キャンプだホイ 3




それからしばらくすると全員はようやくテントを張り終わり、近くのテニスコートへ向かうことになった。


ここのキャンプ場にはいろいろな施設が充実していて、乗馬コーナーなども賑わっているようであったが、団長の判断で全員で

テニスをする事に決めたのだ。 

・・・なぜなら、乗馬中に真澄と桜小路の戦いがヒートアップし、猛スピードで馬を走らせて競馬状態になったりでもしたら、キャンプ場

から追い出されてしまう可能性が高いからだ。


・・・ちなみに桜小路の左手は少し腫れた程度で、テニスをするのに支障はなさそうだ・・・。


『フン・・・くだらない運だけはあるんだな・・・お前は見学席で指をくわえて見ていやがれ!!』

相変わらず心の狭い真澄はブツブツ言いながらマヤと肩を並べて道を進んでいった。


「テニスかあ・・・あたし、全然できないのよ〜。飛んでくるボールをよけるのは得意なんだけど・・・」

マヤは、妖精パックの演技指導を受けた時以来、テニスボールを見ると反射的に体をかわしてしまうらしい。


彼女が小さな声で不安そうに呟くと、真澄は余裕たっぷりの表情で彼女に顔を向けた。

「大丈夫だ。俺が手取り足取り腰取りで教えてやるから・・・」

「ほんと?」

さまざまな不安をかき消すようにして、マヤは真澄の隣にぴったりと寄り添った。


・・・そしてその後ろには、まるで背後霊のように存在感を漂わせる桜小路・・・。

先ほど真澄に忠告された彼ではあるが、もちろん、そんな事で引き下がるわけがないのだ。


『よーーーし!!ボクの華麗なスマッシュでマヤちゃんのハートを狙い撃ちだゼッッ★』

『ふん、桜小路め! トンカチひとつ使いこなせないクセにラケットなんて握れるものか!』


お互いに顔を見合わせているわけでもないのに、周りの気温を上昇させるほど、2人はライバル心をむき出しにしていた。


『嫌だわ・・・桜小路君、さっきからずっと あたし達に鋭い視線を向けて!!』

相変わらず、バカバカしい勘違いをしているマヤ。


そして、彼ら以外のみんなは、別の意味でハラハラと様子を見守りながら歩いていた。

・・・このままでは、楽しいはずのキャンプが激しいバトルになり、悪い方向に進んでしまいそうな雰囲気だからだ。


今までは おもしろ半分で見守っていた団長であるが、この事態はヤバイと感じ始め、先頭を歩きながらふいに振り向くと、

こんな提案をしてきた。


「せっかくだから、一角獣VS大都芸能って事で、ダブルスで試合をしたらどうかな!?」


・・・一瞬間が空き、それぞれが顔を見合わせて足を止める・・・。


「あ、それいいね! じゃあ、大都芸能チームは、速水社長と桜小路くんのペアだ!」

麗も団長の意図を察したのか、フォローするようにそう言った。

・・・桜小路と真澄を同じチームにしておけば、なんとか団結ムードで仲良くなれるかもしれないからだ。


ところが、それを聞いた彼らは青ざめた表情でハッとなっていた。


『桜小路君と速水さんがペアを組むなんて・・・・!!』

『なっ!!なんで俺が桜小路とペアなんだよっ!!』

『速水社長と・・・!? 僕はマヤちゃんとペアがいいのに!!』


・・・それぞれが個人的な感情を胸に抱え、何かを言いたくてグッと堪えていた。

大人として、『嫌だ嫌だ!そんな組み合わせは嫌だ〜!』などとワガママを言って暴れるわけにはいかないのが世の常というもの

なのだ。


「そ、そうね・・・頑張って!速水さん・・・桜小路君も・・・」

「・・・ああ・・・そうだな・・・」

「あはは・・・楽しみだナ・・・・」

顔に縦線を入れながら、どんよりと暗いムードが広がっていく3人。 



・・・こうして、それぞれは何度か顔を見合わせながら、重い足取りで目的のテニスコートへと到着した。









「よし!始めようぜ!」

