薄暗い闇の中で、震えるような声が響いていた。 (マヤ・・・・・?)
付き合えません。別れてください・・・」
俺は呆然と立ち尽くすしかできない。 そんなバカな・・・・。
して言い放った。
里美は、強くマヤを引き寄せていく。
動揺しながら叫ぶと、遮るようにして里美が口を開いた。
すべて持っているじゃないですか。僕達はささやかな幸せを大切にして生きていきます・・・」 2人はクルリと背を向けると、素早く俺の元を去っていく。
・・・どうやら、自室のデスクで書類に目を通しながら、顔を突っ伏してウトウトとしていたらしい。
時計は、まだ23時前だ。
(夢でよかった・・・・・) それにしても、なんという嫌な内容の夢だろう・・・。
「・・・・・・」 真澄はフーーっと深く息を出し、椅子を回転させると、無意識に手元にあるリモコンを掴み、テレビのスイッチを入れて いた。 ・・・別に見たい番組あるわけではなく・・・少しでも気を落ち着かせたかったからだ。
など、どれも特に興味を抱くような番組はやっていないようだった。 しかし、別に真剣に見るつもりなんてないのだから、何だって構わないはずだ。
真澄は ぼんやりとそんなことを思い、手を止めた。 それは、話題の女優と俳優を起用し、視聴率もそこそこに取れている連ドラであった。
「タケシ・・・!!」
時間的にも、本日のメイン場面のようだ。
真澄は冷静にそんなことを思いながら見つめていた。こんな風にドラマの良し悪しをチェックしてしまうのは、仕事上の クセなので仕方がないであろう。
・・・そして切なそうな表情を浮かべつつ、男は勝手に電源を切るという行動にでていた。
「俺達は嫌いになって別れたんじゃない。今付き合っている彼氏なんて忘れてくれないか・・・。また二人で・・同じ道 を歩いていこう!」
真澄はどんよりとした気持ちが更に悪化していく気配に気付いたが、それでも話の行方を追い続けていた。
女は戸惑いながら彼が手にした携帯電話を見ている。
真澄の中には、いつの間にか、そんな心の叫びが生まれ始めていた。 先ほどまで冷静に見ていたはずなのに、胸 の奥が熱くなっていくのはどうしてだろう。
男はそう強く言葉をかけて、女を見つめる。
じゃないっ!) ブラウン管の向こうの、しかもドラマの中の女に熱くアドバイスなんぞしてしまう真澄。こんなにドラマに真剣になって しまうのは久しぶりかもしれない。
真澄は思わず息を呑む。 (な、な、なっ・・・!!!)
「愛しているんだ・・・!」 男の言葉に、ポロポロと涙を流し、すがりつく女。 「私だって・・・!あなたを忘れたことなんてなかった!いつか迎えに来てくれるのを待っていたの!」
(とんでもない女だ!!こんなことが許されると思っているのか!!!!!?)
そして、川には、無残にも浮んでいる携帯電話・・・・。
真澄は非常に不愉快な気分でいっぱいであった。 たかがドラマなのに、見知らぬはずの、この女の彼氏が不憫(ふびん)でならない。
・・・古いギャグを心の中で叫びながら、真澄はブチッとテレビの電源をオフにしたものの、怒りは治まらない。
ゼーハーゼーハーゼーハー・・・・ 暗闇で自分の声が響き渡ると、真澄はその質問の答えを把握する。 (あ・・・・・俺だった・・・・・・・・) 「・・・・・・・・・」
こんな時にこんな内容のドラマをたまたま見てしまうという、自分の運のなさにも白目になっていた。 気を落ち着かせるためにつけたテレビのはずなのに・・・落ち着くどころか、不安やら苛立ちが、まるでねぶた祭りでも 始めてしまったかのようにエンドレス状態である(もはや意味不明)。
・・・一人ぼっちの夜は、ますます虚しさを加速させていく・・・・。 ・・・また、嫌なことを思いついてしまった。
今日は満月らしい・・・。 眩い月の光が広がっている。 しかし・・・それを見ても気分は晴れるどころか寂しくて泣きそうになっていくのが分かる。
まるで自分自身に問いながら、歯軋りを繰り返す真澄。
(そんなわけがない・・・・)
ない・・・・。
お互いに好きでいたのに、離れ離れにさせられてしまった、あの二人は・・・。
の恋心を取り戻してしまったのだろうか・・・) 真澄はブンブンと首を振りながら大きく肩で息をつく。
