※ 「JUST SHAKE」 それは、コミックス34巻にて、桜小路が紅天女の配役オーディションの時に着ていた服…。
あまりにインパクトが強かったのでタイトルとして使わせてもらっただけであり、特に意味はありません。。。
冷たい北風は容赦なく吹き荒れ、誰もが身を震わす日々。
彼は大きなビルに背を向け、どうしようもなく嬉しくてたまらないという顔つきをしながら、いそいそと 高級外車の後部座席に身を任せ、都会の中心で愛をさけんでいた。
誰もが知っている、あの大都芸能の社長である。 彼が今、全身から振りまくハッピーオーラは、過去に ”卑劣でクールで手厳しい鬼社長” と恐れられ た男とはまるで別人28号…。
そう、彼らは正真正銘、アツアツ&ラブラブの新婚さんなのだ…!
真澄は満足そうに髪をかきあげた。
それは、本当に頭から湯気がでているのではないか、とバカバカしい心配をしてしまうほどに…。
なにしろ、自分と彼女は互いに引かれ合う磁石のようなもの。 彼女との出会いをプレゼントしてくれた神には、アルディス姫以上の微笑みを返したい気分だ。
そしてとうとう、鼻の下どころかアゴまで伸びきって、ますますだらしのない顔になる。
くだらない下ネタ&ラブラブバカッぷり全開の番組など、全く興味の欠片もなかった人生であるが、自分 が出演するとなれば話は別だ。どうせ出るのなら、桂三枝がソファーから転げ落ちるほどノロけてやり、 世間を赤面させてみたい。
いっぱいな気持ちを更に満たそうと深呼吸をする。
ということ。 これはまさに意外な展開であり…真澄はほんのちょっぴり、僅か0.1mmほどであるが胸を痛めた。
招待状を届けることを決めたのは他ならぬ自分であり、矛盾していると言えばそうなのだが。
過去に数多く妄想した中でも確実に 『叶わぬ夢 ベスト10』 に入るものであり、それが現実となった 瞬間は、夢なのではないか、と、思わずペンを握る手が震えてしまったのをよく覚えている。 …そして、「俺が投函しておこう」と封筒を預かり、出す直前に”真澄&マヤ”とラメ入りのピンクのペン でサインを加え、更にわざわざ文具店で山ほどハートのシールを購入してベタベタと貼り付けたという、 地味ながらも効果抜群の嫌がらせも、思い出すだけで笑いが止まらなかった。
まあ、文具店に足を運んでくれた、頼りになる部下も共犯者というところであろう。
なぜなら、そのようなイジワルな追い討ちが裏目に出てしまい残念な結果を招いた、という事実を思い 出したからだ…。 真澄は悔しそうにフッと表情を曇らせつつ、唇を噛み締める。
そしてヤツのテーブルはウェディングケーキの入刀の際に最もよく見えるように配置済みだったし、その 後のパーティーではマヤとお揃いの高級プラチナ&ダイヤ入りペンダントをさり気なく(わざとらしく)装着 し、特注のライトアップにより眩しいほどの輝きを演出させてやるつもりだった!!!!
ちきしょう…!
・・・”呼んでやった”というより、呼びたくて仕方がなかったというのが本音ではあるが。
もしかしたら、最後の手段として彼に送りつけてやった結婚式のDVDを見たことが原因となり、ショック の余りに引退を決意したのかもしれない。 もしくは、新婚旅行先のヨーロッパでのラブラブツーショット 写真をわざわざ拡大して彼の家に投函させておいたことがキッカケになったのかもしれない…。
る。別に紅天女の一真役など彼でなくても間に合うし、なんなら自分がやってもいいのだ。 真澄は腕組みをし、自分をとことん正当化するなり、満足そうにウンウンと頷く。
と共に姿を消した…という情報がどこからか聞こえてきてはいたが、真澄にとってそんなことは知ったこっ ちゃない出来事だと聞き流した。
もはや凡人になった桜小路など、どうでもいい…。 愛しのマヤにベタベタとまとわり付き、共演をきっかけに接近しようとするウザイ男が消えたなんて、これ 以上に清々しいことはなかった。
いいかな、と真澄は思う。
自分の優しい感情に驚きつつ、胸が熱くなってきた。 いつからこんなに他人に優しくなれるようになったのだろう。 そうだ、こんなに清い心の理由はマヤだ。すべてがマヤのお陰なのだ!
