WITH YOU


『眩しい・・・・』


・・・ゆっくりと薄目を開けた真澄は、カーテンの隙間からこぼれる僅かな日差しを受け、見慣れた天井を

ぼんやりと目にしていた。


小鳥のさえずりが心地よく耳に届き、目の前を流れる光の粒を感じていると、少しずつ意識がはっきりとしてい

くのが分かる。


『そうか・・・』

・・・サイドボードに置かれた小さなカレンダーには、マヤの付けたハートのマーク。


今日は彼女の誕生日・・・。




ハッとしながら体を横に向けると、静かな寝息をたてているマヤの姿を確認した。

彼女は小さな体を丸め、まるで気を許したような表情で瞳を閉じている。



真澄は口元を緩ませながら、静かに毛布を引き上げていた。

あどけない表情とは不釣合いに ほのかな色気を感じさせる、なだらかな彼女の肩が露になっていたからだ。


『気持ち良さそうに寝ているな・・・』

すぐ手が届く距離にいる、その彼女の首元には無数の赤い花が咲き乱れていた。





・・・こうして体を重ね、ますます愛を深めるようになってから数ヶ月。

二人で抱き合い、求め合える現実は、愛に飢えていた自分を急速に過去のものへと変えてくれた。

彼女と過ごす時間は、一瞬一瞬が眩しく、かけがえのないものとなっていく・・・。


真澄は彼女の黒髪を少しだけすくい上げ、遊ぶようにして手に絡めた。


夢ではなく、彼女が今ここにいる。


『愛している・・・・・』







彼女越しに見える壁にかけられたシンプルな時計に目をやると、時刻は7時を過ぎた頃であった。


『結局、いつも俺のほうが早起きじゃないか・・・』

彼は飽きることなくマヤの寝顔を見つめ直し、肩をすくめていた。


いつもいつも、こんな彼女の顔が見たくて、そして幸せを確認したくて、早く目覚めてしまうのだ。

こういう気持ちを彼女は分かっているのだろうか・・・?


