彼女はマヤの方をジロリと睨みつけ、サッと桜小路の隣をキープする。
舞はまるで子犬のようにはしゃぎながら、そう告げていた。
自分の行動を棚に上げ、ぼんやりとそんなことを思う真澄。 少しは人の振り見て我が振りを治すべきで あろうが・・・。
冷たい桜小路の言葉に絶句している舞。
(ああ・・・なんだってこんな時に!舞!・・・頼むから帰ってくれ!!!) 彼は神に祈りを捧げるようにして心の奥底から叫び続けることしかできない。
明らかに嫌そうな顔をした彼の態度に気付いた舞は、シクシクと涙を流し始めてしまったのである。
どうなっても知らないからっっ!」
そう言葉に出せればどんなに・・・。 桜小路は唇を噛み締めながら苦笑し、もどかしい気持ちで息を呑んだ。
・・・辺りに気まずい雰囲気が充満している・・・。
そんな二人の姿を、真澄はクールな目つきでじっと見つめていた。 (・・・・これは愉快な展開だな・・・・) 彼は、くだらないドタバタ劇を楽しむようにゆっくりとタバコに火をつけ、息を吐き出していく。 人の不幸は蜜の味、とはこの事であろうか。 非常に嬉しそうな顔つきである。
真澄の冷ややかな声は、突き刺さるように桜小路の耳に届いていた。
桜小路はマヤの前ということもあり、かなり動揺しつつも強く否定をする。
「舞・・・!!」
マヤは、静かな口調でそう提案していた。
「そうすることだな・・・これは大都芸能社長としての命令だ・・・ちゃんとその子を送り届けたまえ」 (よしっ!いいぞいいぞ!グッジョブ!舞!) ・・・鼻歌でも歌ってしまいたいほどに気分が上昇して止まらない真澄。
だったかな?今度、何かの番組で使ってやろう・・・。そうだ、連ドラの 『浮かれ刑事慎重派』 の死体役が まだ決まっていないからちょうどいいぞ・・・) ・・・ありがたみを感じさせないほど嫌な役である。
追い詰められた桜小路は、ようやく諦めて指示に従うことになってしまった・・・。 (ああ!マヤちゃんまで!!・・・でも、無理やり舞を追い返したりしたら、ボクは冷たい人間だと思われて しまう!!)
舞は あっさりと涙を拭い、輝かしい笑顔で桜小路を独り占めするかのように強く腕にしがみついていた。 たいした大演技である。第三の紅天女候補と言ってもいいかもしれない・・・。
(これで邪魔者は消えた・・・!!わーっはっはっ!ざまあみろ!お似合いの二人だ!) 彼は、二人の背中に向けて思いっきりアカンベーなどをしたい気持ちをぐっと堪えた。やはり、大都芸能社長 という立場として控えなければならない行動なのだ。・・・いや、普通の大人でも実際にそんな事をするのは 怪しいから控えるべきであるが・・・。
そんな真澄の心の叫びが彼に届いたのであろうか・・・・。
いないようである。
見つめてしまう・・・。 (結婚式・・・もうすぐ、速水さんと紫織さんの結婚式・・・・・・) ブツブツと口の中で言葉を繰り返すマヤ・・・。忘れようとしていた辛い現実が胸を苦しめて止められないのだ。 (ダメ・・・涙が出ちゃいそう・・・)
(マヤ!どうしてそんなに切なそうな顔をして桜小路の背中なんて見つめているんだーーー!!まさか、 本気でアイツの事を!!!?じょ、ジョーダンじゃないぞっ!!!!)
