〜written
by つきみ〜
聖からの意外な報告に真澄は大声を上げてしまった。 いつも聖からの報告を聞いている地下駐車場に、真澄の声が響く。
ようです。だいぶ突貫工事の用でして、立ち退きが決まってから2日後の工事開始だったとか。一緒 に住んでらっしゃる青木様はつきかげの地方公演中でして、マヤ様も相談する相手もなく・・・」
淡々と説明をする聖に向かって、真澄の苛立った声がそれをさえぎった。
けませんか」
桜小路が1人暮らしを始めたというのは聖から報告を受けていたが、なんとそこに3日前からマヤが出 入りしてるというのだ。 紫織との結婚の準備が順調に進んでいる今となっては、マヤの行動を聖に見張るように頼む事も躊躇 われ、ここ数ヶ月はマヤが何をしてるのかも知らないでいた。 しかし聖は、そんな真澄の気持ちが理解できたので、あえて頼まれていなくてもマヤの行動を見張って いたのだ。
努めて冷静になろうとしてみたものの、握り締めた手のひらにじっとりと汗が滲んでいるのが分かる。
しまう。」
以前見た、まるで新婚夫婦のようにおそろいのエプロンを着て一緒に台所に立っている2人の写真が 目に浮かぶ。
会議が控えている。 聖に見張りを頼んだので、最悪の事態にはならないだろうと自分を説得し、会社 に戻る事にした。
「お疲れ様でした〜。」
桜小路はマヤをオートバイの後ろに乗せて、マンションまで走らせた。
キッドスタジオの隅で寝泊りしようと考えていたのだが、桜小路に、「僕は実家に帰るから代わりに …」と言われ、彼の1人暮らしのマンションを提供してもらっていた。 最初は悪いと思って何度も断わったマヤであるが、黒沼にも「役者は体が資本だ。ちゃんと寝るときは 布団の上のほうがいい」と言われ、桜小路の好意に甘える事になったのだ。
桜小路のオートバイの後ろ姿が見えなくなるまでマヤは見送り、そのままマンションに入っていった。
着替えを済ませ、簡単な夕食を食べながら、マヤはこれからの事をどうしようか考えた。
わないよね。 それにチビで子供な私なんて、桜小路くんと一緒に住んでいたとしても、誤解さえされな いかも・・・) そんな風に思うと、どんどん悲しくなっていく。
て決めたんだし!ありがたくお世話にならなきゃ。)
んだ♪ マヤちゃんのスープもいい味だよ・・・なんて言って、マヤちゃんを喜ばせて、そのあと・・・ふふ ふふ♪) などと期待をしていた。ヘルメットで、にやけた顔が隠れていたから良かったものの、もしこれが電車だっ たら明らかに変態扱いだろう。
でもこのままでいいわけがない。なんとしてでも、マヤを桜小路のマンションから出さなくては・・・。 かといって、自分が住んでいる速水の屋敷に連れて行くわけにもいかない。 理由もないし、第一マヤ がそれでは納得しないだろう。真澄は屋敷の他にプライベートマンションも持っていたが、そこにマヤを 呼ぶのにも、もっと無理がいる。
う。 聖から送られた写真が目に焼きついて離れない。 その繰り返しで、真澄は悩み続けた。
この際、理由は何でもよかった。 このまま桜小路のマンションにマヤが暮らしている事が耐えられない 真澄は、紫のバラの人として、自分のプライベートマンションにマヤに住んでもらう事を思いついた。
かったら、私のマンションを使ってください。 今は使ってないマンションなので、どうぞあなたの好きなよう に使ってください】 そう書いて、紫のバラの花を1輪添えて聖に託し、マヤに届けさせた。
そこで聖から貰ったカードを見たマヤは、 「いいんですか・・・? 本当に? 紫のバラの人は、本当にこのカードを書いてくださったんですか?」 と言葉を出す。
出ております。 遠慮は無用ですよ、マヤ様。」
る事が嬉しかった。 それに、何より、自分がまだ真澄と繋がっている事が嬉しかったのだ。
たと思われるベッドのシーツやスリッパなどが、みんな新品と交換されていた。 それはすべて影の男・聖がこの数時間の間に、桜小路のマンションに忍び込んでマヤの使ったものをあっ と言う間に片付けたのだ。 (もちろん、その品々は真澄のコレクションに加わる事になるのだが・・・。)
大通りから1本奥に入ったところにあるこのマンションは、15階建ての重厚なつくりだった。 観葉植物や応接セットが置かれた豪華なエントランスを抜けて、教えられた暗証番号のボタンを押す。 静かにマンションの自動ドアが解除された。
最上階の一番奥の部屋。 電子キーを入れて、部屋にそっと入る。 大理石の玄関の上でマヤは靴を脱ぎ、リビングへと向かった。 桜小路のマンションも、普段狭いアパート暮らしのマヤには広く感じたが、真澄のマンションは、リビング だけで桜小路のマンションの2倍はありそうだ。 すっきりと片付いていて生活観を何も感じなかったが、それでもこれも真澄らしいような気がした。 真澄に守られているようで、マヤは嬉しくなる。 聖からマヤが自分の所有するマンションに移った事を聞いて、安心する真澄。
ロンを着けて料理したり、ソファで転寝してしまったマヤに毛布をそっと掛けてやったり・・・。あぁ、そうなっ たらどんなにいいか・・・)
た。
と、まるでマヤが自分の帰りを待っていてくれるかのように嬉しくなった。
(お帰りなさい、速水さん。 あの・・・下手くそだけど、晩御飯作ってみたの・・。) (食べられる物かな? ちびちゃん・・) (もう! 嫌味虫なんだから!) (晩御飯を食べたあとは、お風呂に一緒にどうだ?) (もう! 速水さんのエッチ! ・・・でも、私も速水さんの背中、流してあげようかな。ちょっぴり恥かしい けど。)
っているパジャマと同じ柄だ。歯ブラシも俺と色違いで揃えるのもいいな。まるで、新婚夫婦のようだな) などと、真澄の妄想は加熱する一方であった。・・・。
うちに麗が地方公演から戻ってくることになった。 そして、麗はテキパキと新しいアパートを見つけ、マヤと一緒に住み始めた。
・・・こうして妄想だけのマヤとの新婚ごっこは終わったのだ・・・。
すべて真澄のコレクションとして保管され、抜き忘れた浴槽のお湯もガラス瓶に入れられ、大切に保管さ れるのであった・・・。 |
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