「い、いえ別に・・・・真澄さま!!ちょっとソファーでゆっくりとくつろいでいて下さいませ!」 ・・・そう言うと、真澄を居間に連れ込み、ものすごいスピードでキッチンまでダッシュして、使用人 を呼びつけた。
「・・・速水さまにもジュースで???・・・お二人分を居間にお運びすればよろしいのですね?」 『お願いね』と言いかけて、慌てて訂正する紫織。 「あ、待って!運ぶのは紫織にやらせてちょうだい!」 『そうよ・・・ジュースに薬を入れなくちゃいけないんだもの・・・』 「はい・・・かしこまりました。」 使用人は、今までに見たことがないような紫織の慌てぶりに驚いている様子だ。
紫織・・・。 『さあ、早く薬を取りに行かなくちゃ・・・。』 こういう時、広い屋敷というのは大変不便なものだ。 紫織はさらに息を切らしながら階段をかけ あがり、自室へと向かう・・・。 ・・・そして、勢いよく部屋に突入し、電気もつけずに戸棚を力任せに開け、木箱の中から3センチ ほどの薬のビンをひったくるように掴んで廊下に飛び出し、またキッチンへと急いだ。 もう、自分でも病弱なんだか健康なのか、分からない。 まるで 【一人で大運動会 in 鷹宮邸】 状態の紫織・・・。 彼女は、『借り物競争』でアイテムをゲットしたかのように、ゴールへと向かった。 ゴールはもちろん、 キッチンだ。
「ま、真澄さま!!」 な、なんと、キッチンに真澄が突っ立っている姿が目に映った!! 紫織は目をぱちくりさせ、慌てて薬のビンをワンピースのポケットに隠し、驚きと息切れで声も裏返った 状態で叫んだ。
真澄の方は、涼しい顔をしてヘラリと答えた。
待ちきれなくて。」 紫織が動揺しているにも関わらず、真澄はホイホイとロールケーキの皿とオレンジジュースを運んで いった。 『な、なんて事!!真澄さまがキッチンにまで顔を出して手伝いなんて!!!』
紫織が怒りで震えていると、使用人が申し訳なさそうにそう言った。 紫織はチッを舌打ちすると、 「もう結構よ!」 と、使用人を睨みつけるようにして真澄の後を追い、居間に向かった。
「え、ええそうね・・・ホホホ・・・」 紫織はジュースを口にしながら、なんとか真澄に薬を飲ませる方法を考えていた。
紫織が焦りながら真澄の行動を気にしていると、今までケーキをつついていた真澄が急に紫織の 方を向き、真面目な顔でじっと見つめてきた。
カタンッ・・・とフォークを置いた真澄。 「・・・紫織さん、こんなに離れていたら、あなたの顔がよく見えない・・・隣に座ってもよろしいですか?」 ・・・なんという嬉しい言葉であろうか。 「・・・・ええ、もちろん。」 紫織がドキドキしながらそう答えると、真澄はゆっくりと立ち上がり、彼女の隣に座った。 「ま、真澄さま・・・・」 「紫織さん・・・」 真澄は熱い眼差しでまっすぐに紫織の顔を見つめ、大きな手のひらを彼女の腰の辺りに回した。
真澄は紫織の耳元でそう呟くと、彼女からから体を離してスッと立ち上がった。 『え?な、なに?手に入れたって?まだ何もしてないわよ?真澄さま?』 紫織は呑気にそんなことを考えていたのだが、真澄が解毒剤のビンを手にしている姿を見ると、顔色を 変えた。
慌てて取り返そうとした紫織であったが、薬はすぐに真澄の手によって彼のスーツの胸元のポケットに しまわれた。 全く事情が飲み込めない紫織・・・。 さっきまでの別人のような真澄はどこにもおらず、いつものクールな表情の彼がじっと紫織を見下ろして いる。
「・・・どっ・・・どういう事ですの?」 ・・・真澄は呆れたように息を吐き、先ほどよりも険しい目つきで彼女を睨んだ。
いることぐらい、事前に僕の耳に入るということはお考えになりませんでしたか?」 「・・・・・・・!!」
知らされていたのだ。 「そ、そんな・・・」 紫織は悔しさと恥ずかしさから、真澄を見られず、ただ唇を噛み締めて真澄の言葉を聞いていた。
気付いてすぐに対応できたんですよ。・・・しかし、まさかあの子にまで食べさせるとは・・・・・・解毒剤が 一つしかなかったので焦ったものの・・・一秒でも早く、あの子を元に戻してあげたいのでね。あなたから 手に入れる事にしたんですよ。フッ・・・」
「クククククッ・・・なかなか楽しかったですよ。ああ・・・あなたと一緒にいてこんなに笑えるなんて初めて ですね。」 「・・・・・・。」
こんな卑劣なまねをされるなんて信じたくなかった・・・。」
せんわ!」 紫織は逆ギレすると、真澄に向かってキッパリとそう告げ、バンッッと強くテーブルを叩いた。 ・・・その拍子に、テーブルの上の紫織のジュースグラスが倒れ、紫織の服に飛び散る。 「・・・大丈夫ですか?ハンカチをお貸ししましょうか?」 「結構ですわ!!」 真澄がハンカチを差し出したにも関わらず、紫織はパシリと払いのけた。 「紫織さん・・・今後のことは、あなたの思う通りに致しますよ。 お好きなようにどうぞ。 ただ・・・・」 「ただ・・・・何ですの!!!?」 「いえ、何でもありません。 ・・・・さようなら、紫織さん。」 真澄は紫織に背を向けると、振り返ることもなく出て行った。
「お嬢様!どうなさったのですか? 速水様は急いで帰られましたが・・・。」 使用人の一人が慌てて居間に飛び込み、心配そうに紫織の顔を覗き込む。 「な、何でもないのよ・・・。悪いけど、この部屋の片付けをお願い・・・。」 紫織はそう言ってゆっくりと立ち上がると、額を手のひらで押さえ、ヨロヨロしながら自室へと向かった。
真澄を失うかもしれないという不安と共に、怒りの感情が湧き出てくるのも止められなかった。 『冗談じゃないわ・・・これじゃあまるで、とんだピエロじゃない!!』 紫織は思いきり強くベットに倒れこんだ。
『どうしたら真澄さまと婚約解消しなくて済むのかしら・・・』 『真澄さまがいなくなってしまったら、紫織は生きていけないわ!』
つけると、 「真澄さまなんて・・・真澄さまなんて・・・もう二度と会いたくないわ! 婚約解消よ!!」 と、口に出して叫んでいた。 『・・・・あら・・?紫織ってば、今・・・なんて言ったかしら?』
きた。
まるで、心の中にもう一人別の紫織がそう囁いているように聞こえた。
今まで怒っていた気持ちもどこかにいってしまったようだ・・・。
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