お花見ドタバタ騒動 (前)

今年も桜が満開の季節がやってきた。

・・・マヤと真澄が長年の想いを実らせ、交際がスタートしてから半年ほど経過し、世間でも交際が認められて幸せな日々である。


「マヤ!来週はいよいよ花見だよ! 速水さん、来れそうかい?」

麗は夕食の準備をしながら、ちゃぶ台を片付けているマヤにそう問いかけた。

「ううん・・・やっぱり仕事も忙しそうだし、無理みたい。 それに、自分が行ったらみんなが気を遣うかも、って気にしているの。」

マヤは少し残念そうにそう答えた。

「そうか・・・仕事かあ。別に気を遣うことはないのにねえ。」


毎年行われる花見は、つきかげのメンバーやら一角獣、劇団関係の知り合いでワイワイと集まることになっている。

確かに真澄が参加すれば、みんな盛り上がりにくいのかもしれないが・・・。


「でも・・・本当は一緒に参加したかったな。せっかく恋人同士になったのに・・・。」


マヤが寂しそうに呟いていたのを聞いた麗は、ふと思った。


『確か、桜小路君も急に参加できることになったんだっけ。速水社長・・・桜小路くんが来るとなれば危険を感じて参加するかも?

速水社長は桜小路君に対しての敵対心がすごいって噂で聞いたことあるし。』


・・・そう、本人は気づいていないが、第三者から見れば、真澄はおもしろいほどに顔に出てしまうタイプなのだ。


「ねえマヤ! 速水さんに、『桜小路君も来るし、お酒もたくさん用意してます』って言ってごらん。無理してでも参加してくれるかも

しれないよ。」

「・・・え??何それ??」


マヤは全く理解していないようだったが、麗は真澄が来ると確信していた。

『速水社長には悪いけど、あんまりマヤとツーショットでいる所をみた事ないし、この際、ちゃんとマヤを大事にしているかどうか

チェックさせてもらうよ・・・』



「とにかく、明日もう一度誘ってみな。みんなも、あんた達が揃って参加するのを楽しみにしているはずだよ!」

「う・・・うん。分かった」

マヤは首を傾げながら、そう静かに答えた。



デートの帰り道。 2人はマヤのアパート近くの公園で、別れを惜しむように寄り添っていた。


マヤは、少しもじもじとしながら、真澄に声をかける。

「あの・・・速水さん・・・花見のことなんだけど・・・やっぱり、無理・・・かな?」

真澄は、マヤにやさしい視線を投げかけ、ポンポンと頭を軽く叩きながら答えた。

「ああ・・・少し仕事が溜まっているんだ。・・・いいじゃないか・・・気兼ねしないメンバーだけで楽しんできたらどうだ?」

「・・・・。」


マヤは、予想通りの答えが返ってきたので、ガックリと肩を落とす。

『やっぱりなあ・・・』


そして昨日麗に言われた言葉を思い出すと、半信半疑ではあるものの、とりあえず言ってみることにした。


「あのね・・・お酒もたくさん用意してあるみたいなの・・・」


真澄はマヤの言葉を聞くと、ポケットからタバコを取り出し、からかうように笑って言った。

「ははは・・・酒か。確かに俺は酒は好きだが・・・だからって仕事を先延ばしにしてまで花見など、そんな無責任な行動はとても

とれないな。」



「あとね・・・桜小路君も・・・急に参加することになったんだって。」

「!●×△☆!◎!!!」


真澄は、みるみる顔色を変え、吸おうとしていたタバコを落としそうになった。

『桜小路・・・・!!!なんであいつまで来るんだ!!・・・それに、酒がたくさんある場所で・・・!俺のいない間に酒を大量に

飲ませてマヤをどうにかするつもりじゃないのか!!!?』


「速水・・・さん?」

マヤが怪訝そうに真澄の顔を見上げていると、真澄はクルリと顔を背け、静かに答えた。


「・・・よし・・・俺も参加しよう・・・」

「え??で・・・でも、仕事・・・」


「気が変わったんだ・・・。よく考えたら、桜というものはすぐに散ってしまう。だからこそ、花見の意味があるんだ。」

「????」

イマイチ会話が噛みあっていない。


マヤは、さらに怪訝そうな顔で真澄をじっと見つめて言葉を失っている。

鈍感&大ボケの彼女は、真澄が桜小路に対して嫉妬心があることなど、ほんの欠片も気づいていないのだ。


『・・・麗の言う通りになったわ・・・速水さん、桜小路君が来るなら参加する・・・って。・・・もしかして・・・もしかして・・・・速水さん、

桜小路君のこと・・・・・・・・・好き・・・????』




