん!』

桜小路に対しての敵対心は限りなく真澄をブルーにさせるのだ。



・・・どうにか気を取り直し、真澄は体を洗って湯船に浸かると、飛び上がるほどに縮こまった。

『くうっ・・・!!!』

驚いて体を起こすと、そこは『水風呂』であることが判明。

『俺としたことが!!!!!』


その後も、背中にビリビリを刺激を感じて驚くと『電気風呂』であったり、やけどをするかと思うような『高温風呂』に足を

踏み入れ、ヒーヒーする真澄。 とてもリフレッシュどころではなかった。 身も心もヘトヘトだ・・・。


次々と痛い目に合いながら、今度は『露天風呂もどき』のコーナーへ進むことにした真澄。

ここは、本物の温泉のように岩をゴツゴツと積み上げてあり、ニセモノとは言え、本当に温泉に来たような気分になる。

『これはいいな・・・・。ああ・・・マヤと温泉に行けたらいいな・・・・フフフ・・・』


真澄がイケナイ妄想をしているその時・・・・隣の女湯から大きなオバちゃんの声が聞こえてきた。


「あらっ!アナタ、テレビに出ている子じゃないの?マヤちゃんとか言う名前でしょっ?」

「え・・・あ・・・はい・・・」

「!!!!!」


真澄は息を呑んだ。

どうやら、ここは一番女湯に近い場所らしい。 よーく見ると、岩の壁の最上部に数センチの隙間があり、さすがに

覗くことなどはできない仕組みだが、今日ほど空いていて静かな時だと、声が筒抜けらしい。 しかも、人並み外れて

声の大きなオバちゃんとマヤだからこそ・・・かもしれない。


「あら〜あらあら〜!!嬉しいわ!!わたしファンなのよお〜オッホッホ〜」

「あ・・・ありがとうございます・・・」


・・・真澄は、ドキドキしながら会話を聞いていた。 マヤが今、どんな姿で声を出しているのだろう、などと考えただけで

鼻血が噴出してきそうだ・・・・。

「あら〜アナタ、華奢なイメージあるけど、ずいぶんグラマーなのねえ!オバちゃん、驚いたわ〜!!」

「いえ・・そんな・・・」


「なっ・・・!!!!!!」

真澄の心臓はバクバクと音をたて、勝手に一人で興奮しまくっていく・・・。


「お世辞じゃなくて、ほんっとに色も白くて、バストは張りがあって、ビキニなんかも似合いそうねええええ〜」

「あ、どうも・・・」

真澄の脳内は完全にパニックだった。 ああ・・・できることなら、あのオバちゃんになりたい・・・。そして、マヤのビキニ姿!

見たい・・・見たい・・・・・。もっと詳しく実況してくれ・・・オバちゃん!!

真澄の頭は沸騰寸前になっていて、本当に鼻血が噴出して『鼻血風呂』にでもなりそうな気配だった。

『いかん・・・とりあえず退散だ・・・・』


・・・真澄が名残惜しそうに露天風呂コーナーを後にすることに決め、ヨロヨロとタイルの上を歩いていたその時だった・・・。


人生で7番目くらいのレベルの悲劇が起こった・・・・。



ふと、左足で何かを踏みつけたような感触があり、『?』と思ったと同時に、体が大きく仰向けになったのだ!!

「う゛っっっ!!!!!!!!」




真澄は、まるでバナナの皮で滑ったようにしてすっ転んだ・・・。






「んっ?」


・・・魂の片割れであるマヤは、なんとなく真澄の身に何かが起こったように思い、ふと心配な気持ちになる・・・。

「・・・今、『う゛っっ』とか聞こえたけど、まさか速水さんじゃないよね・・・・」




・・・真澄の身は大変な事になっていた。

腰につけていたタオルは、はらりと捲れ、腰を強打してしまった。

更に、ヌルヌルとした背中はタイルの上を面白いように滑り、まるでボブスレーのような速さで3メートルほど移動した。

『俺とした事が!!!!!!』

滑りながらもプライドを忘れることのない真澄。 はがれそうなタオルを必死で押さえる。


・・・ようやくスライディングを終えると、彼は苦痛の顔を笑顔で誤魔化し、起き上がった。 自分は大都芸能の社長であり、

例え銭湯ですっ転んでも、何事もないような顔をしなければならない!それが仮面を被るということなのだ!!


