年下 5

〜written by ひいらぎ〜








「その人はね・・・、あたしより、11歳年上で・・・・」


(何?! 11歳も年上?! 俺と同じじゃないか! どこでそんなヤツと知り合ったんだ、相手はドラマ

で共演した俳優あたりか?!)


「いつも、あたしのことを子供扱いにして・・・」


(・・・11歳上ならそうかもな。じゃあ、マヤが一方的に好意を寄せているのか?)


「でも、本当はいつもあたしのことを気にかけてくれているの・・・」


(なっ!! じゃあ、そいつもマヤに気があるって事か?!)


「初めはあたし、そうとは気付かなくて。だって、あたしのファンの中でも特別な人だったけれど決して

本当の名をあかしてはくれなかったから同一人物だとは思っていなかったんだもの。彼に随分酷いこと

を言ったわ。でも、本当はいつも支えてくれていた・・・。どんなに辛いときも、いつも影から見守ってくれ

ていて、励ましたり、時には叱咤してあたしを『紅天女』へ向かわせてくれたの。」


(名乗りを上げられないような怪しい奴なのか? しかも『いつも影から見守って』だと? そういうのは

『ストーカー』って言うんじゃないのか?!)


「あたし、思い切って気持ちを打ち明けようと思ったこともあるの。でも、その人にはとっても素敵な婚約者

がいて・・・大財閥のご令嬢で、美人で何もかもが素敵でお似合いの人なの、あたしなんかまるで月と

スッポン・・・」


(何だと!! じゃあ、そいつは二股かけているのか?!そんな素敵な婚約者がいるならマヤに近づく

なっ、遊び相手にしたりしたら容赦しないぞ!!)


「あたし、お芝居以外に何の取り柄もないし。でも、女優としての私に価値を見いだして気を遣ってくれて

いるならそれでもいいの。そんな関係でも繋がっていられるなら・・・」


(マヤ、君の魅力はそんなモンじゃない、もっと自分に自信を持て。)


「自分の気持ちを抑えようとしたけど、ダメだった。なら、大切にしていこうって思ったの。好きな人のこと

想うぐらいは許してもらえるよね。人を好きになる、愛するって事は素敵なことのはずだもん。でも、姿を

見ると、やっぱり苦しいの・・・。」

マヤはそう言いながら、とうとうこらえきれなくなったのだろう、大粒の涙をポロポロとこぼしはじめ、言い

尽くすと目を伏せ声を殺し、華奢な体を震わせて泣き出してしまった。流れ落ちる涙をぬぐいもせずに・・・。


(ああ、俺の大切なマヤ、マヤッ!! 一体誰なんだっ、マヤにこんな苦しい思いをさせる奴は!!)


激しい怒りと嫉妬に取り憑かれながら、しかし、今はそれどころではない、目の前のマヤを何とか慰め、

励ましてやらなければ・・・。


「・・・俺だったら、俺だったら絶対君にそんな思いはさせないのに!!」

俺はマヤを見て真剣に訴えた。

マヤはその声にはっと我に返ったように真澄の方を振り返ると、涙をぬぐって無理な作り笑いをした。


「あはっ・・ご、ごめんね、こんな話聞かせちゃって。慰めてくれてありがとうね。」

マヤは涙でぐちゃぐちゃになった顔で、微笑んだ。


痛々しすぎる・・・。


「慰めなんかじゃない! 俺だったらきっと君を幸せにする、君のことが好きなんだ!!」


俺は、もう訳がわからなくなっていた。

本来の姿でないからこんな事が言えてしまうのか、今の自分の姿が判っていないからこんな事を言って

しまうのか。

しかし、もうどうでもよかった。

もはや、自分の想いを心に留めておくことが出来なかったのだ。


が。


マヤは、そんな俺の真摯な告白を聞いたにもかかわらず、相変わらずニコニコしながら、ショックな一言を

返した。


「さ、最近の小学生って、そういうこともスラスラっと言えちゃうんだ・・・あたしよりずっと年下のくせに、

しっかりしてるぅ〜。」


(ガーーーーン・・・・)


