キャンプだホイ 1



ギラギラと照りつける太陽が眩しい季節・・・


――真澄とマヤの交際はすっかり世間にオープンとなり、彼らは2ヶ月ほど前からマンションで同棲生活をスタートさせ、夏にも

負けないアツアツなオーラを出しながら幸せに暮らしていた――



そんなある日のこと・・・


「マヤ!今度キャンプに行くんだけど、あんたも来る? もしも速水社長が許してくれたら、おいでよ!」

稽古帰りに立ち寄ったアパートで、久しぶりに会った麗は、何も変わらずに気軽に声をかけてくれた。

どうやら、つきかげメンバーと一角獣のみんなでキャンプに行く計画が出来上がっていたらしい。


「ほんと?・・・ちょうど公演が終わる時期だし、行けたらいいなあ・・・」

マヤは目を輝かせながら興味津々という面持ちで身を乗り出した。

・・・長年の付き合いになった彼らと遊びに行く企画となれば、マヤの中で行きたい気持ちは一瞬にして広がっていく。

時が流れて環境が変わろうとも、こうやって気を遣わない仲間たちとワイワイ楽しめるというのは幸せなことだ。

マヤにしてみれば、最愛の人である真澄と過ごす時間も、そして友達と過ごす時間も、同じように大切な事なのだ。


「速水社長なら、別にうるさい事言わないだろう?あたし達の絆の深さも知っているんだしさ!」

「うん・・・・」

マヤは即答したものの、それでも一応、彼に許可をもらったほうがいいかな、と思った。 単に付き合っているだけではなく、

一緒に暮らしているとなれば、外泊は許可がいるような気がしたからだ。 


『まあ、速水さんに限って、こんなことで怒るわけないけどね・・・』

マヤは、何も口を出さないであろう真澄を予測し、少し溜息をついていた。

贅沢すぎるわがままかもしれないが・・・・・本音を言うと、たまにはヤキモチの一つでも焼いて「行くな」なんて言ってくれれば・・・

などと思ってしまう複雑な乙女心が顔を覗かせているのだ・・・。

『でもね・・・速水さんに限って、そんな細かい事に口出しして怒ったりする訳ないしね・・・』

マヤはクスッと苦笑いをし、麗から受け取った麦茶のグラスをゆっくりと傾け、真澄の顔を思い浮かべてみる。

『あたしなんて、速水さんが綺麗な女優さんと打ち合わせしているだけでも嫉妬しちゃう事もあるのにナ・・・』

彼女の脳裏には、いつも冷静沈着で大きく包み込んでくれる真澄の姿が映し出されていた。



・・・・・・それが仮面を被っている真澄の仮の姿だとは一ミリも疑わず・・・・・。


――彼女は、どれほど真澄がマヤを想い、発電所並みに嫉妬心をメラメラと燃やしているかなど、知る由もなかった・・・。








「速水さん・・・あのね、今度キャンプに行きたいの・・・。麗たちに誘われてて。1泊でね、割と近くの場所なんだけど、

ダメかなあ・・・一角獣のみんなも行くの・・・・」

『なっ!!!!!』

嫉妬深い真澄は、当然ながら少し不機嫌になり、ピクリと眉を動かしていたが、そんなくだらない嫉妬で彼女を縛りつけるわけ

にはいかず、必死で気持ちを押し殺して言った。


「ああ・・・つきかげのメンバーと一角獣か・・・。別にいいんじゃないか?」

「ほんと?やったあ〜!ちょうどオフになりそうなの!!!嬉しい!!」

マヤは眩しいほどの笑顔で声を高くして叫んだ。



ところが真澄は・・・・・


「・・・・思う存分に・・・楽しんでくるといいさ・・・・」

と、思ってもいないセリフを吐きながら心の中にどんよりと重苦しい雲が広がるのを感じていた。


・・・本当を言うと、いつでもマヤが自分の目の届く範囲で行動して欲しい気持ちでいっぱいなのだ。 

公演やロケならまだしも、プライベートで遠出するとなると、数々の不安や寂しさが襲い掛かり、想像しただけでもキリキリと胃が

痛み出してしまう・・・。


『・・・キャンプだと??なぜそんな不便な場所へ!?だいたい、マヤは自分と関わること以外に楽しい事が多すぎるんだ!』


真澄は次々と沸き起こる怒りや不安を抑えながら、あれこれと思考を巡らせていた。 


『・・・もしも俺がマヤの立場だったら、友達とキャンプに行く為に遠出しようなどとは思わないだろう。

それどころか、オフの日は大都芸能の社長室に弁当を届けたり、用事もないのにそのまま居座ったり、それでも寂しくて

帰りまで子犬のように待ち続けているに違いないであろう。 ・・・それなのに君って子は!!

