・・・真澄は、この世に奇跡というものが存在することを実感し、今日もせっせと仕事に精を出していた。
そして、そんな社長の豹変ぶりを不審に思う社員の数も半端ではないのは確かであった。 なにしろ、彼は”相思相愛” という言葉を心に思い浮かべただけでもニヤニヤと笑みをこぼしそうになってしまう くらいなのだから・・・。
それは、マヤを泥沼に巻き込むのを防ぐ為、そして鷹宮家に対する気遣いという理由からである。 2人で堂々と街を歩いてデートできる日々は、まだ先になりそうであったが、真澄は満たされた心を抱えながら、 (会えない時間こそが二人の愛を深めていくのさ・・・) などと、余裕の気持ちで書類をめくる。
考えてある。 その日さえ来れば、誰の目も気にしないでどんな事でもできるのだから・・・。
どうしようもないほどラブラブ&エロエロな日々・・・・・!!!)
・・・そんな想像をしただけで、笑いも興奮も止まらない。
――それから数日後――
同じセリフを何度吐き出したのかも分からない。 彼がこんな厳しい表情をするなど、ここ数日では珍しいことであった。
里美は何度かアメリカに渡って英語や演技の勉強を続け、今では日本よりも海外で過ごすことが多くなっていた。
になったのである。
硬く握りこぶしを作り、誰もいない社長室のデスクをドンッと叩くと、飲みかけのブルーマウンテンがカップの中で 大きく波を作り、辺りに飛び散る。
一瞬、我に返った真澄。
そんな事よりも、今は里美茂のヤローの行動のほうが優先順位が先であろう。
させた。 彼の目の前には今、爽やかな笑顔でポップコーンを抱えている里美茂の姿が鮮明に映っている。
今回の突然の事態が悔やまれて仕方がない。
・・・なのに、倒れた俳優の役柄はアメリカ人と日本人のハーフの青年という設定であり、英語ができる里美は ピッタリと条件が合い、また、話題性からいってもベストということで、大多数の者がイチオシしたため、あっと言う 間に話が進んでしまったのだ。 ・・・確かに、一角獣の団長や間進にハーフの役はマズイであろう。
くらいなら、俺を代役として起用してくれっ!!) ・・・真澄はそんなバカバカしい事を言いたい気持ちをぐっと堪え、決断をしなければならなかったのだ。
心の中では煮えくり返りそうなほどの嫉妬を抱えながらも、当然、そんな顔をするわけにいかないのが大都芸能 の社長という悲しい立場であろうか。
真澄は おもむろに体を伏せ、デスクの上に額を押し付けながら小刻みに首を振った。
ジクジクと胸が痛んで止まない・・・。 ・・・ついでに、シャンパングラスを割った手のひらの痛みまでリアルに思い出してしまい、とうとう吐き気まで湧いて きてしまった。
しみじみと実感しつつ、真澄はハッとする。 ・・・そんな事を実感している場合ではない、と・・・。
話もよくあるじゃないか。あいつだって歳をとっているんだし、爽やか笑顔のフェイスなんて、遠い昔の思い出に 決まっている!) 真澄は気を落ち着かせようと、コーヒーカップをひったくるようにして掴んだ。 くだらない事に悩まされていた為に それはすっかり冷めてしまい、まるでアイスコーヒーのようになってしまっていたが、構うことなく、みるみると飲み 干していく。
ことにも気付かないほど動揺していた。
真澄は、そう思いながら、次にマヤに会えるまでの長い長い日々をカレンダーでチラリと確認すると、思わず溜息が でていた。 (会えるのは・・・まだまだ先・・・か・・・・)
無残にもソーサーは割れてしまったようだ。 彼は感情的になると後先を考えずに、ついついグラスやカップに被害を与えてしまうクセがある。 したがって、こんな事は日常茶飯事であり、気にするレベルではないのだが・・・。 ・・・ソーサーの破損よりも、心の傷のほうが大きな問題かもしれない。
真澄はフラフラと立ち上がると、そう自分自身に呪文をかけるように言葉を繰り返していた。
ヤツは海外を中心に活躍し、マヤとの接点もなくなるはず。 我慢だ・・・我慢するんだ・・・速水真澄!)