はっきり言って全く気が乗らなかったが、あれよと言う間に『一角獣VS大都芸能』の対決がスタートすることになってしまった・・・。

桜小路が前方、真澄が後方を守るというのも自然な成り行きで決まり、そそくさと構える事に・・・。


真澄はスポーツ全般は得意であり、テニスも自信があるのだが、自前に知っていれば仕事を差し置いてレッスンし、魔球のひとつ

くらい完成できたのに・・・と悔やんでいた。

『まあいい・・・たかが桜小路のヘボ野郎が活躍するとは思えないからな!』

彼はフフフッと笑みを浮べ、余裕たっぷりの様子である。


「おい、お前・・・・足を引っ張るなよ!!」

真澄が軽快なリズムでラケットの素振りをし、冷ややかにそう言うと桜小路はカッとなり、振り返ってきた。


「僕はテニス得意なんですよっ! 体力も自信ありますから!!まだまだ若さが有り余っていますから!!」

「!!!!」

桜小路に『若さ』をアピールされ、ムッとする真澄。

「そうか・・・それは結構だ。 俺も『大都芸能の”宗方コーチ”』と呼ばれている男だからな!!」

思わず早口でそんな事を叫んでしまった。

・・・もちろん、誰もそんな風に真澄を呼ぶ者はいないのだが・・・。


「じゃ、打つよ〜〜!!」


・・・真澄と桜小路が互いの存在を気にしてゴタゴタしていると、あっと言う間に団長からのサーブが飛んできた。


パーンッ・・・・


口先だけだと思われていた桜小路だが、一瞬でヒラリと舞い上がり、思い切り相手コートへとボールを叩き込んだ。

・・・そのスピード感に圧倒され、とても打ち返すことができなかった一角獣チーム・・・。


「すごい!!!」

「カッコイイ!」

見学席からどよめきが起こると、桜小路はクルリと一回転し、『アハン☆』と派手にポーズを決めた。


『くっそおおお!桜小路めっ!!カッコつけやがって!』

真澄は体の奥底からメラメラと炎をあげるようにして桜小路に敵意を抱き、強くラケットを構えなおす。

――2人は同チームでありながらもライバルなのだ――。 


「桜小路君も速水社長も、なんだかすごいやる気だね・・・」

麗がそう言葉をかけると、マヤはハラハラとしながらテニスコートを見つめた。


・・・桜小路も真澄も、人生のすべてを賭けるかのように気合を入れている様子がよく伝わってきた。

もはや、2人の動きは、ダッタン人の矢よりも、そして妖精パックよりも素早く美しく、情熱的だ・・・・。

『すごい・・・すごいわ!! 仕事以外であんなに真剣な速水さんの顔!!!桜小路君と顔を見合わせながら!!』


・・・どう見ても、単にカッコイイ自分をアピールしているようにしか見えないのだが・・・。





――そうして白熱した戦いは進められ、15分が経過――


・・・試合は大都チームが完全にリードし、誰が見てもレベルの違いは明らかであった。

隣のテニスコートなどでは、みな楽しくボールの打ち合いをしているというのに、こちらのコートは命がけだ。

真澄も桜小路も、ひとつのミスさえ許さず、確実にボールを打ち返す。 誰もが無理だと思うような打球を見事に受け、少しでも

自分の手柄になるようにボールを追った。 



いつの間にか、風に乗って舞い上がる美しい二人の男のスマッシュを見るギャラリーでコートの周りが騒がしくなっていた。

マヤは、真澄と桜小路の団結したムードにも嫉妬し、更に黄色い声でキャーキャーと声援を送る周りの女の子にも不安を感じ始める。


『あたしって・・・・本当につまらない子だわ!速水さんとは釣り合わない・・・。いつになっても追いつけない・・・。あなたの心が

見えない・・・・』

桜小路の影響なのか、微妙にポエマーと化しているマヤ。




そして、とうとうラストの打球が彼らのコートに向かって飛んできた・・・。


『俺の手柄だ!!』

『ラストはボクが!!!!』

・・・同じことを考えながら激しくジャンプする2人。 互いの体は空中で「X」の形で交差し、真澄のラケットで勝敗を決めた。