実は、真澄とマヤは、まだまだプラトニックな関係を続けていたので、そんな不安がよぎったのだ。

いや、それだけではない。真澄が紫織と婚約解消したときの雑誌の記事。 ・・・それは、【速水氏にホモ説浮上】というものだった。

婚約解消の理由をうやむやにした為、あれこれ勝手に書かれてしまったのだ。もともと、大都芸能の社長でありながら、美しい

女優にも靡(なび)かず、噂のひとつもなかったという事実をクローズアップされ、更に紫織とも関係をもたなかったことなども

相当細かく書かれていた。


マヤとしては、そんな記事が出るほど真澄が女に執着していない、という点は嬉しくもあったのだが・・・本当にホモだとしたら話は

別である。

『まさか・・・まさか・・・体に関しては男のほうが好きとか・・・・? いやだわ・・・そんなバカなこと!!!』


マヤが妙な心配事をしているというのに、真澄は全く気付いていなかった。


『桜小路め!!覚えていろ! 花見の当日は、俺とマヤがどれだけラブラブなのか見せ付けてやる!!』

真澄はギラギラとした視線で空を見つめ、更に悔しそうな桜小路の表情を思い浮かべ、ニヤリと含み笑いをしていた。

そんな微妙な顔をしながら

「楽しみだな・・・」

と呟いた真澄を、マヤはますます怪しい目で見つめていた。


花見当日。

真澄だけは、どうしても会議が長引いたため、少しだけ遅れて直行することになっていた。

マヤ達の御一行は、公園でも最高に大きな桜の木の下、という絶好の場所にシートを広げ、宴会の準備を始めた。


「すごい!こんないい場所を手配してくれるなんて、さすが速水社長だ!!」

・・・これはもちろん、真澄の命令によって聖が1週間前からテント生活をして手にいれた場所なのだが。



「マヤちゃん・・・ボク、速水社長も来るなんて知らなかったよ・・・」

桜小路は、ちゃっかりマヤの隣をキープし、そう呟いた。

そう、今回の花見は真澄が来ないものだと信じていた桜小路。 彼は、真澄のいない間に少しでもマヤに接近する計画を

練っていたのだった。もちろん、邪魔になる舞には秘密で参加するという抜かりのなさ・・・。


『クソッ!来なければいいのに!!ボクは、2人の交際なんて認めてないんだ!いつかマヤちゃんがボクの元へと戻ってくる

ことを信じているのさ・・・アハ〜ン♪・・・そうだ、仕事帰りで疲れている社長に倒れるまで酒を飲ませてやる!そうしたらボクと

マヤちゃんでゆっくり花見が楽しめるぞ!!グフフフ・・・』

桜小路はそう心に決めると、マヤに言葉をかけた。


「マヤちゃん・・・速水社長は、どんな酒が好きなの?」

「え?・・・うーんと・・・ブランデーかな。ウイスキーも飲むと思うけど・・・」

それを聞いた桜小路はパッと立ち上がった。

「ボク、ブランデーとウイスキーを追加で買ってくるよ!足りないといけないからね!」

「????」


桜小路が風のように爽やかに走って行った・・・。

『・・・・やだやだ・・・何よ・・・桜小路君まで・・・。なんであんなに速水さんが気になるわけ?変よ・・・どうかしてるわ!』

そんな思考になるマヤのほうが本当にどうかしているのだが。







・・・近くのコンビ二で大量のブランデーとウイスキーを購入した桜小路は、嬉しそうにマヤの隣に腰掛けた。

「あれ?速水社長、まだなのか・・・遅いね・・・」

桜小路がやけに真澄のことを気にするので、ますます不信感でいっぱいのマヤ・・・。



「あ、きたきた!若旦那の到着だ!!」

黒沼がそう叫び、みんなが一斉に真澄に視線を送った。

真澄が息を切らしながら向かって来るのが見える。


「・・・すまない・・・待たせたようだな・・・」


真澄はそう言いながらマヤの姿を確認すると、隣にいる桜小路の姿に釘付けになっていた。

『なっ・・・!!! 何でマヤの隣に座っているんだ!? ずうずうしいにも程があるじゃないか!!!!』


真澄はフリーズし、桜小路から視線を外すことができずに立ち尽くしていた。


一方、桜小路も挑戦的な目で真澄を見ていた。


『フン・・・後でベロベロになるまで飲ませてやる!!そして、今日はボクがマヤちゃんを送るんだ!!』

・・・2人の視線はバチバチと火花を散らしながら絡み合っていた。 周りのみんなはハラハラしながら息を飲んでいたが、

マヤは真っ青になっていた。


『なに?なに?何なの??2人でこんなに熱く見つめあっているなんて!!!信じられない!!』