真澄は小さな溜息を吐き出していた。

『・・・今日ばかりは早起きすると言っていたはずだけどな・・・』






彼は、そっとマヤの顔を覗きこむようにして頬にキスをした・・・・・。






それは昨晩の事・・・・


互いの仕事を終え、久しぶりに真澄のプライベートマンションで待ち合わせをした二人は、まるで会えなかった

時間の寂しさを埋めるようにして肌を合わせていた。



そして、ひとしきり愛し合った後、彼女が嬉しそうな笑顔を浮かべながら、ビー玉のように澄んだ瞳を真澄に

向けているのに気付く。


「・・・どうしたんだ・・・?ニヤついた顔をして・・・」


「だって、明日は誕生日だし!!それに、初めてディズニーランドに行けるから、嬉しいんだもんっ・・・・」

彼女は、布団の中で足をバタバタさせながら本当に嬉しそうに、まっすぐに彼を見つめてそう言った。


『分かっているさ、そんな事・・・』

真澄は心の中で呟いていた。



・・・彼女の誕生日に向けて多忙なスケジュールをやりくりし、どうにか休みの予定がついたのは先週の

始め頃だった。

”どこに行きたいのか”と尋ねたところ、しばらく悩みに悩んだ末、”ディズニーランドに行ってみたいの”と、

上目遣いで答えたマヤ。

その仕草があまりにも可愛く、真澄は抱きしめたいと思うほどの気持ちを抑えつつ、”そんな子供染みたところ

でいいのか” などとイヤミを言ってしまった事をよく覚えている。




「嬉しい気持ちは分かるが・・・余りはしゃぐと雨が降るぞ」

真澄は、わざと冷静にそんな言葉を出した。


「んもうっ・・・イジワル! 」

これも予想通りの彼女の反応だった。


「当たり前のことを言ったまでだ」

真澄は笑いながらベッドサイドに立ち降りる。


そして、おもむろにタバコを手にした途端、

「・・・速水さんは・・・・楽しみじゃないの?」

と、あの可愛い上目遣いを再現させたような表情で彼女が尋ねてきた。


「・・・俺か?楽しみだよ・・・・」

真澄はタバコを取り出しながら、無意識に出した自分の言葉に少し驚いてしまう。

無理に彼女に話を合わせた訳ではなく・・・・・・本当にそう思っているからなのか・・・。

彼は、吸おうとしていたタバコを手にしたまま、不思議な気持ちに包まれていた。


実際、マヤと一緒にいられると思うだけで、どんな事でも楽しいと思う自分がいる。

彼女と過ごすようになり、まるで生活が一変したのは言うまでもない。

二人で共に行動するだけで、通り過ぎる街の風景すら違って見えるくらいに・・・。



「ほんと? なんか、あたしだけ楽しみにしているみたいな気がするんだもん・・・」

「そんなことないさ。 俺もミッキーに会えると思うと、胸が騒いで寝れなくなりそうなんだ・・・」

マヤが申し訳なさそうに顔を僅かに傾けると、真澄は気持ちを悟られないように彼女をからかっていた。


「もう!嘘つきっ!!」

頬を膨らませた彼女が食ってかかる。


「本当だよ」


「じゃあ、きっと楽しみにしているほうが早起きするはずよね? あたし、先に起きて速水さんを起こすからね!」

気合たっぷりでそう言う彼女は本当に子供のようで可愛くてたまらない。


「そうか・・・それは期待しているよ。 君が今まで俺より先に起きていた試しがないけどな・・・」

「・・・・う・・・」

本当のことを言っただけなのに、マヤは悔しそうに唇を噛み締めていた。 

こういう顔をするから、ついついからかってしまいたくなるのだ。


「ちゃんと先に起きますよーーだっ! 絶対だもん! もしもあたしのほうが遅かったら、明日はあたしが全部

デート代、払いましょうかっっ!?」

勢いでそんなことを言い出したマヤに対し、真澄はクスクスと笑いながら答えた。


「それはますます楽しみだな。 明日は誕生日なのにツイてないな、君も・・・」

「またバカにしてるでしょっ! もう寝るからね〜!おやすみっ」


「・・・目覚ましはかけないから、本当に寝坊したらおしまいだぞ」


「・・・・・」


マヤは布団を被りながらブツブツと言いながらも、やがてスースーと寝息をたて始めていた。


『やれやれ・・・』

急に静けさが部屋中に広がる。

・・・本当に眠ってしまったのだろうか。

顔を覗きこんで鼻をつついてみても、まるで反応がない。


先に眠ってしまった彼女を見ているのは幸せな反面、まるで取り残されたように寂しい気分にもなるのは

どうしてだろう・・・。





真澄は、ベットから手の届くカーテンを静かに開け放ち、夜空に輝く星を目に映した。

『明日も晴れそうだ・・・・』

心の中からそう語りかけたものの、彼女はすでに夢の中。






・・・こうして彼は彼女のサラサラとした髪を撫でながら、あどけない顔をじっくりと眺め続けたのだった。








『あれだけの事を言っておいて起きれないとはな・・・』

真澄は呆れながらも、そんな彼女だからこそ愛しくてたまらないんだと実感する。




正直な話、何気ない瞬間に、彼女に出逢えなかった人生を想像しながら胸を痛めることがしばしばあった。

どんな暗闇をさまよい続け、一生を終えることになっていたのだろうかと。

そんなことは全く意味のない想像だと分かっているはずなのに。

まるで今の幸せを確かめるかのように、無意識に考えてしまうものなのだろうか・・・。


真澄は息をつきながら彼女の寝顔を目に焼き付ける。



・・・どれだけ見つめ続けていても退屈することのない、宝物のような存在のマヤ。

すべすべとした化粧気のない肌、そしてクルリとしたまつ毛に、今は閉じている大きな瞳。 

抱きしめると折れてしまいそうなほど華奢な肩とほっそりした腕。

その黒髪も、生意気を言う口も、とにかく彼女のすべてが愛しいと思う・・・。


想いが溢れる余り、真澄は自分でも参ったと感じながら、一瞬目を伏せていた。



『・・・この世にこれほど愛しいものがあるとはな』

冷え切ったレールの上を突き進む彼に、別の道を与えてくれたのは彼女だけ・・・。


『俺はきっと・・・君を失ってしまったら生きてはいけないんだろうな・・・』

口が裂けても彼女には言えないであろうセリフが思わず滑り出しそうになってしまう。


当然、そんな事は断じて言うまいと思うけれど。


・・・・その代わりに・・・・何度も伝えていきたい。


”愛している” と。



真澄は大きな深呼吸をすると、昨日までの多忙な日々を振り返り、すべてを終えて充実した気持ちを胸一杯

に吸い込んだ。


今日の日を待ちわびていたのは、彼女以上に自分の方かもしれない。

来年も、再来年も・・・彼女の隣で祝う権利は誰にも渡さない。

『俺だけのものだ・・・』

真澄は再び、彼女の頬に吸い寄せられるようにしてキスをする。


そして、

「一生かけて君を守るよ」

と、自分自身にも誓うように囁いていた。






『おっと・・・目を覚ましそうだな』

ふいにマヤがもぞもぞと体を動かしたのを感じ、真澄は急いで瞳を閉じる。


『君はどんな顔をして俺を起こすつもりなんだ・・・?』

だいたいの想像はついているけれど・・・。


『賭けは俺の負けだから、早く起こしてくれないか・・・』

自分でも顔が緩みそうだと思った。





――待ちきれない心が叫んでいる――


”早く声が聞きたい”


”笑った顔が見たい”


”君といれば、すべてが満たされていく”











また今日も、2人にとって幸せな一日が始まろうとしていた。



おわり




 



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ワタシはよく、槙原敬之さんの曲を聴くので、その影響で書いたお話だったりします。

せつない曲も多いけど、わりと幸せな曲が好きです♪ 「HOME WORK」 「君は僕の宝物」

「今年の冬」は、きゅう〜〜んと胸が一杯になりますね〜。 このお話は、「HOME WORK」からイメージしました。

「こんな風に愛されたい〜〜っ」という、ワタシの願望だな・・・(ヲイヲイ) 

ついでに、セコ社長バージョンの場合、このお話は会議中の彼の妄想だったりね(虚しいぞっ)


この曲は、『会えない時間は宿題のようなもの。だから、一人の時間も前向きに大切に、頑張ろうよ』という内容かな。

ようやく会える!っていう時は、夏休みの宿題を終えた後のような気持ち。 会えない時間を頑張った分だけ、

会えた瞬間は何倍も嬉しいのです。 彼となかなか会えない日々を送っている人も、たくさん宿題を

頑張って欲しいな。 もちろん、このお二人さんにもねっ( ̄ー ̄)ニヤリッ


読んで頂いてありがとうございました。


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