ああ、1メートルでもマヤが遠くに行ってしまうと思うだけで胸が潰れそうなほどに悲しくなってしまう・・・』

真澄はチラリとマヤの顔を窺い、彼女に対する想いの深さを実感する。


『俺以外のメンバーとキャンプなんかに行って何が楽しいんだよ!?マヤ・・・・!!』

真澄は遠い目をしながら、ソファーに腰掛け、溜息をつきながら天井を仰いだ。




「速水さんも行けたらいいのにナ・・・忙しいから無理・・・よね?」

マヤがボソッと呟くと、バカなことを考えていた真澄はハッとなった。

「いや・・・それは日程的に無理だ。しばらく休めそうにないんだ・・・付き合ってやりたい気持ちは少しはあるんだが・・・」

・・・少しどころか行きたくて仕方がないクセに。


「じゃあ、仕方ないね・・・」


真澄は、ガッカリとしているマヤが愛しくてたまらなくなり、少しだけ心に日差しが戻ってきた。

『そうか、俺と一緒に行きたかったんだな・・・可愛いな。 きっと君はキャンプ中も俺の事を思い出して心に穴が空いたような

気持ちで夜空を見上げたりするんだろう・・・。俺はいつも君に会えない日はそうなんだよ・・・』

真澄がそう勝手に解釈して満足気にしていると、早くもマヤは立ち直って自作のを歌い出した。


「楽しみ〜♪楽しみ〜♪ 早くオフにならないかな〜〜っっっ♪♪♪キャンプだホ〜イ♪ホイホイホイ〜♪」


「・・・・・・・・・」

真澄の心には再び雨雲がかかる。

『ちぇっ・・・俺がいなくても平気なのかよ・・・。俺なんて、君がいなければパーティーもゴルフも映画も、何一つ楽しい事なんて

ありゃしないのに・・・』

まるでカビでも生えそうなほどジメジメとした思考である。


どう考えても、マヤのほうが格段に考え方が大人であり、気持ちの切り替えが上手いらしい・・・。

『ふんっ・・・おもしろくないぞ!! こうなったら、季節外れの大雪でも降って中止になってしまえ!! ・・・いや、それでもマヤ

の事だから、俺を忘れてみんなと楽しく雪合戦か・・・・』


・・・もはや、ドライペットも役に立たないほどの湿気を抱え込んでいる真澄・・・・。大都芸能の社長ともあろう者が・・・。





・・・そんな心の狭い真澄の心の声にも気付かず、マヤはウキウキと飛び跳ねながらスケジュール帳を抱え込んでいた。






――それから数日後――

マヤがキャンプに参加することを知った桜小路は、お約束通りというように、まんまとメンバーに加わる事になっていた。


『フフフ・・・・マヤちゃん・・・いくら速水社長と一緒に暮らしているからって、ボクの気持ちは変わらないよ・・・。キャンプで

ボクの男らしさとやさしさに気付けば、速水社長の事なんて忘れられるサ!』


・・・いつまでも諦めない、しつこい男・・・・それが桜小路優だ!

彼はニヤリと不適な笑いを浮べ、マヤとの素敵な1日の為に準備を進めていった。

『よ〜し!おニューのTシャツを買うぞっ♪ イカしたネーム入りだぜっ!ボクのセンスがキラリと光るのサ!!』

早くも浮かれ気分で絶好調の桜小路・・・。



・・・・・が、甘かった・・・・・。キャンプに桜小路が加入したことを、真澄が知らない訳はない。

「なに!!? 桜小路のヤツめ・・・俺のいない間にマヤに接近しようとするなんて、とんでもないヤツだ!」

真澄は、相変わらず聖にくだらない調査をさせ、報告を受けると、ビルの地下駐車場で響くほどの大声で叫んだ。

人目を気にして密会しているつもりなのに、真澄の叫び声でヒヤヒヤと辺りを見回す聖・・・。 ・・まあ、こんなくだらん

調査内容が漏れてもどうでもよいのだが。


沸騰したマグマのような怒りを握りこぶしに表し、駐車場の壁をパンチする真澄。


――桜小路のことだ・・・きっと、キャンプファイヤーでマヤとツーショットになり、甘い言葉なんぞ囁くかもしれん!