心臓まで痛い気がした・・・。
(体型だって昔の俺のようにスマートだし、どう考えても俺よりも若くて髪もサラサラで・・・それに比べて俺なんて、 ・・マヤよりも11歳も年上で・・・最近はアゴの長さだって・・・) マヤに出逢ってから気付かされた事は数え切れないほどあるものの、自分の体の中にこんなイジケた感情が埋まって いたとは知らずに生きてきたように思う。
今までの人生を振り返り、次々とマイナス思考になっていく。
をしていたりして・・・!! お、俺なんて、顔文字なんて使いたくてもキャラ的に似合わないから使わないようにして いるのに! でも・・・あいつなら・・・里美なら許されるよな・・・)
・・・つまらないことを想像しただけで怒りが湧き、同時に寂しさに襲われていた。
マヤを想う気持ちと嫉妬深さだけが基準であれば、それは確実と言える。
酒に逃げ場を求めるなんて、自分でも情けないと分かっていても、他に気を紛らわす方法など思いつかなかったのだ。
嫌な思考を消し去りたいと願い、浴びるようにして喉に流し始める真澄。 こんなに一気飲みをするなんて初めてのことだ。 あまり胃にものが入っていないせいか、酔いが回るのも早い・・・。
ポップコーン100年分進呈するから消えてくれっ!!ご希望なら、鷹宮会長の孫娘との縁談もまとめてやるよっ!)
やはりすでに狂ってしまったのかもしれない。 いや、単に酔っ払っているだけなのだろうか・・・。
そういえば、昨日からまともに食事も喉を通らず、タバコの本数と酒の量だけはすごかったのだ。 おまけに浅い眠りを繰り返し、睡眠不足・・・。
そんなズタズタの状態になりながらも、未練たらしく携帯電話をチェックしてしまう真澄。 画面に変化はない。 二人を繋ぐアイテムとして、あれほど大切に感じていた携帯のはずなのに、今では溜息の原因にしかなっていない。
真澄はガックリとうなだれながら、ポツリと呟いた。 今日は、とても会社には行きたくない。 こんな風に後ろ向きの思考になってしまったのは、あの誘拐された日以来かもしれない。 仮病ではなく、本当に頭の芯からズキズキと痛みが発生し、どうしようもないくらいに心も体もボロボロになっている のだ(単なる二日酔いという噂もある)。
それは自分でも良く分かっている・・・。
やはり”病は気から”なのだ・・・。
そして、急病で休むと一方的に告げると、ドサリとベットに倒れ込む。 水城が何を言っていたのかも記憶にない・・・。
真澄はイライラをぶつけるようにして、テレビのリモコンを壁に投げつけていた。
・・・すると、なんということであろう・・・・・まるで嫌がらせをするかのように電源が入ってしまった。
よりによってワイドショーがやっていて、昨日と同じVTRが流れている・・・。 真澄はただでさえ気分が悪いのに、里美のエメラルドのような爽やかな笑顔に体調が悪化していくように感じ、もはや メチャメチャの思考を抱え、心の中で叫ぶ。
の洋子とくっついてしまえっ!それが一番お似合いだっ!!洋子のナイトはお前しかいないんだっ!!) どう考えても、あまりお似合いのようには見えないが・・・。
きています。昨日、なんとマヤちゃんの舞台稽古を見に行った彼が、”また海に行きたいね”と誘っていたという目撃 情報があるんですよ〜。今後のお二人の関係、ますます気になるところですね〜」
屋敷中に響く絶叫だった。 真澄は衝撃的な情報を耳にし、とうとう、ゴジラが火を噴くようにして吠えてしまっていたのだ。
ことであろう・・・。
「くそっ!くそっ!!くそおおお!!!!」
心配だったので、聖に発泡スチロールで出来た岩の着ぐるみを渡し、頭にはワカメを被らせて変装させ、密かに調査 させていたのだ。
(手を繋いだ事だって!!!!!)
あの報告だけでも本当に辛かったのを覚えている。 そんな楽しい思い出を引っ張り出して復縁を迫ろうだなんてとんだプレイボーイだ!里美茂! (あいつめっ!!!!)
そんな事を囁かれた彼女はクラクラと気持ちが彼に向いてしまい、揺れ動いているのではないだろうか・・・。
真澄は体中の震えが止まらなくなっていた。
かもしれない。
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