一生懸命想いを伝えたのに『あたしよりずっと年下のくせに』と一笑に付されたのが悲しくて、つい言い

返してしまった。


「子供扱いするな・・・って、確かに今は子供だけど、でも、子供だって真剣な想いには変わりないんだ!」

切実な想いを、子供扱いせずに(子供だけど)真剣に聞いて欲しいと思った。


「そうだよね、ごめんね。あたしも、いつもあの人にそう言ったんだっけ。いつまでも子ども扱いしないでって。

でも、幾つになっても年の差は縮まらない・・・いつも、チビちゃんチビちゃんって・・・。」


(何だと!! そいつは、マヤの事をチビちゃんと呼ぶのか、俺以外にマヤのことをチビちゃんと呼ぶ奴が

いるのか!! 許さ〜んっ!!)


俺はあまりの怒りに二の句も継げず、完全に我を忘れて沸騰していた。



ペシッ!!


いてっ!!


突然、平手で頭を殴られた。


隣を見ると、聖がすごい形相で俺を睨んでいる。


「藤村っ、お前一人で熱くなるなよなっ!!」


(何を怒っているんだ、聖の奴?)


俺は、聖の形相に少し怒りを忘れ、いや、しかし、俺の怒りは正当なはず、と今度は水を差した聖の方へ

怒りを向けようとしたが、そんな俺を聖は軽蔑したような横目でチロンと一瞥しながら、

「すいません、マヤさん、こいついつもマヤさんのことになるとすっげー熱くなって我を忘れちゃうんです、

貴女のことすっごく好きだから。」

と涼しい顔して、マヤにそう伝えると、

「ううん、いいの。そんなに好きだって言ってもらえて嬉しいわ、ありがとう。あたしね、自分の気持ち、

あなた達に話して、なんだか少しスッキリしちゃった。どうしてこんな事、初めて会ったあなた達に話し

ちゃったんだろうって不思議に思ってたんだけど・・・・。」

と答える。


(思ってたんだけど・・・何?)

俺も聖もマヤの次の言葉を待った。


「あなた達があたしの大切な人達にどこか似てたからかも知れない・・・
速水さんと聖さん・・・・・・。」


「えっ?!」

最後、誰かの名を言ったようだったが小さな声だったので、よく聞き取れなかった・・・聞き返したかった

のに、聖の奴、俺より先に口を挟みやがった(怒!!)。


「マヤさん、貴女の想いはきっと大切な人に通じると思います。だから、頑張って下さい。応援してます

から。」


「うんっ、ありがとう。あたし頑張るっ、応援してね! あ、今日の話は、誰にも絶対に秘密ね。よしっ!

もう行かなくちゃっ。二人とも、元気をくれてありがとう。」

マヤはそう言うと、今日最高の笑顔を見せて稽古場へ戻っていった・・・。






「おいっ、聖。なんだよ、最後のマヤの言葉、聞き返せなかったじゃないか!!」


「まだそんなこと言ってんのかよ!!」


「なんだとっ?!」

くってかかる俺をキッと睨みつけると

「とにかく、一旦家へ帰るからな!!」

そう言ったかと思うと、俺の腕をガシッと掴んで有無を言わせぬ勢いで俺を引っ張り、歩き出した。


(なんなんだ、聖の奴・・・。)