真っ白なセーターに淡いピンク色のミニスカート。黒髪をなびかせながらキラキラとした瞳は眩しすぎて たまらない。まるで野うさぎのように軽やかで可愛らしい・・・。
それほどに今、幸せに満ち溢れているからだ。 ” 幸せは歩いてこない・・だから歩いていくんだね・・・ ”という言葉が身に沁みる。 人生いろいろ…山あれば谷あり!今現在、人生に絶望を感じ落ち込んでいる人がいるのなら、力強く 肩を叩いて励ましてやりたい…! 真澄は心の底からそんなことを思う。
「やあ・・・相変わらず元気だな、君は。 ところで今日は何をしていたんだ?」 彼はさまざまな思考を押し殺し、ウキウキした心を悟られないようにクールな表情を取り繕いながら、 ようやくマヤに声をかけた。 実際には、マヤが ”アナタのことばかりを考えていたの♪…寂しかったわ” などと言いながらキスを ねだったりするシチュが猛スピードで脳裏を駆け巡ったりもしているのだが、そんなことを悟られるわけ にはいかないし、使用人が溢れている屋敷では不可能であろう。
それどころか彼の心にある平穏な浮かれた野山は消え去り、突然出没した大きな火山が噴火寸前 である。
まるでエコーのように彼の頭の中はグルグルとその名前で埋め尽くされる。
…それでも、バカげた心をマヤに晒すわけにはいかない…。 は…う…。
しかし、かなり動揺していたのだろうか…使用人が用意してくれたムートンの高級スリッパに気付かず、 おもむろにサイドのラックにあったマヤのスリッパを手にし、足を突っ込んでしまっていた。 ちなみにそれはマヤが日替わりで愛用している動物スリッパシリーズであり、彼が足を通してしまった のは怪獣の足型をしたカラフルな緑色のモノである。
真澄は首をひねる。 そんな話は聞いたことがない。 …というより、もう芸能界を出てしまった桜小路 に対しては危機感もなく、彼がどうしているなどという調査もさせていなかったのだ。 なんということだ!!…このところ、聖のヤツも気が緩んでいたに違いない!
真澄は呆然としながらもそう答える。
明日なんだって。あたし、明日お休みだから行こうかな、って」
真澄の目がキラリと鋭い光を放った。
もしかしたら怪しげなモノ (研究に研究を重ねた惚れ薬?) などが入っているかもしれない!!
・・・そこまで考えてしまう彼は相当にヤバイ。
真澄は咄嗟に、そう口をついていた。
マヤが嬉しそうな笑顔で飛び上がるのを見て、可愛くてたまらない気持ちになる。 僅かなことでこんな幸せを与えてくれるのはマヤしかいないであろう・・・。
今日も山積みの書類を社長室に置き、残業をほったらかしにして定時ダッシュで帰宅したのだ。 しかし、彼女のこんな顔を見たら、今さら嘘だなんて言えない・・・・(言う気もないが)。
真澄は有能な秘書に感謝していた。
・・・どう考えても重大どころかくだらない用事に間違いないのだが。
は天下一だと思う。 実際にはそこまで怒り狂う真澄の嫉妬深さのほうが天下一とも言えるが。
真澄は遠い目をしながら唇を噛み締めた。
背後から抱きついたりもしていた―― あの時、余りのショックで、心臓に穴が空くかと思うほどの衝撃がズキーーーンと突き刺さったのをよく 覚えている。
…あれは、あいつがわざと嫌がらせをしたんだ!間違いない。
あの日のことだって!!!!!!!!!!
真澄は自分の弱さを棚に置き、過去にまで執着してワナワナと握りこぶしを震わせる。
「こらこら、君は相変わらず子供なんだから・・・」 (と言いながらも口を開けて食べさせてもらう俺)
「ああ・・・君と食べればどんなものでもおいしいけどな♪ 俺は幸せだよ」 ぐっと顔を近づけ、囁くように声を掛ける俺。
「俺も大好きだよ♪今夜のデザートも君自身かな…?隅々までたっぷり味わうとするか…」 「やあだっ☆もう、真澄さんのバカバカッ〜〜♪いや〜ん!!!」
もちろん、こんなバカなこと、とても屋敷内では不可能だ。明日は、ここぞとばかりに発散してやるのだ! ・・・しかも桜小路の目の前で、だ!! 悔しそうにメニュー表などを抱えているヤツの姿が目に浮ぶと、もうそれだけで嫌なことすべてが吹っ飛 ぶ気がしてくる。
準備でもしておきやがれっ)
ったかのようである。 まさに歩く信号男、速水真澄! しかし、彼の信号は変わりやすいので、あまり当てにならない。
ようやく心を落ち着かせた真澄は、爽やかな笑顔でネクタイを緩めながらマヤに問いかけた。
マヤがそう言いながらチラシを差し出すと、真澄は眉をひそめてしまった。
デカデカとした文字で『JUST SHAKE! いよいよオープン☆☆』と書かれている…。 何やら洋食料理メインのレストランらしいが…右下のほうには桜小路一家の写真が載り、ヤツの妹で ある玉美が不細工な笑みを浮かべているのがなぜか目を惹く。 そして更に桜小路の写真の横には ”レストラン界のプリンス”などと書かれている上に、「今夜も…JUST SHAKE☆」という言葉まで。
真澄は心の底からバカにしていた。
「なんだかオシャレな感じよね〜。楽しみだわ」 と、ワクワクしているマヤの姿が目に飛び込み、ピキッとこめかみ辺りに怒りマークが現れる。
しかも、それが桜小路の店だと思うと怒りは倍増どころか100000000000倍だ。
のは不思議だ。ライバルがいなくなったという現実は嬉しい反面、何かが足りないような寂しさがあった のかもしれない。 しかし、彼の場合、それは ”自分とマヤが相思相愛である” というのが大前提ではあるが。
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