このお話は、オイラが何気に「マッスーが銭湯で転んだら・・・」などと妄想し、そのイラストをしのぶさんに描いてもらったことから
書いたお話です。イラストを見てからお話を考える、とういうのは難しい部分もありますが、とても楽しかったです(笑)
銭湯へ行こう!!
「そうか・・・それはよかったじゃないか」 ・・・2人は、楽しいデートの帰り道、何気にそんな会話になっていた。
とにかく、一緒にいられるだけで幸せが滝のように溢れ出し、マヤと一緒にいるときの真澄の顔は、それはもう情けない ほどに緩みっぱなしなのだ。 こんな幸せを、かつては想像しては虚しく白目になっていたものだ・・・。 真澄はハンドルをギュッと握り締め、これが夢ではないことを確信し、口元を緩める。
「それで、昨日、桜小路君が”一度銭湯に行ってみたい”って言うから、一緒に行ったんですよ・・・」 『なっ!!!!!!』 ・・・まるで凍りついたように真澄の顔色がサッと変わった。
マヤの行き着けの銭湯に!!マヤと一緒にだと?? 許せんっ!!!!』 真澄が怒りで震えているのにも気付かず、マヤは呑気に話を続けた。
今まで何度通ったか分からないくらいなのに・・・」 「・・・・・・・」 真澄の怒りは頂点に達していた。
銭湯だしな・・・。しかし、風呂上りのマヤを見つめながら並んで歩いて帰ったりしたんじゃないだろうな!あいつめ!! 何様のつもりだ!! マヤの恋人は俺なんだよ〜〜〜っ!!!!』
「ああ・・・すまない・・・ちょっと考え事をしていた。 ・・・ところで・・・俺もスーパー銭湯とやらに行って みたいものだな・・・」 「えっ?速水さんが?? うそ・・・・」 「嘘じゃないさ・・・。いいだろう?今から行こうじゃないか」 「・・・・???」
もちろん、真澄はマヤの分も買ってあげた。 「家に帰れば用具があったのに・・・」 つまらないことを気にするマヤに、真澄は笑顔で言った。 「気にするな・・・。たかが100円のセットだ」 ・・・真澄は、億単位の金を動かすビジネスをしているので、たかが100円などホコリくらいのレベルでしかない。
「ああ」 2人は別々の入り口へと向かう。 『・・・まさか速水さんが銭湯に興味を持つなんて・・・・ビックリだわ・・・・』 マヤは、首を傾げながら女湯へと入っていった。
にあった洗面器に石鹸などを入れ、中へと入る。 『この俺が銭湯とはな・・・フッ・・・マヤが関わってなければ頼まれても来ないけどなっ』 ブツブツと心で呟く真澄。
『すごいな・・・・これは確かにリフレッシュできそうだ・・・』 真澄は軽く深呼吸する。
ついつい、つまらない事を考えてしまい、カッとなりながらズンズンと歩く真澄。 だいたい、『一緒に銭湯へ行く』という 状況がなんとも意味深ではないか・・・。 『桜小路め!!今頃、”神田川”の歌でも歌いながらマヤのことでも考えているのかもしれん!』 桜小路に対しての敵対心は限りなく真澄をブルーにさせるのだ。
『くうっ・・・!!!』 驚いて体を起こすと、そこは『水風呂』であることが判明。 『俺としたことが!!!!!』
踏み入れ、ヒーヒーする真澄。 とてもリフレッシュどころではなかった。 身も心もヘトヘトだ・・・。
ここは、本物の温泉のように岩をゴツゴツと積み上げてあり、ニセモノとは言え、本当に温泉に来たような気分になる。 『これはいいな・・・・。ああ・・・マヤと温泉に行けたらいいな・・・・フフフ・・・』
「え・・・あ・・・はい・・・」 「!!!!!」
どうやら、ここは一番女湯に近い場所らしい。 よーく見ると、岩の壁の最上部に数センチの隙間があり、さすがに 覗くことなどはできない仕組みだが、今日ほど空いていて静かな時だと、声が筒抜けらしい。 しかも、人並み外れて 声の大きなオバちゃんとマヤだからこそ・・・かもしれない。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
鼻血が噴出してきそうだ・・・・。 「あら〜アナタ、華奢なイメージあるけど、ずいぶんグラマーなのねえ!オバちゃん、驚いたわ〜!!」 「いえ・・そんな・・・」
真澄の心臓はバクバクと音をたて、勝手に一人で興奮しまくっていく・・・。
「あ、どうも・・・」 真澄の脳内は完全にパニックだった。 ああ・・・できることなら、あのオバちゃんになりたい・・・。そして、マヤのビキニ姿! 見たい・・・見たい・・・・・。もっと詳しく実況してくれ・・・オバちゃん!! 真澄の頭は沸騰寸前になっていて、本当に鼻血が噴出して『鼻血風呂』にでもなりそうな気配だった。 『いかん・・・とりあえず退散だ・・・・』
「う゛っっっ!!!!!!!!」
「・・・今、『う゛っっ』とか聞こえたけど、まさか速水さんじゃないよね・・・・」
腰につけていたタオルは、はらりと捲れ、腰を強打してしまった。 更に、ヌルヌルとした背中はタイルの上を面白いように滑り、まるでボブスレーのような速さで3メートルほど移動した。 『俺とした事が!!!!!!』 滑りながらもプライドを忘れることのない真澄。 はがれそうなタオルを必死で押さえる。
例え銭湯ですっ転んでも、何事もないような顔をしなければならない!それが仮面を被るということなのだ!!