なかった。
・・・・いや、きっと会える時間があっても言えなかったに違いないが・・・。
運悪く突然の会議に挟まれてしまい、とても会社を抜け出せない状況が待ち受けていたのだ。 もちろん、現場に居合わせることができたとしても、状況は何も変わらないのだが・・・。 それが分かっているからこそ、もどかしくてたまらない・・・。
・・・朝から恐ろしい形相で仕事をする彼に、社員達もオロオロと様子を窺いながら会議の準備などをするハメに なり、真澄と同じように胃を痛めていた。 気まぐれ屋さんの真澄に振り回されっぱなしの大都芸能の社員達は、本当に苦労が耐えないのだ。
勢いよくソファーにもたれかかる。
マヤのことばかりが気になって、ほとんど内容も耳に入っていなかったくせに、ものすごい言い草である。
別室で用意された豪華な重箱の弁当も、ろくに手を付けることができず、苛立ちはつのるばかり。
気にしないようにしていたはずなのに、嫌な事を思い出してしまい、チッと舌打ちをする真澄。 ・・・本音を言えば、あの二人が同じ画面に映る姿は見たくはないのだから。
がいます!』などと宣言する可能性だってゼロではない。
誰に言い訳しているのかもよく分からない。
よく、マヤの出演する予定のドラマの製作発表のVTRが始まった。
思わず小声で叫んでしまう。 彼は無意識にライターを取り出し、意味もないのにフタの部分を親指でカチカチと鳴らし続けながら、食い入るような 体勢になっていた。
・・・自分の会社が関っている大事なドラマなのに、プライベートな感情を出しまくりで本当に情けない社長である。
「!!!!!」 ・・・・ふいにライターをはじく手を止める真澄。
いる。 そして、・・・・年齢よりもかなり若く見えるほど、肌もピチピチと潤っているではないか。 ・・・誰がどう見ても爽やかな好青年に間違いない。
・・・真澄はショックを隠しきれなかった。 彼はマヤよりも11歳も年上であるというコンプレックスに日々悩まされている為、里美の若さビームが眩しく思え たのであろう。
「マヤちゃんはどう思われましたか?」
久しぶりに2人が対面することもあり、予想以上の報道陣が取り囲む中、昔と変わらぬ爽やかさを保っている里美 は、マヤの相手役の地味な俳優以上に目立っているように思える。
・・・マヤも里美も困ったような顔をして立ち尽くしている・・・。 里美はともかく、マヤが意識したように落ち着きのない表情をしているのが腹立たしくも思う。 (くそっっ!!)
ずばりと飛んだ質問にも、にこやかな笑顔の里美茂。 真澄は固唾を飲み込んで画面を見守る。 ・・・どうするつもりであろうか。 何を言い出すのであろうか・・・。
・・・そんな事を言うわけがあるまい。
真澄は震える拳を必死で押さえつけていた。 (落ち着け・・・落ち着くんだ!これはVTRだ!もう済んだことだ!今じゃない!)
・・・なんてことだ!!
思わず怒りの声を絞り出し、ギロギロとテレビ画面を睨みつけていると、里美はようやく口を開いた。
思います。マヤちゃん・・・よろしくね」 里美は甘いマスクでマヤを見下ろしていた。
マヤは驚きながらも顔を真っ赤にして彼を見上げ、カメラのフラッシュは二人に向けて激しく飛び交っていく。 「!!!!!!」
(なんっっ!!!!!!!)
誰かの言葉により、報道陣に背中を向ける形でゾロゾロと役者達が引き下がっていくのを、真澄はフリーズしながら 目で追っていく。
ハンマーで思いっきり殴られたような衝撃が走る。 もはや胃の痛みはエベレスト山の頂上並みだ。
お楽しみに!」 レポーターが楽しそうに語っている・・・。とんでもない番組だ!
しかし、ワイドショーのスタジオコメンテーターなどが、口々に”お似合いの二人ですね”などと盛り上げているのが 嫌でも脳に伝えられ、怒りモードはパワーアップしていく。
怒り狂う余り、真澄は社長室の壁をガツンと殴りつけていた。
状況にあるのがもどかしい。 彼の気持ちを無視するかのように、二人のアツアツムードの写真や映像は、しつこいほどに流され、真澄の寿命 を縮めていくのが腹立たしくて仕方がない。
真澄はテレビの前に向かうと、画面に映る里美の顔を狙い撃ちし、指をはじくようにしてピシピシとぶつけていた。 「こいつめっ!!こいつめェェェ〜!!」
こんなことをしても無意味だと分かっているのに・・・。
真澄はふっと虚しくなり、手を止め、ションボリと肩を落とす。 そして、テレビの電源をオフにすると、トボトボとソファーに戻り、両手で顔を覆うようにして目を伏せた。
・・・それは、自分が一番恐れていること・・・。
(俺が今、突然マヤと別れさせられてしまったら・・・諦められるだろうか・・・?) 当然、答えはNOに決まっている・・・。
どうしてだろう・・・・”万年、友達止まり”の桜小路になら勝つ自信があるのに・・・。
そして、付き合った男・・・・ ポップコーンがよく似合う・・・爽やかな青春スター!
・・・マヤの初恋の相手・・・・。
勝ち誇った笑顔の里美が思い浮かび、真澄は大きな不安を抱え込んでいた。
こんな時にポエマーもどきになっている場合ではないのに、真澄はそんな事をポツリと呟いていた。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||