待ち合わせ場所に到着すると、すでに集合していたみんなが手を振って出向いてくれた。 「ごめんごめん!!お待たせ〜!」 マヤも大きく手を振り、真澄と共に駆け足で彼らに近づいていった。
残念ながら、舞はいなかった・・・。 どうやら、最近彼女は桜小路から離れてしまったらしい。 真澄は密かにこのキャンプに彼女を参加させるように仕向けようと 作戦を練っていたのだが、失敗に終わってしまった・・・。
真澄は、しっかりとマヤの手を掴み、気合を入れて向かっていく。
桜小路は挑戦的な表情で彼らを出迎え、キラリと目を光らせていた。
『ENJOY SUMMER!!』とプリントされ、背中にはアザラシのようなイラストと 『FOR YOU★』の文字が・・・・。
「え・・・ええ・・・素敵な色ね・・・」 マヤは、これといって誉める箇所が浮かばず、とりあえずシャツの色に関してだけ誉めているようだ。
『ケッ・・・流行だか何だか知らんが、相変わらずのセンスだな・・・。一回の洗濯で色落ちしそうなカラーシャツなんて着やがって。 遭難してもすぐに見つけてもらえるように選んだつもりか!?ついでに、お前の人生から『ENJOY』なんて言葉は俺が削除済み なんだよっ!!』 真澄は桜小路の顔を見るだけで体温が上昇しそうになり、サッと下を向いて怒りを抑えていた。
そんな彼らの雰囲気を壊すかのように団長が叫び、真澄はハッとしてマヤの手を取ると、桜小路から遠ざけ、背中を向けた。
マヤは嬉しそうにそう叫ぶ。
・・・みんなに押されるようにして真澄とマヤは車内へと進むことにした。
「速水さん、窓側どうぞ!」 「・・・そうか・・・じゃあ・・・」
「じゃ、ボクも乗るよ〜」 ・・・なんと、桜小路が、堂々とマヤに続いて座ろうと進入してきた。
「きゃっ!?」 マヤは小さく叫び声をあげ、ストンと窓側の席へと腰を落とした。 ・・・真澄は一瞬でマヤを窓側へと押しのけ、自分がシートの真ん中になるように座ったのだ。
『くそうっ・・・これじゃあマヤちゃんの横顔も見えない・・・・』 『ふんっ・・・バカめ・・・マヤの隣に座ろうとするなんて、ずうずうしいんだよっ!!』 真澄と桜小路はバチバチと視線を絡み合わせ、その周辺だけ何とも言えない雰囲気が漂っていた。
気が気でないマヤ。
『やだ・・・速水さん・・・あたしの方は見向きもしないのに・・・・・』 マヤは、怪しげな2人の動きが気になって仕方がない。
もたれかかる。 真澄は、桜小路が一瞬でもマヤの顔を覗き込もうとするのを阻止していたのだ。 『お前にはマヤの横顔を見る権利は欠片もないんだよっ!!』 気合たっぷりの真澄・・・。
そのスムーズな動きに、マヤは眉をひそめてしまう・・・。
『くっ・・・速水社長めっ!!邪魔だっ!!』 『ふふん・・・ざまあみろ!桜小路っ!!!』
『ちくしょおおおおお〜〜っっ!!!』 そして、軽くチッと舌打ちをして顔を伏せていたのだが、突然何かをひらめいたように、ゴソゴソとリュックからガムを取り出した。 フフッと顔を隠して笑う桜小路・・・。
彼はそう言いながら、2人にガムを差し出してきた。 ・・・どうやら、ガムをキッカケにマヤと交流しようという作戦らしい。 真澄はジロリと睨みをきかせる。
マヤがそこまで言いかけて手を伸ばしたその時・・・・・それをさえぎるようにして真澄が手を出し、2つとも受け取った。
「!!!!!!!」
「あの・・・あたし・・・ガム食べたいんだけど・・・」 マヤの言葉に対し、真澄は真剣な表情で嗜(たしな)めるように言った。 「バカッ!こんな甘いガムを食べて虫歯になったらどうするんだ?女優は歯が命だ!そんなにガムが食べたければ、後で俺が サービスエリアで店中のキシリトールガムを買占めしてやるから我慢するんだ!」 「・・・・・!!!」 「・・・!!!」
『ひどい・・・そんな無理やりな言い訳をして、桜小路君からもらったガムを独り占めするなんて!』 顔面蒼白のマヤ。
桜小路は、ムッとした表情で真澄に視線を向ける。
