年下 3

〜written by ひいらぎ〜






しばらくして、聖は質問してきた。


「で、これからどうなさりたいのですか? お話から推測するなら、赤い粒を同量飲めば元に戻るであろう

事は容易に想像がつきますのに、私まで小さくして・・・。」


「ふっ。察しが早いな。そうだ、元に戻る前にやりたいことがある。かといって何度も大きくなったり小さく

なったりしていたら、体にどんな影響がでるか判らないしな。それでお前を呼んだ。事を説明するより、

実際体験した方が手っ取り早いだろ?それにお前まで巻き込んで申し訳ないとは思うが、一人より心強

いからな。」

そう言うと聖はやれやれと言わんばかりに溜息をついた。


「で、何を?」


「外出したいんだ。」


「この格好でですか?」


「この姿を見て、誰も俺だとは判らないだろ? 出かけるためには服がいるから、それでお前に買って

きて貰ったんだよ。」


「で、外出先は?」


「○×スタジオ。」


「マヤ様が舞台稽古していらっしゃるところですね。」


「そうだ。稽古しているところを見たいんだ。『大都芸能社長 速水真澄』ではない俺で。最近、マヤに

避けられているような気がするんだ、覗きに行くと必ずどこかへ引っ込んでしまう。」


「気のせいではないのですか?」


「黒沼氏によれば、稽古が上手くいってないようなんだ。何か、一言でも力になってやりたいんだが、

それにはまず練習風景を覗かないことにはな。万一覗けたとしても、俺のアドバイスを素直に聞き入れる

様なマヤじゃないし、それ以前に会ってもくれないんじゃどうしようもない。」


「この姿でアドバイスしても、効果があるとは思えませんが・・・。」


「それでも、普段の俺よりはましだろ?」


「そうでしょうか?」


「多分な。」


「でも、関係者以外は簡単には入れませんよ。」


「だから、そこをなんとか入り込むんだ。聖、お前そう言うの得意だろ?」


「得意って・・・(ため息)、まあ、仕事柄・・という意味なら多少は。しかし、我々の会話は端から見たら

子どもの会話には聞こえませんよ、怪しすぎます。」


「まあ、その辺はもう少し、ざっくばらんに話せばいいさ。言葉で問題になるのはお前の方なんだから。

少々変でも、見かけは子どもなんだから大丈夫さ。『勝手に忍び込んだガキ二人』以上のことは誰にも

判らないはずだ。」


「はぁ・・・・。」

聖は、少々呆れた様子で、返事にもそれが滲み出ていたが、俺はいっこうかまわず話を続けた。


「それに、こういうイタズラ坊主みたいな事、一度してみたかったんだ。抑圧された子ども時代を送った

からな。」


「屈折してますね。」


「何とでも。お前も、大差ないだろう?」


「まあ、そういわれれば、普通でなかったことは確かですね。」


「まあいい、とにかく早く着替えて出かけよう。」


「はい・・・。」



こうして、俺たちは、こっそり屋敷を抜け出した。














見慣れた街並みが違って見える。目線の高さが少し違うだけでこうも違うものなのか?