俺は憮然としながら、しぶしぶ聖に従うよりほかなかった・・・。













無事に人目につかぬように屋敷の自分の部屋へ戻りついた。

帰り道中ずっと考え続けたが、聖の言動がどうしても納得できずに、到着早々に声を荒げた。


「聖、どういう事だ、ちゃんと説明しろ!!」


「まだお解りにならないのですか?!」


「何が。」


「マヤ様が誰を思っていらっしゃるかです!!」


「なにっ? お前には心当たりがあるのかっ!!」


「あるも何も・・・ありすぎて・・・」


「ありすぎるだと? 候補が複数いるのか?!」


「なっ(白目)・・・・真澄さま、いい加減になさいませ!! 気がつかないにも程があります。冷静によく

お考え下さい。」


「冷静にだと? 俺は冷静だっ! 」


「・・・それなら、お解りになるはずです。マヤ様の仰ったことをもう一度よく思い出して下さい、マヤ様が

好きな方はどんな方だと仰っていたかを。」


「・・・・・」

聖の鬼気迫る形相と言葉に圧倒されて、俺は渋々考え巡らせる。


マヤは、あの時・・・・


「11歳年上だと仰っていましたね。」


「・・・(ああ、そうだ)。」


「真澄さまも11歳上でいらっしゃる。」


「・・・(まあ・・・そうだな)。」


「いつもマヤ様を子供扱いにされると・・・呼ぶときは『チビちゃん』と呼ばれるとか。真澄さまもそうです

ね?」


「子供扱いしているわけではないのだが、結果としてはそうなるか? 『チビちゃん』っていうのは愛情

込めて、つまり愛称だと思っているが。」


「マヤ様は子供扱いされることに随分傷ついていらっしゃるご様子でした。」


「そうだな。俺も今日、子供扱いされて悲しかった・・・年齢差と言うものはどこまで行っても埋まらない

からな。言う方と言われる方では随分温度差があるって判ったよ、いつもああいう気分だったんだな、マヤ

は・・・気を付けなくてはいかんな・・・・って、今は俺のことはいいんだよっ!!」


それから・・・と聖は、俺の怒りを無視して次々話してくる。


次はなんだっ!


「彼に随分酷いことを言ったわ。でも、本当はいつも支えてくれていた・・・。どんなに辛いときも、いつも

影から見守ってくれていて、励ましたり、時には叱咤してあたしを『紅天女』へ向かわせてくれたの。』と。」


「『いつも影から見守って』だなんて、そういうのは一歩間違えば『ストーカー』って言うんじゃないのか?! 

聖、お前が見張っていながらどういう事だ!」


「女優としての価値を見いだしてくれるだけの関係でもいい、などとも言っておられました。」


「そんな風に思わなければならない相手だなんて、可哀想すぎると思わないか、お前は腹立たしくない

のか、聖。」


「『私のファンの中でも特別な人だったけれど、決して本当の名をあかしてはくれなかったから同一人物

だとは思っていなかったんだもの。』 マヤ様の特別なファンの方と言えば『紫の薔薇の人』に違いありま

せん、その方と同一人物だと仰っている、つまり、『紫の薔薇の人』が誰なのか、マヤ様は既にご存じだ

と言うことです。」


「・・・なんだって? もう一回ゆっくり言ってくれ・・・。」

何か、今、心に引っかかったぞ。ゆっくり考える時間が欲しい、なのに聖はまだ言い足りない様子で

まくし立ててくる・・・言葉を返す暇もない。。


「そうそう、婚約者がいる方だとも言っておられましたね。お相手は、大財閥のご令嬢なのだと。ちなみ

に世間一般に『大財閥のご令嬢』と称される方で婚約中なのは鷹宮紫織様だけでございます。」


「・・・(鷹宮紫織・・・この場で気分が悪くなる名前を出してくるなよ聖・・・ん?・・・今、 なんて言った?

『大財閥のご令嬢』と称される方で婚約中なのは紫織さんだけ・・・相手は俺・・・え? って、事は、

つまり・・・マヤの好きな人って言うのは・・・もしかして)・・・」



「お、俺かっ?! しかも、『紫の薔薇の人』の正体までバレてるって?!」




「真澄さまはあの時聞きとれなかったご様子でしたが、私には聞こえました、マヤ様の言葉。『あなた

達があたしの大切な人達にどこか似てたからかも知れない・・・速水さんと聖さん・・・。』って。私たちが

セットになってます。私が真澄さまとの橋渡し役をしていることも、何もかも判っておいでなのです!」

聖はダメ押しするかのようにとどめの一言を言い放った。



たどり着いた答えに、しばらく思考回路が止まるほど驚き固まってしまった俺を見て聖は溜息をついた。


「貴方様ほど頭脳明晰で洞察力に優れた方はそうどこにでもいらっしゃるわけではないと思いますのに、

マヤ様の事になると、どうしてそんなにも思考回路が鈍ってしまわれるのですか? マヤ様の仰ることを

総合すれば真澄さましかあり得ないではないですか!」

俺を見る聖の目は恨めしそうにさえ見える。


うぅ、そんな目で見るな!!