・・・信じられないのはマヤの思考のほうなのだが。


真澄はようやく立ち止まったままの足を動かすと、ズンズンとマヤの方へと近づいてきた。

「俺はここへ座ろう・・・」

そう言うと、マヤと桜小路の間を無理やり割って入り、腰をおろした。


『やだ・・・速水さん、わざわざ桜小路君の隣に来るなんて!!』

またしても妙な誤解をしてしまうバカなマヤ。

真澄と桜小路は再び視線を合わせ、まるで見つめあっているようにしか見えないのだ・・・。



「じゃあ、まずビールで乾杯しよう!」

ビール瓶と紙コップが次々と渡され、女メンバーが中心にお酌をしていくことになった。

マヤも、隣の真澄のコップにトクトクと注ぎ始める。

「・・・ありがとう、マヤ。」

真澄がそう声をかけると、マヤは次に桜小路のコップに瓶を近づけようとした。


『ハッ!!マヤが桜小路の為に酌などする必要はない!!!!!』

真澄はとっさにそう考え、マヤの手からビール瓶をひったくった。


「俺が注ごう・・・」

マヤからのお酌を待っていた桜小路は白目になり、真澄からのお酌を受けることになった。

『なっ・・・なっ・・・何でこうなるんだよおお〜!!!』

フリーズしている桜小路。

『フン・・・マヤから酒を注いでもらおうとするのが間違っているんだ!俺からの酌を受けれるだけでもありがたいと思え!』

2人の視線はまた熱く火花を散らした。


・・・・マヤの胸は、どんどんざわめいて行く・・・。

『桜小路君にお酌まで・・・速水さん・・・・やっぱり・・・???』




「じゃあ、乾杯の音頭は速水社長にお願いします!」

誰かがそう言ったので、真澄が乾杯の音頭をとることになった。

「ああ・・・じゃあ、大都芸能の発展と、君たちのビックな未来に乾杯!」

「乾ぱ〜い♪」

みんなが勢いよくビールを飲み始めると、桜小路は真澄に話しかけた。


「速水社長・・・ウイスキーもブランデーもたくさん飲んでください。」

『飲め飲め!ビール&ウイスキー&ブランデーで酔っ払ってしまえ!!』


「ああ・・・ありがとう。そんなに俺を酔わせてどうするつもりだ?」




真澄の軽い冗談にギクリとする桜小路。


そんな怪しい会話を聞いていたマヤは気が気でない。


「さ、さあさあ!宴会の始まり〜!! お弁当出しますよ〜!」

空気を和ますように、麗がそう声をかけた。

花見の弁当は、つきかげメンバーが手分けして作り、持って来た物である。

大きな重箱のフタを開けると、みんなが『わあっ』とどよめいた。


「すごい!おいしそうじゃん!!」


「まあ、あんまり豪華とは言えないけど、味は確かだよ。 一応、料理が得意な人にだけ作らせたしね。・・・ちなみに、マヤには

オニギリを握らせたけど・・・あまりにも不恰好な出来栄えだから、3つだけで終わり。残りは、あたしが握ったよ。」

「やだもう!麗ったら!そんな事、言わなくてもいいのに!!」

全員が大爆笑になった。


真澄は、チラリと重箱を覗いてみた。

・・・なるほど・・・余りにも不細工なオニギリはすぐに分かった。丸なのか四角なのか俵型なのか理解できない形のものが3つ。

『・・・あれだな。・・・よし、あのオニギリは俺のものだ。誰にも食わせん!!』

桜小路も同じ事を思っていた。

『マヤちゃんのお手製のオニギリ・・・3つともボクのものだ!』


2人は同時に重箱の不細工なオニギリに目を奪われていた。

まるで百人一首でもしているかのように前かがみになり、オニギリの獲得を目指す。


「さ、食べよ〜!!」

誰かがそう言ったのを合図に、2人の手は素早く重箱へと向かった・・・。

「うっ!」

「はっ!」

タッチの差で真澄がオニギリに手をつき、その真澄の手の甲の上に桜小路の手が重なる格好になった。

そして、2人は顔を合わせ、睨み合う。

『クソッ!手を離せ!オニギリは俺のものだ!』

『うううっ!ボクとしたことが一歩出遅れたか・・・。ボクはいつもそうなんだ・・・いつでも出遅れの人生さ・・・アハン・・・』


2人が手を重ねて見つめあう姿は、マヤに決定的な打撃を与えた。


『2人でこんな所で手を握って・・・!!!あたし・・・あたし・・・どうしたらいいの???』


奇妙な展開の花見はまだ始まったばかり・・・。

 

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