バシーーーーーーンッッ・・・・・


「ゲームセット〜〜!!!」

「おつかれさま〜!!2人ともすごいわっ!!」




桜小路と真澄が滝のような汗で戻ってくると、拍手喝采であった。

「すごいチームプレーというか・・・お互いにフォローしあって、確実にボールを打ち返して・・・。ナイスコンビネーションだ!」

「お花見の時のカラオケのデュエットもすごかったけど、今回の2人の動きにも驚いたぜ〜!」


・・・みんなからは絶賛の嵐であったが、マヤは呆然と口をつぐんだままだった・・・。



「マヤ、君はボールすら当たらないんじゃないのか? 俺がコーチしようか・・・?」

真澄は上機嫌でマヤに近づいていった。 これほどカッコイイところを見せ付け、マヤはどんな顔をしているのだろうか、などと考え、

顔がにやけてしまう。

『また俺のことを惚れ直してしまったかもな・・・俺ってやつは罪な男だ・・・・フフフ・・・・』


ところがマヤは真澄の誘いを断るようにゆっくりと首を振った。なんだか顔色も良くないようである。

「どうしたんだ?マヤ・・・?約束どおりコーチするよ」

「ううん・・・いい・・・。あたし・・・どうせ桜小路くんみたいに上手くできないし。あたしなんかの練習に付き合っても退屈でしょう?」

「?????」


・・・・真澄は怪訝に思ったものの、余りにも今の一戦でハッスルしすぎて腰にきていたので、内心ホッとし、それ以上は強引に

誘うのをやめた。


『いかんいかん、こんな事で腰を痛めたらシャレにならんからな・・・。夜もあるし・・・・』

意味深なことを考えてニヤリと笑う真澄。

「そうか・・・じゃあ、少し休んでいるよ」

真澄は、自分と同じようにヘトヘトになった桜小路を横目で見ると、マヤにちょっかいを出すことはなさそうだと安心し、彼女のそばを

離れていった。


『・・・やっぱり、あたしより桜小路くんのほうが気が合うのね、きっと・・・。悔しいけど、ほんとに楽しそうだった・・・2人とも・・・』

マヤは、自分よりも桜小路を相手にしてパワーを使い切ってしまった真澄の背中を見つめながら途方に暮れるしかなかった・・・。








・・・なんだか知らないうちにマヤの機嫌が悪くなり、テニス後も口数が減っていた・・・。

真澄は何度も彼女を気にかけて声をかけていたのだが原因は分からず、そのまま夕食の時間突入してしまった。

・・・火おこしの準備グループと調理のグループで男と女に分かれてしまった為、しばらくはバトルも休止状態だ。

真澄も桜小路も、マヤが関わらなければ無視状態である。 しかし、そういう場面に限ってマヤは見ていない・・・。


「いい匂いだな〜!お腹空いたな〜!」

少し離れた場所で釣りをしていた団長らが戻ってきた頃、日も暮れて絶好の夕食タイムが近づいてきた。

準備は麗などによって率先して進められ、鍋には大量のカレーが作られたようだ。

ご飯もおいしそうに炊き上がり、組み立て式のテーブルに次々と皿が運ばれ始めた。


「うまそうだな・・・」

テーブルに近づくと、思わずそう声を出す真澄。

以前はカレーといえば、どこかの高級な専門レストランで食べるようなモノだと思っていたが、最近はマヤと一緒に庶民的な味の物

も食べる機会が増え、密かな楽しみであった。


「じゃ、用意できたし、みんな適当に座って〜!!」

お玉を持った麗がそう声を出すと、みんな、わらわらとテーブルに向かう。

そして、マヤが右端の位置に座ろうとしたのを確認した真澄は、すぐさまその隣へと座った。


『よし!まずはマヤの隣は俺のものだ!』

心の中でガッツポーズをする真澄。

当然、マヤの向かいを狙った桜小路はダッシュで近づいてきたのだが、真澄は計算通り、強く彼の腕を掴み、自分の左側へと

座らせた。


「お前はここだ・・・」

「!?!?!」

