〜written by こぶた座〜
しかし試演を見た協会関係者はマヤの天才たる所以を改めて思い知らされたに過ぎなかった。 日を改めてキャスト等の発表のレセプションパーティーが開かれマヤの傍らには一真役に決まった桜小路が ピッタリと寄り添っていた。会場の熱気でのぼせたマヤがふらついた瞬間も腰に手を廻し誇らしげにサポート していた。
躊躇っている?)
でも演技力に高い評価をしてもらってるそうじゃないか」
関係者に無理をいって入れてもらったんです。マヤちゃんの晴れ舞台ですからね。試演は見られなかった けど本公演は必ず見たいですね。それにしても一真役のオーディション知らなかったとはいえ受けてみた かったですね。マヤちゃん随分大人っぽく綺麗になってるから是非共演したかったなあ」
いか?」
真澄に一礼すると里美はマヤの方へ向かった。
の一真も期待してるよ」
里美はそう言うとマヤをバルコニーへ連れ出した。
久々の再会を喜びマヤは無防備な笑顔を里美に向けた。
た野外劇場を里美が訪ねるという形で・・・。里美はマヤが母を失うことから始まった不幸の時に自分が何 もできずに事務所の言うがままになって如何に情けなかったかを素直に詫びた。マヤにしても苦しい記憶 ではあるが今は乗り越えて頑張ってるから自分を責めないで欲しいなどどいう事を言った。様々なことを話 すうちに二人とも自分たちが役者として、質が似ていることに気付いた。今は演技力を磨きたい自分たち。 男と女というより同士というか良き理解者そんな言い方が合う・・お互いにそう感じていた。 帰り際に里美から機会があったら送ってほしいとパソコンのアドレスを渡された。マヤの不器用ぶりは里美 も良く知っていたのでたぶん忘れられるだろうなと思っていたらそれは案外早いうちに送られてきた。同居 の麗が公演のポスターやチラシを作る際に使っていたパソコンがネットやメールができる環境にあったという だけなのだが。さすがに不器用のマヤも何回となくメールの交換をするうちに麗が驚くほどの上達をみせた。 マヤにしてみたら芝居のことはもちろん、身近なことまでなんでも話せる年の近いお兄さんのような存在に いつしか里美はなっていた。
けしました」
御用さ」
3ヶ月は向こうかなぁ」
まで待ってるって感じかな」
こと細かに決めてくんだよ。映画の度だからすっかり慣れちゃったけどね。素人同然のマヤちゃんに不利が あるといけないからやっぱり絶対に付いていくよ」
の」
次の映画のクランクインが3ヶ月位先だからマネージャー次第だよ。それに今度の映画、日本ロケがある んだ。だから紅天女の舞台は絶対に見に来るからね」
そこには明らかに不機嫌な顔をした真澄がそれを隠そうともせず里美に視線を向けていた。
“餅は餅屋”いえ、何の意味もないんですけどついね。それに婚約のお祝いを言い忘れるとこだった。この 度はご婚約おめでとうございます。お相手は鷹通グループのお嬢さんだそうですね。さすがに天下の大都 の社長だ、お相手も抜かりないって訳ですね。僕ら一介の役者には一生縁のない世界の話ですけどね」 里美の皮肉をこめた言葉に真澄は言い返すこともできず、苦々しく里美の後姿を見やった。
翌日、里美の土産を受け取るために夕飯を一緒にしようと約束した待ち合わせの場所へマヤが現れた。
時差で参ってるんじゃない?」
まだまだ若いしね」
二人連れ立って歩く姿はまるで恋人同士のようだった。
じゃなくて何ていったかな、そういうの専門にやってる人みたい・・」
それから会おう」
先ほど届けてきました」
真澄はマヤが上演権を手にした日から世間知らずのあの子が胡散臭い芸能社にいいようにされないか心配 して聖へマヤの行動を見守るよう手配した。ここ数日のマヤの様子は聖の連絡があって知ってはいた。
の考えてる事はさっぱり解らない。二人とも嫌いになってダメになった訳じゃないし、寄りが戻っても仕方ない のか?まあ俺にはそんな事を考える権利もないか・・)
すごいよポンと出せる金額じゃないよ。マヤちゃんきっと大事にされるよ」
「だってさ、ここ見てごらんよ、“仕事の選択は最終的に契約者の意思に任せて被契約者の一切の関与を 許さない”ってあるよ。やりたくない仕事はしなくていいんだよ、こんな契約があるなんて聞いたこともないよ」
に眼の保養してこようっと」
その日は朝から社長室の外までその部屋の主の不機嫌極まりないオーラが漂っていた。その部屋をなんの 躊躇いもなく入っていく秘書の姿があった。
上演できるわけですね。長年の夢でしたから本当におめでとうございます」
水城は何度も経験していた。そしてまた、自分の心に嘘をつき鷹宮紫織と書類上の契約をしようとしている この上司の不甲斐なさに呆れてもいた。
「まあ、マヤちゃんったら。でもまあアイドルではないし契約上何の問題もないですわね、相手も人気俳優の 里美茂ですし相乗効果も期待できますわ。ねえ社長」
それともマヤちゃんが誰か他の男のモノになっても笑って紫のバラを贈ってあげる覚悟ですか?こんな新聞 記事ひとつで動揺してみっともなくうろたえているのに。マヤちゃんだってもう立派な女性なんですからこの 先結婚も出産もあるんですよ。それとも愛人になってくれるよう得意の契約でもしてみますか」
本当に殴られたかのように頬を押さえてみた。それでもズキズキしているのは心の方だった。 朝からワイドショーで報じられていたのはジュエリーショップで仲良く指輪を選んでいるマヤと里美の姿だっ た。その後視聴者からいつどこで二人を見かけましたという内容のFAXが番組宛てに何通も送られてきた。 その多くがいかに仲良く喋っていたかとか婚約という言葉を頻繁に口にしていたかとか二人の熱愛ぶりを 知らしめるような内容のものであった。 |
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