CLOVER

〜想いを風に乗せて〜B









「桜小路くーーーーーん!!探したわよ〜♪♪」


!!!!!!!!



(こ、この声は!!)


桜小路は殺気を感じ、身を震わせながら恐る恐る振り返った・・・。



「ここにいたのねええっっ♪」


「舞っ!!!!!」


クリクリヘアーにリボン型のヘアバンドをした舞が、どこからか出現していた。

彼女はマヤの方をジロリと睨みつけ、サッと桜小路の隣をキープする。


「稽古中の桜小路君を見たくて来たの・・・でも、今日は早く終わっちゃったのね♪残念っっ☆」

舞はまるで子犬のようにはしゃぎながら、そう告げていた。



(まるでストーカーのような子だな・・・)

自分の行動を棚に上げ、ぼんやりとそんなことを思う真澄。 少しは人の振り見て我が振りを治すべきで

あろうが・・・。



「ねえ、桜小路くんっ♪今から舞がおごるから、ご飯でも食べに行きましょうよ!」


舞の言葉に桜小路は白目青筋になり、口をパクパクとさせながらどうにか言葉を繋いだ。


「舞っ!気持ちは嬉しいけど・・・その・・・・今日は無理だよ・・・・取り込み中なんだ・・・ハハハ・・・」


「・・・・・・!!!」

冷たい桜小路の言葉に絶句している舞。


しかし、今の桜小路には、彼女のことなど構ってはいられない・・・。

(ああ・・・なんだってこんな時に!舞!・・・頼むから帰ってくれ!!!)

彼は神に祈りを捧げるようにして心の奥底から叫び続けることしかできない。



・・・しかし・・・悲しいことに、桜小路の願いは神には届かなかった。

明らかに嫌そうな顔をした彼の態度に気付いた舞は、シクシクと涙を流し始めてしまったのである。


「ひ、ひどい・・・桜小路君・・・。ずっと約束してたのに!一体、いつならいいの?舞、舞・・・もう・・・本当に

どうなっても知らないからっっ!」


(き、君はどうなってもいいんだ!僕はマヤちゃんさえいれば・・・・)

そう言葉に出せればどんなに・・・。

桜小路は唇を噛み締めながら苦笑し、もどかしい気持ちで息を呑んだ。


「舞・・・・・」

・・・辺りに気まずい雰囲気が充満している・・・。




そんな二人の姿を、真澄はクールな目つきでじっと見つめていた。

(・・・・これは愉快な展開だな・・・・)

彼は、くだらないドタバタ劇を楽しむようにゆっくりとタバコに火をつけ、息を吐き出していく。

人の不幸は蜜の味、とはこの事であろうか。 非常に嬉しそうな顔つきである。


(そうだ・・・この子を利用しない手はない・・・。自分の手を汚すことなく、奴をここから消すのだ!)


興奮気味に高笑いしそうになる気持ちを抑え、真澄は静かに口を開くことにした。


「・・・いかんな・・・こんな可愛い彼女を泣かすなんて、いくらなんでもひどいんじゃないかな・・・」

真澄の冷ややかな声は、突き刺さるように桜小路の耳に届いていた。


「か、彼女じゃないですからっ!」

桜小路はマヤの前ということもあり、かなり動揺しつつも強く否定をする。


・・・が・・・それを聞いた舞はますます泣き叫び、桜小路に抱きつく始末だった。


「あーん、ひどい、ひどいわっ!!!」

「舞・・・!!」



「あの・・・桜小路君・・・舞さん泣いているし・・・行ってあげたらどうかなあ・・・」

マヤは、静かな口調でそう提案していた。


そして、彼女の言葉を後押しするかのように、真澄も言葉を続けていく。

「そうすることだな・・・これは大都芸能社長としての命令だ・・・ちゃんとその子を送り届けたまえ」

(よしっ!いいぞいいぞ!グッジョブ!舞!)

・・・鼻歌でも歌ってしまいたいほどに気分が上昇して止まらない真澄。


(フフフ・・・まるで聖のようにいい仕事っぷりをしてくれるじゃないか♪・・・ところでこの子、どこかの劇団の子

だったかな?今度、何かの番組で使ってやろう・・・。そうだ、連ドラの 『浮かれ刑事慎重派』 の死体役が

まだ決まっていないからちょうどいいぞ・・・)

・・・ありがたみを感じさせないほど嫌な役である。



「わ、分かりました・・・・・じゃあ、行こうか・・・舞・・・・」

追い詰められた桜小路は、ようやく諦めて指示に従うことになってしまった・・・。

(ああ!マヤちゃんまで!!・・・でも、無理やり舞を追い返したりしたら、ボクは冷たい人間だと思われて

しまう!!)


「嬉しい!桜小路君、さあ早くっ♪」

舞は あっさりと涙を拭い、輝かしい笑顔で桜小路を独り占めするかのように強く腕にしがみついていた。

たいした大演技である。第三の紅天女候補と言ってもいいかもしれない・・・。





やがて二人の影が遠ざかっていく姿を、真澄はウキウキ気分で見つめ続けていた。

(これで邪魔者は消えた・・・!!わーっはっはっ!ざまあみろ!お似合いの二人だ!)