「!!!!!」


2人の怪しげな雰囲気を見て、マヤは再び不安を抱える・・・。

『速水さん・・・自分の右側にはあたし、そして左側には桜小路君を・・・。それが一番落ち着くって事なのね・・・!!』

実際、桜小路が悪さをしない為にもそれが一番落ち着く場所ではあるのだが・・・。



「さあ、食べようか! おいしくできたよ〜! 味付けはマヤには手伝わせてないし、間違いないよ!」

麗がそう言うと、みんなクスクスと笑いだす。

「ひどーーい!!切るのは手伝ったのに・・・」

マヤが下を向きながら小さな声でそう言うと、麗は笑いながら言った。

「ごめんごめん・・・。えっと、マヤがニンジンをハート型にしたのが一つあるって言ってたよ。入っていた人はラッキーかもね」

「へえ〜!そうなんだ・・・・おもしろいねっ!当たりの人は、いい事あるかもね!」


全員、自分のカレー皿を覗き込む。


そして、特に真剣な眼差しで皿に顔を近づけている男が役2名・・・。 当然、真澄と桜小路だ。

『何としてでもハートのニンジンは、この俺様が!!』

『マヤちゃんのハートはボクのものだっ!!』

2人は、まるで 骨董品の鑑定士のように鋭い目つきで皿を傾けている。


他のみんなは、すぐに顔を上げて食べようとしていたのだが・・・・・・・突然、桜小路が「あっ」と叫び声をあげた。


「あっ!これだ!ボクのお皿の中にハートがっっっ!!」

『なっ!!!!!!!』


桜小路の声で全員が前かがみになり、彼の皿は注目の的となった。

桜小路はゆっくりとスプーンでニンジンを一つ、すくい上げる。

「あ、それだわ・・・あたしが切ったハート・・・ヘタクソだけど・・・」

恥ずかしそうに言うマヤを横目に、桜小路はコサックダンスでも踊り出すのではないかと思うほど浮かれ、満面の笑みで目を

キラキラと輝かせた。

「そうかあ♪・・・なんか嬉しいな・・・アハン☆・・・運命を感じるよ・・・」


そして、その横で怒り狂って震えている真澄・・・。

『許さんっ!!!許さんっ!!! たかがハート型のニンジン一つで浮かれやがって! 俺なんて・・・俺なんて、本物のマヤの

ハートを独り占めなんだからなっ! お前なんて・・・お前なんてっ・・・!!』

前向きな思考ながら、微妙に暗いオーラが漂う・・・。 


「じゃ、じゃあ、食べよう・・・・ねっ!!いただきまーーーす!」

麗が気まずい雰囲気を明るくするようにして大声を出した。

「いただきまーーす!」


・・・そして、どうにか楽しく食事がスタートしたかと思われたその時!!・・・更に真澄に衝撃を与えるようなことが起こった・・・。


「ああーーっと、ちょっと待って〜!!カレーと言えば、コレを忘れちゃいけないよっ!!」

桜小路は、突然そう言いながらいきなり立ち上がると、近くにあった自分のリュックから何やら取り出し、マヤへと手渡した。


『なっ!!!!!!』

一瞬の出来事に、真澄はひどく動揺する。


・・・・桜小路がマヤに手渡したもの・・・・それは、食卓用のソースであった。


「カレーにはソース! ボクは、あの時からカレーにはソースって決めているんだよっ♪マヤちゃん♪」

桜小路がそう声をかけると、マヤは驚いて声を出した。

「ええ・・・あの時から? だいぶ前なのに・・・覚えていてくれたんだ、桜小路君・・・ありがと・・・」


2人にしか分からない会話が繰り広げられ、真澄は思わずスプーン曲げをしそうになるほど怒り狂った。

『何だよっ!”あの時”だと?何の事だ?俺の知らない話題で盛り上がりやがって!! くそっ!帰ったら聖に調べさせてやる!』


・・・別に聖に調べさせなくても、マヤに聞けば済むことなのだが・・・。


『だいたい、わざわざキャンプにソースを持ってくるなんて!!お前はバカかっ!!』

悔しさの余り、うっかり口から言葉が出てきてしまいそうだ。