いや、それだけじゃない・・・一緒にマイムマイムなんて踊ろうとしているのではないだろうか――!?


「ゆ、許さん・・・!!」

真澄の頭の中には、マヤと桜小路が楽しそうに手を繋いで踊っている姿が映っていた。 パチパチと燃える火を囲み、

楽しそうに笑っている2人の姿・・・。マヤのことだから、燃える火を見て『八百屋お七』の感覚を取り戻し、勘違いして奴の

胸で燃え尽きるかもしれない・・・。

「桜小路〜!!てめえはマイムマイムは舞ちゃんと踊ってろ!そしたら『舞とマイムマイム』で最高だ!」

怒りの余り、真澄の思考回路はメチャメチャに壊れかけていた。


「ま、真澄様・・・落ち着いて下さいませ・・・・」

相変わらずテンションの高い真澄に、聖は滝のような汗で対応する。

それでも全くお構いなしの真澄。

「くそう・・・こうなったら!!」



彼は重要な会議を強引に他の日にずらし、無理やりキャンプに同行することを決めた。




その日の夜・・・


「マヤ・・・俺もキャンプに参加することにしたよ」

「え?!?!!?」

真澄の言葉を聞き、マヤは絶句する。 ちょうど今日、桜小路がメンバーに加わった事も知らされていたのだ。

『やだ・・・桜小路くんが加入することが決まったばかりなのに・・・・。偶然とは思えないわ!!』


――マヤは、あの花見騒動の出来事を思い出し、青ざめた顔で立ち尽くし、真澄の顔をうかがっていた――。


実はあれから、まだまだ真澄に対する怪しげな噂は週刊誌を賑わせ、誤解も完全に解けたわけではなかった。

真澄は否定していたが、以前に彼と深い付き合いがあったという若手俳優まで現われ、マヤを不安にさせることが

度々あった。もちろん、それは全くのデマであったらしいが・・・・。


そして、桜小路との関係。 

どこかでこの2人がバッタリと会った時など、それはもう熱い視線を絡ませているのだ・・・。

2人の意識しあう姿は、やっぱりどう考えても普通じゃない・・・。


マヤはバカバカしい不安を胸に抱え、真澄に声をかけた。

「あの・・・桜小路君も来るみたいなの・・・・」

またややこしい事にならないように、マヤは隠しておくつもりだったのだが、彼の様子を試すつもりでそう告げた。


「ん?ああ、そうなのか・・・」

ものすごい棒読みで目を逸らして答える真澄。 ・・・マヤにはすぐに演技だと分かった。

・・・こんな風にわざとらしく知らなかったフリをする彼がますます怪しいではないか・・・。


そういえば、桜小路もしきりにマヤに「速水社長は来ないの?どうしても来れないの?」などと聞いてきたのだ。

・・・めまいがしそうなほど、不安が押し寄せてくる。


『でも・・・まさか・・・まさかね・・・・今はあたしと一緒に暮らしているんだし・・・。速水さんも桜小路君に対しては

”これからは友達だと思えるように努力する”って約束してくれたし・・・・』

マヤが必死でそう落ち着こうとしているというのにも気付かず、真澄は上機嫌でブランデーグラスを傾けていた。


『フフフ・・・マヤと過ごすテントは快適だろうな・・・。たまにはいつもと違う場所で熱い夜を過ごすのもいいな・・・。

おっと、桜小路のヤツに聞こえてしまうといけないな・・・。いや、それもまたいいぞ・・・フフフ・・・』

窓の外をじっと見つめ、ニヤニヤと意味深な笑みを絶やさない真澄。

マヤはゴクリと息を呑む・・・・。

『嫌だわ・・・・!!また変な病気が復活したのかしら!?!?』







・・・花見に続き、再び騒動が起きそうな予感である・・・・









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