彼は、二人の背中に向けて思いっきりアカンベーなどをしたい気持ちをぐっと堪えた。やはり、大都芸能社長

という立場として控えなければならない行動なのだ。・・・いや、普通の大人でも実際にそんな事をするのは

怪しいから控えるべきであるが・・・。


しかし・・・

そんな真澄の心の叫びが彼に届いたのであろうか・・・・。


・・・・ふいに桜小路が振り返っていた。


「速水社長!もうすぐですね!結婚式!!!羨ましいです!!楽しみにしていますよ!!」


(なんっっっっっ!!!!!!!!)


真澄はゲホゲホとむせかえり、ジロリと桜小路をにらんでやったが、すぐに背中を向けてしまった為、気づいて

いないようである。


(くそーーーあいつ!!!)


そして、桜小路の言葉に大きく反応したマヤは顔色を悪くし、ただ呆然としながら、意味もなく彼らの後姿を

見つめてしまう・・・。

(結婚式・・・もうすぐ、速水さんと紫織さんの結婚式・・・・・・)

ブツブツと口の中で言葉を繰り返すマヤ・・・。忘れようとしていた辛い現実が胸を苦しめて止められないのだ。

(ダメ・・・涙が出ちゃいそう・・・)



真澄は、そんな彼女の表情に気づくと、やりきれない気持ちで一杯になっていた。

(マヤ!どうしてそんなに切なそうな顔をして桜小路の背中なんて見つめているんだーーー!!まさか、

本気でアイツの事を!!!?じょ、ジョーダンじゃないぞっ!!!!)


・・・このマヌケなすれ違いは、本人達には致命傷とも言える。



真澄は怒りを抱えたままタバコを揉み消し、どうにか心に冷静さを引き戻そうと必死になっていた。

(落ち着けっ!落ち着け真澄!・・・せっかくマヤと二人になれたんだ!時間を大切にしなければ!!!)

・・・最もな考えであった。いつまでも桜小路を睨みつけたり、あれこれとくだらないことを考える時間は

無駄ではないか・・・。


(よーし・・・)

真澄は心を入れ替え、大きく深呼吸をした。

ふと気づくと、辺りが暗くなり始めている。ちょっといい雰囲気だ・・・・♪♪

・・・・が・・・・・ついでに蚊がブンブンと飛んでいるのにも気づいてしまった真澄。

プーン〜プ〜ン〜


(うわ・・・俺は蚊が苦手なんだ・・・・)

確かに、あまり得意そうには見えない。

蚊の群れは真澄の体内に流れる高級な血液を狙い、彼を狙ってまとわりついてくる。

大都芸能の若社長(いや、実際にはもうあまり若くはない)ともあろう彼が、蚊を追い払うためにパンパンッと

音を鳴らしながら蚊を追い詰めるなんて、あまりにも情けないではないと思われる・・・。

(とにかくこの場所から逃げるのだ!!)


「チビちゃん・・・少し歩かないか。車は返してしまったんだが・・・確か近くに喫茶店もあったはずだ。そこで

何かご馳走しよう・・・」

真澄は一刻も早く、この生温い暑さと蚊の攻撃から逃れたいと思い、ちょっぴり強引にマヤを誘うことに成功

した。


「はい・・・・」

(え?速水さんと・・・?嬉しい・・・でも・・・いいのかな・・・・・?)


「・・・!!」

意外にも素直に反応するマヤに対して嬉しく思い、さりげなく蚊を追い払いながら、真澄は歩き出す。

(やったぞ・・・♪嫌なヤツもいなくなったし、ツイてるな、俺・・・)





こうして二人は、ゆっくりと喫茶店へと向かっていった。










歩きながらも気になってしまうのは、彼女が手にしている四つ葉のクローバーのことだった。


せっかく、こうしてマヤと二人で並んで歩いていても、その四つ葉がチラリと視界に入るたび、嫌な気分に

させられる。


先ほど嬉しそうに手渡している桜小路の顔、そして同じように嬉しそうな顔をしたマヤの姿は、忘れようとしても

幾度となく脳裏に浮かび上がって止まらないのだ。


なんだか悔しくて悔しくて歯軋りしてしまいそうだった。

(ちくしょーーー!突風でも吹いて飛んでいってしまえ!)