気分は爽快、いつもは眩しいばかりの日差しも心地よい。


「真澄様、ホントに少年みたいですよ、お顔が、生き生きなさって。」

聖が、俺の顔を少し覗き見るようにして微笑みながら言う。


「聖・・・。『真澄様』はまずいぞ。」


「あ、そうですね。気をつけます。でも、どう呼べばいいですか?」


「そうだな・・・まー君とでも呼べ。」

そう言った瞬間、聖はプッと吹き出した。


「まー君ですか。それは、少し可愛すぎやしませんか?」


「そうか? じゃあ『藤村』、とでも呼んでくれ。俺の旧姓だ。」


「存じております。呼び捨てで・・・ですね。」


「当然だ。お前はマヤ以外には元々知られていないんだから、そのままでいいだろう。それから、俺たち

は幼なじみで『●△初等科5年生』と言うことにしておこう。出来れば学校の名前などはあまり会話には

出したくないがな。」


「承知しました。」


「だから、そのしゃべり方、なんとかしろ。」


「・・・申し訳ありません。本番はぬかりなく小学生になりきって話しますから。」


はたから聞いたら???な会話をしながら俺たちは電車を乗り継ぎ目的地へ向かった。















「で、どこから入るんだ?」

これからどんな手段で進入するのか、普段の聖のお手並み拝見と、ちょっと緊張しながら聞く。


「無難なところで・・・正面から。」

聖は、俺には予想外の、意外なほどシンプルな方法を答えた。


「それのどこが無難なんだ?!」


「正面から、トイレを借りに走り込むんです。ここの内部の間取りはだいたい判っていますから。トイレへ

行ったふりをして、稽古場へ紛れ込むんです。」


「なるほど。で、それから?」


「多分捕まるでしょうね。捕まったら稽古が見たいと、マヤ様の大ファンであることを大騒ぎして見学を

頼み込みましょう、多分、それで、なんとかなるでしょう。」


「そんないい加減なことで、うまくいくのか?」


「時間もありませんし一番手っ取り早い方法です。余り、いろいろ段取らない方がいいんです。臨機応変

に。『ただの悪ガキのすること』なんですから。」


「なるほど。じゃあ、行くぞ。」


「はい。」


「おいっ、話し方、悪ガキ風!!」


「わか・・・ってるって!」


こうして普段とはちょっと違う人間関係の俺たち二人は、実行にでた。






「すいませ〜ん、トイレ貸してくださ〜いっ、トイレ、どっちですか!!」

そう言いながら、俺たち二人は堂々と正面入り口から侵入した。


「トイレ? ああ、その角曲がったところだ。」

俺たちの勢いにせっぱ詰まったものを感じてくれたのだろうか、入り口の警備員は何も疑わず親切に

トイレの場所を教えてくれた。

それは丁度、稽古場へ続く通路の途中だった。


「すいませ〜ん、お借りしま〜〜す。」

礼儀正しく(?)、そう言いながら、トイレへ走った。

二人一緒に個室の方へ入り、戸を閉めると、少し緊張が解けた。


(まずは第一段階成功・・・。)


そんなことを考えながら、ふぅっとため息をつくと、

「脱力している場合じゃないぜ、藤村。これからが本番!」

いきなりポンと肩を小突かれて、びっくりして顔を上げると、いたずらっ子のようにキラッと目を光らせ

ながら、ニヤリと笑う聖の顔が目に入った。

さすがは聖、マヤもびっくりのなりきりぶりだ・・・さっきまでの彼はどこへやら、すっかり幼なじみの小学

生悪ガキモードだ。

俺も、気をつけなくては。今俺は、小学生だぞ、小学生・・・(何年前のことだ?)。


呼吸を整え直すと、外の様子をそっとうかがい誰もいないことを確認すると、聖を先頭に稽古場目指して、

一気に走った。足音がなるべく響かないように・・・。


そして俺たちは、まんまと稽古場に紛れ込むことに成功した。







稽古は、一真が記憶を取り戻し、苦悩するシーンだった。

桜小路がやたら気合いを入れて演じているが、そんなのはどうでもいい。

マヤは・・・どこだ?

俺は、マヤを探した、と、少し先にある椅子にマヤは座っていた。

俯いて、今にも泣き出しそうな顔をしている。


(どうした、なにがあったんだ?)

俺は、マヤを見つめた。



その時、


「稽古中申し訳ありません、男の子が二人、こっちに来ませんでしたか?」

と言う声と共に、さっきの警備員が入ってきた。


「あぁ? 何じゃぁ、うるせーぞ!! 」


(まずいっ、黒沼氏の声だっ、しかも、すぐそこじゃないか!)


と思ったのと同時に、逃げるまもなく聖と一緒に首根っこをひっつかまれて、身動きがとれなくなった。







万事休すか?!






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