キャンプだホイ 2



――キャンプ当日――


「速水社長!マヤ!!こっちこっち〜!!」

待ち合わせ場所に到着すると、すでに集合していたみんなが手を振って出向いてくれた。

「ごめんごめん!!お待たせ〜!」

マヤも大きく手を振り、真澄と共に駆け足で彼らに近づいていった。


メンバーは、一角獣から3人。つきかげから3人。そして、マヤ・真澄・桜小路で、あわせて9人・・・・。

残念ながら、舞はいなかった・・・。

どうやら、最近彼女は桜小路から離れてしまったらしい。 真澄は密かにこのキャンプに彼女を参加させるように仕向けようと

作戦を練っていたのだが、失敗に終わってしまった・・・。


『うーむ・・・こうなったら、何としてでも俺がマヤを守らなくては!!』

真澄は、しっかりとマヤの手を掴み、気合を入れて向かっていく。


「おはよう!マヤちゃん♪・・・・速水社長も・・・」

桜小路は挑戦的な表情で彼らを出迎え、キラリと目を光らせていた。


・・・ちなみに彼のファッションは、遠目からでもハッキリと分かるほどの濃い蛍光水色のTシャツで、大きな白い文字で 

『ENJOY SUMMER!!』とプリントされ、背中にはアザラシのようなイラストと 『FOR YOU★』の文字が・・・・。


「マヤちゃん!どう?この新しいシャツ!流行の最先端ってカンジだろっ!?」

「え・・・ええ・・・素敵な色ね・・・」

マヤは、これといって誉める箇所が浮かばず、とりあえずシャツの色に関してだけ誉めているようだ。



・・・そして、そんな2人の何気ない会話を聞き、早くも怒りモードに突入しそうな真澄・・・。

『ケッ・・・流行だか何だか知らんが、相変わらずのセンスだな・・・。一回の洗濯で色落ちしそうなカラーシャツなんて着やがって。

遭難してもすぐに見つけてもらえるように選んだつもりか!?ついでに、お前の人生から『ENJOY』なんて言葉は俺が削除済み

なんだよっ!!』

真澄は桜小路の顔を見るだけで体温が上昇しそうになり、サッと下を向いて怒りを抑えていた。


「さあ、全員揃ったから、出発だ!!」

そんな彼らの雰囲気を壊すかのように団長が叫び、真澄はハッとしてマヤの手を取ると、桜小路から遠ざけ、背中を向けた。



団長は、すぐ近くに駐車してあった大型のワゴン車にエンジンをかけると、真澄とマヤから手荷物を受け取り、車内へと積み込む。


「わあ〜中も広いのね!!」

マヤは嬉しそうにそう叫ぶ。


「さ、乗った乗った!」

・・・みんなに押されるようにして真澄とマヤは車内へと進むことにした。


シートは3人乗りがメインになっていて、順番的にも とりあえずマヤ達が一番後部の座席に座ることになりそうだ。

「速水さん、窓側どうぞ!」

「・・・そうか・・・じゃあ・・・」


そうして真澄が一番先に乗り込み、当然のようにその隣にマヤが座ろうとしたその時だった!!