まるで呪いをかけるかのような目つきで四つ葉を睨む真澄。



一方マヤは、その鋭い視線に再び思考を巡らせていた。

(やっぱり・・・速水さん、四つ葉、欲しいのかなぁ・・・・)



「あの、速水さん・・・・。子供の頃、四つ葉のクローバーなんて探したりしました?」

マヤは、まるで様子を探るようにしてそんなことを問いかけていた。


「・・・さあ・・・どうだったかな・・・・あったかもしれんが、もう記憶に残っていないな・・・」


「あたし、ものすごくたくさんシロツメクサが咲き乱れている空き地で探し回ったこと、あるんですよ。結局、

見つからなかったけど・・・・」


「そうか・・・・」

真澄は、マヤが目を輝かせながら語る思い出話に耳を傾けていく。


「今でもたま〜に、そういう場所で道草したくなったりするんですよね。花冠を作ったり、ちょうちょを追いかけ

たり・・・。でも、都会にはそんな場所も少なくなってるし、時間もないんですよね・・・・」


「・・・そうだろうな・・・」


真澄はそんなマヤの話を聞きながらも、猛スピードで脳裏を駆け巡る妄想をとめることができずにいた。


それは、”もしもマヤと二人でシロツメクサの花畑に行くことができたら・・・”というものである・・・。




――穏やかな休日に、のんびりと二人で花畑の中央に腰を下ろしている二人――


・・・不器用なマヤは一生懸命に花冠を作ろうと必死になっていた。

 
マヤ : やだもう・・・うまくできないわ・・・

俺  : おやおや、君は不器用サンだな・・・貸してごらん・・・


・・・あっと言う間に花冠を完成させ、俺は彼女の頭にかぶせてやる。


俺  : ほうら・・・ステキなお姫様の誕生だ・・・

マヤ : わあ、素敵!速水さんって本当に器用なのねっ


・・・眩しいほどキラキラとした笑顔を見せるマヤ。そして俺が眩しそうに見ていると、彼女はクルクルと

回ってはしゃぎだす。


俺  : おっと、これは・・・なんというおてんばなお姫様だろう・・・クククッ


・・・からかう俺に対し、膨れっ面で駆け出すマヤ。そして俺を追いかけようとしてうっかりと転びそうになり、

君は俺の胸の中へ・・・・。


俺  : おおっと・・・危ない!

マヤ : 速水さん・・・あたし・・・・・・・

俺  : チビちゃん・・!


・・・・見詰め合う二人は――




・・・ここまで一気にイメージを膨らませると、真澄は興奮の余り、思わず胸を躍らせてしまう。

(い、いいぞ・・・最高のシチュだ!!)


「・・・速水さん・・・あの・・・聞いてます・・・?」


突然、マヤに顔を覗き込まれ、真澄は大慌てで言葉を返した。

「あ、ああ、もちろん・・・だ。・・・なあ、チビちゃん・・・今度よかったら、俺がその懐かしい思い出に付き合うと

いうのはどうだろう・・・。シロツメクサの花畑を探しておくから・・・そこで存分に遊ぶといい・・・」


「ええ?本当・・・ですか?・・・速水さんと・・・?」

てっきり嫌な顔でもされるものだと覚悟していた真澄は思わぬ彼女の反応に嬉しく思っていた。


(なかなかいい手ごたえだ!やったぞ!!・・・よーし、さっそく聖にでも花畑探しをさせなければ!!)

先ほどの妄想がちょっぴり現実に変わるかもしれないと思うとドキドキだ。


「あ、でも・・・なんかこんな暑い季節だとちょっと・・・」

ふいに冷静なマヤの言葉に、ハッとする真澄。


(そうか、そうだった・・・季節は夏なんだ・・・)

そして、麦藁帽子をかぶったマヤを想像し、彼は妄想の中のマヤの姿とすり替えていた。


花畑の中には、麦藁帽子をかぶったマヤの姿・・・。

(ということは、俺も帽子の一つくらいは用意したいものだな・・・。しかし俺は帽子なんてかぶらない主義だし、

どんな感じがベストなんだ?・・・ベレー帽なんてかぶったら小野寺センセもどき・・だしな・・・しかも余計に

暑さが増しそうだ・・・。野球帽なんてガラでもないし・・・・ちょっと粋なバンダナなんてどうだろう?・・・いかん、

ダメだ。似合わん・・・似合う服もないぞ・・・。そうだ・・・確か土産物でもらったチロリアンハットが・・・)

真澄が必死になって当日のファッションを気にしているというのに、マヤは冷静に言葉を出した。


「やっぱり夏は無理かもしれないですね・・・日射病で倒れても大変だし・・・」


(ガーン・・・)

真澄は、チロリアンハット姿で花畑に倒れている間抜けな姿を想像し、白目になってしまう。


「それも・・・そう・・・だな・・・・」


「春が一番いいですよ・・・ね・・・。でも・・・・でも・・・次の春じゃもう・・・・」


マヤは、真澄の結婚が迫っていることを再び実感してしまい、言葉を詰まらせてしまう。


(速水さんは・・・もうすぐ結婚しちゃうんだから・・。そしていつか子供が生まれて・・・その子供と花畑なんかに

行ったりするんだわ・・・紫織さんも一緒に・・・。イヤ!イヤイヤ!そんなの想像したくないのにっ!!)






ところが真澄は・・・(マヤと二人で救急車に乗れるなら日射病で倒れるのも悪くないな)などとくだらないことを

思いつくなり、”もしもマヤと二人で狭い救急車に乗り込むことになったら” というタイトルの妄想に浸っていた為

、彼女のその切ない表情に気づくことはなかった・・・。






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