しかし、平日の夕方ということもあり、真澄の失態は誰にも見られずに済んだらしい・・・。不幸中の幸いだ。

「クソッ!!あの石鹸が俺を滑らせやがったな!!悪い石鹸だ!!!」

真澄は怒りながら落ちていた石鹸を拾い上げる。

すると・・・・そこにうっすらと『優』という文字が彫られていることに気が付いた。

「ま・・・まさか・・・桜小路のヤツが置いていったんじゃないだろうな!!あいつ・・・石鹸にまで名前を彫りやがって!

・・・こんなことをするのはあいつしかいない!!俺を罠にかけるなんて、1000年早い!!!!!」


真澄はシャンパングラスを割るようにして石鹸を握りつぶした・・・・。















「速水さん!! どうでした?銭湯・・・・・・」

真澄がロビーでタバコを吸っていると、眩しいほどの笑顔でマヤがやってきた。

「う・・ん・・・ああ・・・楽しめたよ・・・」

まさか、石鹸ですっ転んだなどとは言えない。 水風呂や高温風呂でひどい目にあったことも言えない・・・。ましてや、

マヤとオバちゃんの会話を盗み聞きして鼻血が出そうになったことなど、口が裂けても言えない・・・。

「そっかあ・・・よかった♪」

真澄は、マヤが濡れた髪をそっとかき上げている仕草に目を奪われていた。 そして、オバちゃんの発言が脳内でグルグル

と回り、再び体が熱くなる・・・。


真澄は気を紛らわすために、マヤに話しかけた。

「そうだ・・・桜小路のやつ、石鹸忘れていったんじゃないのか? 『優』って彫ってある石鹸があったぞ」

それを聞いたマヤは、大きな目をさらに大きくして真澄を見上げた。

「やだ・・・あれ、石鹸のメーカーでしょ?速水さん、知らないの?『優々(ゆうゆう)石鹸』ですよ」

『なっ・・・!!そうなのか・・・俺ってヤツは・・・』

真澄は普段、高級な外国製の石鹸(しかも金粉入りなど)やボディーソープしか使わないので知らなかったのだ。


「そうか・・・俺はてっきり忘れ物かと思ったんだ・・・」

マヤは、真澄の言葉を聞き、ケタケタと笑い出した。

「やだもう・・・いくら桜小路君でも、石鹸に名前なんて彫らないわよ・・・うふふふっ・・・おかしいっ!!速水さんってば!!」

マヤは真澄の発想がツボだったらしく、笑い転げた。

「・・・いや、あいつなら、やるかもしれないだろう・・・?石鹸の中から小さな仏像を掘り出すとか・・・」

「やだっ!もうやめてよ〜!!おなか痛いよ〜!!」

マヤの笑顔に誘われ、真澄もすべてを忘れて一緒に笑った。


やっぱり、マヤといるとすべてが楽しい・・・・。 銭湯に入るよりも心も体も洗われるような気分になる・・・。


「速水さん・・・今度、一緒に温泉行きたいな〜2人で・・・・」

『なっ!!!!!』

真澄は脳内で小躍りするほどの気持ちになった。 温泉!!マヤと!!2人で!!お泊り!!!!!!!?


「ああ・・・そうだな・・・休みを合わせて行こうじゃないか・・・」

「楽しみ・・・・」


2人は仲良く手を繋いで銭湯を後にした。 

空には、大きな満月がぽっかりと浮び、2人の影を照らしている。

そして、マヤの髪からは、自分の髪と同じシャンプーの香りがする・・・。

『こんなチープなデートもいいものだな・・・。温泉旅行のキッカケもできたし・・・少しだけ桜小路に感謝しないとな・・・』

真澄はすっかり恨みを忘れ、ウキウキ気分で一杯になっていた・・・。







しかし、真澄がすっ転んで腰を強打した後遺症はひどく、翌日から地獄のような日々が続き、温泉旅行は遠い夢と消えた。

『桜小路っ!!!すべてはお前のせいだっ!!覚えてろっ!!!』

・・・桜小路への恨みはエンドレスに続く。

おわり





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