「じゃ、ボクも乗るよ〜」

・・・なんと、桜小路が、堂々とマヤに続いて座ろうと進入してきた。


――このままではマヤが真ん中になってしまう――


『桜小路め!!そうはさせるか!!』

「きゃっ!?」

マヤは小さく叫び声をあげ、ストンと窓側の席へと腰を落とした。

・・・真澄は一瞬でマヤを窓側へと押しのけ、自分がシートの真ん中になるように座ったのだ。


当然、マヤの隣を狙っていた桜小路はムッとして真澄に視線を向けた。

『くそうっ・・・これじゃあマヤちゃんの横顔も見えない・・・・』

『ふんっ・・・バカめ・・・マヤの隣に座ろうとするなんて、ずうずうしいんだよっ!!』

真澄と桜小路はバチバチと視線を絡み合わせ、その周辺だけ何とも言えない雰囲気が漂っていた。


『速水さん・・・桜小路君も・・・・・・やっぱり変!!速水さん・・・あたしを押しのけて桜小路君の隣に!!!』

気が気でないマヤ。


「じゃ、みんな乗ったから出発するよ〜」


・・・こうして、くだらない小さなバトルを無視するようにして車が発進した。





あれこれと楽しい話題が飛び交う中、真澄は移動中も桜小路の方向ばかり気にし、桜小路も落ち着かない様子であった。

『やだ・・・速水さん・・・あたしの方は見向きもしないのに・・・・・』

マヤは、怪しげな2人の動きが気になって仕方がない。


・・・彼女が不安に思っているのも知らず、バカバカしい行動を繰り返す男2人がそこにいた。


桜小路が少しでも前に屈めば、真澄も屈み込む。 桜小路が背もたれに体を任せれば、 真澄も素早く背伸びをして

もたれかかる。 真澄は、桜小路が一瞬でもマヤの顔を覗き込もうとするのを阻止していたのだ。

『お前にはマヤの横顔を見る権利は欠片もないんだよっ!!』

気合たっぷりの真澄・・・。


しかし、傍から見ると、彼らのその動きはまるで、2人ペアで”鏡のパントマイム”でもしているように息がピッタリであった。

そのスムーズな動きに、マヤは眉をひそめてしまう・・・。


『2人とも何してるのかしら・・・? ”人間と影”のパントマイムかしら・・・・?速水さんったら、いつの間にあんな技を!!』

『くっ・・・速水社長めっ!!邪魔だっ!!』

『ふふん・・・ざまあみろ!桜小路っ!!!』



・・・しばらくバカな行動が繰り広げられたが、ようやく諦めたのか桜小路は背もたれに大きくもたれ、溜息をついた。

『ちくしょおおおおお〜〜っっ!!!』

そして、軽くチッと舌打ちをして顔を伏せていたのだが、突然何かをひらめいたように、ゴソゴソとリュックからガムを取り出した。

フフッと顔を隠して笑う桜小路・・・。


「あの・・・これ、よかったら・・・」

彼はそう言いながら、2人にガムを差し出してきた。  ・・・どうやら、ガムをキッカケにマヤと交流しようという作戦らしい。

真澄はジロリと睨みをきかせる。


「あ・・ありが・・・」

マヤがそこまで言いかけて手を伸ばしたその時・・・・・それをさえぎるようにして真澄が手を出し、2つとも受け取った。


「もらうよ。ありがとう。」

「!!!!!!!」


真澄は受け取ったガムを無言で上着のポケットに2つとも収納した。


『速水さんっ・・・・・桜小路君のくれたガムをあんなに大事そうに!!!』


マヤはカッとなり、思わず真澄に小声で声をかけた。

「あの・・・あたし・・・ガム食べたいんだけど・・・」

マヤの言葉に対し、真澄は真剣な表情で嗜(たしな)めるように言った。

「バカッ!こんな甘いガムを食べて虫歯になったらどうするんだ?女優は歯が命だ!そんなにガムが食べたければ、後で俺が

サービスエリアで店中のキシリトールガムを買占めしてやるから我慢するんだ!」

「・・・・・!!!」

「・・・!!!」


訳の分からない説得も、真澄に言われるとなんだか妙に正しく思え、桜小路もマヤも黙り込んだ。

『ひどい・・・そんな無理やりな言い訳をして、桜小路君からもらったガムを独り占めするなんて!』

顔面蒼白のマヤ。


『速水社長・・・・覚えてろよっ!!!』

桜小路は、ムッとした表情で真澄に視線を向ける。


・・・そこには、涼しい顔をして前を見つめる余裕の真澄がいた。



イラスト  ルウキ様






「わあっ!!素敵な場所!!空気もおいしい〜♪」

ようやくキャンプ場に到着すると、マヤは大きく深呼吸してそう言った。

「だろう?僕が調べてココに決めたんだよ!アハンッ★」

ピースサインをして鼻を高くしている桜小路がいたが、真澄は軽く無視してマヤの手を取り、彼から遠ざける。


『フンッ・・・くだらん事を自慢しやがって。情報誌をめくるくらい、サルでもできるんだよっ! 俺なら、マヤが気に入ったこの山を

買い取る事くらい朝飯前なんだからな・・・・!!!』

2人は、到着早々からバチバチと視線を合わせてバトルモードに突入しそうな気配だ。


「と、とりあえずテントでも張ろうか・・・・」

一角獣のメンバーらが声をかけると、ようやく2人は視線を外し、距離を置いた。




「手分けして作業しないとなあ〜早いうちに作っちゃおうゼ!」

一角獣メンバーの手によって車からテント類が運び出されていく。

そこへ、

「あ、僕もやるよ!」

と、不適な笑いを浮かべ、爽やかに駆け出して行く桜小路。


『フフフ・・・速水社長なんて、きっとテントの張り方も知らないのさっ。今こそ、僕の活躍ぶりをアピールだ!!』

桜小路がウキウキ気分でとテントを広げ始めると、真澄はスタスタと彼に近づき、冷ややかに声をかけた。


「おい、もっと平らな場所に敷かないとだめだ。それに、目立つ石などは予め取り除くのが基本だろう?」

「!!!!」

真澄に最もな事を突っ込まれ、フリーズする桜小路。


