空色の一日
何度となく、真澄に問われていた言葉。
真澄は本当にマヤを愛しく思い、最高の誕生日を祝ってあげたいと思っていた。
「いいの。本当に何もいらないの。 お休みが取れたら、のんびり過ごしたいなあ。」 そんな事を言っていた。
まるで春が訪れたかと思うような、風のない、暖かい一日が始まろうとしていた。 真澄もマヤも、今までの冬服よりも薄い長袖のシャツに軽めのジャケット姿。
体中から幸せが溢れているのが分かる。
とうとう、当日の朝にまで、また同じ質問を繰り返すことになってしまった。
「あのね・・・この先に、大きな川原があるの。 あたし、よく発声練習とかで行くんです。 ちょっとだけ、そこに行きたいなあ・・・」
真澄は、余りにも意外な場所を指定され、とまどいながらも車を走らせた。
「や、やだ〜!違いますよ!」 付き合い始めても、相変わらずの2人のやりとり。 笑い声を乗せた車は、すぐに目的の川原に到着した。
マヤは、まるで子犬のように駆け出し、どんどん先に行ってしまった。 「おいおい・・・待ってくれよ」 真澄は、マヤを軽く追いかける。 そして、ほんの一瞬で座り込んでいるマヤに追いつき、隣の場所をキープした。
「ん?」
「ほんとうだな・・・」 真澄も、マヤに続いて仰向けに寝転んだ。
星空を眺めることは時折あるけれど・・・昼間はいつも、仕事に追われ・・・時間の感覚も忘れて 毎日を過ごしてたかもしれない・・・。
・・・まるで、心を見透かしたかのような、マヤの言葉だった。 「ああ・・・たまには、こういう風景も見ないと腐りそうだな・・・」
突然、ポツリとマヤが呟いた。 「・・・それは、俺だって聞いてみたい・・・」 真澄はそう、素直に答えていた。
どこかで何かが違っていれば、マヤとはめぐり逢えない運命だったのかもしれない。
「・・・・。」 今自分が不安に思っていた事をそのままマヤが口にしたので、真澄は少し息を呑んだ。
「・・・・例えば?」
「例えば・・・・会社帰りの俺が、万福軒に立ち寄る、とか・・・」 「や・・・やだあ〜!なんか、ロマンチックじゃないわ!!」 真澄がクックックッと笑い出すと、マヤは頬を膨らめてまた空に視線を戻してしまった。
「・・・・・。」
こういう時、本気でじっくりと考えてしまうのが、彼女のいいところなのだ。
紫のバラを抱えて。」 「え?それじゃあ、あんまり変わらない気がする・・・」 真澄は、そんなマヤの言葉を聞き、おもむろに体を起こした。 そして、マヤの顔をじっと覗き込み・・・彼女の小さな可愛らしい唇を一瞬で奪う・・・。
目を逸らしてしまったマヤ。 真澄は愛しさを込めた瞳で彼女を見つめ続け、呟いた。
空は何も語らないものの、とても大切な時間を与えてくれた。 ・・・とても大切なことを教えてくれた。
同じ景色でも、一人で見るときとは、まるで違うという感覚。 それが、共に生きていくという意味であり、必要としているのだということ。
繋いでいないほうの手を、自分のジャケットのポケットにそっと入れた。
本当は、どこか洒落たレストランかどこかで渡そうと思っていた贈り物。 ・・・どうしても、この青空の下で、渡してしまいたくなった。
真澄の呼びかけに、マヤがそっと振り返る・・・。
本当によく晴れた、暖かい1日だった。
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