・・・しかし、そんな真澄の思考とは裏腹に、本当に嬉しそうなマヤがそこにいた。

「ありがとね・・・。やっぱりカレーにはソースがないとね。使わせてもらうね!!」

「喜んでもらえて嬉しいよ・・・フフフ・・・」

桜小路はチラリと真澄に視線を移し、勝ち誇った笑顔になっていた。


『くそおお!!たかがソースでそんなに感動するなら、今度俺が特注で世界一のソースを作ってやる!休み明けには、さっそく

無農薬野菜を作る為の畑を手配だ・・・・!何なら、この山で・・・!!』

真澄は、まるで負け犬のように心の中で吠えるしかなかった。


・・・そしてマヤがソースをかけ終わり、それが桜小路に手渡されそうになると、真澄は慌ててマヤからソースを奪って桜小路に

付き返してやった。 

本当は、マヤがそうするのなら自分もソースをかけてみたい気持ちがあったが、なんだか桜小路に借りるというのが悔しくて

できなかった。 以前にも、家でマヤがカレーにソースをかけるのを見て、少し馬鹿にしてしまったこともあったし・・・。


たかが”カレーにソースをかける”という事だけで、桜小路とマヤが理解し合う2人のように見えて仕方がない。

『くそう・・・・おもしろくないぞ!!』


真澄の悔しそうな横顔をチラリと確認しながら、桜小路は嬉しそうに右手にソースを持ち、自分のカレーにもかけ始めていた。


――ふと、真澄の心の中の悪魔が動き出す――


『目には目を!!!だ!!!!』


――ドンッッッ!!!!――

真澄は、わざとらしく左手を派手に動かし、ソースを持つ桜小路の右手をふらつかせた。


「あっ!!!」

一瞬でソースがドボンとカレーの皿に落下する・・・。

「ああああっ!!」

真澄以外の全員が息を呑んでいるうちに、桜小路のカレー皿はソースの海になっていた。


「カレーがっ!!!!」

泣きそうな顔の桜小路。 ようやくソースのボトルをカレー皿から抜き出したが、その間にもドボドボとソースがかかる。


真澄は何食わぬ顔で冷ややかな声で言った。

「おっと・・・カレーよりも、ソースの方が多そうだな・・・。少し取り分けして処分したほうがよさそうだ・・・」

彼はサッと自分のスプーンを彼の皿に移動させ、近くの取り皿へとソースをよけてやった。


「わ・・・速水社長・・・親切だあ・・・」

みんなが口々にそう言い、再びマヤは瞳孔を開いて視線を泳がす。

『冷血漢の鬼社長で通っている速水さんが、あんなに桜小路君に親切に!!!』


・・・一方、桜小路も意外な真澄の行動に唖然としたままだった。

『速水社長・・・・急にボクに親切に!!?』



――そしてその間に、マジシャンのような手つきで真澄が行った行動に、誰も気付くものはいなかった――。

真澄は数回、同じ作業を繰り返すと、隙を狙って、まんまとハートのニンジンを盗み、自分の皿へと移動させたのだ!

恐るべし速水真澄!! 彼は目標を達成するためには手段も選ばない冷血な男なのだ!


「さ、もう大丈夫じゃないの?桜小路君も食べなよ・・・」

麗が声をかける。

「うん・・・。 あ・・・・ありがとうございます、速水・・・社長・・・」

ちょっと悔しそうに真澄に礼を言いながら、桜小路はようやくスプーンを動かし始めた。


「あれ・・・?ボクのハートのニンジン・・・・???」


真澄は、隣で冷や汗をかいているバカな桜小路をチラリと見て、自分の口の中に広がる、少しソースの味のきついニンジンを

味わっていた。


『フフフ・・・・幸運を手に入れて見せびらかすようなマネをするからだ・・・。浅はかなヤツめ!』


真澄にとって、英介に教えられた生き方がこんなところで役立つ事になるとは・・・。



桜小路は、何度も何度もカレーの具を確認し、一人だけ冷や汗をかきながら食事の時間を過ごしていたようだった。





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