「そうそう、それは基本だぜ。あんまり早まらないほうがいいぞっ」

団長にもそんな事を言われ、桜小路は唇を噛み締めた。

『うぬぬぬぬ・・・!!余計な事をっ!!』



一方、真澄は余裕の表情でテントの設置に取り掛かっていた。

『フフフ・・・桜小路め!俺を見くびるなよっ・・・』

・・・実は彼は、先日から仕事をするフリをしながら何度もパソコンで”キャンプの楽しみ方”などを紹介しているホームページを

参照してきたのだ。

『何事も自前に調査して手回しをしていくのが俺のやり方だ!ククククッ・・・』



「速水社長って、こんな事もスイスイできちゃうんだ!すごいな〜」

「ハハハ・・・これくらいは人として生きていく上での一般常識さ・・・」

真澄が絶賛されるのを見て、桜小路は悔しくてたまらないようだ。 早くも乱れがちなチームワーク・・・。もはやキャンプの意義は

どこへやら・・・。



・・・それでもどうにか手分けして順調に組み立てが進むと、次に金具で四隅を固定する段階になった。

「これさえ打ち付けてしまえば、後は楽だな・・・」

団長がそう言った。

・・・それを聞いてニヤリ、と笑う桜小路・・・・。

『勝負はこれからサ!!』

・・・彼は、おもむろにネーム入りの”MY金づち”をポケットから取り出し、クルリと一回転した。


「あら、桜小路君、準備がいいのね・・・」

「アハン★これくらいは当然さっ♪マヤちゃん♪」

マヤと桜小路の会話を聞き、ピキッと反応する真澄。

『くだらんっ!トンカチを常備しているヤツなんぞ、ただのバカじゃないか・・・!役を降ろして大道具担当にしてやろうか!!』


真澄が睨みを聞かせていると、桜小路は軽く笑みを浮べて一呼吸おき・・・・突然、目にも留まらぬ早業で金具を打ち付けた。


カカカカカカッ・・・・カンッ・・・・・!!!


それはまるで、仏師海慶が仏像を掘り出すかのように、熱く真剣な表情であり、スピード感が溢れていた。

「すごいっ!すごいわ・・・桜小路君!!」

マヤが彼に目を奪われているのに気付いた真澄は、近くにいた一角獣の団長から金づちをひったくり、桜小路に負けないように

勢い良く金具を打ち付けた。

カンコンカンコンカンコンッ・・・・・・!! 


それを見た桜小路も、負けるものかと一層スピードをあげる。

カカカカカカッ!!!


・・・2人の金づちの音色が響き渡るキャンプ場・・・・。みな、息を呑む。

真澄も奮闘していたが、桜小路のスピードにはとても追いつけない。

――本来は速さを競うようなことではないのだが―――。


『フフフ・・・・まさか仏像彫りの修行がこんなことで役に立つとは・・・・・いつまでも彫刻刀だけ使ってる僕じゃないのサ。』

桜小路は余裕の表情で真澄をチラチラと見てきた。

『くそっ!!俺としたことが!!!』

真澄は焦りながらも必死で手を動かす。

カンコンカンコンカンコンッ・・・・・・!!

カカカカカカッ!!!


音だけ聞いていても勝負は決まったかのように見えた・・・・・・が・・・・その時!!



痛っっっ!!

・・・桜小路はよそ見をしたせいで手元が狂い、思いっきり自分の手に金づちを強打させてしまったのだった。


『ケッ・・・バカなやつめ・・・・』

真澄が含み笑いをしてその様子を見ていると、マヤがすぐに桜小路の元へと駆け寄った。


「大丈夫?桜小路君・・・・!!手、見せて・・・・」

『なッ!!!!!!!!!!!!!!!』

真澄は白目になり、金づちを放り投げると大慌てで2人の近くへとダッシュした。 


今までの作業だけでも息切れしそうにハードであったが、更にダッシュした事で疲労が激しいが、今はそれどころではない!


「すぐに手当てしないと大変だ!! こっちに来い!!」

真澄はマヤよりも早く桜小路の腕を掴むと、無理やり腕組みしてそう叫んだ。

「!!!!!!」


ズルズルと引きづられるようにして連れ出される桜小路。 彼らの呼吸は乱れ、ハーハー言いながら森の方へと消えていく。

2人が遠ざかっていくのを見て、みんなは息を呑みながら見つめていた。 

もちろん、マヤのようにバカな勘違いはしている者は誰一人いず、嫉妬深い社長が桜小路を影でボコボコにするのではないか、

と心配しているのだが・・・。


『2人で・・・あんな森の陰に行って!!! ・・・嫌・・・嫌だわっ!!!!』

マヤは、怪しげな2人の様子を見ながら泣きそうになっていた。



そんな事も知らず、桜小路の腕を掴んだ真澄は、みんなの声が聞こえない位置まで来ると、更に強く腕を掴み、睨みをきかせた。


「・・・いいか、今後、俺の気に障るような事をしたら承知しないから覚えておけ・・・」

その声は低く冷ややかで、桜小路は思わずゾクリとさせられた。

・・・このセリフをマヤの前で言えば誤解もなかっただろうに・・・。 いや、真澄はマヤの前で嫉妬心を向き出しにするなんて事は

できないので仕方がない。


「べ、べつに僕は・・・・。マヤちゃんとは昔からの友達ですから!」

桜小路はそう言い放つと、真澄から腕を振り解き、勢い良く駆け出していった。


『ふんっ!!気弱なヤツめ!!』

真澄はポケットからタバコを取り出すと、ひとまずホッと息をつき、逃げ去った桜小路の背中のアザラシのプリントシャツを見つめ

ながらカチリと火をつけた。



そして・・・真澄が桜小路に向けていつまでも視線を送っているのを遠くから怪訝そうに見つめている可哀想な(バカな)マヤ。




『速水さん・・・!! 桜小路君が嫌がっているのに・・・無理やり何をしようとしたのかしら!?!?』





・・・波乱が予想されるキャンプはまだまだ続く・・・・・。









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