「そ、そうは言うが、俺はマヤには嫌われているんだと思い込んでいたし・・・。」

そうだ。俺はもう長いこと、マヤに嫌われていると思っていた。

嫌われるにふさわしいことをあまりに沢山してきたから、いまさら好きになってもらえることなどあり得な

い、と。


「本当はお気づきにならないだけで、今までにもマヤ様からいろんなサインが送られていたのではない

のですか?いえ、お気づきになっても『自分の勘違いだ』などと、お好きな方からのサインをわざわざ見逃

していらしたのでは?」


聖は詰め寄ってくる。


そうだ、『もしかしたらマヤが俺のことを好きになってくれたのかも』と感じることがあっても、それは『俺が

都合のよいように解釈しているに過ぎないのだ』といつも自分に言い聞かせていた・・・もしかして、その

必要はなかったと言うことか?!


「真澄さま、マヤ様に仰いましたね、『俺だったら絶対君にそんな思いはさせないのに!!』と・・・。」


「ああ。」


「マヤ様は、今、恋の演技に悩んでいらっしゃいます。マヤ様は真澄さまを想っていらっしゃるのです。

伝えたくても伝えられない想いを抱いて悲しんでおられるのです。真澄さま、先程のように、貴方の真の

想いをお伝え下さい。きっとマヤ様のお力になって差し上げられるはずです。」


「・・・・・」


「真澄さま!!」


「はぁぁぁ・・・・。」


全く・・・。自分にあきれ果てて、すぐには言葉も出ず、天井を見上げ溜息をついた。

ここまでいろいろお膳立てして貰わないと、一歩も先へ進めないというのもなかなか情けない話ではある

が・・・だが・・・確かに、口に出さなければ伝わらない事は多い。

というよりも、口に出すと、周りが変わる。少なくとも停滞していた事柄が何らかの方向へ動き出すもの

なんだな・・・。

改めてよく解った。

今回のことだって、始まりは、『子どもの頃に戻れたらなあ・・・』の一言からだった・・・。


ならば、俺はこれから何を言い、何をすればいい?


「真澄さま。どうぞご命令下さい。これから私はいかが致しましょう?」

聖は相変わらず、あうんの呼吸で俺がどうして欲しいか本当によく解ってくれている。

たいした奴だ。


「じゃあ、まず、お前には紫の薔薇の花束を手配して貰おうか。」


「承知しました。では、まずは服を脱いで・・・」


(な、何を言い出すんだ聖?!)


「赤いキャンディーを二粒飲むことから始めましょう。このまま飲んで元に戻ったらまずいでしょう(苦笑)?」


「・・・そうだった(何を考えたんだ、俺は!!)。」


「聖・・・いつも世話をかけてすまない。もはやお前無しの俺は考えられないくらいだ(勿論マヤとは違った

意味で)。ありがとう、感謝している。」

マヤへの想いはもちろんだが、これも、はっきり伝えておきたい一言だ(小さいうちに言っておけば照れも

少ないしな)。


「いいえ、真澄さま。私も貴方だからこそお仕えしているのですから。」

聖は何のてらいもなく涼やかに微笑みながらそう言った。


「さあ、さっさと済ませてしまいましょう、真澄さまからどうぞ。」

そう聖に促されて、俺は着替えと赤いキャンディーを二粒握りしめてバスルームへ向かった。




「『自分の道は自分で切り開くもの、それは大人でも一緒・・・今の道が嫌なら、違う道、自分で切り開けば

いい。』か。いいこと言ったな、あの子・・・頑張ってみるよ。」

ふと思い出して心の中で呟く。



・・・随分心が前向きになったもんだ、と苦笑した。


ようやく・・・俺の心にも春がやって来たようだ・・・・。



頑張るぞ〜!!




おわり




P.S.
二人とも、無事に元の姿に戻れたのか・・・・・?(←作者)









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