「クソッ!!あの石鹸が俺を滑らせやがったな!!悪い石鹸だ!!!」 真澄は怒りながら落ちていた石鹸を拾い上げる。 すると・・・・そこにうっすらと『優』という文字が彫られていることに気が付いた。 「ま・・・まさか・・・桜小路のヤツが置いていったんじゃないだろうな!!あいつ・・・石鹸にまで名前を彫りやがって! ・・・こんなことをするのはあいつしかいない!!俺を罠にかけるなんて、1000年早い!!!!!」
真澄がロビーでタバコを吸っていると、眩しいほどの笑顔でマヤがやってきた。 「う・・ん・・・ああ・・・楽しめたよ・・・」 まさか、石鹸ですっ転んだなどとは言えない。 水風呂や高温風呂でひどい目にあったことも言えない・・・。ましてや、 マヤとオバちゃんの会話を盗み聞きして鼻血が出そうになったことなど、口が裂けても言えない・・・。 「そっかあ・・・よかった♪」 真澄は、マヤが濡れた髪をそっとかき上げている仕草に目を奪われていた。 そして、オバちゃんの発言が脳内でグルグル と回り、再び体が熱くなる・・・。
「そうだ・・・桜小路のやつ、石鹸忘れていったんじゃないのか? 『優』って彫ってある石鹸があったぞ」 それを聞いたマヤは、大きな目をさらに大きくして真澄を見上げた。 「やだ・・・あれ、石鹸のメーカーでしょ?速水さん、知らないの?『優々(ゆうゆう)石鹸』ですよ」 『なっ・・・!!そうなのか・・・俺ってヤツは・・・』 真澄は普段、高級な外国製の石鹸(しかも金粉入りなど)やボディーソープしか使わないので知らなかったのだ。
マヤは、真澄の言葉を聞き、ケタケタと笑い出した。 「やだもう・・・いくら桜小路君でも、石鹸に名前なんて彫らないわよ・・・うふふふっ・・・おかしいっ!!速水さんってば!!」 マヤは真澄の発想がツボだったらしく、笑い転げた。 「・・・いや、あいつなら、やるかもしれないだろう・・・?石鹸の中から小さな仏像を掘り出すとか・・・」 「やだっ!もうやめてよ〜!!おなか痛いよ〜!!」 マヤの笑顔に誘われ、真澄もすべてを忘れて一緒に笑った。
『なっ!!!!!』 真澄は脳内で小躍りするほどの気持ちになった。 温泉!!マヤと!!2人で!!お泊り!!!!!!!?
「楽しみ・・・・」
空には、大きな満月がぽっかりと浮び、2人の影を照らしている。 そして、マヤの髪からは、自分の髪と同じシャンプーの香りがする・・・。 『こんなチープなデートもいいものだな・・・。温泉旅行のキッカケもできたし・・・少しだけ桜小路に感謝しないとな・・・』 真澄はすっかり恨みを忘れ、ウキウキ気分で一杯になっていた・・・。
『桜小路っ!!!すべてはお前のせいだっ!!覚えてろっ!!!』 ・・・桜小路への恨みはエンドレスに続く。 おわり |
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