(落ち着けっ!落ち着け真澄!・・・せっかくマヤと二人になれたんだ!時間を大切にしなければ!!!) ・・・最もな考えであった。いつまでも桜小路を睨みつけたり、あれこれとくだらないことを考える時間は 無駄ではないか・・・。
真澄は心を入れ替え、大きく深呼吸をした。 ふと気づくと、辺りが暗くなり始めている。ちょっといい雰囲気だ・・・・♪♪ ・・・・が・・・・・ついでに蚊がブンブンと飛んでいるのにも気づいてしまった真澄。 プーン〜プ〜ン〜
確かに、あまり得意そうには見えない。 蚊の群れは真澄の体内に流れる高級な血液を狙い、彼を狙ってまとわりついてくる。 大都芸能の若社長(いや、実際にはもうあまり若くはない)ともあろう彼が、蚊を追い払うためにパンパンッと 音を鳴らしながら蚊を追い詰めるなんて、あまりにも情けないではないと思われる・・・。 (とにかくこの場所から逃げるのだ!!)
何かご馳走しよう・・・」 真澄は一刻も早く、この生温い暑さと蚊の攻撃から逃れたいと思い、ちょっぴり強引にマヤを誘うことに成功 した。
(え?速水さんと・・・?嬉しい・・・でも・・・いいのかな・・・・・?)
意外にも素直に反応するマヤに対して嬉しく思い、さりげなく蚊を追い払いながら、真澄は歩き出す。 (やったぞ・・・♪嫌なヤツもいなくなったし、ツイてるな、俺・・・)
歩きながらも気になってしまうのは、彼女が手にしている四つ葉のクローバーのことだった。
させられる。
幾度となく脳裏に浮かび上がって止まらないのだ。
(ちくしょーーー!突風でも吹いて飛んでいってしまえ!) まるで呪いをかけるかのような目つきで四つ葉を睨む真澄。
(やっぱり・・・速水さん、四つ葉、欲しいのかなぁ・・・・)
マヤは、まるで様子を探るようにしてそんなことを問いかけていた。
見つからなかったけど・・・・」
真澄は、マヤが目を輝かせながら語る思い出話に耳を傾けていく。
たり・・・。でも、都会にはそんな場所も少なくなってるし、時間もないんですよね・・・・」
俺 : おやおや、君は不器用サンだな・・・貸してごらん・・・
マヤ : わあ、素敵!速水さんって本当に器用なのねっ
回ってはしゃぎだす。
君は俺の胸の中へ・・・・。
マヤ : 速水さん・・・あたし・・・・・・・ 俺 : チビちゃん・・!
(い、いいぞ・・・最高のシチュだ!!)
「あ、ああ、もちろん・・・だ。・・・なあ、チビちゃん・・・今度よかったら、俺がその懐かしい思い出に付き合うと いうのはどうだろう・・・。シロツメクサの花畑を探しておくから・・・そこで存分に遊ぶといい・・・」
てっきり嫌な顔でもされるものだと覚悟していた真澄は思わぬ彼女の反応に嬉しく思っていた。
先ほどの妄想がちょっぴり現実に変わるかもしれないと思うとドキドキだ。
ふいに冷静なマヤの言葉に、ハッとする真澄。
そして、麦藁帽子をかぶったマヤを想像し、彼は妄想の中のマヤの姿とすり替えていた。
(ということは、俺も帽子の一つくらいは用意したいものだな・・・。しかし俺は帽子なんてかぶらない主義だし、 どんな感じがベストなんだ?・・・ベレー帽なんてかぶったら小野寺センセもどき・・だしな・・・しかも余計に 暑さが増しそうだ・・・。野球帽なんてガラでもないし・・・・ちょっと粋なバンダナなんてどうだろう?・・・いかん、 ダメだ。似合わん・・・似合う服もないぞ・・・。そうだ・・・確か土産物でもらったチロリアンハットが・・・) 真澄が必死になって当日のファッションを気にしているというのに、マヤは冷静に言葉を出した。
真澄は、チロリアンハット姿で花畑に倒れている間抜けな姿を想像し、白目になってしまう。
行ったりするんだわ・・・紫織さんも一緒に・・・。イヤ!イヤイヤ!そんなの想像したくないのにっ!!)
思いつくなり、”もしもマヤと二人で狭い救急車に乗り込むことになったら” というタイトルの妄想に浸っていた為 、彼女のその切ない表情に気づくことはなかった・・・。
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