このストーリーは、ありがちな展開に進むか、それともお笑い編に進むかによって

ガラリと雰囲気の違う作品に仕上げてあります(ホントか?)

@の最後で選択できますので、お好きなほうをどうぞ!

もちろん、どちらも読みたいという方は

ご自由にvv どっちも興味ない方は、お戻り下さいませ(笑)









CLOVER

〜想いを風に乗せて〜






(あーあ・・・・・・)


マヤは更衣室のロッカーの前で壁にもたれ、大きなため息をこぼしていた。




――今日はもう解散だ!――

そう黒沼の厳しい一言が響き渡ったのは、つい先ほどのこと。



・・・夏風邪でダウンした役者が多く、あまりスムーズに稽古が進まなかった事も確かではあった。

それでなくとも、この暑さは集中力の続かない原因にもなる。




しかし・・・・・


今日の稽古に区切りをつけられてしまったのは、何よりもレッスンに身が入らない主役の自分に一番の

原因があるのだと分かりきっていた。




――北島!違う!そうじゃないだろう!――

――どこを見ているつもりだ?・・・お前は目の前の一真を見ていない!!――


幾度となく怒鳴りつけられた言葉。



(あたしは・・一真を見ていない・・・)

マヤは手にしていたタオルを強く胸に押し当て、冷静な自分を取り戻そうとする。




・・・どうして自分がこんなに集中できないのか。


その答えを自分の意識で確かめてしまうことが怖いと思っていた。

本当は、自分では分かっている・・・その理由を。

ただ、それを今、認めてしまうわけにはいかないような気がして、ただひたすら自分を誤魔化していく。


(ああもうっ!顔でも洗って考え直そう!!)


マヤは曇りきった心を抱えながらその場を離れ、隣接している部屋の洗面台へと向かった。






水道のコックをひねると、水は涼しげな音をたてて流れ始めていく。

マヤはそっと両手を差し出し、それを受け止めながら息を吐き出した。



濁りのない透明な泉が、キラキラと手の中で水面を揺らし続けていくのが見えていた。

ゆらゆら、ゆらゆら・・・・。


そして・・・

僅かに気を抜いた瞬間、ふっとそこに浮かび上がろうとするのは・・・・愛しいあの人の姿。


(・・・・あたしが見ているのは一真じゃない・・・その先には・・・・・その先にいるのは・・・)



バシャバシャバシャ・・・


マヤは、まるで真実をかき消すかのように、強く顔に水を打ちつけていた。


(ダメ!考えちゃダメ!・・・そんなの、何の理由にもならないんだから!!)



冷たい水は、次々と頬を伝って流れ落ちる。

行き場所のない涙も一緒に・・・・。






・・・もうすでに、更衣室には自分以外に誰もいなくなっていた。

・・・いつまでもこうしているわけにはいかないであろう。


マヤは重苦しい空気を振り払うようにして勢いよく顔をあげ、鏡に映る自分の姿を目にしていた。


(しっかりしなきゃ・・・!明日からは、絶対に身を入れてがんばるんだ!!)













長居してしまった更衣室を後にしたマヤは、すでに静まり返った廊下を抜け、重い足取りで外に出た。


(うわあ・・・暑いなぁ・・・・)


夕方過ぎとはいえ、辺りは明るい光を放ったままであった。

寒い季節であればもうとっくに日が落ちて暗闇に包まれているころかもしれない。


(まだまだ暑い日が続くのね・・・)

じりじりと肌に降りかかる光の粒を眩しそうに見つめて息をつく。

水で冷やされたはずの頬も すぐに温まっていくのが分かる。


マヤは空を仰ぎながら、軽く深呼吸をした。


夏は大好きな季節ではないけれど・・・今の自分には、季節が通り過ぎてしまうのが怖いのかも

しれない。


どうせあの人にたどり着くことができないのなら、このまま時が止まってしまったほうがいい・・・。

そう思っている自分がいる・・・。


(夏が終わってしまったら・・・・)


その続きは、湿り気のある大風にかき消されていた。



(来年の夏は、あたしは何をしているんだろう?再来年は?その次は・・・・・・・?)

「・・・・・・」

・・・すぐに想像することは難しいことだった。

マヤは肩をすぼめながら、そんな自分を情けなく思う。


(やだな・・・もっと前向きに考えなくちゃ。えーっと、・・・例えば紅天女を演じているあたし!そして

客席には大勢のお客さん、えっと、それから・・・・・・・)


・・・・目を閉じると、そこに広がって見えるのは、大きな舞台と満員の客席。



でも・・・・

・・・・本当に見て欲しいのは、たった一人。 


例え嵐の日にだって見に来てくれる、約束を守ってくれる、あの人・・・。


(速水さん・・・・・・・・)


――ズキン――


決して思い浮かべないようにしていたはずの、その名前を声にする寸前で押しとどめていた。

心臓はギュッと悲鳴を上げ、胸の奥から痛みを呼び込もうとする。

今まで無理をして抑え込んでいた感情が洪水を起こしたように溢れ出していく。


・・・ずっとずっと、陰で支え続けてくれた、紫のバラの人。

忘れようとしていても、ふっと心の隙間に入り込んでくる。

きっと、これからもずっと・・・・。



・・・唇を小さく噛み締めた。



気持ちを伝えることも、紫のバラの人の正体を問うこともできないまま過ぎてしまった数ヶ月。

こんな苦しい想いも、いつかは風に乗って消えていくのであろうか。



(どうすればいいんだろう・・・・・。どうすれば忘れることができるんだろう・・・・?)



まだ僅かに濡れたままの前髪から雫が落ち、涙の代わりに頬を伝っていく。



(速水・・・さん・・・・・)




マヤは、遠い遠い空の向こうを見上げていた。








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