ようやくキャンプ場に到着すると、マヤは大きく深呼吸してそう言った。 「だろう?僕が調べてココに決めたんだよ!アハンッ★」 ピースサインをして鼻を高くしている桜小路がいたが、真澄は軽く無視してマヤの手を取り、彼から遠ざける。
買い取る事くらい朝飯前なんだからな・・・・!!!』 2人は、到着早々からバチバチと視線を合わせてバトルモードに突入しそうな気配だ。
一角獣のメンバーらが声をかけると、ようやく2人は視線を外し、距離を置いた。
一角獣メンバーの手によって車からテント類が運び出されていく。 そこへ、 「あ、僕もやるよ!」 と、不適な笑いを浮かべ、爽やかに駆け出して行く桜小路。
桜小路がウキウキ気分でとテントを広げ始めると、真澄はスタスタと彼に近づき、冷ややかに声をかけた。
「!!!!」 真澄に最もな事を突っ込まれ、フリーズする桜小路。
団長にもそんな事を言われ、桜小路は唇を噛み締めた。 『うぬぬぬぬ・・・!!余計な事をっ!!』
『フフフ・・・桜小路め!俺を見くびるなよっ・・・』 ・・・実は彼は、先日から仕事をするフリをしながら何度もパソコンで”キャンプの楽しみ方”などを紹介しているホームページを 参照してきたのだ。 『何事も自前に調査して手回しをしていくのが俺のやり方だ!ククククッ・・・』
「ハハハ・・・これくらいは人として生きていく上での一般常識さ・・・」 真澄が絶賛されるのを見て、桜小路は悔しくてたまらないようだ。 早くも乱れがちなチームワーク・・・。もはやキャンプの意義は どこへやら・・・。
「これさえ打ち付けてしまえば、後は楽だな・・・」 団長がそう言った。 ・・・それを聞いてニヤリ、と笑う桜小路・・・・。 『勝負はこれからサ!!』 ・・・彼は、おもむろにネーム入りの”MY金づち”をポケットから取り出し、クルリと一回転した。
「アハン★これくらいは当然さっ♪マヤちゃん♪」 マヤと桜小路の会話を聞き、ピキッと反応する真澄。 『くだらんっ!トンカチを常備しているヤツなんぞ、ただのバカじゃないか・・・!役を降ろして大道具担当にしてやろうか!!』
「すごいっ!すごいわ・・・桜小路君!!」 マヤが彼に目を奪われているのに気付いた真澄は、近くにいた一角獣の団長から金づちをひったくり、桜小路に負けないように 勢い良く金具を打ち付けた。 カンコンカンコンカンコンッ・・・・・・!!
カカカカカカッ!!!
真澄も奮闘していたが、桜小路のスピードにはとても追いつけない。 ――本来は速さを競うようなことではないのだが―――。
桜小路は余裕の表情で真澄をチラチラと見てきた。 『くそっ!!俺としたことが!!!』 真澄は焦りながらも必死で手を動かす。 カンコンカンコンカンコンッ・・・・・・!! カカカカカカッ!!!
・・・桜小路はよそ見をしたせいで手元が狂い、思いっきり自分の手に金づちを強打させてしまったのだった。
真澄が含み笑いをしてその様子を見ていると、マヤがすぐに桜小路の元へと駆け寄った。
『なッ!!!!!!!!!!!!!!!』 真澄は白目になり、金づちを放り投げると大慌てで2人の近くへとダッシュした。
真澄はマヤよりも早く桜小路の腕を掴むと、無理やり腕組みしてそう叫んだ。 「!!!!!!」
2人が遠ざかっていくのを見て、みんなは息を呑みながら見つめていた。 もちろん、マヤのようにバカな勘違いはしている者は誰一人いず、嫉妬深い社長が桜小路を影でボコボコにするのではないか、 と心配しているのだが・・・。
マヤは、怪しげな2人の様子を見ながら泣きそうになっていた。
その声は低く冷ややかで、桜小路は思わずゾクリとさせられた。 ・・・このセリフをマヤの前で言えば誤解もなかっただろうに・・・。 いや、真澄はマヤの前で嫉妬心を向き出しにするなんて事は できないので仕方がない。
桜小路はそう言い放つと、真澄から腕を振り解き、勢い良く駆け出していった。
真澄はポケットからタバコを取り出すと、ひとまずホッと息をつき、逃げ去った桜小路の背中のアザラシのプリントシャツを見つめ ながらカチリと火をつけた。
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